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「お疲れさま」「ご苦労さま」の使い方

あなたの職場では、「お疲れさま」と言いますか?それとも「ご苦労さま」と言いますか?

いやいや、「ご苦労さま」は上司に向かって言うと失礼になるんでしょう?

そんな話を聞いたことはありませんか?

さて、実際のところはどうなんでしょう。

今回は、こんなことも含めて、「お疲れさま」と「ご苦労さま」の使い方について考えてみようと思います。

お疲れさんVS.ご苦労さん

「お疲れさま」「ご苦労さま」と言うのも、いくつかのバリエーションがあります。

まず、「お疲れさん」「ご苦労さん」と、「です」「でした」を付けずに言える関係性であれば、話し手の使いたいほうを使えばよいでしょう。聞き手は、親しい間柄か、目下に限られるからです。

「さん」も付けずに「お疲れ!」「ご苦労だったね」などと言う場合も同じです。

あいさつとしての
「お疲れさまです」「お疲れさまでした」

次に、「お疲れさまです」「お疲れさまでした」は、職場で使われるあいさつとして、もっともポピュラーなものでしょう。

以前何かで読んだエピソードですが、ある大学の先生が、とある企業に行ったとき、入るなり「お疲れさまです」と声を掛けられ、まだ疲れてもいないうちからおかしいと感じたのだそうです。

これは、大学と企業の文化の違いだと思われます。

学生が、先生に向かって「お疲れさまです」とは言いません。
この先生は、普段「お疲れさまです」という言葉を言われることがなく、何かで企業の人と会ったときに普段言われない言葉を聞いたため、単なるあいさつとして言われたその言葉を、字面どおりに受け止めたのでしょう。

同様のことは、「おはようございます」にも言えます。
業界によっては、昼でも夜でも、出勤すれば「おはようございます」と、あいさつをします。朝でもないのにおかしいと感じる人もいるかもしれませんが、そこは文化と割り切らないと、そもそもコミュニケーションが始まりません。

あいさつとしての「ご苦労さまです」「ご苦労さまでした」

単なるあいさつであり、字面どおりの意味が薄れているのであれば、「ご苦労さま」ではいけないのでしょうか。

やくざ映画を見たことのある人なら、”兄貴”や”親分”が出所するときに
「お務め、ご苦労さまでした!」と迎えるシーンを見たこともあるでしょう。

一般企業よりも遥かに上下に厳しいはずのやくざ社会で、目上に向かって「ご苦労さま」が使われています。

映画の中のことは現実と異なるかもしれませんが、それでも、何年もの刑期を終えて出てきたときの言葉が「お務め、お疲れさまでした!」では、やはり、しまらない印象がありますね。

ちなみに、警察官のあいさつも「ご苦労さまです」であると聞いたことがあります。

そう考えると、短絡的に「ご苦労さま」を目上に言うのは失礼であるとは、決めつけられなくなってきました。

あいさつの範囲を超えて労をねぎらうとき

そもそも「お疲れさま」も「ご苦労さま」も相手の労をねぎらうという意味では、ほぼ変わりません。なぜ目上に「ご苦労さま」を使ってはいけないのでしょうか。

例えば、時代劇で、病床にある親が子どもに向かって「苦労をかけるねぇ」というシーンを見たことがありますよね。

では、病床にある子どもが親に向かって同じことを言うかと考えてみてください。
「お母さん、お父さん、僕、身体が弱いから、苦労をかけるね」
そんなことを言われた親は「子どもがそんなことを言うもんじゃない」とたしなめますよね。

まして、家族でも病気でもなく、部下が犯したミスの尻拭いに奔走した上司に向かって「僕のためにご苦労さまでした」とでも言おうものなら、激怒したくもなるというものです。

念のために加えて言えば、「僕のためにお疲れさまでした」も失礼であることに変わりはありません。自分のミスで上司の仕事を増やしておいて、上司の労をねぎらうくらいなら自分の反省をしてくれというのが、上司の偽らざる願いだからです。

このような状況で言うべき言葉は、「申し訳ございませんでした。今後、ご迷惑をおかけしないように努めます」であり、謹んで反省しなければいけないところです。

逆にいえば、自分と関係ないことであれば、目下が目上に「ご苦労さま」と言うこともありえます。

例えば自分が感謝するようなことでもお詫びするようなことでもないときであれば、次のように言えます。この場合、「大変なご苦労」を「とてもお疲れ」に変えても問題ありません。

部長、奥様がけがをなさったと伺いました。
決算月で、それでなくても大変な時期に、大変なご苦労だと思います。
何かできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください。

あいさつはあいさつとして、そうでなければ言葉を選んで

「お疲れさま」「ご苦労さま」について考えてきたことを、まとめましょう。

一般的な企業内でのコミュニケーションであれば、下記3点がポイントです。
①あいさつとして使う場合はどちらが正しいかではなく、文化に従う

②あいさつの範囲を超え苦労を相手にかけた場合には、そもそも自分が相手の労をねぎらう立場にいるのかどうかを考える。相手が目上であれば、謝罪もしくは感謝を示したほうが適切な場合が多い

③普段の上下の枠組みと関係ないことであれば、目上であっても労をねぎらうことができる。その場合、軽いあいさつと思われないように言葉を選ぶ

いかがでしょうか。

それではまた。

不適切な敬語は、文法を知らないで使っていることが原因です。知らなくては、正しい敬語を使いようがありません。そして、誰かに聞こうにも教えてくれる人が周りにいないのが、多くの人が置かれている現状です。
私も周りに聞ける人がいなくて敬語を身につけるのに苦労しました。そこで、こんな記事を書いております。ご自身の敬語が気になる方は、どうぞ参考になさってください。

一般社団法人キャリア形成推進協会 認定講師
遠入のどか


世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。