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DM晒し行為の何が問題か?

他人から来たTwitterのDM(ダイレクトメッセージ)やLINEのメッセージを、無断でインターネットに晒す(暴露)行為がよく見られます。

SNSで見かける「晒し」には金銭トラブル、ハラスメント、メディアの取材トラブル(ノーギャラ、依頼方法が無礼など)が多いようです。
弁護士や医師のような専門家がターゲットとなることもあります。

ガーシーこと東谷義和氏が参院選で当選するなど、最近は「暴露」が必ずしもネガティブには捉えられていないようです。
今回は、他人から来たDMを晒す行為の法的問題点をまとめます。
(違法かどうかはケースバイケースであり、細かい論点は省略します。)

問題① 名誉毀損

DM晒しは、トラブルの存在を公表する行為です。
大抵の場合「ひどい対応をされたんですけど、皆さんどう思いますか?」「助けてください!」という『告発』が伴っています。
DM晒しは、軽微なトラブルを除けば、晒された相手(DMの送信者)の社会的評価を低下させる内容といえるでしょう。
以下の①~③のいずれかに該当する場合、相手の名誉権を侵害したと判断される可能性が高いです。そして、相手の名誉権を侵害したときは、公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2参照)を満たさない限り、違法と評価されます。

① DMの送信者の実名が記載されている場合
② 実名ではないが、所属先、地位、性別等が記載されているため、その送信者を知っている人であれば、送信者を特定できる場合
③ アカウント・ハンドルネームが記載されており、そのアカウントの保有者を実際に知っている人であれば、送信者を特定できる場合
(①~③は、「同定可能性がある」と判断されることが多いです)

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
第1項 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(以下略)

問題② プライバシー侵害

DM晒しは、DM送信者のプライバシーを侵害して、違法と評価される可能性があります。

プライバシー侵害が違法となるのは、「ある事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合」です。
具体的にどのような行為が違法となるか、明確に示すことは困難です。
ただし、近年、最高裁判所が判断基準を示しています。
・最高裁第二小法廷令和2年10月9日判決(民集第74巻7号1807頁)
・最高裁第二小法廷令和4年6月24日判決(令和2年(受)第1442号)

2020年10月9日の最高裁判決は、銃刀法違反で家裁送致された元少年について、当時本人を担当した家庭裁判所調査官が、当該事件を題材とした論文を臨床精神医学の専門誌で発表した事例です。
論文では、事件の時期や元少年の氏名、住所等が省略されています。他方、元少年の家庭環境や生育歴に関して具体的な記載がされ、学校生活における具体的な出来事も複数記載されていたため、これらを知る者が当該論文を読んだ場合、元少年を同定できる可能性はありました。
最高裁は、結論として、プライバシー侵害の違法性を否定しました。
ただし、高裁と最高裁で判断が分かれた難しい事例であり、専門誌での論文掲載という事情もありました。
SNSに同様の投稿をしたら、違法と評価される可能性が高いでしょう。

2022年6月24日の最高裁判決は、8年前の実名犯罪報道をツイートしたものがプライバシー侵害と判断された事例です。
私の記事でも紹介していますので、是非ご覧下さい。

問題③ 著作権侵害

DMは、送信者が作成したメッセージであり、著作物として著作権法上の保護対象となることがあります。

著作権法のエキスパートである、福井健作弁護士が、分かりやすく解説されています(リンクした以外のツイートも是非お読みください)。

福井弁護士の解説のとおり、DMは公表されていないので、著作権法32条の「引用」はできないのです。
DM晒しをした人が「著作権侵害」の法的責任を免れるためには、おおむね以下3つの反論が考えられます。

⑴ そもそもDMは「著作物」ではない
⑵ DMを公開したのはやむを得ない事情があり、送信者側にはDMを公開をされても仕方ないといえるだけの事情があった。DM送信者の権利行使は、権利濫用である(民法1条3項)
⑶ 時事の事件の報道のための利用である(著作権法41条

少し説明していきます。
まず⑴の「著作物性」について。
この記事では割愛しますが、筆者は、ある程度の長さの文書であっても、著作物性が否定された事例を経験しています。
DMは、文章がかなり短いことも多いので、著作物性が否定されるケースもあるでしょう。
一方、この記事で紹介した、東京地方裁判所令和3年12月10日判決(同年(ワ)第15819号)では、比較的短いツイートであっても、発信者の著作権が認められています。

つづいて、⑵の権利濫用について。
著作権者による権利行使が、権利濫用とされたケースは、知財高裁令和3年12月22日判決(同年(ネ)第10046号)があります。
弁護士が、自身に対して一般人から申し立てられた懲戒請求書(非公表)を自身のブログに全文掲載し、反論したという事例です。
権利濫用の事例自体が珍しいので、アテにするのは危険でしょう。

⑶の報道利用(著作権法41条)について。
「報道」のための利用である以上、(明確な)犯罪の告発であったり、社会的注目度の高い事件や人物に関係している必要があるでしょう。
そもそも「誰」が報道利用できるかという論点もあります。
SNS時代なので、厳密な「報道機関」に限定すべきではないと考えますが、解釈が定まっていないので、一般人が報道利用を主張するのはリスクが高いと思います。

反社会的手法の拡大と司法の軽視

以上、DM晒しについて、法的問題点を紹介してきました。
ただ、個別の法的問題より深刻に感じるのは、「司法・裁判」というプロセスへの軽視がみられることです。

DM晒しは、暴露する側が、DMや情報を切り取って公表するものです。
トラブルの一方当事者にとって都合のよい情報のみが広がる、情報操作のリスクがあります。

そして、DM晒しの手法が浸透すると「私の要望に対応してくれないなら、あなたのことをネットで晒します」という『脅迫』も増えるでしょう。
「晒されたくない」と思う人は、不当な要求であっても、受け入れざるを得ないことがあります。
また、既にDMを晒されて「炎上」してしまった人は、事態を収めるため、納得できない要求に渋々応じることが、あり得ます。

私的制裁やその示唆によって紛争を解決することは、一種の自力救済であり、裁判を受ける権利(憲法32条)を脅かすものです。
借金の取立てでも、債務者の自宅前で大声を上げたり、玄関ドアに「金返せ!」と紙を貼る行為は容認されません。強引な取立ては、ヤミ金・暴力団の常套手段と認識されてきました。
翻ってSNSでトラブル相手を晒す行為も、それが「デジタルタトゥー」として長期間残るため、相手の社会生活を困難にさせる側面があります。

筆者として、実際にSNS上で晒されたDMを見ると、「たしかにこれは酷いな。晒したくなる気持ちは分かる」ということは、よくあります。
しかし、仮に晒される側・暴露される側に「落ち度」があったとしても、SNSで無関係の人から叩かれてよいかどうかは、別問題です。

いわゆる「告発」には、特定の問題を解決するだけでなく、社会をより良くする側面があることも間違いありません。だからこそ、発信方法は吟味されるべきだと考えます。

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