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訳しにくい言葉〜hindsight



ピッタリした訳語が見つからない言葉

通訳していて訳しにくい(けれどよく出てくる)言葉の一つに"hindsight"があります。辞書をひくと「後知恵」などの日本語訳が出てくる単語です。

決めたことに対して、後になってから「こうするべきだった」「こうしておいた方が良かった」と思うことは人生において、ときどき(いや頻繁に?!)あるものです。当然ながら、私たちが物事を決めるとき、その判断がもたらす結果までは分かりません。判断したときには想像もできなかった展開となったり、決めた時には知り得なかった情報が後から明らかになったりと、様々なことが起こります。「最初から分かっていたら、別の選択をしたのに」と後悔しても、時間は巻き戻せないのです。

"hindsight"はそんなときに使われる言葉です。後になって、全容が分かってみてから初めて見えてくることがある、それを踏まえて考えればより良い選択肢が思いつく、その「より良い選択肢」「全容が分かってからの考え」というのが"hindsight"です。

そして、この"hindsight"という言葉は何とも訳し難い・・・。辞書の一番最初に出てくる「後知恵」という訳語はコンパクトだけれど、文脈によってはしっくりこないことも。そんな時には、「後から考えてみれば」とか、「今だから言えることだけれど」などと、やたら説明調で訳すことになります。説明調は長くなりがちなので、同時通訳者にとっては話し手のスピードに遅れてしまいそうになる恐怖心と共に訳出する言葉でもあるのです。

これこそまさにhindsight・・・?

"Hindsight"という言葉が同時通訳中に出てくると、「出た〜!😭」と思いながら必死で文脈に合った日本語訳を絞り出します。しかし殆どの場合、「なんだかピッタリとした訳出ができなかったな」と、仕事が終わった帰り道にウジウジと考え続けることになるのす。

そんな風に振り返りながら、「話の全容や前後の文脈を踏まえて"hindsight"を訳すとしたら」とじっくり考えていると、同時通訳の本番よりもずっと良い訳が浮かんできます。

しかし、「時、既に遅し」です。
後からピッタリの訳し方を思いついても、仕事は終わってしまっているのです。これこそ、まさに"hingsight"です。時間は巻き戻せない、同時通訳をしていた瞬間に戻ることはできません。「いま良い訳を思いついても仕方ないんだよなぁ」と、hindsightという言葉の意味を苦々しい思いで噛み締めながら、「この状況を日本語で説明すると、どんな表現になるのだろう」と、また悩み始める・・・同時通訳者の仕事帰りの頭の中は、大体そんな感じです💦

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