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野心を隠さない

我が家の本棚より、

今回は林真理子著
『野心のすすめ』です。

奥付を見ますと、

二〇一三年四月二〇日第一刷発行
二〇一三年五月八日第二刷発行

とあります。

今から10年前の本です。
実は読み終えた記憶がなく、中途で放っていたものと思われます。
今回は読了した上で、感じたことを自由に書いてみたいと思います。

今の世の中、身の丈に合った慎ましい暮らしをすれば、何とか生きていけます。
ディスカウントショップ、100均、300円ショップも充実している。
激安スーパーには300円台のお弁当もあり、普通のスーパーでも、閉店間際なら叩き売りです。

ファストフードを利用すれば、そこそこの値段で満腹になり、ファッションだって、工夫次第でオシャレに見える。
野心を持ちにくい時代です。


野心を剥き出しにする人を
好ましく思わないのが、日本人の国民性ではないでしょうか。
ガツガツした人は下品。
成金的な大富豪を見て「ああはなりたくない」と思うことで多くの人は自分を慰めています。

それにしても、最近の人は野心が足りないと、著者は嘆きます。
(10年前の本ですが)

林真理子という人は、剥き出しの野心を武器に、上り詰めた人だということを知りました。
自虐的に書かれている部分もありますが、現代のシンデレラストーリーです。 


通俗小説から、文芸作品、伝記、歴史小説、エッセイなど、幅広いジャンルを量産し、直木賞をはじめ、各種文学賞の審査員も務められ、今や文学界の重鎮といっても過言ではありません。
母校、日大の理事長にも就任しています。

野心家とは、自分の現状を正しく把握し、戦略を練るものだそうです。

野心を抱いたら、次に何をすべきか常に考え、行動する。
手を拱いていたのでは、何も掴めません。

まさに、幸せは歩いてこない……です。

普通の人なら躊躇うようなこともズバッと書く。
一線を越えるか超えられないかが物書きの成否の分かれ道かも知れません。

出る杭は打たれるものだけど、
打たれる杭になってナンボというところもあります。

腹黒い面もチラリと見せつつ、明るく、楽しく、人懐っこい部分があるから憎めない。
人柄が文に出ます。

この本を読み終えてみて、ポジティブなメッセージをたくさん受け取りました。

よし!わたしも……
と思えるヒントもあり、
無理無理!
とても真似できないわ、
と思う部分もあり。

持ち前の好奇心とユーモアと、何より野心を燃やし続けることで、人生を切り拓いていった人なのだなと思いました。


自分を信じることができるかどうか。
虚仮こけの一念岩をも通す」
そんな諺もあります。

自分を信じて才能を磨き続ける。
夢に向かってブレずに邁進する。
努力もひとつの才能です。

野心を剥き出しにする人
胸の奥に秘めた人

いずれにせよ、野心を灯し続ける限り、人はいくつになっても発展途上でいられるのだと思います。


余談です。
学生時代、たまたま立ち寄った八重洲ブックセンターで、林真理子さんのサイン会があり、遠目にお姿を拝見したことがあります。

ジーンズにショートカット。
飾り気のない、ボーイッシュなスタイルでした。
これが今を時めく林真理子か…と
思いました。
コピーライターから人気エッセイストに。
『ルンルンを買っておうちに帰ろう』の頃だったと思います。

あの時、本を買ってサイン会に並んでいれば……。
惜しいことをしました。

残念ながら、八重洲ブックセンターは今はもうありません。

最後に、この本の前書き「はじめに」から一部引用します。

 忘れられない光景があります。
 初めての単行本『ルンルンを買っておうちに帰ろう』(一九八二年)が出版される少し前のことです。 
 当時の私は、業界内ではまあまあ知られている程度のコピーライター。世間一般ではまだ無名の自分を抜擢してくれた編集者の依頼で『ルンルン』の原稿を書き始めていました。どうせなら一流作家のようにホテルで〝缶詰〟になって処女作を書きたいと、自腹で山の上ホテルに滞在していたのです。
 そんな初夏のある日、気分転換のために神田界隈を散歩していると、通りの木槿むくげの木が綺麗な白い花をたくさんつけていました。
 咲き誇る花々に見とれながら私は確信したんです。
ーーこの花の美しさを、きっと一生覚えているに違いない。なぜなら、『ルンルン』が世に出たら、私の運命は大きく変わるのだ。数年後にはすっかり有名になっている自分は、「まだ無名だったあの日、神田で美しい木槿の花を見た」ことを懐かしく思い出すことだろう。
 出版後に『ルンルン』はベストセラーとなり、翌年のフジテレビのキャンペーンガールを務めた林真理子は、人々から「時代の寵児ちょうじ」と呼ばれる有名人になっていました。
 大輪の「野心」が、ついに開花したのです。

p. 3〜4 より


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