「元プロアカペラー」を作った人たち ~岩城の場合~ 第5話 「Hearty-voxその2」

2004年5月に産声をあげたHearty vox(当初ハイフンは無かった。どうでもよさげ。)。

ちなみにメンバーの居住地は、僕が東京、他が千葉埼玉神奈川と、決して近くはなかった。

週に1度ほど、渋谷か新宿に集まっての練習。
あとは毎日のようにメンバー誰かしらとメッセンジャーでのやり取り。

Yahooかmsnのメッセンジャー。
懐かしい!と思った方は、漏れなく仲間である。
僕も今、これを打ち込みながらノスタルジーに震えているところである。

次に挑戦する楽曲の話、ひたすらネタ合戦、恋愛の話、メンバーの愚痴、ほか他愛のない会話たち。
ああ、青春だ…。
あの頃のログがもし存在して、一目でも見ようものなら、懐古の念とともに涙か冷や汗か、何かしらが溢れ出ることだろう。

ちなみにこの頃、他のメンバーに対しては敬語を用いていた。
僕は1年生、僕以外は2年生。
上下関係が明確にあったわけではないが、なかったかと言えばそうでもない。


先輩たちに囲まれて、刺激的で充実したアカペラ生活。
順調にレパートリーは増えていくその過程。

またしても大きな転機が、今度はゆっくりゆっくりと歩み寄って来た。

コーラスとして加入した僕であったが、レパートリー2曲目でベースを任されることになる。

元来のベース担当であった当時のリーダーは、リードボーカルもやりたい!というタイプだった。

彼がリードボーカルに回るときは、僕がベースに入る。
そうでなければコーラス、という布陣であった。

当時の僕は、ベースに全くと言っていいほど興味がなかった。

中学時代も最後に担当していたパートはコーラスであったし、なんとなく「ベースのキャラ立ち」と自分自身に乖離を覚えていたのだ。

とはいえ、ベースを断ることもしなかった。

「俺がリードの時だけだから!」と、リーダーの口車に乗せられたこと。
先輩に囲まれて断りづらかったのも多少あるだろう。

だが、何より当時の僕は、Hearty voxのメンバーで居られることが嬉しかったのだ。

そうこうするうち、レパートリーは増えていく。

気付けばHearty-voxのリードボーカルは、吉谷アキラとリーダーの二枚看板、と言えるほどの割合になっていった。

つまり、持ち曲のおよそ半数で、僕はベースを担当していたのだ。


2004年12月。
今はなき渋谷・多作にて、Hearty voxの初舞台。

記憶が不確かであるが、演奏曲はおそらく4曲。
うち3曲で僕はベースを担当したのだと思う。

MC。メンバー自己紹介。
僕は言った。

「ベースやってます。Keiです。」


ベースボーカル・Keiは、僕の意に反して生まれた。


その後Hearty voxは「そこそこライブが出来て、誘われたライブには必ず出る高校生グループ」として、多作から重宝されることになる。

ちなみに当時の多作ブッキングマネージャーは、後にも大変お世話になるPsalmのHama氏である。
あの頃の酷使……もとい、与えられた機会があったからこそ、ライブ会場で演奏する上での嗅覚が養われたのだと今は感じている。


そうして月に2回程度のライブを重ねる日々が続いた。

練習は月に約4回。
割と「ライブに追われる」ペースである。

少しずつレパートリーを増やしながら、コーラス、ベース、時々リードボーカルも頂きながらHearty voxのKeiはその自覚を深めていった。

半年ほど経った頃だっただろうか。

僕が直接聞いた訳ではないのだが、確かこれも、多作の関係者からの言葉だったと思う。

「Keiくんベースで固定しちゃえば?」

その言葉にどんな意図があったのか、直接聞いたわけでは無いので明言は出来ない。

メンバー曰く、ベースを固定した方がグループとしての音像は安定する(そりゃそう)。
リーダーと僕、どちらかを取るなら僕、とのことであった。

そうでなくても、ベースを固定するならばどう考えても、リードの少ない僕だったのだが。
どうやら僕のベースが評価されてのこと、であったようだ。

リーダーが些か不服そうな顔をしていたのを覚えている。
彼もベースに自信を持っていたはずだから、片手間でやっていたはずの僕と比べられたら、それは気分が悪いだろう。


メンバーは、僕がコーラスボーカルを希望していることも知っていた。

「岩城の気持ちとしてはどう?」

「いいっすよ」

即答した。

先輩に囲まれて、断りづらさは確かにあった。
しかし、初めてだらけのシーンで、自分の何かが認められたことの嬉しさもあった。
自分に役割を与えられることが嬉しかった。

僕は、Hearty voxが大好きだった。

ベースボーカル・Keiが、本当の意味で生まれた。


Hearty-vox編、しばらく続きます。
大好きなのでね。今でも。

JARNZΩ編をお待ちの皆様、今しばらくお待ちください。


この頃のライブ音源、MDで今も大事に持ってます(聞けるかはわからん。笑)。

初期メンバーのでは無いけど、僕が大好きなHearty-voxの映像載せときますね。

僕のベースがその後も一定の評価をいただけたのは、多分この曲をやってたおかげ。

映像は20歳前後。
吉谷アキラの細さにも注目。笑


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