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日本に応用できるか?『ドイツではそんなに働かない』~読書感想文#28

今回ご紹介する本は、『ドイツではそんなに働かない』(角川新書)です。

著者の隅田 貫は通算20年ドイツで暮らしドイツ人と共に働いてきたという方で、そんなに文章がこなれていないところが好感ポイントです。

ドイツと言えば、勤勉真面目、という日本人に似たイメージがありませんか?
そのドイツが、日本の1.4倍の労働生産性を持ち、1人当たりの年間労働時間は300時間以上も短いというのですから、驚きです。

株で儲けようというような、持てる者がより持てる話ではありません。

その違いを、冒頭で筆者は、以下のようにまとめています。

要は「いつも100点を目指す」のではなく、「場合によっては70点でも良い」(p.5)

以下、私が気になったところをピックアップしていますので、興味のあるところだけご覧ください。
また、引用は最小限にしてありますので、ぜひ本も併せてお読みくださいませ。

閉店法

ドイツには、閉店法という法律があるそうです。

日曜日と祝日には、会社もスーパーもレストランも何もかも、営業してはいけないのだそうです。

これは素晴らしいアイデアではないでしょうか。
取引先が営業していれば、こちらも電話番ぐらいは置いておかなければいけないということになります。
ライバル店舗が営業していれば、売り上げは少なくても、よその店に流れてしまうのを防ぐためだけに営業しなければならなくなります。
※某コンビニエンスストアが、24時間営業を拒否したオーナーに「せっかく来たお客さまが他店に流れてもいいの?そのせいで昼間の売上も下がるかもしれないんですよ」とオーナーの為を思って言っているのよオーラ全開で説得していましたね

24時間365日営業は、ドーピングと同じだと思います。

禁止されなければ誰かがやる。誰かがやるなら自分もやる。
全員がやれば、誰も競争優位にはならず、全員が悪影響だけを被る。

だから、禁止してしまえば、どの店も、条件は同じになりますよね。

それにしても、Amazonのようなネット通販はどうなんでしょうか。
発注できない?
日曜は配送してくれない?うん、それがいいかな。
でも、ディズニーランドも日曜休むって言ったら、反対する人が多いだろうな。でも、有給休暇を取らなければディズニーランドに行けないとなれば、有給休暇の取得率も増えるのでは?

優先順位

30ページには「ドイツ人は堂々と先送りする」と書かれています。

これも納得でした。
コールセンター時代は、SVの仕事にアドバイスも指導もしてくれる人はいません。お客さま対応の時間が終わって、オペレーターが帰ってからようやくマニュアルの修正やFAQの更新を行うのが当たり前でした。さらにそこに報告書の作成業務が重なると、終電コースです。

その後、敬語講座をやろうとコールセンター業界から離れて初めて、残業をせず、勤務時間の中で優先順位を付けて今日やらなければならないことだけをやるように言われたのです。

そして今では、残業なんてしないのが当然で、残業が続くようなら、優先順位の組み立てがおかしいか、純粋に人手が足りないかどちらかだと考えるようになりました。

したがって、自分の体験からすれば、これは考え方を改めれば可能です。

SCSKが残業しなくても給料が減らないようにして、業務改革を行ったのは有名な話です。
つまり、残業を減らせ!という掛け声ではなく、本当に会社として残業をなくすという覚悟ができるか。「俺の若い頃は」「上司より先に帰るなんて」という考えと決別し、「それは今日はやらない」と言えるかという問題のような気がします。

自分は自分

著者のいたドイツの会社には、さまざまな働き方をしていたそうで、「男性で育児休暇を取る人もいました。しかも、週休3日の女性はチームのリーダーです。(p.43)」と書かれています。

一方、日本では連日保育園に子どもを迎えに行くために早く上がると白い目で見られることがあるとして、それを「目に見えない同調圧力のせいではないでしょうか(p.44)」と書いています。
逆に、『ドイツ人が多様な働き方を受け入れているのは「人は人、自分は自分」という意識が強いから(同)』だというのですが、私には少々異論があります。

先の例が白い目で見られるのは、同調圧力のせいではなく、早く上がる人がその人しかいないからだと思うのです。
例えばコールセンターでは、はなからシフト制ですから、何時に入って何時に上がるかは人によって違います。そのときに、「あの人は私より後に来たくせに私より早く帰る」と不満を言う人など誰一人いませんでした。

喜ばしいことではありませんが、多くの企業がテレワークを導入せざるを得なくなり、少なくとも出勤する人とテレワークの人と、2つの働き方が混在するようになりました。これについては、もっともっと多様な働き方が導入され、週5日、8時間働く人が全体の3割になれば、自然に白い目で見ることはなくなるでしょう。

逆にいえば、ドイツ人であっても、周りのドイツ人全員が17時まで働いている中で、自分だけ16時に上がるとしたら、やりづらさを感じるのは普通ではないでしょうか。

家族優先

優先順位をつけてさっさと仕事を切り上げる背景には、「家族やパートナーとの時間を何よりも優先する(p.45)」お国柄があるようです。

これは、日本とはかなり違います。

一般に、日本人には個がないなどと言われますが、私は、日本人はかなり個人主義だと思います。

もちろん家庭が一番で、残業もそこそこに毎晩家族で夕飯を食べるという家庭もあるでしょう。しかし、家族で住んでおきながら、全員がバラバラに食事を取ったり個室で食事をしたりするというのは、(日本でも多くはないでしょうけれども)日本以外では考えられないことではないでしょうか。

