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弱さを見せることで強くなる~組織開発とコーチングの観点から~

心理的安全性が組織のパフォーマンスを上げるために不可欠な要素であることは既に色んなところで言われていますが、どうすれば心理的安全性を高めていけるか・・・ということについては、まだ色んなところで試行錯誤しているように思います。

私も企業の人事という立場からもコーチの立場からも、心理的安全性を高めるために何ができるかを日々考えトライ&エラーしているわけですが、最近、「弱さを見せる」ということについて考えています。

THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法の中では、「安全な環境を作る」「共通の目的を持つ」に加え、「弱さを見せる」ことが重要なスキルの一つとして挙げられています。

昨今注目されているオーセンティックリーダーシップの流れでも、「自分らしさをさらけ出す」の中の一つとして、強味だけでなく弱みも出すことが重要とされています。
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」「恐れのない組織」など弱さについて書かれている書籍は最近沢山ありますが、今日はコーチングの視点から、どのように“弱さ”を引き出すアプローチがあるかを中心に、まとまっていないながらも綴っていきたいと思います。

自己認識力の重要性

「弱さを見せる」ことが重要だといきなり言われても、大人として普通に生きてると、むしろ強がること・弱みを隠そうとすることが多いでしょう。
そもそも、自分でも意識していないうちに見ないようにしていて、隠しているつもりさえない要素もあるかもしれません。
“弱さをさらけ出す”には、まずは“自分の弱さに気付く”というプロセスが必要であり、自己認識力が必要不可欠になってきます。(Harvard University Graduate School for Educationがまとめた、これからの時代に必要なNext Generation Skillsでも、第二位が“Self Understanding”になっています。ちなみに一位は“Thinking”、三位は“Empathy”。)

ただ、“自己認識”と一言でいってもそう簡単ではなくて、人は自分の顔を鏡で見なければどんな表情をしているかわからないように、自分の性格や内面も自分自身では意外と見えていないところが多いものです。
自己認識のためには、他人に“鏡”になってもらって、自分がどのように見えるかフィードバックを沢山してもらうことで、やっと理解が深まっていきます。相互フィードバックは素人同士でもうまくやり方を整理することでかなり効果的に進めることもできますが、コーチという仕事は、その“鏡”役のプロであり、クライアントのために100%コミットして全力を注ぎ、クライアント自身でさえ知らなかった自分を一緒に探究するのが一つの役割だと思います。(その上で、真の願いやパワーを引き出す、行動変容を起こす・・・など先の話もあります。)

コーチングにおいて(個人コーチング)

Co-Activeコーチングでは「プロセス」という手法があり、普段はあまり向き合わない(共にいられない)感情や感覚を敢えてじっくり味わい深いところへ潜っていくやり方があります。普段無意識的に避けているために表層的にしか理解できていない自分自身の感情とその奥にある真の願い・思いが、敢えてじっくり味わうことで見えてくる・・・というような流れです。

自らの過去と向き合い、時には自分では気づいていなかったような欠点や弱みを思い知らされることは、大変勇気がいるししんどいプロセスです。過去の大失敗、幼少期のトラウマ、場合によっては失恋や家族関係など、避けていた人間関係の話が出てくることもあります。クライアントに見たくない自分と対峙するよう促すセッションはコーチの側も慎重になりますし、相当のエネルギーを使います。それでもコーチングの観点では欠点や弱み・心のわだかまりでさえもresourceと考え、そこから何が産まれるかをholdして見守り続けます。

こういった「深いところで自己と向き合う」プロセスを経て自分の弱さを認められるようになることで、従来の「人間らしさ」「自分らしさ」がより美しく輝くし、また、周囲の人の弱みや不安も理解し受け入れられるようになっていく・・・そんな好循環が、少しずつでも確実に回り始めます。

システムコーチング(人と人との関係性に対するコーチング)における“弱さ”

人と人との関係性を扱うシステムコーチング(ORSC)では、セッションの中で、複数の人間がお互いに対する認知や賞賛・感謝を伝え合うことで関係の肯定性を高めるということも十分しっかりやっていきますが、時には“毒素”という、関係性の中で頻出する非難や防御などの、ダメージを与える要素についても扱います。

四毒素について書かれたCRR Global Japanの記事

そういったネガティブな要素を扱いながらも、「人は誰でも完璧ではない」「どんな組織でもそういったことがある」というノーマライゼーションをしていき、コーチが場をholdすることで、普段は出せない弱みが出てくることもしばしばあります。「昔の経験のトラウマでついこういった反応をしてしまう」とか、「自分が責められることが嫌でつい逃避してしまう」などです。そしてその上で、“毒素も何かの役に立っている”“毒素の裏にある願いや信念は何だろう?”と一緒に探究していくことで、システム(≒チーム)に新たな気づきが訪れ、変容していきます。

ベースにある“優しさ”

先日、尊敬する中尾隆一郎さんから、以下TJames RheeさんのAshley StewartのEDを共有頂き、これもオーセンティックリーダーシップだと感銘を受けました。

破綻寸前の会社にCEOとして出向いた最初のタウンホールミーティングで、「自分は一番不適格なCEOかもしれない。でも学びたいと思っている。優しさと数学で会社を回復させたい。」と、素直に自分の弱みも含めて本心を語る。
そして”優しさの文化"を確立する勇気を持つ。なぜなら、“優しさ”は全ての人に“課題を解決することの喜び”をもたらすから。(what kindness does, it distributes the joy, actually, of problem-solving to everyone)

この話はまさに弱さを見せることが結果的に組織を強くすることの好例だなー、と思いますが、そこのベースには“優しさ”、“利他的な思いやり”があることを強く感じます。

実はコーチングやシステムコーチングを通じて得られる効果として沢山ある中に、心が穏やかになること・人に対して優しい気持ちになれること、という要素があると私は信じていますが、そういった意味でも、組織開発・強い組織を構築するのにコーチングは一つ効果的なツールだな、と改めて思いました。

優しくて、弱さを見せ合えて、だからこそ高いパフォーマンスを出せて、社会に貢献できる組織。
そんな組織を人事の観点から引き続き探究していきたいと思います。



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