見出し画像

M&AとIPO どちらを選ぶべき?

前回のコラムで、M&AとIPOのメリット・デメリットについてお伝えしましたが、中小企業のオーナー社長の方がExit戦略を考えるにあたり、どちらを選ぶべきか、判断に迷われる方もいらっしゃると思います。そこで、本コラムでは、Exit方法を選ぶにあたり、どのような判断基準で考えれば良いかについて、私見を述べさせて頂きます。

⊳経営者としての適性

まず、それぞれのExitについて、経営者としての適性があると思います。

例えば、プロジェクトマネージャーとして、ゼロイチの新規事業立ち上げを行うことにやりがいを感じる起業家タイプの方は、圧倒的にM&Aを選択する方が向いています。このようなタイプの方であれば、経験・人脈を活かし、会社売却後にまた次のビジネスに挑戦し、成功できるでしょう。このようにベンチャー企業を立ち上げて売却し、そこで得た利益や人脈を生かして次のベンチャー企業を立ち上げる、というサイクルを繰り返す起業家は、シリアルアントレプレナーと呼ばれています。そのような起業家タイプの方は、1つの事業をずっと続けるよりも、「ゼロイチ」のステージでこそ手腕を発揮できるので、ビジネスが軌道に乗り始めたら資本力のある大手企業に買ってもらうという選択をされる方が多いです。

一方で、会社の成長に向き合い、プロの経営者を目指す方は、IPOを選択する方が向いていると思います。上場を目指すということは、多数の投資家に自社の株主になってもらいパブリックカンパニーになるということですから、法令を遵守しなければならないのは勿論のこと、各種の規則を守り、コーポレートガバナンスに配慮し、内部統制の構築等も求められます。ですから、上場企業の経営者になるうえでは、プロ経営者としてコンプライアンスを遵守し、多くの利害関係者への配慮を欠かさない姿勢が求められることを覚悟しなければなりません。新しい技術を開発したり、世の中にないサービスを創ることに情熱を燃やす「職人気質」の方にとっては、上場企業の役員というのは、けっして居心地の良いポジションではないでしょう。

⊳会社の特徴

会社の特徴、例えば業種であったり、業界の中での会社のポジション、マーケットの成長性等によっても、オーナー社長が選択すべきExitの種類が変わります。

例えば、他社には真似できないオンリーワンの技術を持っている中小などは、自社の営業力だけでは売上の拡大が難しいケースが多いですが、大手企業の傘下に入ることで、その技術が活かされ事業が大きく成長する場合があります。このようなケースでは、オーナー社長が思いもよらないような高額で会社が売買されることも珍しくありません。また、AmazonなどのECモールで成功した小規模ブランドが大手企業に高額で買収されるといったM&A事例もあります。ですから、このような会社の場合には、シナジー効果が期待できる買い手候補への売却を検討するのも、オーナー社長にとって良い選択肢だと思います。

また、M&Aが頻繁に行われている業種のビジネスをされている場合、高額で売却できる可能性がありますので、M&AによるExitを検討されることをお勧めします。業界再編が進んでいるような業種で、売上規模や技術力がある会社、優秀な人材を抱えていらっしゃる会社は、M&AによるExitを実現できる可能性が高いです。M&Aが頻繁に行われている業種の一例をあげますと次のとおりです。

・調剤薬局
・病院・クリニック
・インターネット関連サービス
・システム開発・組込みソフト開発
・ビルメンテナンス
・ホテル・旅館
・自動車整備
・電気通信工事
・内装業者・工務店
・土木・塗装工事
・金属加工・金属部品製造
・不動産仲介
・人材派遣

このような業種では、買い手先候補が多くいらっしゃるため、マッチングできる確率が高いと言われています。

一方、IT業界のように成長著しい業界で、多額の資金調達により、ビジネスを飛躍的に成長させられる可能性のある業界であれば、IPOを果たすことで、大きな成功を収めることができる可能性があります。

M&AとIPOのどちらを選択すべき?

まとめ

このように、経営者の適性や会社の特徴などを考慮のうえ、Exit戦略としてM&AとIPOのどちらを選択すべきか判断することをお勧めします。

知人の経営者で、会社を売却してしまうと、せっかく築いた従業員との信頼関係が崩れるということを心配されている方がいらっしゃいます。ですが、私自身もそうですが、会社の株式を売却した後も大手企業の子会社の社長として残る選択肢もあり、決して従業員との関係が切れるということはありません。また、ひと昔前までは、M&Aというと大手企業に「身売り」したというネガティブなイメージに捉える方が多くいらっしゃいましたが、最近は、会社を成長させるために大手資本グループの傘下に入り、事業を急成長させている事例も珍しくはなく、けっして後ろ向きの選択ではありません。従業員にとっては、M&Aにより大手企業の傘下に入っても上場企業となっても、福利厚生等が充実し、待遇が改善される事例は数多くありますので、オーナー社長がExitすることは従業員にとってもプラスになることが多いのです。

また、資金調達の手段としてIPOを目指される経営者もいらっしゃいますが、近年は「カネ余り」の状況が続き、アーリーステージの会社でもベンチャーキャピタル(VC)から多額の資金を調達しているケースが増えております。VCによっては、彼らのExit戦略として、IPOだけでなくM&Aを選択肢として考えている会社も多数あります。

M&AとIPOのどちらを選択するにしても、Exit戦略(出口戦略)を明確にしその準備を進めることが、オーナー社長にとっても、また親族や従業員、取引先等の利害関係者にとっても、非常に重要なことだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?