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【種牡馬辞典】Sadler’s Wells系

Sadler’s Wells

<プロフィール>
1981年生、米国産、11戦6勝
<主な勝ち鞍>
1984年愛2000ギニー(T8F)
1984年エクリプスS(T10F)
1984年フェニックスチャンピオンS(T10F)
<代表産駒>
Salsabil(1989年マルセルブサック賞、1990年英1000ギニー、英オークス、愛ダービー、ヴェルメイユ賞)
Montjeu(1999年仏ダービー、愛ダービー、凱旋門賞、2000年タタソールズGC、サンクルー大賞、キングジョージⅥ&QEDS)
Galileo(2001年英ダービー、愛ダービー、キングジョージⅥ&QEDS)
High Chaparral(2001年レーシングポストT、2002年英ダービー、愛ダービー、2002、03年BCターフ、2003年愛チャンピオンS)
<特徴>
El Gran SenorやDarshaanなど強敵揃いの世代に生まれたため裏路線に回ることが多かったが、その中でも1984年愛2000ギニーなどGⅠを3勝。ただ、種牡馬としての功績は競走馬としての活躍を忘れさせるほどであり、欧州にNorthern Dancerの血を広めた最大の立役者といっても過言ではない。種牡馬Fairy Kingの全兄であり、これまた大種牡馬Nureyevとは3/4同血の間柄。母母Specialと父Northern Dancerとの間に、1971年トラヴァーズS勝ち馬でありNever Bendの半弟でもあるBold Reasonを挟んだ形で、パワーとスタミナ、底力に優れた大種牡馬といえる。1990、1992~2004年と14度の英愛リーディングサイアーに輝き、1993、99年には仏リーディングサイアーのタイトルも獲得。後継種牡馬も数多く成功しており、今後もヨーロッパの一大父系として枝葉を広げていきそうだ。ちなみに、繋の角度がきついため、Nureyevほどダート適性は高くない。

-In the Wings

<プロフィール>
1986年生、英国産、11戦7勝
<主な勝ち鞍>
1990年コロネーションC(T12F)
1990年サンクルー大賞(T2400m)
1990年BCターフ(T12F)
<代表産駒>
Winged Love(1995年愛ダービー)
Singspiel(1996年カナディアンインターナショナルS、ジャパンC、1997年コロネーションC、英インターナショナルS)
Soldier Hollow(2004、05年ローマ賞、2005、07年バイエルンツフトレネン)
<特徴>
大種牡馬Sadler’s Wellsの初年度産駒の代表馬。母High Hawkは1983年ローマ賞を制すほか、1983年愛オークス、伊オークスでも2着と活躍。繁殖牝馬としても本馬以外に数多くの重賞勝ち馬を輩出しており、日本でホットシークレット(2000、02年ステイヤーズS、2001年目黒記念)などを出した種牡馬ハンティングホークは本馬の全弟である。母同様に小柄な馬であったが、Bold Reason≒Never Bendの3×4らしい立ち肩で、馬力は十分。スタミナにも優れ、Singspiel(1996年カナディアンインターナショナルS、ジャパンC、1997年コロネーションC、英インターナショナルS)を筆頭に多くの芝中長距離馬を輩出した。

