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鎌倉市・松尾市長に聞く、市民と共につくる循環型社会とは?

古都・鎌倉の文化と多くの神社仏閣などの歴史的遺産を有し、三方を山、一方を海と豊かな自然環境に恵まれた日本有数の観光都市である、鎌倉市。

日本国内のナショナル・トラスト運動発祥の地でもあり、市民の環境共生意識の高さでも知られている本市は、できる限りゴミをゼロに近づける「ゼロウェイスト・かまくら」の実現を掲げており、リサイクル率は、人口10万人以上の自治体のなかで1位(52.6%・2021年)を誇ります。2018年6月には内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、同年10月には「かまくらプラごみゼロ宣言」を実施するなど、循環型のまちづくりを加速させています。

2020年8月には、現在市内唯一のごみ焼却処理施設である「名越クリーンセンター」の稼働を2025年3月末をもって停止することを政策決定。2025年以降は「鎌倉市・逗子市・葉山町ごみ処理広域化実施計画」に基づき、市内で排出される可燃ごみを逗子市の既存焼却施設を中心に処理する体制へと移行するという背景もあり、可燃ごみの減量・再資源化に向けた取り組みをより一層強化しています。

今回は、鎌倉市の松尾市長に、循環型社会の実現に向けた取組みの現状と今後の展望、循環型のまちづくりの推進に重要なことについて、お話を伺いました。

話者プロフィール:松尾 崇(鎌倉市長)
1973年9月6日 鎌倉市生まれ。西鎌倉幼稚園、西鎌倉小学校、鎌倉学園、日本大学を卒業後、日本通運(株)で勤務。その後、鎌倉市議、神奈川県議を通算8年間勤め現職。家族は妻と娘3人。趣味はジョギング・山登り・スノーボード

鎌倉市の循環政策とは?

Q:鎌倉市第3次総合計画の中には「省資源・循環型社会」が一つの未来像として位置付けられていますが、SDGs未来都市・ゼロウェイストかまくら、産業政策などとの関係性の中で「循環経済・循環型社会」のような概念をどのように整理されていますか?

第3次総合計画の中で「省資源・循環型社会」を一つの未来像として掲げている発端は、先々代の竹内市長が掲げた「環境自治体」というキャッチフレーズにあります。当時はまだ環境問題に対して自治体が特段と力を入れて取り組むことは珍しいなかで、鎌倉市は日本の自治体の中で先んじて旗を上げました。

その背景には鎌倉市民の皆さんの課題意識がベースとしてありました。今から約40年前になりますが、「循環型社会を作っていく必要がある」という課題意識から、市民の皆さんが、3R(リユース・リデュース・リサイクル)をより推進していこうと運動を進めてきました。このような点が鎌倉のベースとして根付いており、市民の皆さんが政策を支え、後押ししてきた延長線上に、総合計画に掲げる未来像が位置しています。

同様に、SDGs未来都市についても、過去から積み重ねてきたベースがあったからこそすぐに公募に手を挙げることができました。SDGs未来都市のように、SDGsの理念に沿い持続可能な開発を実現しつつ経済・社会・環境の3つの側面から新たな価値を創出しようという概念は、もともと鎌倉として目指していた方向性と価値観が同じでした。

ですので、SDGs未来都市の考え方と鎌倉市が目指すべき方向性とが合致する部分を上手く活用しながら、循環型社会の実現に向けた取り組みをさらに加速していきたいですし、今まさにその方向に向かって進み始めているところです。

Q:鎌倉市の掲げる「こどもまんなか社会」や、子育てのしやすいまちというテーマに対して、循環型のまちづくりはどのように貢献しうると思いますか?

やはり、何のために環境問題に取り組むのかという点を考えると、今を生きる自分たちさえよければ良いのではなく、次の世代により良い環境をしっかりとつなげていくためだと思います。次の世代につなぐという社会的な責任を一人一人がいかに考えられているかがポイントだと思っています。

そう考えると、循環型社会の考え方は子育てのしやすさや、子どもを中心に考える「こどもまんなか社会」の理念と非常にシンクロする部分が多いです。子供たちにとって良い環境作りをしていくために、一つの大きな柱として循環型のまちづくりがあると考えています。

Q:脱炭素・廃棄物削減・生物多様性、都市環境・経済政策などが複合・横断的に関わる循環経済というテーマに対して、自治体としては、どのような形(組織体制・ガバナンス・チームなど)で推進していくのが良いでしょうか?

