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売れない調香師が帝王と呼ばれた理由が俺だった件4

しばらく歩いていると、後ろの方からガラガラと音がする。

それは映画なんかで聞いたことのある馬車の音だ。俺はハッとして立ち止まり振り向いた。

遠くだった馬車は俺の隣に止まり、「どいどう!」という男の声が聞こえた。


人だ!人が居た!


俺は馬車を見てうるうると泣きそうになる。

御者は、俺の方を向くと泣きそうな俺にビックリしていた。

「え、あ、あの…大丈夫ですか?…顔色悪そうですが…。良ければ街まで乗っていきます?」

心配そうに見つめてくる若い男は、赤銅色の髪を後ろで束ね、柳色の瞳でこちらを見ている。とても日本人には見えないが、言葉が通じるのが不思議だ。

俺はハッとして、彼に聞いた。

「あの!ここは何処でしょうか…?」

「ここはマッサリアの郊外ですけど…」

若い男はきょとんとしてこちらを見ている。

「…え、マッサリア?……それって地球のどの辺りですか?」


「「……。」」


我ながらおかしな事を聞いている自覚はある。若い男もぽかんとこちらを見ていた。


「えっと…もしかしておたく、…記憶喪失か何か?」

若い男は暫く考えて、そんな結論に至ったようだ。

「いや…はぁ、まぁそのような感じ…でしょうか?気付いたらここに居たっていうか…」

確かに、変だよな。自分の居る場所が分からないなんて。

「どこかで頭でもぶつけましたか?」

「うぅ〜ん…なんと言えばいいか…」

俺がどう説明すれば良いか悩んでいると、若い男はふっと笑う。

「こんな所で立ち話もなんですし、とりあえず乗ってください。」

男は御者の席を少しずれて1人分空けてくれる。

たしかに、ここに居たって埒が開かない。俺はその言葉に甘える事にした。


「すみません、よろしくお願いします。」

隣に座り男の顔を見ると、彼はニコリと笑う。背が高く体付きもしっかりしているのに、何故か儚げに見える。

「じゃあ、行きましょうか!」

ガタゴトとゆっくり馬車が進んでいく。

「不思議な服ですね、貴族様ですか?あ、覚えてないんだっけ。」

彼は前方を見つめながら和やかに話す。


「あ、名前!俺はジョセフ・マリー・フランソワです。よろしく。」

俺を見つめて微笑み、右手をすっと出してくる。握手しよう。という事らしい。俺はその手を取り握った。

「俺は、華束幸助……じゃないな、…コースケ・カタバだ。」

名前が先の国なのかと、俺も同じように言ってみる。

「コースケ!名前は覚えてるんですね。コースケ。カタバがファミリーネーム?」

「そう。ファミリーネームがカタバ。よろしくジョセフ。」

二人で握手をする。

ジョセフって、フランスの名前だ。じゃあここはフランスなのか?だが明らかに現代ではない。

よく見ればジョセフの服装は映画なんかで観た中世の服装にそっくりだ。


中世にタイムスリップしたのか、もしくはそれっぽい異世界?

何にしても、もはや俺の置かれた状況が普通ではない事だけは確かだった。

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