--Singspiel

<プロフィール>
1992年生、愛国産、20戦9勝
<主な勝ち鞍>
1996年カナディアンインターナショナルS(T12F)
1996年ジャパンC(T2400m)
1997年コロネーションC(T12F)
1997年英インターナショナルS(T10F)
<代表産駒>
ムーンバラッド(2003年ドバイワールドC)
アサクサデンエン(2005年安田記念)
Dar Re Mi(2009年プリティポリーS、ヨークシャーオークス、2010年ドバイシーマクラシック)
Solow(2015年ドバイターフ、イスパーン賞、クイーンアンS、サセックスS、クイーンエリザベスⅡ世S)
<特徴>
4代母Soaringに遡る世界的名牝系。母Glorious Song(1980年ラカナダS、サンタマルガリータ招待H、トップフライトH、1981年スピンスターS)は名繁殖牝馬Balladeの初仔であり、全弟妹には種牡馬Devil's Bag(1983年米シャンペンS、ローレルフューチュリティS)、Saint Balladoや繁殖牝馬Angelic Songがいる。母自身も繁殖牝馬として本馬とRahy(1989年ベルエアH)を輩出しており、世界的に重要な繁殖牝馬の一頭といえるだろう。本馬は1996年ジャパンCで日本勢のみならず凱旋門賞馬エリシオやキングジョージⅥ&QEDS優勝馬ペンタイアを下してトップホースの仲間入り。Sadler's Wells系でありながら母方の瞬発力も兼備しており、種牡馬としても世界各国でGⅠ馬を輩出した。

--Soldier Hollow

<プロフィール>
2000年生、英国産、31戦12勝
<主な勝ち鞍>
2004年ローマ賞(T2000m)
2005年ダルマイヤー大賞(T2000m)
2005年ローマ賞(T2000m)
2007年ダルマイヤー大賞(T2000m)
<代表産駒>
Pastorius(2012年独ダービー、ダルマイヤー大賞、2013年ガネー賞)
Our Ivanhowe(2014年バーデン大賞、バイエルン大賞、2016年ドゥーンベンC、2017年ランヴェットS)
Weltstar(2018年独ダービー)
<特徴>
2004、05年ローマ賞、2005、07年ダルマイヤー賞を制し、種牡馬としても2016、18、19年独リーディングサイアーに輝いたイギリス産のSadler's Wells系種牡馬。近い代には目立った活躍馬がいなかったが、Rough Shod→Thongに遡るラインは父祖Sadler's Wellsと同じであり、4代母Lisadellのラインからは1999年年度代表馬エルコンドルパサーなどが出ている。また、母母レイクアイルはNorthern Dancer系Caerleonを父に配しており、本馬自身はSadler's Wells≒レイクアイルの2×2ともとれる配合形だ。写真で見る限り、父In the Wingsと同様に小柄な馬に見えるが、母の父が2歳GⅠ馬Common Groundsというスピード馬ということもあり、本馬の勝ち鞍はすべて芝2000m以下でのもの。ピッチの速いフットワークで走り、父よりもスピードに優れた競走馬だったといえるだろう。

-オペラハウス

<プロフィール>
1988年生、英国産、18戦8勝
<主な勝ち鞍>
1993年コロネーションC(T12F)
1993年エクリプスS(T10F)
1993年キングジョージⅥ&QEDS(T12F)
<代表産駒>
ニホンピロジュピタ(1999年マイルCS南部杯)
テイエムオペラオー(1999年皐月賞、2000年宝塚記念、天皇賞秋、ジャパンC、有馬記念、2000、01年天皇賞春)
メイショウサムソン(2006年皐月賞、日本ダービー、2007年天皇賞春、天皇賞秋)
<特徴>
日本で最も成功したSadler’s Wells系種牡馬。1986年愛オークス馬Colorspinを母に持ち、全弟Kayf Taraも1998~2000年の3年連続で欧州最優秀ステイヤーに輝いたスタミナ豊富な一族。さらに、Sadler’s WellsとHigh Topの組み合わせはHyperionとFair Trialを増幅するニックスであり、本兄弟の他にMontjeuやYeats、オールドヴィック(母がHigh Topの全妹)など長距離馬が多数誕生している。本馬も1993年キングジョージⅥ&QEDSなど芝中長距離で活躍し、種牡馬としても日本でスタミナ豊富、かつ馬力に富んだ芝中長距離馬を量産。その反面、瞬発力に欠けたため、馬場の高速化に伴い父系は衰退してしまった。また、自身のGⅠ初勝利が5歳時だった通り、産駒も晩成型が多数派。障害競走で無類の強さを誇ったことも大きな特徴だ。

