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2018/5 SC Fortuna KölnU-19フィジオセラピスト名和大輔さん 17/18総括インタビュー

―今季は残念ながらA Junioren Bundesliga Westを3勝1分22敗の最下位(14位)に終わり、リーグ最終戦でのホーム1.FC Köln 戦では0-11に終わってしまいました。そのゲームでは何が起きていたのでしょうか?
「練習中の雰囲気としては悪くない状況でした。リーグ最終戦、加えてKölnの中で一番大きなクラブ(1.FC Köln)と二番目に大きなクラブ(SC Fortuna Köln)との、プライドを掛けたダービーマッチです。監督もゲームの一週間前からそれを強調していて、ゲーム前のロッカールームでも『絶対勝たなきゃいけないぞ』という雰囲気をスタッフたちは作りあげようとはしていました。ただ、降格は決まっているし、選手の何人かは来季のステップアップに関係する、他のクラブの練習に参加していたので、監督は準備がしづらかったと思います。やれることは最大限やったと思うのですけど、開始わずか2分で先制されて、13分、18分と続けてと失点し、0-6で前半を終えた。先制されて、選手たちはモチベーションが下がったのか、正直言って彼らから、やる気が感じられるプレーは見られなかった。我々スタッフにも責任があると思いますけど、開始早々の失点が痛かったなとは思えます」

―個人的に、GKは相当やるせないと思うのですが、様子はどうだったのでしょうか?
「かなり怒っていましたね。FW、MF、DF全員がプレッシングするのが遅れたりして簡単に裏を取られたりとか、一対一で負けたり、一対一の状況を簡単に作られる状況が多かった。彼自身もその試合で今季3試合目の先発で、彼のミスによる失点もあった。フィールドプレーヤーもゴールキーパーもお互い様という印象はあります」

―開幕7連敗、その後も連勝がなく、連敗が続いたりと、降格が頭をよぎる時期は早かったと思いますが、選手たちにはどう声掛けしていたのでしょうか。
「僕の使命は、選手たちを万全の状態でピッチに戻す、プレーしてもらうことだと思っています。うまく監督と選手たちの間に入ってあげて、両者の意見を聞きながら、週末のゲームに臨めるようにモチベーションを上げるような声掛けをしたりとか、出場機会のない選手には身体の使い方に関するアドバイスをしてあげたりとか、コンディショニングに関することをしていました」

―今季、特定の選手に継続させてきたエクササイズなどはあるのでしょうか?
「一つ例を挙げると、大腿四頭筋の張りを訴える選手が数人いました。彼らのプレーを見ると、大腿四頭筋が優位になっている走り方、それを使っての止まり方、下半身優位で特にもも前が優位だったりする。その部位へのマッサージや治療はもちろんするのですけど、それは一時的なものにすぎない。彼らに伝えていたのは走り方、走っているところから止まる際に背中とか臀筋、ハムストリングといった後ろ側の筋肉をうまく使えるようにしていかないと痛みは取れないと伝えました。トレーニング前にそれら部位に刺激を入れるエクササイズをしていくなど、口酸っぱく指導しました。徐々に、その対象の選手たちも動けるようになってきて、 エクササイズをすることや彼らへの意識改革を伝えるだけで症状は減ってきて、治療に来る回数もだいぶ減りました」

―ホームゲームでも11時キックオフと早い時間帯にゲームが行われる場合がありますが、その準備はどのようにされているのでしょうか。
「その点は僕が直接、選手に指示しているわけではなく、専属のアスレティックコーチの方から選手に伝えています。11時キックオフってすごく準備が難しい時間帯だと思っていて、なぜならお昼を跨ぐので昼食が摂れない。科学的な根拠として、運動の3時間前に食事を摂るのがベストと言われていますが、まずキックオフ1時間半前にロッカールームに集合します。それ以前の、キックオフ3時間前には朝食を摂ってほしいと伝えています。その内容も炭水化物やエネルギー要素になりやすい糖質を多めに摂ってくださいと連絡を入れて、 その間に昼食は摂れないので、 9時30分から10時までの間に、バナナやビタミン摂取のための果物、少し糖質を摂るためにパウンドケーキで捕食を入れます。ただ、キックオフ1時間前に糖質を摂りすぎると、 眠気が起きて頭が働かなくなってしまう。糖質を過剰摂取してしまうと低血糖状態に陥り、眠気などの症状がおこり集中力欠如によるパフォーマンスダウンの低下になりやすい。糖質を摂らせすぎないように、飲料水にしても水などを用意しています。10時からミーティングを、10時30分からウォーミングアップを始めます。そして11時キックオフまでの1時間、捕食は摂らせないようにしています。ハーフタイムにはゼリー等で糖質等を補給し、13時にゲームが終わりますが、それ以降の捕食をチームは用意していません。残っているもので糖質やタンパク質を摂取したいのですが、ゲーム後の補給については保護者の方にお願いしているところになります」