これは本当に難しいのですが、やはり循環経済の企画立案をし、それらに市民や事業者の皆様に参画してもらったり、関連部署としっかり連携したり、ということが必要になってきます。そのためには、プロジェクト推進体制に加えてデータ収集・分析チームの存在、そして市民や事業者等とのパートナーシップ構築により全体が見えている状態を作ることが非常に大事です。

どのように進めていくのかというと、仕組み作りと職員一人一人の意識向上を両輪でしっかりと回していくことかと思います。1つ目の仕組みについては、鎌倉市としても「できている」とは言えないのですが、今後は市庁内でのタスクフォースの設置なども検討しつつ、全体を牽引していくような組織を位置づけるということが大切だと考えています。

2つ目の職員一人一人の意識については、総合計画を作成する際に、それぞれの職員が自分の部署におけるSDGsは何かということを意識し考えたうえで、計画や政策の中に落としこむということに取り組んでいます。ただし、それがどこまでうまく機能しているのかまではまだ可視化できていないので、今後の課題として取り組んでいきたいと思います。

Q:鎌倉市が中都市の中でリサイクル率No.1という状況をどのように評価されていますか?また、リサイクル率No.1 を実現できている要因はどこにありますでしょうか?

鎌倉市の廃棄物行政は非常に紆余曲折の歴史があり、困難を極めてきました。政治的にも様々な対立を生んできたテーマではあり、何もかもが全てうまくいっているとは評価し難いです。

具体的には、平成8年度に、当時7万トン強あった燃やすゴミを3.5万トン程に減らす「ごみ半減計画」を策定したのですが、議会の中では「そんなことができるわけない」という批判も出ていました。現実的に達成するための施策検討プロセスでは、当初はごみの焼却施設を一つ完全に停止する方向性でいたものの、なかなかゴミが減らないという状況下で、やはり焼却施設を少し延長するといったこともあり、状況を見ながら難局を乗り越えてきたというところです。

また、当時既に廃棄物処理の広域連携の話も出ていたのですが、その話も途中で破綻してしまいました。

ただ、そうした紆余曲折があり、目指すべき方向性について議会や鎌倉市民の皆さんが日常会話の中でも議論できたといういうのは、大事なプロセスだったと思っています。加えて、市民の皆さんには、次世代のためにも良い環境を作っていこうという思いがあり、そのために何が必要なのかという視点で考える方が多いと感じています。そこが、やはりリサイクル率No.1を実現できている大きな要因の一つなのかなと思います。

Q:市政を運営する立場から見た時に、鎌倉の強みと弱み、鎌倉らしさはどこにあると感じていますか?また、廃棄物削減というテーマにフォーカスした時に、鎌倉が抱える課題はありますか?

鎌倉の一番の強みは、800年の歴史があるというところですね。鶴岡八幡宮を中心に三方を山で囲まれていて、歴史ある神社仏閣が市内に100以上もあり、それらの保全のためのまちづくりを長年続けてきました。この歴史ある街並みと緑豊かな環境に対して魅力を感じていただき、多くの観光客の方もいらしているという点に特性があるかと思います。

一方で、鎌倉市の三方を囲む山も含めて古都保存法で、これ以上の開発ができないようにしっかりと保全しているので、裏を返せば有効に活用できる土地が少ないとも言えます。また、鎌倉は東京に近いという利便性があるが故に、日帰り観光客が多く、非滞在型の観光地となっています。そのため、この地域に対する消費額は限定的になります。

昼間には多くの方が来られて、夜には一気に少なくなり、昼夜人口の差が非常に大きいという特性もあります。人口のピークの時間帯に合わせた伸縮性のあるインフラや仕組みの整備が十分にできていないので、ピーク時の住民や町への負荷が大きいという点が課題の1つかと思います。

Q:鎌倉市は既にリサイクル率が50%以上と中都市No.1を達成していますが、廃棄物処理の合理化に向けた広域連携において、次のステップに向けて課題に感じているところはありますか?

