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2023年個人的ベストアルバム9選

2024年が始まって久しい今日この頃ですが、やっとこさ2023年の個人的ベストアルバムを選出したので、紹介してみます…。
以下順不同で9枚、よろしくお願いします。

Not Without My Ghosts - The Amity Affliction

オーストラリア出身メタルコアバンドの8thアルバム。
キャッチーかつ切なく美しいメロディーが冴えるバンド、というイメージがあるこのバンドですが、そのイメージは今作においても健在。淡さのあるコーラスやシンセ/ピアノサウンドがバンドサウンドを彩り、サビではしっかり耳に残るメロディーラインを聴かせてくれます。
しかし、それだけではないのが今作の魅力。美しいメロディーも去ることながら、バンドサウンドの重厚感が際立つ作品となっています。まず何と言ってもドラムとギターのフレーズがもうデスコア並み。ギターの刻みリフは鋭く、その裏でドラムが駆け回る様は、もはやThy Art Is Murderのよう。また、フレーズだけでなく、全体的に楽器隊のサウンドが前に出るようになったのも今作の特徴の一つかと思います。中低音域がより響くようになり、地の底から響くようなデスコア的暴虐性を感じさせます。「I see Dead People」なんかブラストビートとタム回しがまるでテクデスのようです。
加えて、「Fade Away」などで散見される不穏なギターのフレーズも今作と合っているように感じます。Thy Art Is Murder的鋭さを纏いつつも、このバンド特有の切ない美しさと同化しているように感じるんですよね。
バンドの核となる部分と、新たな要素がしっかり調和している象徴的なポイントかと思います。上記の特徴に表れているように、ヘヴィネスと美を併せ持つ高度なメタルコアです。

A Mind Waiting To Die - Graphic Nature

イギリス出身メタルコアバンドの1stアルバム。
2019年結成とまだ若いバンドだけあって、初期衝動満載の作品を叩きつけてきました。ツッタンツッタンと進む軽快なリズムパターンとタメのあるブレイクダウンが入れ替わる中、どす黒いヘヴィネスを体現したようなギターリフが襲いかかってくる構図は正に理想のヘヴィーミュージック。聴いただけで強くなれる気がするタイプのサウンドです。
加えて、ボーカルの声質も本作の特徴の一つ。ミドルレンジ強めのストレートなスクリームは、ナチュラルな質感がリアル。さらに、所々ハアハアという息づかいや囁き声などが用いられていて、スクリームと合わせてブチギレ感を演出しています。リスナーからすると、この攻撃性に強く焚き付けられるんですよね。もう聴いてて暴れたくなっちゃいます。
その上、このバンドはそれだけじゃないのがミソ。「404」や「90」などのSE、さらには「Killing Floor」のイントロなど、様々な部分で怪しい電子音やパーカッション、スクラッチなどのサウンドが飛び出して来るんですよね。このニューメタル的飛び道具の雰囲気と中毒性はSlipknotの存在感を想起させます。Slipknotの奔放さにハードコアの衝動が交差するとなると、それが最強のヘヴィーミュージックになるのは間違いないわけで。全てのヘヴィーミュージックリスナーを暴れさせる一枚に仕上がっていると思います。

Take Me Back To Eden - Sleep Token

イギリス出身オルタナティブメタルバンドの3rdアルバム。
2023年で一番の衝撃を受けた一枚です。このバンド、一応オルタナティブメタルバンドだと言われることが多いようですが、そもそもオルタナティブメタルというジャンル自体よく分からない分類だなあと思うわけですよ。で、実際このバンドの音楽性も一言では言い表せないようなものとなっています。まず、一番際立っているのはボーカルのメロディーでしょうか。ソウル/R&B的な節回しがあり、それが終始一貫して優しく歌い上げられています。加えて、男声ボーカルを用いてミドルレンジを豊かに響かせる歌唱も今作のスケール感の構築に一役買っています。
そして、このボーカルの背後で様々なサウンドが提示されるわけですが、その幅が本当に広い。「Vore」や「The Summoning」ではメタルコア/Djent風の重厚感のあるリフがニューメタル的なリズムで殴り込んできて、かと思えば「Aqua Regia」はピアノとボーカルのみがメインに据えられたシンプルな一曲となっています。他にも「Ascensionism」ではヒップホップが導入されていますし、「DYWTYLM」ではエド・シーランかのようなキーボードまでフィーチャーしています。
これだけ多くのサウンドを取り入れていると、かなりとっ散らかった作品に仕上がりそうなイメージを受けるかもしれないが、そうなっていないのが今作のポイント。ヘヴィーなギターリフ、うねるベース、ジャジーな匂いを放つピアノ、パーカッション、キーボード…。全てがボーカルと絡み合って溶けていく。どんな音でも、ソウルフルなボーカルの印象とごちゃ混ぜになり、最終的には残響感を残すだけとなる。どの曲にも、そんな印象が付きまといます。逆に言えば、その残響感は今作を通して統一されていると言えるでしょう。水底に沈んでいくような、ぼんやりした感覚。それが全てを包摂する作品とも言えると思います。メタルの文脈で語られることが多い一枚ですが、その範疇を越えた、より広いジャンルのリスナーに聴いてもらいたい作品です。

