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【映画のパンフ 全部見せ】No.27,28 『転校生(1982)』『転校生(1982)アートシアター156号_シナリオ掲載版』

『転校生(1982)』大林宣彦監督作品の『時をかける少女(1983)』『さびしんぼう(1985)』と並ぶ「尾道三部作」の第1作です。
テレビドラマでは最初の『3年B組金八先生(1979)』に出演していた小林聡美の、初の映画デビュー作が今作。子役からのテレビドラマに出ていた尾美としのりにとって、今作は映画4作目で当時17歳でした。

今回は『転校生(1982)』の2冊のパンフレット(ピンク色の小さいサイズのものは2年後の再上映で発行)から、私が面白かったところを抜き出してみました。

かいせつ

「男の子と女の子の体が入れ替ったら……」そんな突拍子もないアイデアからこの作品は生まれたのです。
 まぎれもなく現代日本を呼吸するー都市でありながら、不思議な メルヘンのよく似合う町、尾道を舞台に物語は進みます。転校してきた少女と少年の、お互いの身体が、そっくり入れ替ってしまうー ー。 男の子として生きざるを得ない女の子と、女の子として生きざ るを得ない男の子の悲喜劇は、様々なエピソードを積み重ねていきます。大林監督の眼は暖く、主人公の二人を、陽気に、いやらしくなく、そしてなによりウソくさくなく見つめています。

『転校生(1982)』パンフの3ページより

原作者の山中 恒さんは2つのパンフレットに別の文章を載せているが、これがどちらもかなり面白かったです。

原作者/山中 恒

この原作を映画化させてほしいと森岡プロデューサーが私のところへ来たとき、私は、なにかの間違いではないかと思った。
(中略)
 というのは、この『おれがあいつであいつがおれで』という作品は、私の一連のユーモア小説の中では『あばれはっちゃく』 (読売新聞社刊)などの映像的なものと違って、いわゆる心理葛藤を中心に据えた、きわめて観念的な小説で、あまり映像的ではないからである。
(中略)
 これを映画にするとなると、どういうことになるのか、皆目、見当がつかなかった。
 やがてシナリオの準備稿が手もとに届き、脚本家の剣持亘さんに会い、決定稿ができ、尾道でのロケ現場をのぞき、ほんのちょっぴりエキストラ出演しても、その半信半疑の状態は完全に解消はしなかった。 ロケ先で大林宣彦監督に 「すばらしい原作をもらいまして......」 と挨拶され、「本当はこの人、おれをからかってるんじゃねえのかな?」と思ったりもした。

『転校生(1982)』パンフの9ページより

なんと、原作者の山中 恒さんは今作にエキストラ出演をしておられたのでした(見直してみたいですが、今作はレンタルと配信にはないのでした)。

続けて、二冊目のパンフレットの原作者の山中 恒さんの今作をはじめて観た試写後のお話。

原作者であること
山中 恒


 試写室でゼロ号を見終った私は,涙で皆の顔が見られなかった。まさに我を忘れて,映画に引きずりまわされてしまったのである。
そして,私はおろかにも「この映画の悪口をいうやつはおれがぶっ殺す!」などと,絶叫してしまったらしいのである。
 確かにこの作品に関して,私は原作者では あるらしいのだが,この作品は,私のものでない。大林宣彦のメガホンに従って働いたスタッフ,キャスト,みんなのもので,私は単にその動機を提供したにすぎない。いや,まて!エキストラの一員で,ちょっぴり出演したということは,大林さんの私に対する救いであったのかな?

『転校生(1982)アートシアター156号_シナリオ掲載版』パンフの8ページより

淀川 長治さんは今作の「性の扱い方」について書いていて、これはかなり大事な部分だと思いました。

アダムとイヴの回転遊戯。 このクラシック・モダンを香らせた「転校生」
淀川 長治

 原作ではこの二人の男女は小学生だそうで,これが中学生となっているところに感心した。
 小学生では児童映画となると逃げられたのかもしれぬ。それで……大学生にもしないで高校生にもしないで……中学生。これが巧い。これをいまさら,申すまでもなかろう。大学生ならポルノ・コメディ,高校生なら青臭い,小学生ならフランス製の漫画だ,可愛いがハイカラすぎよう。それがこの「転校生」,中学生だった。
 これまた いわずもがなだが,笑わないで聞いていただこう。高校生は,もう知っている。大学生は知りすぎていよう。これが中 らあって,男が女に化け,女が男に化ける。
学生となると "気にかけ始めた" 一年生。小学生はまだオスメスの差はなかろう。

『転校生(1982)アートシアター156号_シナリオ掲載版』パンフの8ページより

さらに、淀川 長治さんは2人の主役について書いています。これも熱い文章。

さらにまた,ここで実は一番の問題を書き落してはなるまい。主役の二人だ。小林聡美(一美),尾美としのり(一夫)。この二人を見ていると,かかるあきれた難役をやる故か,二人が可笑しいくらい全力投球だ。聡美の男の子っぷりの好演。これは巧さではとしのりをこえる。しかし実はこのとしのりが印象をさらいかねぬ。この台詞のイントネイション,そして失礼ながらいかにも田舎っぽいその個性が,女になっちまった一夫少年のとまどいをよくやりとげた。これは監督のおそらくは,こまやかな指導であったのであろう。
(中略)
こんどの二人の中学生役は実にいいものをもったのだ。それが,また演技に正直に出た。二人は,生き生きと苦しんで演りとげた。すばらしかったこの二人。

『転校生(1982)アートシアター156号_シナリオ掲載版』パンフの10ページより

この作品の発端は脚本家の剣持 亘さんからはじまりました。しかし、映画をつくるまでは二転三転したようです。

映画への再デビューを叶えてくれた『転校生』
剣持 亘 脚本家


ぼくは缶ビールを片手に高校野球をテレビ観戦しながら,買い溜めてあった何冊かの本をボンヤリ読んでいた。
 天啓はこの時に来た。
 ぼくは,山中恒氏の児童読み物『おれがあいつであいつがおれで』を手にして,たちまちその山中氏の世界に引き摺り込まれた。もちろん,直ちにテレビのスイッチを切った。
 二読三読した。間違いない。これは日本映画に無い,新しく,そして懐しい青春映画になる。
(中略)
 原作を一読されて,大林氏は興奮気味にこう言った。「これは,オレのモンだ。オレがやるッ」。
 そのひと言で,ぽくの心の中の朝が晴れた。
(中略)
(ロケ隊出発の1週間前に、資金参加した某社が一方的に的にオリてしまい、資金がストップしてしまった)
 ぼくは,この 『転校生」が映画にならなかったら,シナリオライターをやめ,映画界と絶縁する覚悟でいた。ぼくが本気であることを心配してくれて,大林氏夫妻,森岡氏らが,それこそ東奔西走して製作のメドをつけようとしてくれた。
 そして,再び素晴らしい出会いがあった。ATGの社長・佐々木史朗氏が,「大林さんの,そういう映画,見てみたい」と言ってくださったのである。
 「製作費は何とかします。 とにかく,ロケ隊を出発させなさい」……佐々木氏のバックアップで,『転校生』は再スタートしたのである。

『転校生(1982)アートシアター156号_シナリオ掲載版』パンフの14ページより

2冊目のピンク色の本みたいなパンフレットは60ページもあり、今作のシナリオも全文掲載されています。載っている文章はどれも面白くて、充実の内容でした。

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