やはり先ほど課題だと申し上げたように有効活用できる土地が少ないという点です。ごみ処理にあたってはある程度の土地が必要ですが、なかなか見出すことが難しく、だからといって住民の皆さんのお住まいの近くに作るかというと匂いや交通車両の問題などがあり同意を得られにくいというところがあります。

そうしたハードの整備については非常に苦労している部分ですので、ハードに頼る部分を少なくしていくという意味ではなるべく広域連携で補完していこうという方向性です。今は逗子市や葉山町と広域連携に向けた話し合いを進めているところですが、今後はさらにエリアを広げていけないかというところも考えていく必要があるかと思っています。

鎌倉市民のまちへの愛着が、循環型社会を推し進める

Q:まちづくりや、循環システムなどを考える際には、市民を中心においてデザインしていく必要があるかと思いますが、資源循環や焼却炉停止などに対する、市民の皆さんの意識や声については、どのように認識されていますか?

なかなか一言で言うのは難しいですが、鎌倉市民の皆様に環境意識の高い方が多いというのは間違いないと思います。ただし、それは環境に限ったことではなく、鎌倉に対する愛着が根底にあり、そこからくるまちの将来に対する不安などが声として出てきているのだと思っています。

例えば市内の焼却炉停止については、停止後の手段をどうするのかという議論において、「本当に無くして大丈夫なのか」「最新鋭で環境負荷の低い焼却炉がいずれできるのではないか」といった意見もありますし、「そもそも焼却炉が日本国内に多すぎるので広域連携と言う形で全然良い」と言う方もいれば、「ごみという概念をなくしてゼロウェイストを目指そう」と言う声もあります。

ですが、それらは全て市民の皆さんが鎌倉に愛着を持っているからこそ、鎌倉の将来のために意識を高く持ち、声を上げていただいているのだと思っています。手段の議論では様々な意見の違いはありますが、そういった様々な意見を真摯に受け止め、しっかり議論していくべきだと思っています。

今まさに鎌倉市は「ゼロウェイスト」を一番の理想に掲げて、そこに近づけていこうという旗を上げていますが、これに対しても「本当に大丈夫なのか」という不安や心配の声があることは事実です。ですので、市民の皆様に安心してもらえるように、より具体的な将来像を見せていく責務があると感じています。

循環型社会を広げていくために「仲間」を増やしていく

Q:循環型社会の実現に向けて、市内では市民や企業など様々なステークホルダーとの連携が始まっていますが、例えば廃棄物処理の広域連携なども含めて、もし鎌倉市が国内外の他の自治体と連携する場合、どのような都市とどのような連携ができると良いでしょうか?

鎌倉市と同じようにゼロウェイストを掲げている自治体と連携して、その悩みを共有したり、悩みの解決のために一緒に取り組んでいくことはとても大事だと感じています。その意味で、やり方自体は簡単に真似できるものではないとは思いますが、ゼロウェイストという難しいチャレンジの中でも、その苦しみを共有しながら、理想に向かって進んでいく「仲間」を増やしていけたらと思います。

今、世界中がまさに環境問題について最新の技術や知恵を共有しあって取り組んでいるという状況だと思います。それらを一緒に学びながら、より良い社会・未来をつくっていくことが重要だと思いますので、志を同じくする自治体同士の連携は今後ますます必要になっていくのではないでしょうか。

Q:最後に、循環型社会に向けた取り組みを広げていくために、鎌倉から他の自治体に向けて何か発信していくとしたら、どんなことを発信しますか?

個別具体的な事例にはなるのですが、市内で生ごみ処理機の普及に取り組んでいた際の話を紹介させてください。当初は行政職員が市民の方に説明したり、スーパーの前でチラシを配るということを地道にやっていたのですが、その後、市民の方たちが主体的に各地域に入って説明してくださるようになっていきました。

行政職員からの発信も一定の効果はあったのですが、どうしても行政職員が説明をすると押し付けがましく捉えられてしまうということもあるのですが、一方で、市民の方からの発信は刺さり方が違いました。住民同士で「こういう方法が良いね」と話し合いながら広げていくということが重要だと実感した経験でした。

そして近年は、2021年から「コミュニティの力でごみ問題を楽しく解決」をテーマにした「ゴミフェス532」というイベントを市内で開催しています。このイベントも住民の皆さんがやりたいことを自ら発掘して取り組んでいくところを行政がバックアップしていくという形になっています。

こうした市民の主体的な活動を行政がサポートしていくという形こそが、持続的な体制なのではないかと体感したこの数年間でしたし、他の自治体にも参考になるように、発信していけたらと思います。

Text/Photo by Kaho Fukui

※本記事は、JST・共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」における中都市研究の一環として行ったインタビューをもとに、ハーチ株式会社が制作しました。


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