-El Prado

<プロフィール>
1989年生、愛国産、9戦4勝
<主な勝ち鞍>
1991年愛ナショナルS(T7F)
<代表産駒>
Medaglia d'Oro(2002年トラヴァーズS、2003年ホイットニーH、2004年ドンH)
Kitten's Joy(2004年セクレタリアトS、ターフクラシック招待S)
Artie Schiller(2005年BCマイル)
Spanish Moon(2009年サンクルー大賞)
<特徴>
Sadler’s Wells系種牡馬でありながらも、アメリカで繁栄した芝・ダート兼用の万能種牡馬。母Lady Capuletは1977年愛1000ギニー優勝馬であり、アメリカで種牡馬として成功したDroneの3/4同血の妹という良血。さらに、Attica≒Tom Foolの2×2とも取れる配合形でもあり、本馬はSadler’s Wellsの特徴を強力な異系スパイスとし、Tom Fool的な俊敏さを昇華させた種牡馬といえるだろう。仕上がりが早く、機敏で、小脚が使える。その反面、底力に欠け、大レースでは脆さを見せる血統ともいえるだろうか。

--Medaglia d'Oro

<プロフィール>
1999年生、米国産、17戦8勝
<主な勝ち鞍>
2002年トラヴァーズS(D10F)
2003年ホイットニーH(D9F)
2004年ドンH(D9F)
<代表産駒>
Rachel Alexandra(2009年ケンタッキーオークス、プリークネスS、マザーグースS、ハスケル招待S、ウッドワードS)
Songbird(2015年デルマーデビュタントS、シャンデリアS、BCジュベナイルフィリーズ、2016年サンタアニタオークス、CCAオークス、アラバマS、コティリオンS、2017年オグデンフィップスS、デラウェアH)
タリスマニック(2017年BCターフ)
Golden Sixty(2020、21年香港マイル、2021年スチュワーズC、香港GC、2021、22年香港チャンピオンズマイル)
<特徴>
2002年トラヴァーズSなどGⅠ3勝を挙げたほか、BCクラシックで2度2着に入るなど長く北米ダート路線の一線級で活躍した父El Pradoの代表産駒。引退後はアメリカとオセアニアで種牡馬生活を送り、芝とダートを問わず、短距離から長距離馬まで多数のGⅠ馬を輩出している。近い代に目立った活躍馬はいないが、6代母Sunday Evening(1949年スピナウェイS)は繁殖牝馬としても1964年テストS優勝馬Time for Bedなどを出しており、母母Dubbed InはSunday Eveningを3×4でインブリード。父Eight ThirtyやThe Tetrarchの4×4などを持つ牝祖Sunday Eveningのスピードが本馬の礎となっているが、本馬自身は5代アウトブリードの配合形で、種牡馬としては繁殖牝馬によって多様な産駒を出した万能種牡馬だったといえるだろう。本馬自身は父El Pradoと同じく頭が高く、小気味のいいフットワークが特徴的。

--Kitten's Joy

<プロフィール>
2001年生、米国産、14戦9勝
<主な勝ち鞍>
2004年セクレタリアトS(T10F)
2004年ターフクラシック招待S(T12F)
<代表産駒>
ステファニーズキトゥン(2011年アルキビアデスS、2013年ジャストアゲームS、2014、15年フラワーボウルS、2015年BCフィリー&メアターフ)
Bobby's Kitten(2014年BCターフスプリント)
Kameko(2019年ヴァーテムフューチュリティTS、2020年英2000ギニー)
<特徴>
芝路線転向後、2004年セクレタリアトS、ターフクラシック招待Sなど12戦9勝2着3回の実績を挙げ、2004年北米芝牡馬チャンピオンにも選出。引退後は自身と同じく芝のトップホースを多数輩出し、2013~18年には北米芝リーディングサイアーに。さらに、2013、18年には北米リーディングサイアーにも輝いており、競走馬としても種牡馬としても父El Pradoの代表産駒といえる一頭である。Attica≒Tom Foolの4・4×5やThong=Lt. Stevensの5×4などで父のスピードを継続。また、母父Lear Fan譲りの立ち肩でもあり、ピッチ走法から生まれる俊敏さと機動力こそが本馬の持ち味だ。日本で活躍するジャンダルム(2022年スプリンターズS)はその影響を多分に受けているといえるだろう。