―11時キックオフで言えば、身体の起こし方が難しい、ということになるのですね。
「それよりも食事が難しいですね。栄養素をどのタイミングで補給できるかです。11時キックオフの場合、13時まで何も食べられない。8時までに朝食を摂らせないといけないとなると、5時間まともな食事ができずにプレーするのは選手自身にはストレスですし、パフォーマンス低下の原因にもなりやすい。捕食をうまく使って、パフォーマンスを下げないように、身体の活性化を下げないようにして、ゲーム後にもすぐに栄養素を補給し、筋線維の破壊を修復するための食事をしないと、疲れが残ってしまうし、翌週の準備にも影響してしまう。周期的にも、普段は午後にトレーニングをしているので、11時キックオフとなるとその時間帯に高パフォーマンスを発揮する習慣もなければ、その準備のための時間さえ少ない。選手自身も、難しい立場にあります」

―アウェーゲームであれば、Bielefeld(24.09.2017 15:00キックオフ)やPaderborn(26.08.2017 12:30キックオフ)まで約2時間の移動があります。
「早く出発しなければならないので、昼食を摂るにしても選手自身でキックオフに合わせた正確なタイミングで摂ってもらわないと、いざキックオフ前に空腹感を感じたらパフォーマンスに影響する可能性もある。車やバスでの移動となると血流循環も悪くなる。それに、選手全員がKölnに住んでいるわけではないです。DüsseldorfやBonnに住んでいる選手もいるので、ホームも大変な場合があります」

―ゲーム中に足が痙攣した場合、筋肉疲労についてはチームがトレーニング量を管理していて、試合中の水分補給も適切にしているとなると、普段の食事で鉄分など含めたミネラル成分を十分に摂取できていないのでは?とも考えられますが。
「普段の食事や水分の取り方はもちろん大事ですし、4月から暑くなってきたので、発汗による排出でミネラル不足になりやすい状況になります。ウチの場合、普段の食事についてはご家族に任せています。ゲームやトレーニング日における管理はもちろんチーム側がやっていますけど、普段の食事に関する連絡事項としてはアスレティックトレーナーがしていますが、それをこちらがチェックしているわけではないです。メディカルチェックにしても、ウチのクラブはそこまで予算がなくてできないので、選手たちの身体がどのようなものかは計り切れていない。僕の場合は怪我が多い選手に関節可動域などをチェックしてフィーバックしていますが、全員できるわけじゃないので、大きいクラブはやはり羨ましいです」

―トレーニングについてお伺いします。ウエイトトレーニングをする以前に自重トレーニングをする必要があるという意見がありますが、その境目がある、ということでしょうか。
「境目というのは、あまりないと思います。身体の使い方を多角的に見て、肩甲骨や臀部を使えていないとか、足首が固そう等を見て、肩甲骨を使えていない選手がウエイトトレーニングをしても使えないままになるので、まずは使えるようになりたい部分にフォーカスして自重トレーニングをやってあげる必要があります。まったく使えず機能不全の部位をウエイトトレーニングしても、結局は筋肉が大きくなるだけで無意味な状態になってしまう。この部位を使えるようにしてパフォーマンスアップに繋がるのであれば、現時点でその部位は使えるのか、使えないのかを見極めて自重トレーニングをしてあげて、尚且つほかの部位では筋力トレーニングで身体を大きくしながら機能的な身体を作っていくという、お互いのトレーニングをうまくやっていく方が僕はベストだと思います」

―筋力トレーニング、ウエイトトレーニングについて「身体が重くなるから」という理由で嫌う選手がいるようですが、どう納得いく説明ができるでしょうか。
「選手自身、自分の身体をどう思っているか、だと思います。僕はウエイトトレーニング、筋力トレーニングをやった方がといいと思っています。しかし、身体を大きくするだけじゃなく機能的な身体を作るために自重トレーニング、エクササイズをする必要がある。硬め過ぎないことが重要です。 戦うには身体は大きくなければいけないし、 大きくしていきながらも動けるようにもしていかないと、それもまた戦えない。それができれば、もっとパフォーマンスは上がると思う。現状維持であったり、上のカテゴリーやレベルで戦うのであれば、トレーニングすることは大事だとは言ってきました」

―3月中旬から下旬にかけて、Jリーグクラブのユースチームや高校サッカーチームがドイツ遠征に来ました。そのうちの高校が遠征最後の対戦相手としてSC Fortuna Kölnと相対しました。高校の選手たちの印象はいかがだったでしょうか。
「遠征に来た高校の選手たちは、いわゆるトップチームの選手たちだとは聞いていました。そのゲームでのウチのチーム構成は、U-17とU-19で出場機会があまりない選手との混合チームでした。高校の選手たちの身体の比較で言えば、ウチのU-19選手の方がもちろん大きいですけど、U-17選手と比べても線が細い、身長も低い選手が多いという印象です。加えて、フィジカルコンタクトにおいても球際で簡単に負けてしまうシーンが多かった。ウチのU-19選手も、ほかのクラブの選手と比べれば小さい方なので、高校の選手たちはさらに小さい、細いという印象です」

