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自分の2つ隣のドアから電車に乗り込んできたそのおじさんは、
聞き取れない、でも明らかに耳に入る大きな声を発しながら、車内に入ってきた。

空耳だったか･･････と思って、荷物を床に置いて数人がけの長い座席に座る。オフィスに着くまで、少しでも眠っておかなければ。
おじさんはどうやら同じ車両にいるようだ。

電車のドアが閉まり、動き出した瞬間、
「足！あしっ！」
今度はしっかり耳に入ってきた。横を見ると、そう言われた乗客がきょとんとしている。
声の主は･･････さっきのおじさんだ。

どうやら、座席に座って足を組んでいた乗客に、足を組むなと言ってきたようだ。ただ、別に迷惑をかけるような座り方をしているわけでも、不快に思うような格好をしているわけでもない。
言われた側がきょとんとするのは至極当然だった。

「えぇ･･････」と思ってもう一度寝ようとするが、自分の左側が気になって仕方ない。
と思っていたらおじさんがこっちに歩いてくる。

「足！あしっ！」
次は足を組んで座りながら寝ている乗客に、目の前で大きな声で言う。組んで上の方にある足を手でつつきながら、その足を下ろせと言っているようだ。
寝ていた乗客は当然目を覚まし、何を言われたんだとばかりの顔をする。

周りの乗客も徐々におじさんの存在を認識し、「な、何なんだ･･････」とおじさんを眺める。
自分は足を組んで座ってはいなかったが、なんとなく荷物を整え、きちんと座りなおす。早朝に大声で言われては（全く悪いことではないはずなのだが）正直たまったもんじゃない。

そう思いながら、少しソワソワとしつつ自分の両隣の乗客を見ると･･････

見事に両隣とも足組んでる！！
今見ましたよね･･････何故か足組んでる乗客に足下ろせって言ってくるおじさんを。
いや全く悪くないんですけど、来ますよ。おじさんが。
「足！あしっ！」
て言って組んだ足をつつかれますよ！
大丈夫ですか！？いいんですか！？いや、いいんですけど！むしろなんか悪くないのに足下ろす必要ないっていう、堂々とした姿勢でいく感じですか？

もうこっちに来るのも時間の問題だろ･･････そう思っていると次の駅に着いた。
すると、なんとおじさんはそこで降りたのだ！おじさんが降りたドアから乗ってきた乗客にも、
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と聞き取れない言葉を大声で放ち、駅のホームを車両の前方側まで歩き出した。
そして、電車に向けて手を振り、次の駅へ向かうのを見送っていた。

嵐のように過ぎ去っていったおじさん。正直降りた駅は、早朝に目的があって降り立つような駅ではない。
本当に何だったんだおじさん･･････。

きっとおじさんは足を組んで座る乗客が気になって仕方なかったのだろう。
でも足を組んで座ることは、（もちろん程度はあるにせよ）基本電車内のマナーとして悪いことではないはず。
今回は言われた乗客側との間で、トラブルにはならなかった。でも、事が荒立っても全然おかしくなかった。

多くの人が一緒に居ると、誰もが満足するように過ごすって本当に難しいよなぁ。
全然大それたことではなかったが、早朝の電車内で、おじさんから改めてそんなことを感じてしまった。