見出し画像

没後120年。今、改めて福澤諭吉の女性論を読む。

2021年。今年で福澤諭吉が亡くなってから120年になります(1901年2月3日没)。

福澤諭吉の活動は多岐にわたりましたが、生涯を通じて関心を持ち続け、その主張のブレることはなかったといわれているのが、女性論です。
120年以上も前の女性論ですが、現代日本社会の課題に対しても、まだまだ問題解決のためのヒントとなるような言説がいくつもあるように思います。

当社では、福澤諭吉の代表作を新字体・現代かな遣いで網羅した『福澤諭吉著作集』(全12巻)を刊行しております。そのうち第10巻『日本婦人論 日本男子論』は大胆かつ斬新に新時代の女性のあり方を説いた、とくに現代的意義の高い著作が集まっています。
今回は、この『福澤諭吉著作集』(第10巻)から福澤諭吉の女性論のいくつかをご紹介致します。

※書籍の画像をクリックすると商品紹介ページにアクセスします。

帯なし_福澤諭吉著作集第10巻 書影-1

 福澤諭吉著作集 第10巻 日本婦人論 日本男子論

①中津留別の書(なかつりゅうべつのしょ)

福澤諭吉の女性論の原点ともいえる文書です。

自身の母親と姪を東京に迎えるため、故郷の中津(現・大分県中津市)に帰った福澤が、中津の旧宅で中津の人々に向けて書いた別れの書です。明治3(1870)年11月27日に執筆されました。

3,500字程度の短いものですが、人間交際の基本は夫婦であること、一夫一婦制が自然であること、男女は同等であること等が記されています。

②日本婦人論

 福澤諭吉の女性論としては最初のまとまった論説です。明治18(1885)年6月4日~12日までの8回にわたり『時事新報』に掲載されました。

日本の女性の心を活発にし、身体を壮健にするための人種改良論、女性に責任と財産を持たせること、結婚後は夫の姓でも妻の姓でもなく、新しい姓をつくるべきこと等、まさに現代の日本で議論されている問題に直結するアイディアを提案しています。

③日本婦人論 後編


 女性の地位や夫婦のあり方について体系的にまとめた最初の単行本です。明治18(1885)年7月7日~17日までの10回にわたり『時事新報』に掲載され、翌月単行本となりました。

「日本婦人論 後編」としているのは、先の「日本婦人論」をより広く読んでもらえるよう、分かりやすい文章に書き直しているためです。内容的には「日本婦人論」をただなぞっているわけではなく、男女の違いは身体のつくりだけで、男性にできて女性にできないことはない、女性の地位の向上は一国の力を倍増すること等を主張しています。

④男女交際論


 男女間で幅広く交際することで、互いに学び合い、知見を広げていくことが大切であると説いた著作です。

明治19(1886)年5月26日~6月3日までの8回にわたり『時事新報』に掲載され、6月に単行本となりました。

男女間の交際には肉体の交(肉交)と情感の交(情交)の2種類があり、この2つに軽重の差はないが、肉交ばかりにとらわれることなく、これからの男女に幅広い情交を勧め、男女ともに協力して国の事務を負担していくことの必要性を説いています。

⑤女大学評論 新女大学

画像5

    昨年11月に刊行された『現代語訳 女大学評論 新女大学』

貝原益軒の著作として世間に流布していた「女大学」に対する論評と、それに代わる新しい「女大学」を提唱した著作です。

明治31(1898)年8月~9月に執筆されましたが、福澤は直後に脳溢血を発症し(のち回復)、『時事新報』には「女大学評論」が明治32(1899)年4月1日~5月28日までに18回、「新女大学」がその後7月23日までに16回に分けて掲載され、11月に合わせて単行本となりました。

「女大学評論」では、儒教的な男尊女卑に基づく差別理論を徹底的に批判攻撃し、「新女大学」では、新しい女子教育のあり方や、男女平等・不軽不重の原則に基づく男女関係、父母が手本を示し団欒を大切にする家族関係、互いに独立した嫁姑関係のあり方等を論じています。単行本が上梓された際、福澤は「男子亦(また)この書を読むべし」と記して献本を行いました。


ここまで、福澤諭吉の代表的な女性論のいくつかをご紹介しました。性別や属性にとらわれず、相手をひとりの人間として考えるという営みと真摯に向き合い、言葉を残した福澤諭吉の著作を今この時期に再読するのも、思考の幅を広げるきっかけになるかもしれません。



【その他の関連書籍はこちら】

◇西澤直子 著『福澤諭吉と女性』

画像5

◇西澤直子 著『福澤諭吉とフリーラヴ』

画像5

◇福澤諭吉 著、ヘレン・ボールハチェット 訳『Fukuzawa Yukichi on Women and the Family』

(※こちらは欧文書籍となります。)

画像5

◇富田 裕子、ゴードン・ダニエルズ 編、横山 千晶 監訳『国際的視野からみる近代日本の女性史

画像6


#福澤諭吉 #女性論 #慶應義塾大学出版会 #読書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?