Keigo

25歳のファッションモデル

Keigo

25歳のファッションモデル

最近の記事

  • 固定された記事

汐の音

ただでさえ低い気温に、冷たい雨が寒さに拍車をかけていた二月のある夜。 友人と飲んでいた三軒茶屋のガヤついたバーで、僕は彼女と出会った。 たった1人、賑やかな空間があまりにも似合わないその人は、仕事でセックスをする女性だった。 その日初めて会ったのに、僕は見たことがあった。 彼女の顔も、そのセックスも。 官能的な体つきを際立たせる黒いタイトなワンピース。 鎖骨まで伸びた艶のある栗色の髪に、一切の雑音を感じさせない妖美な顔立ち。 低く色気のある抑揚の少ない冷たい声と、どんな表情

    • 自己肯定感

      今日SNSを開けば、目にしない日はないほどに現代社会に強く横行している言葉「自己肯定感」。 自らの在り方を積極的に評価できる感情を意味するらしい。 自分は人から「自己肯定感高いね」と言われる。 私と話したことがある人や、私のInstagramやthreadをフォローしている人はご存知かと思う。ナルシズム全開の、自分ベタ褒めな発言をしている。 「自分に自信があって素晴らしいですね」という意味の時もあれば、「おめでたい人ですね」と皮肉で言われている時もあるだろう。 使われてい

      • 土曜の午前5時 バーの締め作業を終えた僕は、ネズミがウロつくビルのゴミ室に空の酒瓶を捨てて店を出た。 今日は一滴も酒を飲まずに営業を終えた。 気温は4℃。寒さは体に堪えるが、冬は好きだ。 朝5時でもまだ日が昇らないこの季節は、こんな生活を送る自分のために、自然が夜を引き延ばしてくれてるような気がする。 始発が動き出すまであと10分。一本吸ってから駅に向かおうとタバコの箱をポケットから取り出すと、1人の女の子が目に留まった。 所々生地がハゲているたぶん安物のロングヒールブーツ

        • 自意識

          「自分の価値観とか自意識をあんなにさらけ出せるの凄いね」気まぐれでnoteを投稿するようになってから、たまに言われる。 初めはあまりピンと来なかった。 日頃1人でぐるぐると考えていることを、誰かとの会話以外の場所でアウトプットしてみたくなったのだ。 その手段が写真や絵ではなく、映像でもなく、音声でもなく、私にしっくりきたのは文字だった。 称賛されることが大好きな私は、顔も名前も明かしている場所に何も迷わずそれを載せた。 普段から言葉遊びが好きな自分には多少向いていたのか、

        • 固定された記事

        汐の音

          やりらふぃー陰謀論

          2023年12月27日 世間の大半が「明日で仕事納め」と最後の踏ん張りを見せている中、帰省ラッシュを避けるため、新幹線が全席指定席になるより1日早く東京駅へ向かう。不安定な仕事量と収入に振り回されながらも、モデルで良かったと思う瞬間の一つである。 そんな私の帰省先はというと、京都だ。 高校卒業までの18年間を京都で生まれ育った私は、東京に越してきて3年経つ今もバキバキの関西弁一筋。 暮らしてみて気付いたが、東京に来て数年経つのにわざわざ方言で喋っているのは関西人か、あとはこ

          やりらふぃー陰謀論

          521契約満了

          もう11月なのに、電車の中では半袖の人を見かけるほどにその日は暖かかった。 友人から抽選で外れたKIKO KOSTADINOVとASICSのコラボスニーカーをドーバーストリートで見つけたから買いに行こうと誘われ、その付き添いで昼前から銀座に来ていた。 諦めていたはずのスニーカーが手に入り、上機嫌な友人の横で携帯画面を開く。マネージャーに「お疲れ様です。今週どこかでゆっくりお話しできる時間が欲しいです」とLINEを送る。すぐに返事が来て、11月8日(水)15時に事務所で会うこと

          521契約満了

          何者

          あなたは何者ですか? 私は今、東京でファッションモデルをしている。 あと2ヶ月もすれば25歳、俗に言うアラサーの仲間入りだ。 「お金と生活のために、やりたくない仕事をするなんて自分には考えられない」 いかにも「何者かになろうとする若者のお決まりフレーズ」を口にしていた自分は、分かりやすく何者かっぽい仕事を志して、3年前の冬に夜行バスでこの街に来た。 初めての一人暮らし、モデル事務所のウェブサイトに載る自分、東京という街。これから始まる夢のスターターキットを胸に抱え、「モ

          愛と言葉

          皆さんはこれまでに、自分のことを好きと言ってくれる人や、恋人に対して「なんで私(俺)のこと好きなの?」と問いかけたことはあるだろうか。 突然だが、私はこの問いに価値は無いと考える。 正確に言うと、この問いに対して答えが完結してしまう関係には価値がないと思う。 どういう意味なのか。 今回は人類が「言葉」をどうやって生み出したかを出発点に、この持論を紐解いて説明しよう。 愛や恋が感情である。というのは、誰しもが当たり前のように認識しているだろう。 しかしその理由が「言葉」で

          愛と言葉

          友人と仕事と幸福

          私は現在東京を拠点に活動しているファションモデル、24歳。 高校卒業まで生まれ育った京都から上京してきて、3年目になる。 最初は東京という大都会にも、モデルという肩書きにも期待と不安でいっぱいだった。 渋谷へ出るたびに喜んで「渋谷なう」などとSNSに載せていたのが懐かしい。 今となってはそんな街にも慣れて、なんなら人が多過ぎて極力行くのを避けるくらいだ。 モデル業もまだまだ充分とは言えないが、1年目と比べれば仕事の数も格段に増えているし、自分でも少しはモデルらしくなってき

          友人と仕事と幸福

          ファッションモデルin韓国

          私は現在、東京を拠点にファッションモデルとして活動している24歳男性。 この仕事のために京都から上京して3年目になる。 そして今、仕事で韓国にいる。 なぜ韓国にいるのか大雑把に説明する。 ファッションモデルという仕事において、外見の特徴や国籍がそのマーケットでマイノリティ(いわゆる外国人モデルなど)であることは有利に働く場合が多い。 なのでモデルは、仕事のために数ヶ月単位で外国に滞在することがある。 私も今回、トータルで3ヶ月間韓国に滞在する予定だ。 まず結果から言うと、

          ファッションモデルin韓国

          ファッションモデル。まさかの仕事との共通点とは?

          これは22歳でモデル活動の為に上京して来た私が、約1年半活動をしてみて発見した意外な職業との類似性など、現時点で行き着いたモデルという職業との向き合い方である。 ※写真は全て私自身です。 モデルの華やかさと難しさは表裏一体 2021年3月"モデル活動をするために東京に来た!"という自己認識もあって、最初は1日でも早くモデルの収入のみで食えるようになることを夢見てもがいていた。 しかし段々と、如何にもがいてもどうにもならない世界に自分が入ったかということを強く自覚し始め

          ファッションモデル。まさかの仕事との共通点とは?