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僕たちはやがて飛び立つ

先日、友人に勧められ人生で初めて歌集を読んだ。

友人から急に手渡され、なんとなく受け取った。
表紙には「歌集 滑走路 萩原慎一郎」と書いてあった。
机の上で3日寝かせたあと、何の気なしに開いてみた。

短歌というものに全く触れてこなかったので、どんなものか想像つかなかった。

なんとなく堅苦しいというか入りずらいというか、ある程度の予備知識がないと理解できないというイメージがあった。
だが、そんなイメージを1行目から払拭させてくれた。


いろいろと書いてあるのだ  看護師のあなたの腕はメモ帳なのだ

ー「メモ帳」


何これ、自由すぎる。
これが短歌なのか。
文字数とか季語とか、なんか短歌のルール的なものはないのか。
こういうのがずっと続いていくのか。
おもしろい。
何より日常の些細な気付きを歌にしているところがとても好みだ。

調べてみるとこれは自由律短歌というもので、
五七五七七の31音に捉われず、普段使い慣れた言葉を使って、26〜38音くらいの文字で表現するらしい。

1行目から最後の行まで読む手が止まらなかった。
猛スピードで滑走路を自由に走っているかのようだった。

深く共感できるものもあれば自分にはない価値観もあり、歌集を通して萩原慎一郎という人間を読んでいる気がした。

微笑ましくて悲しくて愛おしかった。


まだ結果だせず野にある自販機で買いたるコーラいまにみていろ

ー「群衆」

この街で今日もやりきれぬ感情を抱いているのはぼくだけじゃない

ー「群衆」

鳩よ、公園のベンチに座りたるこの俺に何かくれというのか

ー「群衆」


これらは僕が書いた歌なんじゃないか。
そう思わざるを得ないほどに僕の心情と酷似している。
萩原さんの悲痛な叫びがひしひしと伝わり、僕の鬱憤を和らげてくれた。


消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなってゆくのだ

ー「停留所」


萩原さんはきっとすごく優しい人だ。
そうじゃないとこんな歌は書けないはず。
苦労を重ねて人間は優しくなっていく、本人が実際に経験していないとこのことには気付けないのだから。
僕も最近特に思う。
大人になるとは優しくなるということを。


「研修中」だったあなたが「店員」になって真剣な眼差しがいい

ー「タルタルソース」


研修中から店員になった人を良いと思える感性は僕にはなかった。
これは見習わなければならない。
研修中から店員になった途端、僕なら(、、心なしか仕事が雑になったな、、なんか前より態度が悪い気するな、、)とか思いそう。
周りの変化に対して「良い」と思える感性を僕も養わらなければならない。


眠るしか選択肢なき真夜中だ  朝になったら下っ端だけど

ー「自転車の空気」


現状を変えたい、何者かになりたい、そう思っているのに何もできない夜がある。
俺はやってやるんだという思いとは裏腹に、ベッドの上で目を瞑っている。
朝になると罪悪感としんどさがやってくる、もちろん肩書きは変わっていない。

萩原さんに会いたい。
広々としたところでゆっくり話しがしたい。


なにひとつ考えなしに居酒屋で焼鳥食べているわけじゃない

ー「こころの扉」


先日、二子玉川のカフェに行った。
左隣に世間話をしているマダムが二人、右隣にデスクワークをしているサラリーマンが一人いた。

僕は考えがまとまらず、ずっと腕組みした状態だった。
業を煮やしデザートを頼んだ。

カフェに来てノートを広げ、時間は割いているが何も先に進まない。
目の前のこと、未来のこと、たくさん思考しているのに答えが出ない。
デザートはきたが、頭は何も冴え渡らない。

マダムとサラリーマンにはどう映っているのだろうか。
僕がこんなに考えているのは伝わっているのだろうか。
ただあんみつを食べに来た青年に見えているのではないか。
違う、違うんだ、頭ではいっぱい考えている、頼むから伝わってくれ、そうじゃないと今日が報われない。


イギリスに行くことあれば食べたいな  本場のフィッシュアンドチップス

ー「食べる」


これには思わず声を出して笑った。
微笑ましすぎる。
本当に愛おしい。
僕も食べたいです、本場のフィッシュアンドチップス。

メモ帳の夢ページに「本場のフィッシュアンドチップスを食べる」を追加した。

そういえばこの本を貸してくれた友人とフィッシュアンドチップスを食べに行ったことあったなあ。
あんまり美味しくなかったなあ。
あれっきり食べてないなあ。


この本を読んでからというもの萩原さんがずっと心の中にいる。
強い味方になってくれているみたい。
まだ頑張れる、僕はやれる、萩原さんがそう思わせてくれている。


湯槽にてしばし忘れるいやなこと「あしたはきっといいことあるさ」

ー「君と踏み出す明日あれ」


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