(改訂版)【認知的不協和理論】「ネトウヨ」と「リベラル」を分けるもの【脳の構造】/「歴史否認」「陰謀論」はどこから生まれるのか?ーー①『認知的不協和理論』とは何か?ー「人は自分の行動を正当化するために認知を変更する」

はじめに

最近「朝鮮人虐殺はなかった」「南京虐殺はなかった」「731部隊の人体実験はなかった」「大東亜戦争は侵略ではなかった。植民地ではなかった」「強制連行、強制労働はなかった」「従軍慰安婦はなかった。ただの売春婦だった」などの『歴史否認』や、「政権を批判する者は在日」「犯罪者は外国人」「批判者は中国に操られている」などの『陰謀論』が幅を利かせてきている。

松野官房長官は30日の記者会見で、関東大震災の発生時にデマによって起きた朝鮮人虐殺について「政府として調査した限り、事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と述べた。

それはどうして生まれてくるのか、心理的に考察する。


【認知的不協和理論】とは?

【認知的不協和】とは、人が自身の認知(理解・知識・信念・価値観・行動など)とは別の矛盾する認知を抱えた状態、またそのときに覚える不快感やストレスを表す“社会心理学用語”。

アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された。

それによると、人はその不快感やストレスが高まると、それを解消しようとする心理的圧力がかかり、矛盾する認知の定義を変更したり、過小評価したり、自身の考えや態度や行動を変更しようとする。

その考え方を【認知的不協和理論】という。

フェスティンガーによる認知的不協和の仮説(命題)
①不協和の存在は、その不協和を低減させるか除去するために、なんらかの圧力を起こす。
つまり、複数(通常は二つ)の要素の間に不協和が存在する場合、一方の要素を変化させることによって不協和な状態を低減または除去することができる。

②不協和を低減させる圧力の強弱は、不協和の大きさの関数である。
つまり、認知的不協和の度合いが大きければ、不協和を低減させる圧力はその度合いに応じて大きくなる。


【認知的不協和】を解消しようとするする行動

1;人は不協和があるとき、その不協和を低減・解消させるために何らかの圧力(行動)を起こす。

具体的には“古い認知”か“新しい認知”のいずれかを否定する傾向にあり、

①“新しい認知”を取り入れ、“古い認知”を変える。
②“古い認知”に拘り、“新しい認知”を否定する。

そのどちらかのことが多い。その場合、比較的「変えやすい」方の認知を変えることで、「絶対に変えられない」認知を正当化しようとする。

そして、自分のその行動(選択)を正当化するために

③都合のいい情報ばかりを集めたり、解釈を改変することで都合の悪い情報を否定したり、矮小化したりすることで不協和を低減し、解消しようとする、(合理化)

2;不協和を低減させる圧力の強弱は不協和の大きさの関数である

不協和の度合いが大きいほど、それに比例して低減させようとする圧力は大きくなる。

●『自分の価値観(行動)』と『周りの価値観(行動)』との不協和が大きいほど⋯
●『理想の自分』と『現実の自分』との不協和が大きいほど⋯

心の中の『不安・恐怖・不全感・劣等感・不快感・ストレス・怒り』が大きくなり、それを解消しようとする圧力が高まり、冷静になって客観的・論理的・合理的・体系的な思考ができなくなり、短絡的・衝動的・攻撃的・破壊的・暴力的行動をとりやすくなる。


【認知的不協和】の例

ⅰ.タバコの例

認知的不協和の例として、よく知られるのがタバコ。

認知1;自分はタバコを吸う。(行動)
認知2;タバコを吸うと肺ガンになりやすい。(新しい認知)

このとき“認知的不協和”が生じる。そこで認知的不協和を解消するためには行動(認知1)を変更して、

認知3;禁煙する。(行動の変更)

これで不協和が解消できる。

しかし、喫煙の多くはニコチンに依存する傾向が強いため、禁煙行為は苦痛を伴い、結局は「禁煙」できない人も多い。その場合は、認知2に修正を加える必要が生じてくる。そこで⋯

認知1;自分はタバコを吸う。(行動)
認知2;タバコの煙を吸うと肺ガンになりやすい。(新しい認知)←矮小化
認知4; 喫煙者で長寿の人もいる。(追加)
認知5;交通事故で死亡する確率の方が高い。(追加)