-カーネギー

<プロフィール>
1991年生、愛国産、13戦7勝
<主な勝ち鞍>
1994年凱旋門賞(T2400m)
1995年サンクルー大賞(T2400m)
<代表産駒>
Amalfi(2001年ヴィクトリアダービー)
Tuesday Joy(2007年クールモアクラシック、2008年ランヴェットS、ザBMW、2009年チッピングノートンS)
Vision And Power(2009年ジョージライダーS、ドンカスターマイル)
<特徴>
母Detroit(1980年凱旋門賞)とともに母子凱旋門賞制覇を果たした良血馬。Bold Reason≒Never Bendを3×3でインブリードした配合形で、掻き込みの強いフットワークで道悪馬場を得意とした点が特徴的。引退後は日本で種牡馬入りし、自身と同じく芝中長距離の道悪巧者を多数輩出した。その反面、日本の高速馬場の適性に欠け、晩年はオセアニアで成功を収めている。

-Montjeu

<プロフィール>
1996年生、愛国産、16戦11勝
<主な勝ち鞍>
1999年仏ダービー(T2400m)
1999年愛ダービー(T12F)
1999年凱旋門賞(T2400m)
2000年タタソールズGC(T10.5F)
2000年サンクルー大賞(T2400m)
2000年キングジョージⅥ&QEDS(T12F)
<代表産駒>
Motivator(2004年レーシングポストT、2005年英ダービー)
Hurricane Run(2005年愛ダービー、凱旋門賞、2006年タタソールズGC、キングジョージⅥ&QEDS)
Authorized(2006年レーシングポストT、2007年英ダービー、英インターナショナルS)
Camelot(2011年レーシングポストT、2012年英2000ギニー、英ダービー、愛ダービー)
Leading Light(2013年英セントレジャー、2014年アスコットGC)
<特徴>
1999年凱旋門賞でエルコンドルパサーとの壮絶な叩き合いに制した大種牡馬Sadler's Wellsの代表産駒の一頭。4代母Alvoradaに遡るフランスを中心に発展した牝系であり、特に母母Toute Cyから分岐するラインからは本馬を筆頭に数多くのGⅠが誕生している。2014年マイルCS優勝馬ダノンシャークもこの一族だ。Toute Cy自身は未勝利馬であるが、全兄Le Mamamouchiは1981年ベルトゥー賞の優勝馬で、本馬の母Floripedesも1998年ロワイヤルオーク賞2着のステイヤー。本馬と並ぶ父の代表産駒Galileoが母父にMiswakiを配して米国的スピードを注入したのに対して、本馬は牝系由来のスタミナを武器に芝10.5F以上のGⅠで6勝。種牡馬としても英ダービー馬4頭を筆頭に多数の中長距離GⅠ馬を輩出しており、2005年には仏リーディングサイアーにも輝いた。

--Motivator

<プロフィール>
2002年生、英国産、7戦4勝
<主な勝ち鞍>
2004年レーシングポストT(T8F)
2005年英ダービー(T12F)
<代表産駒>
Ridasiyna(2012年オペラ賞)
Treve(2013年仏オークス、2013、14年凱旋門賞、2013、15年ヴェルメイユ賞、2015年サンクルー大賞)
<特徴>
Montjeuの初年度産駒の代表馬。4代母Lady Be Goodに遡る名牝系で、母Out Westは北米血脈主体の芝マイラー。父はSadler's Wells産駒の中でも特にスタミナに優れた馬であったが、本馬は母譲りの俊敏さを兼ね備えている。後肢が短く、頭は高め。抜け出す際のピッチの速さはSadler's Wells系の中でもトップクラスといえるだろう。種牡馬としては凱旋門賞連覇のTreveなどを輩出し、2013、14年仏リーディングサイアーにも輝いた。活躍馬が牝馬や騙馬に集中しており後継種牡馬には恵まれていないが、その分繁殖牝馬の父としては期待値が高く、日本でも2021年菊花賞馬タイトルホルダーや2021年ドバイターフ2着馬ヴァンドギャルドなどが出ている。