冷刻 - kokeshi

日本のブラッケンドハードコアバンドの2ndアルバム。
前から話題になっていたバンドではありますが、2023年に入ってから格段に伸びてきた印象があります。そんな中リリースされた今作のクオリティーが素晴らしい。このバンドは2023年にはライブでも見ましたが、その時感じたものがアルバムにも込められています。
ベースとなる音楽性は、ブラックメタルの絶望感にハードコアの勢いを加えたようなもの。それ以外にもOSDMのようなドロドロ感や高速のビートなどが混ざり合って、全体的にドロっとした暗くて重い音楽の集合体となっています。加えて、要所要所で漂うポストロック的浮遊感も重要。冷気のようにソフトな感触で確かな寂しさを加えています。何かジャパニーズホラーのような感覚もありますね。
そして、このサウンドに乗って響く亡無(vo)のボーカル。この存在感は凄まじい。まるで地の底から響くような、病的なスクリームがとにかくリスナーの耳に突き刺さる。そうかと思えば、ボソボソとポエトリーリーディングめいた朗読(?)パートがあり、そしてまた悲痛な絶叫が響き渡る。昨今のヘヴィーミュージックシーンでは、スポーティーなスクリームが大勢を占めていますが、今作はその真逆なんですよね。自分は病的なスクリームの方が好みなので、今作のスタイルには強烈に魅了されました。特に、テクニック面でも高いクオリティーの仕事をこなしているのですが、特筆すべきはその気迫。ハイピッチのスクリームなんて、正に目の前に迫って来るかのような、そんな勢いとパワーを感じます。「胎海」や「涅槃欠損少女読経」でのホイッスルボイスのようなスクリームにも衝撃を受けましたね。この手の声を出すボーカリストがまだ国内にいたとは。DIR EN GREYの京や、DSBMの系譜を感じました。
歌という点では、日本語詞メインなのも面白いですね。前述したジャパニーズホラー的質感やこの日本語詞、それにどこか独特のセンスがあるギターリフのメロディーなど、全てが組み合わさった結果、何か和の雰囲気を持つ作品に仕上がっているのかなと思います。今作を聴くとよくわかると思うのですが、何か日本っぽいオリジナリティを感じる一方、具体的にどこがどうで、と言語化するのは難しいんですよね。和楽器の音などが入っている訳でもないし。それでも、今作にどこか和を感じるのは、その絶妙なバランス感覚の成せる技かなと思います。歌謡曲からDIR EN GREYなどに受け継がれていったメロディーもどこかに潜んでいるような気がしますし。
とにかく、こんな暗くてブルータルなバンドが急に表舞台に現れて驚きました。できればこの路線を追求しつつビッグになってほしいところです…。

The Above - Code Orange

アメリカ出身メタルコアバンドの5thアルバム。
ハードコアにインダストリアルの鋭さを掛け合わせたサウンドが特徴的なこのバンドですが、その方向性はそこまで変わらず。しかし、今作ではそれに加えてグランジ的な鈍重さも付与されています。「A Drone Opting Out Of The Hive」など、インダストリアル風の電子音とハードコアのシンプルなリズムの合間に、何かを引きずるかのように重厚かつどろりとしたギターリフが組み込まれているナンバーが多いんですよね。「Splinter The Soul」もそのいい例かと思います。ハードコア/メタルコアの衝動は抑えられ、ミドルテンポでどっしり進んでいく。正直、このバンドに求めるものによって好き嫌いは分かれる方向性だとは思います。「Circle Through」なんてNirvanaみたいなリフだし。
しかし、今作の何がいいって、それだけではないところ。「The Game」のようなファストチューンや、「Snapshot」のような軽快なロックソングまで、全体的にはバラエティーに富んだ作風となっています。これにはReba Meyers(gt/vo)のボーカルワークの影響もあるでしょう。男性ボーカル一本ではどうしてもシンプルになってしまうところを、女性ボーカルを組み込むことで、また違った味を引き出すことが可能になりますからね。特にRebaの声質は少し冷ややかで、メタルっぽい熱さとは少し異なっています。この声がグランジ調のサウンドに乗ると、オルタナティブロックらしい雰囲気を纏うようになるんですよね。
泥臭すぎず、かといって美しすぎない、今の彼らにぴったりの空気感。新境地を切り開いた一枚かと思います。