「タバコを吸い続ける」という行動(認知1)を正当化するために、認知4・認知5を付け加えることで、認知2を否認したり、矮小化しようとする。そうすることで、自分にとって都合の悪いことを見えなくする。


ⅱ.「酸っぱい葡萄」の例

また同じように、イソップ童話の中に『酸っぱい葡萄』という話がある。お腹を空かせた狐が、葡萄を食べたいのに、高い所にあるために取ることができず、諦める話で⋯

認知1;葡萄が食べたい。(欲望・理想)
認知2;葡萄を取れなかった。(失敗・現実)

この不協和を解消するために、狐は『新しい認知』を追加する。

認知3;あの葡萄は酸っぱくておいしくない。(認知の追加)

そう考え、決め付ける(認知を変更する)ことで、認知2の葡萄を取れなかったという“動かすことが出来ない事実(失敗)”を正当化し、不協和を解消しようとする。


ⅲ.「甘いレモン」の例

「酸っぱいブドウ」の対として挙げられるのが「甘いレモン」で、甘い果物が食べたいのに、やっと手に入れたのはレモンだった⋯

認知1;甘くておいしい果物が食べたい。(理想)
認知2;苦労してやっとレモンを手に入れた。(現実)

このとき認知的不協和が生じる。そこで

認知3;このレモンは甘い。(追加・思い込む)

「このレモンは甘い」と思い込む(認知を変更する)ことで、認知的不協和を解消しようとする。そうして、自分の行動を正当化しようとする。


ⅳ.地震の後に『デマ、噂、流言』が拡散する原因

人は自分の中の不協和が大きいほど、不協和を解消しようとする心理的圧力が強まり、冷静になって客観的・論理的・合理的な思考することができなくなり、感情的・短絡的・衝動的になる。そうすると⋯

●『デマ・噂・流言』を信じ込みやすくなる。
●『詐欺・マルチ商法・占い・カルト宗教など』に嵌まりやすくなる。

そうすることによって、自分の中にある認知的不協和を解消しようとする。

それが地震の後の『デマ・噂・流言』が広まる原因となる。自分の中の“不安・恐怖”を正当化するために“デマ・噂・流言”を信じ、それを吹聴・拡散することで、『自分』と『周り』の不協和を解消しようとする。

地震の後の混乱の中で、

認知1;自分の中の「不安・恐怖・ストレス」の増大。(自分の感情)
認知2;周囲の人々の落ち着き、冷静さ。平穏。(周囲の雰囲気)

「自分の感情(不安・恐怖・ストレス)」「周りの雰囲気(平穏・平和・日常生活)」の間の不協和が拡大するうちに、自分を正当化したいという防衛本能が働き、『デマ・噂・流言』を信じ、拡散し、周囲の不安・恐怖を煽ることで不協和を解消しようとする。

認知3;また大地震が来る。犯罪者がやって来る。動物園からライオンが逃げた。外国人が攻めてくる。あれは人工地震だ!(妄想・認知の追加)

つまり、自分の心の中の「不安・恐怖・ストレス」が大きいほど『デマ・噂・流言』を信じ込み、それを拡散し、周囲の不安を煽ることで『自分の感情』を正当化しようとする。

Leon_Festinger(en.wikipedia)


ⅴ.洗脳

①カルト宗教

認知1;教祖の予言「✕月○日、地球が滅びる。信者だけが救われる」
認知2;教祖を信じ、家・財産を売って、高額な献金をする。
認知3;しかし、予言が外れ、何も起こらなかった。

このとき認知的不協和が生じる。

このとき、もし認知2が少額であれば、「騙された」と信者を辞めれば良い。⋯しかし、全財産を処分し行く所がない場合、不協和を解消する手段として、“新しい認知4”を追加する。

認知4;教祖の力によって、危機を避けることができた。教祖は正しく、神の生まれ変わりである。宗教(教義)を広めることが人のため、国のためになる。(認知の追加)

つまり、行く所がなく、教団に残るという行動を正当化するために新しい認知を追加する。


②ブラック企業

認知1;きつい、長時間、パワハラ、サービス残業。
認知2;低賃金。
認知3;生活の為に金が必要。経営者に借金がある。他に行く所がない。

このとき認知的不協和が生じる。

このとき、例えば、賃金が高ければ、不協和は低く我慢ができるのだが、それは到底無理そう⋯。そうすると不協和を解消するために新しい認知を追加する。

認知4;この仕事は人のためになる。自分の将来に役に立つ。やり甲斐がある。(認知の追加、やりがい詐欺)