-Galileo

<プロフィール>
1998年生、愛国産、8戦6勝
<主な勝ち鞍>
2001年英ダービー(T12F)
2001年愛ダービー(T12F)
2001年キングジョージⅥ&QEDS(T12F)
<代表産駒>
New Approach(2007年愛ナショナルS、デューハーストS、2008年英ダービー、愛チャンピオンS、英チャンピオンS)
Frankel(2010年デューハーストS、2011年英2000ギニー、St.ジェームズパレスS、クイーンエリザベスⅡ世S、2011、12年サセックスS、2012年ロッキンズS、クイーンアンS、英インターナショナルS、英チャンピオンS)
Australia(2014年英ダービー、愛ダービー、英インターナショナルS)
Found(2014年マルセルブサック賞、2015年BCターフ、2016年凱旋門賞)
Minding(2015年モイグレアスタッドS、フィリーズマイル、2016年英1000ギニー、英オークス、プリティポリーS、ナッソーS、クイーンエリザベスⅡ世S)
<特徴>
2010~20年の11年連続で英愛リーディングサイアーに君臨した大種牡馬。母母Allegrettaは本馬の母Urban Sea(1993年凱旋門賞)とキングズベスト(2000年英2000ギニー)の2頭のGⅠ馬を出し、両馬ともに繁殖牝馬・種牡馬としても成功。特に、Urban SeaはBlack Sam Bellamy(2002年伊ジョッキークラブ大賞、2003年タタソールズGC)、My Typhoon(2007年ダイアナS)、Sea the Stars(2009年英2000ギニー、英ダービー、エクリプスS、英インターナショナルS、愛チャンピオンS、凱旋門賞)、そして本馬という4頭のGⅠ馬を輩出し、その他にもMelikah(2000年英オークス3着、愛オークス2着)やAll Too Beautiful(2004年英オークス2着)、Born To Sea(2012年愛ダービー2着)なども一線級で活躍した。Allegrettaがドイツ血脈主体の血統であり、Urban Seaの産駒は1/4異系の形を容易に作れたことも成功の一因といえるだろう。本馬は父に大種牡馬Sadler's Wellsを配し、その最良後継種牡馬に。ただ、エイダン・オブライエン調教師が本馬に対して「ギアが入ってからのトップスピードが驚異的」と評価した通り、2001年英ダービーで見せた瞬発力はその他の父の産駒とは一線を画すものであった。5頭の英ダービー馬を出すなど父の正統後継種牡馬であることは間違いないが、母父Miswakiからスピード面を強化している点も外せないポイントだろう。

--Teofilo

<プロフィール>
2004年生、愛国産、5戦5勝
<主な勝ち鞍>
2006年愛ナショナルS(T7F)
2006年デューハーストS(T7F)
<代表産駒>
Trading Leather(2013年愛ダービー)
Pleascach(2015年愛1000ギニー、ヨークシャーオークス)
Exultant(2018年香港ヴァーズ、2019年香港GC、2019、20年香港チャンピオンズ&チャターC、2020年クイーンエリザベスⅡ世C)
Subjectivist(2020年ロワイヤルオーク賞、2021年アスコットGC)
<特徴>
5戦無敗で2006年愛ナショナルS、デューハーストSを制し、欧州最優秀2歳牡馬にも輝いたGalileo直仔。怪我により早々と現役を退いたが、種牡馬としても世界中でGⅠ馬を輩出して成功を収めている。牝系はそれほど勢いがないが、3代母Victorian QueenがWindfieldsの3×3やBuchanの4×5を持ち、母Speirbheanはその父デインヒルからもスピードと早熟性を強化。きょうだいもマイル重賞などを制しており、Galileo産駒の本馬も父の産駒としては筋肉質でまとまった馬体を有している。ただ、種牡馬としてはTwilight Payment(2020年メルボルンC)やSubjectivist(2020年ロワイヤルオーク賞、2021年アスコットGC)といったステイヤーも出しており、潜在的にはスタミナも十分に備えていただろう。

