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はじめての梅干しで学んだこと:前編

はじめての梅干し作りに挑戦しています。長い間、毎年欠かさず40~50kgもの梅仕事をしてきた伯母が去年を最後に ”引退” を宣言したので、せめて梅干しだけでも作り方を引き継ぎたいと思い立ちました。

なにしろ伯母の梅干しはめちゃくちゃおいしいのです。私にとって梅干しは日常的に食べるというより勝負メシまたはおまじない的なもの。ここぞというときや、体調が悪くなりそうなときの必需品で、アメリカの自宅にも常備していました。入国の際、係員に「これはキャンディか?」と聞かれたことを思い出します。笑

6月のうちに、梅の収穫、塩漬けを経て、赤じそ漬けまで進みました。はじめての梅干しはわからないことだらけ。たとえば梅を収穫するときには「実のどこを持つの?どうやって採るの?」、アク抜きでは「水が先?梅が先?」など、次々に質問をぶつけてくる私に対し、伯母は「そんなことまで教えなあかんかね」と笑っています。

ちなみに私はつい数年前まで、この時期を逃すと梅仕事ができないということすら知りませんでした。梅干しも梅酒も年中売っているので、時期があるなんて思いもしなかったのです。「梅雨」や「土用」の意味も、今回はじめて知りました。

そして、伯母のレシピは驚くほど柔軟で感覚的でした。「やってみた都合」「様子を見て」「それはその時々で違うから」「アバウトでいいよ」など、なんでもきっちり測って言語化し、全体像を踏まえて理解したい私にとって、極めて難度の高い手順の連続です。

「3日ぐらいで水が上がる(=梅から出た水分が梅にかぶる程度にたまる)」と聞いていたのにそうはならず、「もう1週間たつんだけど…」と相談したときも、「そういうこともあるかもね」と軽くかわされました。

伯母自身、誰かに作り方を教わったわけではなく、何人かのやり方を見てだいたいの作り方を覚えたあと、前年の出来や梅の状態などをもとに工夫と改良を重ねてきているそうです。

経験と勘にもとづき、自分ひとりで臨機応変にやってきたことを、今回はじめて姪の私に伝える。そう、これは伯母にとっても「はじめて」の体験なのでした。授業やマニュアルなどのシステムに慣れすぎている私は、ここで新しい教わり方を身につける必要があると気づきました。普段は受講生の学び方に合わせている私ですが、今回は伯母の教え方に合わせることにしました。

気をつけるポイントはいくつかあります。たとえば、伯母の無限の柔軟性を起動させないこと。「焼酎をスプレーに入れてまぶす方法もあるらしいよ」など、私が予習のために検索で得た知識を口走ろうものなら、「じゃあそうしてみたら」と即採用になってしまいます。そこで、ネットで見聞きしたことを披露するのは控え、なるべく伯母の手順を忠実に吸収することを目指すように切り替えました。

あるいは、お手本と実習の大切さをわかってもらうこと。たとえば赤じそを揉む手順にしても、伯母は口頭で、なんなら電話で「紫蘇にちょっちょっと塩ふって…」などと言うだけでおしまいにしようとするのです。伯母はビデオ通話をしないので、会って教えてもらうしかないのですが、「おばちゃんのやり方を見たいし、私がやるところも見てもらいたいんだ」と希望を伝え、なんとか約束を取りつけました。で、実際に見せてもらい、見てもらうと、お互いの理解にギャップがあることが続々発覚。さらに、口頭では伝えるのが難しい感触や匂いを共有することができました。

そのほか、「手が嫌う」という謎のフレーズの意味や、梅がすっぱくなるメカニズムについて、伯母に「そんなの考えたことない」と言われてしまうことの中には調べても解決しないことがあり、梅干し作りの奥深さを知りました。伯母が学習者として私を放し飼いにし、勝手に学びを広げていけるように仕向けてくれているのだとすると、これは意外とすごい教育の場です。

後編へ(たぶん)つづく。




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