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第27話『散髪』

髪を切った。理由は主に3つ。

1つ。
特にやることもなく、朝晩はガンガーを眺め、暑すぎる昼はカフェで過ごす日々が続き、何かイベントが欲しくなる。
海外で、しかもインドで髪を切るなんて話のネタには充分だろう。

2つ。
僕が滞在しているホステルはいわゆるヒッピー宿で、共有テラスでは昼夜問わず宿泊客がガンジャを吸っている。というのも、バナラシは大麻の神でもあるシヴァ信仰が強い。伝統的な大麻入りラッシー「バングラッシー」が合法の名物だ。しかし、ガンジャ(乾燥大麻)は違法である。余談だが、旧市街の路地裏を通るとガンジャだけでなくLSDなどの覚醒剤のプッシャーに漏れなく声をかけられる。
ともかく、このガンジャヒッピー達の髪型がまさしくヒッピーで、皆長髪を束ねている。不意に自分の長い髪に白けてしまった。僕は思想や芸術的複雑性など持ち合わせていない。ただの凡庸な男だ。

3つ。
単純に暑い。クーラーもついていない宿で、連日連夜寝苦しい。

以上の理由から散髪を決意した僕は、徒歩10分のところにバーバーを見つけたので訪問してみる。路地でところどころに見かけるあばら屋のような散髪屋(おそらくインドで散髪と聞いて何となく想像されるもの)ではなく、受付スタッフもいるような店舗(サロンと表現していいのかもしれない)を選ぶあたりが僕の凡庸たる証左だろう。

結果、冷房の効いた店内で、醍醐味と言える失敗談など生まれぬ散髪が終了した。
理容師は英語を解さなかったが、受付スタッフの女の子が英語を話せたので特に困ることもなく、せめて少しでも失敗の余地をと「Please like a India style, up to him」とパルプンテ要素を残すも、ただのツーブロックショートが完成(インド人の若者はほぼ間違いなくツーブロックである)。200R、330円で何の不満もなく、面白みもない。

今夜はバングラッシーでも飲みに行こうか。

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