STYLE - LUNA SEA

日本産レジェンドヴィジュアル系バンドの名盤5thの再録盤。
今作と同時に『MOTHER』の再録もリリースされ、界隈ではかなり話題になりました。
さて、個人的には、リメイク前は『MOTHER』の印象が強く、『STYLE』はその影に隠れているような印象がありました。しかし、再録盤ではその『STYLE』の魅力がブーストされています。
今作は、前作に比べてよりバンドとしての厚みやグルーヴが意識されているそうですが、その作風と現代的なアレンジの相性は抜群。「HURT」、「RA-SE-N」、「FOREVER & EVER」辺りの深みが増し、より説得力を持った仕上がりとなっています。
SUGIZOの宇宙的なギターも映えていますね。時には空間を切り裂くように、また時にはふんわり包み込むように、様々な音色のフレーズが曲を彩っています。リメイク前もSUGIZOのプレイはこのような感じでしたが、やはり現代の技術で表現された音色は一歩先を行くクオリティですね。音の鋭さが全然違います。
また、これはリメイク盤2枚に共通する特徴ですが、Jのベースがより前に出たミックスになっています。正直、『MOTHER』では、これがあのアルバムの勢いを削いでいるなと感じてしまいました。しかし、『STYLE』の作風にはしっかりフィットしていると思います。常に地を這うようなベースと浮遊感のあるリードギターの対比が気持ちいいんですよね。
また、RYUICHIのボーカルもナチュラルに深く響いていて、それぞれの曲と合っていると感じました。それに対して、『MOTHER』は時折辛そうなところが引っかかったんですよね…。作風の違いでそう感じたのか、またはレコーディングの順番の違いか。個人的にはシンプルにこちらの方がコンディション自体が良さそうだなと感じました。
正直、LUNASEAが2023年にリリースした新しいオリジナルアルバム、だと言われても遜色のないくらいの作品でした。25年以上前のアルバムを、作風の相性云々はあるとはいえ、これほどのクオリティーで再録できるのはバンドが今も生きている証拠でしょうか。

Montage - Helix

日本出身のスラッシュメタルバンド(プロジェクト?)の1st。
以前はバンド編成で活動していたようですが、今作は1人で作成されたとのこと。なお、録音には他にも何名か参加されているみたいです。
さて、そんな今作ですが、まず特筆すべきなのは曲展開。まるでプログレのように次から次へとリフもテンポもどんどん変わっていきます。特にリフのアイデアの豊富さには驚きました…。スラッシュメタルらしさ溢れる刻みリフからトレモロリフ、メタルコアのようなブレイクダウン調のリフまで矢継ぎ早に新しいリフが飛び出てきます。
ドラムのフレーズも見事ですね。軽快なビートからブラストビート、スローなパートでのためを作るフレーズなど、終始曲のイメージを引き立たせる素晴らしいフレーズだらけです。今作において、曲展開と同じくらい重要なのが、途切れない疾走感ですが、その点でドラムの果たしている役割は非常に大きいのではないかと思います。
「The Sufi」においてはピアノまで出現。ダークなフレーズが同じく暗く怪しいギターリフと絡みながら駆け抜けています。
また、今作はサウンド面も素晴らしいですね。仕上がりとしては結構ライトなサウンドになっているのですが、それが溢れるスピード感に繋がっているのかなと思います。特に「Dada Construction」でのトレモロリフなんてチリチリ感が90年代のブラックメタルを想起させるほどです。ちょこちょこ早いフレーズで顔を出すベースや、ドラムもやはり硬く高めのサウンドでまとまっている印象。こう書くと、メタルには重厚感がないとダメでしょ、と思われるかもしれませんが、聴いてて物足りなさは感じないんですよね。
むしろ、引きずるような重さがないからこそ、スピードとテクニックを余すことなく楽しめる作品に仕上がっているような気がします。