別に自分の身以外に守るべきものも求めるべきものもなければ、周りに合わせて目立たないのが一番楽です。
ただ、この「楽」は考えなくて済むし、嫌われなくて済むという楽であって、仕事が効率的にこなせて早く上がれる、は二の次です。
だからこそ、日本人は社畜になり得るのです。

しかし、すでに終身雇用制は崩壊しつつあり、周りに合わせておけばよい時代は終わるかもしれません。やがて、制服と見間違うような就活ルックも変わっていくのでしょうか。

謝罪のための謝罪は無駄

103ページには、ルール違反をした部下のセリフが載っています。

「私が今報告しなかったら、私がルール違反をしたことはわからなかったはず。私に対して、『報告してくれてありがとう』と感謝すべきだ」

感謝を強要されるのはいかがなものかとは思いますが、謝罪すれば問題が終わったことになると思っているような部下がいるのは困ります。謝罪を求める上司や、それを許すの許さないのと勘違いしている上司も困りものです。

社内の出来事であれば、やるべきことは、今この問題をどうするかと、これから同じ問題が起きないよう再発を防止であり、人間関係のメンテナンスは二次的な問題であるはずなのに、それが逆転しているケースが確かに見受けられます。

これは、日本の悪しき慣習の一つではないでしょうか。

会って話そう

ドイツ人は「何通もメールを打つぐらいなら、一回会って話したほうが早い、という感覚(p.107)」なのだそうです。

それについて、日本の顧客から来た質問にドイツが回答したところ、それに対する質問がまた来てドイツの担当者が怒ったという話が載っていました。

顧客からの質問なのだから仕方ない、とはドイツ人には思えないというのです。

なるほど。ドイツを本社に持つ日本法人のコールセンターをしていたとき、クライアントに質問を投げても返ってこないことがありました。いくら問い合わせても「本社から回答が来ない」と。
こういう事だったんですね。質問があるなら、まとめて質問しろと。何度も手間をかけさせるんじゃないと、こういう事ですね。

労働者ファーストのドイツではそれで通るかもしれませんが、消費者ファーストの日本でそれを通すのは難しいかもしれません。
閉店法より、よほど難しいと思うのですが、それは私の思い込みでしょうか。

当時の日本法人の担当者には、「メールの返事が来ないなら電話してください」と言いたいところですね。

社内外交

独立心が強いチームメイトに快く協力してもらうためには、心情的に私の仕事の優先順位を上げてもらうことが必要(p.114)」とのことで、筆者は社内外交を心がけていたそうです。

これは、昔のサラリーマンではよく見かける光景でしたが、今は、仕事は仕事、プライベートの時間に上司や同僚とは付き合わないという考え方も増えています。この部分に関しては、昔の日本のほうが良かったということなんでしょうか。

ただ、お酒を飲むにしても、昔の日本のように二次会、三次会と終電まで騒ぐということはなく、もっとさっぱりしたもののようです。

つかず離れずの距離感を取るのがドイツ人は上手(p.189)」とのことですが、上司に気に入られたいからと上手くもないカラオケをほめ酒を注ぐかと思えば、一方では、給料の出ない飲み会に参加する義務はないと断る日本人を見ていると、たしかに日本人にとって、つかず離れずの距離を取るのは難しいのかもしれません。

目的や理由を説明する

ドイツ人は『「その業務をすることで、うちの会社の利益が○%上がるから」といった明確な理由がないと、納得して行動しない(p.178)』そうで、その経験から著者は「目的や理由を説明すれば全体像が見え、自然と作業効率が上がります(p.179)」と書いているのですが、これもそのまま日本に持ち込めるか疑問です。いや、日本というよりも経営方針というか、例えばオープン・ブック・マネジメントの会社であればそれができるかもしれませんが、社員に説明できないことや、説明しても伝わらないことは、意外にあるのではないでしょうか。

私はコールセンターで働いていた期間が長くありましたが、「お客さまに対応するときには笑ってください」と言っても、「じゃ、それで何%売り上げが変わるんですか?」と聞かれたら答えられません。
「笑顔で対応したほうが、コミュニケーションが円滑になり、クレームを防ぐことができます」と説明しても「質問に答えるのに笑顔は関係ありませんよね」などの応酬が続くことになり、体験しないことには本当の納得にはつながらないこともあります。

例えば、この業務が他社に取られたので、撤退の準備をしなければならないが、まだみんなには言えないというときにはどうすればよいのでしょう。

このようなことはドイツでも同じだと思うので、もっと著者に話を聞いてみたいところです。

と、まあ、ここまで、私が特に気になったところを拾ってきました。

自分の経験と重ね合わせながら、いろいろと考えさせられる本でした。

私と異なる社風のもとで働いてきた方が読めば、おそらくは全く異なる感想になるのではないでしょうか。

よろしければご一読ください。

それでは、また。













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