--New Approach

<プロフィール>
2005年生、愛国産、11戦8勝
<主な勝ち鞍>
2007年愛ナショナルS(T7F)
2007年デューハーストS(T7F)
2008年英ダービー(T12F)
2008年愛チャンピオンS(T10F)
2008年英チャンピオンS(T10F)
<代表産駒>
Dawn Approach(2012年愛ナショナルS、デューハーストS、2013年英2000ギニー、St.ジェームズパレスS)
Talent(2013年英オークス)
Masar(2018年英ダービー)
<特徴>
2008年英ダービーなどGⅠ5勝を挙げ、2007年欧州最優秀2歳牡馬、2008年欧州最優秀3歳牡馬に輝いた大種牡馬Galileoの代表産駒の一頭。また、母Park Expressは1986年フェニックスチャンピオンS優勝馬で、半兄にシンコウフォレスト(1998年高松宮記念)、半姉にDazzling Park(1999年愛チャンピオンS2着)などがいる超良血馬だ。3代母LachineがNearcoの3×3、父GalileoがNearcoの4・7・7×7・7を持つのに対して、母母父Matchや母父Ahonooraが同血脈を1本も持たないバランスの良さが配合の肝。2~3歳時に11戦8勝という成績を残して現役を退いたが、引退レースの2008年英チャンピオンSではレコードタイムで圧勝しており、成長力も十分に秘めていたと予想できる。種牡馬としては5代アウトブリードの血統構成が魅力であり、Dawn Approach(2012年愛ナショナルS、デューハーストS、2013年英2000ギニー、St.ジェームズパレスS)やMasar(2018年英ダービー)など幅広い距離カテゴリーのGⅠ馬を輩出。後継種牡馬ではDawn Approachが2021年英2000ギニー馬ポエティックフレアを出しており、ポエティックフレアは2022年から社台スタリオンステーションで種牡馬入りしている。

--Frankel

<プロフィール>
2008年生、英国産、14戦14勝
<主な勝ち鞍>
2010年デューハーストS(T7F)
2011年英2000ギニー(T8F)
2011年St.ジェームズパレスS(T8F)
2011年サセックスS(T8F)
2011年クイーンエリザベスⅡ世S(T8F)
2012年ロッキンジS(T8F)
2012年クイーンアンS(T8F)
2012年サセックスS(T8F)
2012年英インターナショナルS(T10.5F)
2012年英チャンピオンS(T10F)
<代表産駒>
ソウルスターリング(2016年阪神JF、オークス)
Cracksman(2017、18年英チャンピオンS、2018年ガネー賞、コロネーションC)
Adayar(2021年英ダービー、キングジョージⅥ&QEDS)
Alpinista(2021年ベルリン大賞、オイロパ賞、バイエルン大賞、2022年サンクルー大賞、ヨークシャーオークス、凱旋門賞)
<特徴>
GⅠ10勝を含む14戦14勝という怪物的な記録を残し、2011、12年と2年連続欧州年度代表馬にも輝いた歴史的名馬。Circassiaに遡る名牝系だが、母Kindの代までは主流血脈をインブリードしておらず、父GalileoもNative Dancerの4×5を持つ程度。ただ、本馬自身はNorthern Dancerの3×4を持ち、Natalma→Northern Dancerのみを強調したような配合形となっている。強靭なトモの発達具合からも、主に母父デインヒルが強く表現された競走馬だったといえるだろう。ただ、全弟であり、馬体のアウトラインもよく似ているノーブルミッション(2014年タタソールズGC、サンクルー大賞、英チャンピオンS)は芝中長距離路線で活躍しており、本馬自身も潜在的なスタミナは十分に備えていたと考えられる。種牡馬としても中心はデインヒル的スピードだが、Natalma→Northern Dancer以外には強いインブリードを持たないこともあり、幅広いカテゴリーのGⅠ馬を世界中で輩出。日本でも数少ない産駒から3頭のGⅠ馬が出ており、日本の高速馬場への適性も相当高いようだ。ちなみに、全弟ノーブルミッションは2021年より日本で種牡馬生活を送っている。

