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「久々にテレビで歌うから、とっても嬉しいの」

これは、2016年3月にSMAPとして出演した『明日へコンサート』以来、実に6年ぶりに自身の楽曲で生放送の音楽番組に出演することが発表された香取慎吾さんがしたツイートだ。

誰もが知っているテレビスター、長年にわたって地上波音楽番組の常連だった彼が「歌番組だよねっ⁉︎ テレビだよねっ! 歌わせてもらえるんだよね⁈」と語る事態の異常さは言うまでもない。

香取さんが思わずこうつぶやいてしまうのも無理のないことで、前事務所を退所して以来約5年、香取さんが出演した音楽番組と言えば、初めてのソロアルバムを特集した『SONGS』(NHK、2020年)、松平健さんの楽曲の「ゲスト」的な存在として「カツケン」というキャラクターで生出演した『第53回 年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京、2020年)のみ。同じ時期に退所した稲垣吾郎さん、草彅剛さんにいたっては未だにゼロだ。

この5年、彼らが音楽活動をしていなかったわけではなく、ユニット、ソロで複数の曲を配信リリースしているし、自分たちの配信番組である「ななにー」では、ほぼ毎月歌唱を披露している。
特に香取さんは2020年1月に初めてのソロアルバム『20200101(ニワニワワイワイ)』をリリースし、2021年、2022年には東京・明治座でソロコンサートも開催して音楽活動にも積極的に取り組んできた。

もちろん香取さんのことを、あえて「まだ実績のない小さな事務所からデビューした新人ソロ歌手」と見做すとしたら、そう簡単にテレビで歌えないというのも当たり前なのかもしれない。
しかし、それはあくまでも「あえて」のことで、30年近くのキャリアがあり、グループでもソロ名義でもミリオンセラーの記録を持つ歌手の設定としては、どう考えても無理がある。
しかしその無理が、なぜだか5年もの長い間押し通されてきたことを多くの人が知っている。

2022年5月10日、香取さんの歌唱中に、#うたコンはTwitterトレンドの世界一となった。
また、番組終了時の国内トレンドでも
#うたコン(1位)、#香取慎吾(3位)#東京SNG(6位、香取さんの楽曲)、慎吾ちゃん(7位)、谷原さん(19位、番組MC)、慎吾くん(28位)
等の関連ワードがずらりと並んだ。
それは、その熱が彼のコアなファンだけに訪れたものではないことを表している。

テレビ離れとかオワコンだとか、地上波テレビの凋落が取りざたされ、そういえば私自身も音楽番組を最初から最後までリアタイしたのは、本当に久しぶりのことだ。
それでも「たまたま」とか、「他の人目当てで」とかで見た人たちの目にも止まるということが起こるのがテレビであり、その影響力は今も計り知れない。
その格好の機会を、本来であれば「歌ってほしい」「もっと聴きたい」と言われる立場の人が、「歌わせてもらえる」と言わなければならないほどに与えられずに来た5年間。
しかし彼は、その僅かな機会をも最大限に活かせる力があることを自らのステージで証明して見せた。

私自身は彼が弱音や愚痴や、何なら怒りや恨みを吐いても良いと思うし、そうするだけの理由があると思っている。
でも彼が選んだのは目の前とテレビの向こうにいる多くの人たちをワクワクさせて楽しませること、過ぎ去った涙を忘れるのではなく、それを知ってるからこそなお胸が高まるエンターテインメントを届けることだった。

この記事のタイトルにした言葉は、香取さんが今回のステージ前に語ったものだ。
稀代の「エンターテインメントの申し子」(草彅剛さん談)。
その彼が、今こんなにもテレビに出ることを喜んで、感謝して、全身全霊で盛り上げてくれている。
テレビはこれに応えなくていいのか。


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