Godlike - Thy Art Is Murder

オーストラリア出身デスコアバンドの6th。
今作リリース直前にCJ McMahon(vo)の脱退騒動があり、急遽ボーカル音源の差し替えを行うなど不安要素はありましたが、蓋を開けてみると安定のザイアートクオリティでした。
重厚なリフに怒涛の勢いで迫ってくるようなドラミング、凶悪なボーカルとスピードと暗黒感を両立したサウンドは健在。強いて言うなら前のボーカリストの方がより深く響くようなグロウルだったなあと思ったくらいでしょうか。今回もさすがの完成度です。このバンド、こういう音楽性にしてはアナログなサウンドを貫いているのが好きなんですよね。昨今デジタルな歪みでより低く重いサウンドを作るバンドが多い中、このバンドは生音の輪郭が分かるようなサウンドメイクを心がけているように感じます。そのおかげで、ハードコア由来のパワーがぶつかってくる感覚を存分に楽しめるんですよね。
また、彼らの音楽性として、そのパワーと同じくらい重要なのがアトモスフェリックなサウンドで演出される不穏さ。リードギターのアルペジオや短音フレーズなんかで表現されています。本人らも影響元にあげているように、Behemothの匂いを感じるような不気味さがありますね。ブラックメタルの悪魔的な怪しさが漂っている感じです。
前作に比べるとすこしこの怪しさがプラスされているように感じます。ヘヴィーかつパワフルなのは変わりませんが、スポーティーなキメを減らし、その分轟音の嵐のようになっている印象です。
とはいったものの、バンドの核たる部分は一切変わらない職人のようなバンドです。また来日しないかなあ…。

…And Everything in Between - Unprocessed

ドイツ出身Djentバンドの6th。
ここまでヘヴィーな作風で来るとは。
基調となるのは、いかにもDjentらしい透明度と細かい譜割りを併せ持つフレーズ。特にあのブラッシングですよ。どうやって弾いているのか全然想像もつきません。それ以外の部分も純粋なシュレッドとはまた違った美しさを感じるクールなフレーズだらけでした。また、ギターサウンドもクリーン〜クランチ〜オーバドライブ程度の歪みがメインというライトなもの。質感もかなり硬くまとまっていて、メタルらしい芳醇な重厚感とはかなりかけ離れたサウンドになっています。
さて、ここまでは今作のDjent面について取り上げましたが、今作はそれだけではないところがポイント。Djentらしいテクニックの応酬に、メタルコアっぽい要素がガツンと組み込まれているんですよね。
まず特徴的なのは曲構成でしょうか。スクリームメインのAメロ〜スケールが広がるクリーンメインのサビ〜ブレイクダウンのような構成を持つ曲が多い印象です。
クリーンボーカルのメロディーも昨今のメタルコアの流れを強く感じますね。少し冷ややかなのに、シンガロングが捗りそうな歌いたくなるメロディー。このおかげで、彼らの複雑怪奇なフレーズ集がとっつきやすいメタルソングになっているきらいがあります。
サウンド面でも、前述したDjent的透明感のあるサウンドに加えて、モダンメタルコアのズンと響くメタリックなディストーションサウンドが用いられています。このサウンドではよくあるメタルコアらしいリフが奏でられています。ブレイクダウンの際の解放弦(多分)リフだったり、サビのパワーコードだったりですね。これに加えて、ドラムも割とシンプルなフレーズを叩いているので、なんか普通のメタルコアじゃ?という瞬間もかなりあります。
まあ、メタラー的感覚からすれば、むしろこれくらいの割合でDjent成分が入っているくらいがちょうどいいかなあと思いました。
聴き慣れたモダンメタルコアの中に、神々しさまで感じるリードフレーズが駆け抜けていく感覚。正直、Djentだったりマスロックの良さってあまりわかっていなかったのですが、ここに来てやっと腑に落ちたような気がします。

あとがき

以上、2023年個人的ベストアルバムでした。
2022年のアルバムリリースラッシュを終え、逆にツアーラッシュが訪れたこの年。正直豊作の年とはいかないだろうな…と思っていましたが、蓋を開けてみれば全然そんなことはなかったですね。
コロナ前後に始めたバンドの渾身の一撃からベテランの新たな挑戦まで、色々な作品を楽しめた良い年でした。
2024年もどんなアルバムを聴くことになるか、楽しみです。
ただ、個人的には社会人2年目になるため、そもそも音楽を聴く時間をどれだけ取れるかという問題がありますが…。

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