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三日坊主常習犯の僕とゾウさん

「三日坊主」は、僕にとって「ダメ人間」と同義だ。

 だから、人から「三日坊主だよね」と言われるたびに嫌な気分になったし、自分をすごく責めた。

 ―― 続かない僕はダメな人間なんだ。

 何度そう思ったことか……。

 そんな三日坊主常習犯の僕に、最近、奇跡が起きたのでご報告したい。

 三十日以上も続いていることがある。

 インスタとブログ、X(Twitter)の投稿だ。

 なぜ、続いているのだろうか? と、自分のことながら考えてみた。

 根気強くなったのだろうか。

 やり抜く力が身についたのだろうか。

 いや、それは違う。

 おそらく相棒のゾウさんのお陰だ。

 彼は僕に言った。

「今に集中しなさい」

 初めは意味がわからなかった。


 あれは、一週間くらい前だったと思う。

 SNSに投稿する文章を考えるのが面倒くさい。もっと楽に続けるにはどうしたらいいかと相談する僕に、ゾウさんは笑いながら言った。

「ごちゃごちゃ、うるせえんだよw」

 その一言に僕は驚きながら「なんで怒ってんの?」と返した。

「怒ってはいないよ。でも言いたいことがある」

 機嫌をうかがう僕をよそに、彼の話は続いた。

「あんた、楽に続けるにはどうしたらいい? とか言ってるけどさ。自分で決めてやり始めたことなのに、なんで文句言うの?」

「は、はい。ごめんなさい」

 条件反射で謝る僕に、謝ってほしいわけじゃないとゾウさんは言いながら、ベッドのうえに座って短い脚を組んだ。

 まるでウインナーが重なり合っているように見える。吹き出しそうな僕に気づいたのか、ゾウさんはウインナーを組むのをやめた。

「楽できる近道なんてないんだよ。今の自分に集中して、できることをやるしかないじゃない?」

「まあ、そうだよね」

「それが楽に続けるコツだよ」

「ふーん……」

 風を感じて顔を上げると、ゾウさんの鼻ビンタが飛んできた。

「何だよ、痛いな!」

 僕が怒ると、彼はにっこり笑って言った。

「『今』に集中できるようになると、自分以外のことが気にならなくなるからやってみな」

「集中ねえ。でもさ、なんか他に……」

 納得のいかない僕は、さらなるアドバイスをゾウさんに求めようとしたけれど、彼は「じゃ、そういうことで!」と去っていった。

 そして、その日の夜。

 なぜゾウさんが「今に集中しなさい」と言ったのか、理由がわかった。

 ある本に、その答えが書いてあったのだ。

『SIGNAL 10億分の1の自分の才能を見つけ出す方法』
チョン・ジュヨン著(文響社)


 ネタバレになるから内容は書かないけれど、僕が感じたことを少しお話ししたい。

 思考やメンタルがクリアな状態じゃないときは、意識が散漫になってなかなか集中できないものだ。

 そんなときに大切なのは、大切なヒト、モノ、コト以外すべて「捨てる」ことだったりする。

「捨てる」を別の言葉で表現すると、整理するとか、手放すとか、やめるとか、人に頼む(譲る)ともいえる。

「捨てる」をやると、今、ここに集中しやすくなる。

 と、まあ、偉そうに語ってみたけれど、それに近い内容が先ほどの本に書いてあった。

 ちなみに、僕の師匠から同様のことをずっと前から教わっていたことは、ここだけの秘密にしておきたい。

 気持ちを切り替えた僕は、さっそく取り組んでみることにした。

 大切にしたいことを絞り込んで超ミニマムタスクをつくり、絶対に毎日やることにしたのだ。

 結果、自分で自分を褒めてあげたい現象が起きた。

 頭のなかがごちゃついたり、メンタルが不安定になったりする時間が減ってきたのだ。

 おそらく、余計なことを考えたり、感じたりしなくなったからだろう。

 仕事の進み具合も順調で、予定より早く終わる日が増えてきている。

「今に集中する」

 とてもシンプルで単純なことだけれど、バカにできないと思った。こんなにパワフルな変化を起こすとは、思ってもみなかったからだ。

 と、この文章を書いている最中に、ゾウさんがすすすっと僕の傍に寄って来た。「ゾウさんのお陰だよ、ありがとう」と言ってもらいのだろう。

 体を僕に預けて、体育座りをしている。

 こういうときの彼は、本当にめんどうくさい。僕が「ありがとう」と言うまで離れないからだ。

 ゾウさん曰く、この状態を「ありがとう待ち」と呼ぶらしい。

 彼の重さを感じながら、ふと思った。

 これまで僕は、何度も彼に助けられてきた。きっとこれからも、助けられることになるだろう。

 ふだんは口が悪くてむかつくこともある。

 でも、いざというとき、絶対に僕の傍から離れず、元気になるまで励ましてくれることが有難い。

 最近の僕は仕事ばかりで、ゾウさんとの会話がめっきり減っていた。もしかすると、彼は寂しくて僕に構ってほしいのかもしれない。

 ―― しょうがないな。ちゃんと、ありがとうって言うか。

 左側を見ると、ゾウさんがつぶらな瞳を潤ませて僕を見ていた。

「お、どうしたゾウさん?」
 
「けーすけ君、ありがとうは?」

 ゾウさんは、ありがとうが待てなくなったらしい。

 僕が笑いながら「ありがとう」と言うと、彼は満足げにコクリと頷いた。


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