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三つ鱗紋 〜なごみ2022.9月号より〜

「三つ鱗」は三角形を三つ山なりに組み合わせた家紋であり、日本では馴染みの深い紋章である。一つ一つを構成する三角文様は世界各地で古代より存在し、古代エジプトやインドでは炎や火を表し、西欧では三位一体の象徴とされている。

この三角文を「鱗」と解釈しているのは、中国から東南アジア、朝鮮半島一帯であり、古代より死者や祖先の霊は蛇の姿で現れると信じられてきたことから、大蛇を龍という神獣にし、その鱗として表された三角文を呪術的な魔除けとしてきたのである。

さて三つ鱗を家紋として用いた代表的な武将は、現在大河ドラマで話題の北条氏である。北条氏は伊豆国田方郡北条(現在の静岡県伊豆の国市)の地方豪族であり、平直方(たいらのなおかた)が始祖といわれている。この三つ鱗を家紋とした逸話として、初代執権であった北条時政が江ノ島弁財天に参拝した時、突然高貴な女性が現れ、お告げを下した。その後女性は大蛇となって海中に消え、三つの鱗を残したことから、それを家紋にしたという。

北条氏三つ鱗紋

また血族関係にはないが、伊勢氏の流れである戦国時代初期の武将・北条早雲を始祖とし、後に小田原城主となった後北条氏も、二代目の氏綱から本流の北条氏に倣って三つ鱗紋を用いている。

後北条氏三つ鱗紋

豊臣秀吉の小田原征伐時の小田原城主である北条氏直の茶匠であった山上宗二は、茶の湯に対する美意識にこだわり、秀吉にも盾を突き、小田原征伐の際も北条氏に義理立てし、ついには処刑された。

その地となった箱根湯本の早雲寺の瓦には、世の魔物から寺域を護るべく現在でも多数の三つ鱗紋が時世に睨みをきかせている。

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