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ピサの斜塔で自撮りした「頼み下手」な12年前の私へ

ふと、12年前にイタリアを旅したときのことを思い出した。

私は19歳になったばかりの大学1年生で、はじめての一人旅だった。

ローマ、フィレンツェ、ベネチア、ミラノに各2-3日ずつ滞在し、移動はすべて公共交通機関という、今思えば初心者には難易度高めの海外旅行デビューだった。

クルエラ事件とピサの斜塔事件

ミラノに泊まった日、予約したホテルで「管理人が急遽入院したので、知り合いのホテルに泊まってほしい」と言われ、ドキドキしながらタクシーで向かった。

着いたら『101匹わんちゃん』のクルエラによく似た、冷徹顔のマダムが出てきた。(本当に似ていた)

急に頼まれたのか明らかに不機嫌で「前払いだよ!今払って!」とだけ言って、私が財布を出すのを腕を組んで待っていた。

もともとのホテルはクレジット払いOKだったので、手持ちの現金は最低限しかない。財布を見ると、合計額に数ユーロ足りない。

「お金ないです」と言いたかったけど、怖くて言い出せなかった。クルエラは何かヘマをしたらしいアラブ系の男性従業員を怒鳴りながら、ずっと私を睨んでいた。

財布とカバンのいろんなポケットを漁ったら、なんと合計額+0.5ユーロ分が丁度そろった。クルエラは表情を変えず無言で受け取った。

クルエラに何とか前払いはできたものの、手持ちは0.5ユーロ。日本円で数十円。

ドルならその街の銀行で両替できたけど、日本円しかもっていなかった。メトロに乗るお金すらなく、日本円を両替できる銀行がある中心部まで歩くはめに。

私は、悲しい気持ちで50分くらい歩いた。

東京でいうと、中野のホテルから新宿までトボトボ歩いた感じ。遠い。

あの時、最初から「手持ちのお金が無くなるから後払いにして」と頼めばよかったけれど、気圧されてできなかった。

イタリアでは、もうひとつ「頼めなかった事件」があった。

一人でピサの斜塔を見に行ったのだけど、行ってから気づいた。

「ピサの斜塔を手で支えてるポーズの写真を撮りたいけど、一人じゃ撮れないじゃん…」

みんな、友達や家族で楽しそうに撮っている。

その輪に割って入って、撮ってなんて言えない…。でも撮りたい…。

10分くらい、どうしようか思案していたと思う。

そして、私はいいことを思いついた。

カメラを地面に置いて、タイマーをセットして、いい感じの位置に立って一人で斜塔を支えるポーズをとる。

これで、一人でも撮れる!ナイスアイデア!

ちなみに、当時はまだフィルムカメラを使っていたので、撮れたかどうかはわからない。

いや、てゆーか絶対ズレてるに決まってるんだけど、「撮れてるはず」と思い込むことにした。

そしたら、ふわふわの金髪のおばちゃんが声をかけてくれた。フランス訛りの英語だった気がする。

「あなた、撮るわよ!それじゃ無理よ!」

おばちゃんは終始笑顔で、3枚ほど写真を撮ってくれた。

そして、「困ったら人に頼むのよ!」と言って去っていった。

結局、おばちゃんが撮ってくれた写真も現像したらちょびっと手と斜塔の位置がずれてはいたんだけど、私は大切なことを学んだ。

「人に頼む」ができれば人生もっと楽になるし、楽しくなる、ということ。

イタリアでは気後れして自分から声をかけられなかったけど、平常心で気持ちよく人にものを頼めるようになれたらいいなあ…と思った。

あれから12年。

10代のころのシャイな自分とは同一人物とは思えないくらい、意見も言うし遠慮せずに人に何か頼むようになった。初対面の人にもガンガン話しかける。

年月ってすごい。

クルエラのホテルにまた泊まっても、今なら主張できる。

おそらくクルエラは最初は断るので、多少ドンパチやることになる。

けれど、交渉の末に後払いにすることに合意して、「これだけ現金があればメトロでもタクシーでもなんでも乗れるわ!あなたの優しさのお陰よクルエラ!」なんて笑顔で言えると思う。

「人に頼む」が下手だと低空飛行のまま…?

この「人に頼む」というのは、個人でビジネスをやるのなら必要不可欠なスキルだと思う。

サービスやモノを企画し、作ったり運営したりして、営業や集客をして、経理処理も契約書も…とすべてを自力でやろうとすると、多岐にわたるスキルが必要になる。

会社員だと、全部署の仕事を一通り経験している人の方が圧倒的に少ない。

となると、得意なことは自分でやりつつ、不得手な分野や自分が付加価値を発揮しにくい場面では、外注なり協業なりをして「人に頼む」方が効率的な場面もある。

この「人に頼む」がうまくできないことで、活動をはじめられない方、走り出したもののあまりブーストせず低空飛行が続いている方が多いんじゃないかと思う。

不得手なことや雑務をすべて自分の手作業でやろうとすると、有限の時間がどんどん目減りする。本来は高付加価値を発揮できる分野に少ししか時間が使えず、出せる成果も頭打ちになってしまう。

「一人ですべて回せる」というのも一つの強みだけど、その状態になるのにかなりの時間がかかりそうなら、思い切って自分は得意分野に集中してほかは外注してしまうのも手だ。

「人に頼る」というスキルは伸ばせる

上手に人に頼るために必要なことは、2つあると考えている。

まず1つ目が、「実務内容を理解し適切に指示できること」。

どんな作業をするのか明確に分かっていないと、頼み方が下手で期待した成果を出してもらいにくい。

そもそも、どんなスキルが必要なのかわからないので、誰に頼めばいいのかも見当がつかないかもしれない。相場観もわかっていないので、ぼったくられたり、請求で揉めたりしがち。

もう一つは、「相手との信頼関係の構築」。

せっかく任せたのに、細々と報告させて、指示を出し続けていたら、時間も手間もかかりすぎる。

任された方も、コミュニケーションコストがかかって大変だし、裁量を途中で減らすと「信頼されていないのか」と不満に思う。

相手を信頼すること、自分が信頼されることを、業務がうまく回る絶妙の匙加減でやる必要がある。

任せる、というのは怖さを伴う。断られるかもしれない。期待通りの成果を出してくれなかったらどうしよう。コミュニケーションがうまくいかなかったら嫌だ。自分でやった方が早いかもしれない。

そこを乗り越えて人に上手に任せられるようになったら、自分の得意なことに集中して飛躍のチャンスが増えるはず。

頼み慣れていないと失敗することもある。経験の中で、人に頼むスキルを上げるしかない。

12年かけて、頼むスキルは少しずつ上がったけれど、その間にいろんな失敗もあったなぁと思う。

自分のディレクションが甘いせいなのに、期待通りの仕事をしてくれない外注先に怒ったり。
途中で何度も介入して煙たがられたり。
「手伝って」が言えずに一人で仕事を抱え込んで終わらなかったり。

そんな失敗を繰り返しつつ、ずいぶん頼み上手になったものだと思う。

人に頼むと調整する場面も増えて、大変なこともある。

でも、支えてくれる人を巻き込めたお陰で、1人で歩くよりずっと遠くまで来れた。

ピサの斜塔とクルエラの前で立ち尽くしていた12年前の私に、「勇気を出して頼むといいよ!世の中には親切な人も意外と多いもんだよ!」と伝えたい。

パラレルキャリア研究所代表 慶野英里名

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