―3月末から4月頭にかけて、高校選抜(と言っても、今年度19歳になる選手18人、高校3年生1人)が出場したデュッセルドルフ国際大会を観に行きましたが、180cmを超える選手はGK2人、DF4人、FW1人しかいなかった。そしてほかの欧州クラブの選手たちを見ると、日本人選手は全般的に2~3年ほど身体の成長が遅いのではないのか?と思えました。
「僕が思うに、U-14まではドイツと日本とは、差はないくらいだと思います。U-15~16くらいから、こっちにいる選手たちはいきなり大きくなる。全員がそうではないですし、小柄な選手もいます。筋力トレーニングを導入するのがU-16くらいからと早い時期にするので、トレーニングの効果も大きいと思えます」

―SC Fortuna Kölnの筋力トレーニングプランはどのようになっているのでしょうか。
「シーズン前はもちろんガッツリとやっていて、シーズン中も継続してやっています。週二で筋力トレーニングを設けて、サッカーの練習をする前にしています」

―今年2月のBayer Leverkusen U-19にヤマダ・キオが加入し、4月21日にSC Fortuna KölnはホームにてBayer Leverkusenとリーグ戦を戦い、大輔さんも実際に彼のプレーを見られたわけですが、彼のプレーや身体についてお聞かせください。
「日本の高校生年代の選手に比べると、彼は大きい方だと思います。ただ、ウチの選手との球際の競り合いでは簡単に負けてしまうシーンの方が多かったり、簡単にボールを失ってしまうこともありました。技術的なことではなく、コンタクトによってボールを失う、潰されてしまうシーンが多かった、という印象があります」
https://www.fupa.net/spieler/kio-yamada-1114318.html ヤマダ・キオ出場経歴

―シーズン中にオランダのフェンロにて、藤田俊哉さんにお会いに行かれたそうですが、目的は何だったのでしょうか。
「ヨーロッパで活動されている方の一人として話をお伺いしたいなと思って訪問しました。 藤田さんがリーズでどんなことをされているのか、どのように選手たちとコミュニケーションを取っているのか、どこを目指されているのかを知ることができました」

―そして4月末にルーマニアへ行かれたそうですが、どういった経緯と目的だったのでしょうか。
「来季もヨーロッパで活動できればいいな、ということを視野に年末から今もヨーロッパの各クラブに履歴書を送っています。各国の友人もいるなかで、ルーマニアにいる友人を通じて、ブカレストにサッカー選手やその他業界人をターゲットにしたクリニックを何店舗か展開するオーナーから直接『一緒にやりたい』と返事をもらいました。そして、条件面や実際の現場はどのようなものかを確かめにルーマニアへ行きました。そのオーナーは、ルーマニアのサッカーのトップリーグ全クラブと提携を結んでいて、最近ではルーマニアサッカー協会のフィジオ部門も買い取って、そこも彼の権利のもとでメディアカル部門が動くことにもなった。ルーマニアでそのオーナーのもとで仕事をすることになるのであれば、そのクリニックのスタッフになる、ということです」

注釈:名和大輔さんは現在、中国で活動されています。

―JリーグクラブがDAZNマネーによる収益増が期待できるなか、選手獲得だけに留まらず、クラブ社員の方はもちろん、トレーナーやフィジオセラピスト、メディカルスタッフへの投資、好待遇にも反映されれば、それ以上のことはないと思えます。選手の稼働率、パフォーマンスアップに寄与する役割を持つトレーナーなどの存在は今後ますます重要になると思うのですが、大輔さんはこの意見に対して、何をお答えいただけるでしょうか。
「存在価値や賃金は上げてほしいのは本音ですが、表舞台に出るのは選手ですから、彼らや監督と同等の評価までは求めていないにしても、フィジオセラピストやトレーナーといった裏方スタッフの存在の価値は上げなきゃいけないことだと思います。小さいクラブだと日頃のケアや治療、怪我人が多く出た場合には、手が回らない部分が出てきます。需要と供給のバランスがうまく取れていない、ということです。余裕がある体制を作れれば、というのが本音ですが、そこまで雇えないのが現状だと思います」

―ヨーロッパにこだわっていきたい、ということですが、大輔さん自身が今後、サッカー界で活躍されるにあたって何を習得、あるいは極めていくのでしょうか。
「治療のバリエーションとか伝え方、日本で学んで続けてきたやり方とヨーロッパでのやり方を融合させて、治療範囲の視野を広げていきたいと思っています。まだまだ可能性はありますし、可能性しかないとも思っています。治療についても、これが正しい、これはダメということはないので、人それぞれです。お互いの良いところを探っていきながら、今後もやっていきたいです」

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