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掌編集

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ローダンテの追憶

ローダンテの追憶

 彼女と、約束した場所へ向かう。

 片手に白い花束。片手に三本の赤い薔薇。
 坂道に咲く彼岸花。秋めいた冷たい風が汗ばんだ頬をなでる。まだまだ続く上り坂に、ほんのすこし、気が滅入った。
 ひとつため息をついて、また歩みを始める。

 上で待つ、最愛の女の子のために。

 坂を上りながら思い出すのは、夏のあの日、白いワンピース姿で僕へと微笑んだ彼女の姿。

 海を見渡せるオープンカフェ。アイスコー

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白き夢の跡

白き夢の跡

 一枚の原稿用紙。
 使い古された万年筆ひとつ。
 机の上にあるのはただそれだけ。

 紙の上でなら、何にでもなれる。
 空を飛べる。海を自在に泳ぐことが出来る。
 望むまま何処にだって行ける。誰だってヒーローになれる。
 犯罪ですら、裁かれることなく思いのまま。

 夢を綴る。
 筆を走らせて、自らの望みを写し取る。

 そこに紡がれるのは決して綺麗ではない自分の字。
 けれど、切実さの滲む己の

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声なき一言を

 声が出ない。

「あー、こりゃ完全に喉腫れてんな」
「あのね、ごほっ」
「こら、無理に話そうとすんな」

 唇から零れるのはひゅーという息の音。
 声を出そうとすれば、痛みが言葉を阻害する。

 今日は彼に言いたいことがあった。
 だから、体育館裏に呼び出したというのに、これではなんの意味もない。

 まさか緊張で寝つけなかった報いがここでくるとは……

「話ならいつでも聞くからさ。今日は止めと

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伝焦

 じりりりりり、と心の奥を掻きむしる音が響く。
 音はまだ止まない。

 携帯の液晶に映るのは愛しいあの人の名前。
 
 もう何コール目だろう。
 何度鳴らしても誰も出ないというのに、それはこりもせずに鳴り続ける。
 じりりりり、と不快な音を響かせて、頼むから出てくれと懇願するように。

 それから怯えた目を離して、彼女は震える体を一層丸め込んだ。

 真夏だというのに彼女は震えている。
 噛み合

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純粋の残酷

純粋の残酷

 ほかに命亡きその地でも、白は夜を裂いて咲く。
 今日も、予言の星は咲く。

 かのベツレヘムの地では、聖人の誕生を知った王が自らの権威の失墜を恐れ、その地の男児を皆殺しにしたという。
 とはいえ、目当ての児は聖女とともに逃げ遂せてしまったのだが。
 無関係の児を巻き込み、仇の彼は生き残ってしまう。
 その夜にも、ベツレヘムの星は輝いていた。

 時代が変わっても、無垢な白さで、星と例えられるその

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桜待ち人

 桜が舞う。

 舞い落ちるのは花びら。
 そして、植えたものの想い。
 
 想いの込められた薄紅の花。

 それは丘の上にぽつん、と根を張る桜の木だ。
 その樹はある女性を思って植えられたもの。

 植えたのは名もなき男だ。
 
 誰とも知れぬ白い衣の美しい女に、彼は恋をしたのだという。

 彼女が現れたのはある春の夜で、白い着物を華奢なその身に纏っていた。
 長い黒髪に、艶めく桜色の唇が色っぽ

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