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アメリカ大統領選挙と候補者死亡の歴史

米大統領選挙の開票日まであと30日となりました。トランプ大統領の新型コロナウイルス感染が確認され、ワシントンは混乱模様です。

昨日はトランプ陣営のトップであるビル・ステピエン氏と、共和党全国委員会のトップ、ロンナ・マクダニエル氏も感染を公表しています。

トランプ陣営は、コロナ感染によってトランプ氏本人を欠いただけでなく、選対本部長であり選挙戦略の要であるステピエン氏も失ったことになります。(もちろんリモートでも仕事は出来るのでしょうが、選挙戦の最終盤で候補者本人と司令塔を失うのは共和党にとって大きな痛手でしょう)

トランプ大統領の感染によってにわかに議論になっているのは、大統領選挙の期間中に候補者が死亡した場合どうなるのかという話です。

これまで大統領選挙は58回実施されていますが、大統領候補が死亡した事例はありません

一方、副大統領候補は1度だけ、1912年の大統領選挙時に死亡しています。

1912年の大統領選挙は
・共和党 ウィリアム・タフト(現職)
・民主党 ウッドロー・ウィルソン
・進歩党 セオドア・ルーズベルト
の3人によって主に争われました。

主要候補が3人いるのが興味深い点ですが、これは共和党がタフトとルーズベルトの間で分裂を起こし、ルーズベルトが進歩党を結成したためです。

結果は共和党分裂の利を得たウィルソン(民主党)の勝利でした。ご存知の通りウィルソンは大統領就任後に第一次世界大戦への参戦を決断。十四か条の原則を掲げ、国際連盟の設立に尽力します。

さて、この時タフト大統領は現職の副大統領ジャームズ・シャーマンを再選の副大統領候補(ランニングメイト)として選挙戦を戦っていました。

大統領選挙は11月5日が投票日でしたが、その副大統領ジェームズ・シャーマンは長く患っていた腎臓病などのため10月31日に死亡します。

投票日の6日前に副大統領が死亡するという事態にあって、共和党全国委員会は急遽シャーマン副大統領の後任候補としてニコラス・バトラー氏を指名しました。
分裂選挙のためタフト大統領/バトラー氏は惨敗しますが、バトラー氏はシャーマン副大統領に割り当てられていた選挙人を受け継ぐことになりました。

なお、非常に厄介な点ですが、バトラー氏はあくまで選挙戦におけるタフト大統領候補の副大統領候補として選ばれたのであって、副大統領に指名されたわけではありません。タフト政権はシャーマン副大統領の死後、副大統領職を空席にしたままウィルソン政権に交代しています。

状況をまとめます。

❶1912年の大統領選挙では現職の副大統領で、タフト大統領の副大統領候補だったシャーマン氏が投票日の6日前に死亡した

❷共和党全国委員会は死亡したシャーマン氏に代えて、バトラー氏を副大統領候補に指名した

❸タフト/バトラーは敗北したが、バトラー氏はシャーマン副大統領に割り当てられていた選挙人を獲得した

さて、トランプ氏の感染によってもっぱら話題なのは候補者が選挙直前に死亡した場合、得票や選挙人獲得の仕組みはどうなるのかという点です。

米統計ニュースサイトのファイブ・サーティー・エイトは今年4月の記事の中で1912年の大統領選の事例を紹介した上で「今日の大統領選において、新たに選ばれた大統領候補が、(死亡などをした)元の候補が獲得した選挙人を引き継げるのかは明確ではない」としています。

it’s unclear whether a new presidential pick would receive the electoral votes intended for the original nominee today.

昨日から今日の米メディアの報道を見る限り、やはりこれらの点については明確化されていないようです。先例に従う場合、1912年の事例が参照される可能性もあるかもしれません(これは随分いい加減な推論です)。

何れにしてもトランプ大統領、メラニア夫人、そして感染した共和党・ホワイトハウス関係者の一早い回復を祈るとともに正常な大統領選挙が実施されることを願います。


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