--Nathaniel

<プロフィール>
2008年生、愛国産、11戦4勝
<主な勝ち鞍>
2011年キングジョージⅥ&QEDS(T12F)
2012年エクリプスS(T10F)
<代表産駒>
Enable(2017年英オークス、愛オークス、2017、18年凱旋門賞、2017、19年ヨークシャーオークス、2017、19、20年キングジョージⅥ&QEDS、2018年BCターフ、2019年エクリプスS)
Channel(2019年仏オークス)
Desert Crown(2022年英ダービー)
<特徴>
デビュー戦と引退レースで怪物Frankelに完敗するも、自身も2011年キングジョージⅥ&QEDSと2012年エクリプスSを制覇。種牡馬としても女傑Enable(2017年英オークス、愛オークス、2017、18年凱旋門賞、2017、19年ヨークシャーオークス、2017、19、20年キングジョージⅥ&QEDS、2018年BCターフ、2019年エクリプスS)などを出し、2017、18年には仏リーディングサイアーにも輝いた。母Magnificient Styleは米GⅠ馬Siberian Summer(1993年チャールズHストラブS)の半妹で、母自身もイギリスの芝中距離GⅢを制覇。さらに、繁殖牝馬としてはPlayful Act(2004年フィリーズマイル)、Great Heavens(2012年愛オークス)のほか、数多くの重賞勝ち馬を出した名繁殖牝馬でもある。本馬は母父Silver Hawk譲りの掻き込み気味の走法で、道悪馬場の芝中長距離戦を得意とした。

-High Chaparral

<プロフィール>
1999年生、愛国産、13戦10勝
<主な勝ち鞍>
2001年レーシングポストT(T8F)
2002年英ダービー(T12F)
2002年愛ダービー(T12F)
2002年BCターフ(T12F)
2003年愛チャンピオンS(T10F)
2003年BCターフ(T12F)
<代表産駒>
So You Think(2009、10年コックスプレート、2011年エクリプスS、愛チャンピオンS、2011、12年タタソールズGC、2012年プリンスオブウェールズS)
It's a Dundeel(2013年ランドウィックギニー、ローズヒルギニー、豪ダービー)
Toronado(2013年サセックスS、2014年クイーンアンS)
<特徴>
2002年英愛ダービー連勝に加え、2002、03年BCターフ連覇も果たした大種牡馬Sadler's Wellsの代表産駒の一頭。母は未出走馬だが、母母Kozanaは1985年ムーランドロンシャン賞2着、凱旋門賞3着の活躍馬で、3代母Koblenzaも1969年仏1000ギニーを制した一流馬である。本馬は1984年仏ダービーのライバルであったSadler's WellsとDarshaanを父と母父に持ち、Bold Reason≒Never Bendの3×5を形成。さらに、牝系のフランス血脈、また母父Darshaanの美点も兼備しており、豊富なスタミナとフランス血脈特有の瞬発力が本馬の持ち味だったといえるだろう。引退後はシャトル種牡馬としてアイルランドとオセアニアで供用され、特にオセアニアではSo You Think(2009、10年コックスプレート、2011年エクリプスS、愛チャンピオンS)やIt's a Dundeel(2013年ランドウィックギニー、ローズヒルギニー、豪ダービー)などを出して成功。近年は日本でも繁殖牝馬の父として重賞馬の血統表に登場することが多くなった。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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