そうして自分の「仕事を続ける」という行動を正当化する。


つまり共通して、「カルト宗教」も「ブラック企業」も、物理的にも精神的にも逃げられない状態の中で、教祖・経営者に《服従する》ことを選択するようにコントロールされている。


③体罰・虐待・DV

それは『体罰・虐待・DV』でも同じように、親・配偶者や教師・指導者に『逃げられない状態』の中で、殴られていることを正当化するようになる。

認知1;親に甘えたい。愛されたい。認められたい。(願望)
認知2;親に怒られる。叩かれる。否定される。(現実)

このとき認知的不協和が生じる。そこで、この不協和を解消するために、新しい認知を追加する。

認知3;自分が悪いから殴られているんだ。親は自分を愛しているんだ。悪い奴は叩かれて当然なんだ。(認知の追加)

そうして、いつの間にか体罰を正当化するように認知を変更する。

認知4;子供は体罰によってまともな大人になる。甘やかすと非行に走る。子供は叩き続けなければならない。体罰によって我慢強い人間に育つ。思いやりのある人間に育つ。(認知の歪み、体罰の正当化)

そうして『認知の歪み』が生じる。


【認知的不協和理論】と脳の活動

『保守』と『リベラル』

    【認知的不協和理論】

1;人は自分の行動を正当化したい生き物。自分の行動を正当化するために認知を変更する。
2;人は「認知的不協和状態」を嫌い、一番動かし難い「認知」を正当化するために、他の認知を変更する。

人は、自分の行動の正当性するために、認知を変更する。そして、「自分の行動は正しい」と主張するために、他者の行動を批判する。

人は、自分が育った環境を正当化するために「昔は良かった。今の若者は⋯⋯」と言いたがる。そして、他者に対して声高に「あいつは我儘だ。自分勝手だ。甘えている。考えが足りない」と批判することは、暗に「自分はそうではない。自分は正しい」ということを周りに主張しているのである。

それはつまり、「自分という存在を正当化したい。認められたい。否定されたくない」という心理的メカニズムが働いている。

人は行動を正当化するために認知を変更する。

例えば、日常的に体罰を受けて育ってきた人間は、いつの間にか体罰を正当化するようになる。そして、体罰を正当化するために認知を変更し、都合の悪い認知は無視する。

『奴隷社会』の中で育った奴隷は、『奴隷制度』を支持し、自分が『奴隷』であることを正当化する。『差別、学歴社会、受験競争、男尊女卑、慣習、宗教⋯』の中で育ってきた人は、それを肯定し、その制度を守ろうとする。


しかし、その硬直した社会体制の中で徐々に歪み・矛盾が拡大していくと、いずれその制度に反発する者が出てくる。例えば、スポーツで体罰を受けてやって来た人でも、徐々に歪みが拡大していくとともに、体罰に賛成な人と、反対の人に分かれる。その体制を守ろうとする者と、反抗し、改革していこうとする者が出てくる。

その『個人差』はどこから生まれてくるのか?


『個人差』は、どこから生まれるのか?

例えば、『国旗国歌』や『靖国神社』や『特攻』に対してどう感じるか?

①:感動し、敬意を示す。
②:何も感じない。
③:嫌悪感を示す。

その違いはどこから生まれてくるのか?

それは“自分の行動を正当化するために認知(感情・好み・価値観)を書き換えている”のである。そしてまた、それは自分かどう生きてきたか?また、どう生きたいかを反映している。

●『国家権力』に対して、「同一化(依存・服従)」している人は『国旗国歌』や『靖国神社』や『特攻』に対して感動し、敬意を示す。【権力志向】
●『国家権力』に対して、「独立(自立・反抗)」している人は、『国旗国歌』や『靖国神社』や『特攻』に対して嫌悪し、敵意を示す。【反権力志向】

そして、自分の「国家に服従する」という“動かし難い行動”を正当化するために認知を変更していく。

例えば、⋯

●「国家に服従する」という行動と、「国は悪いことをする。侵略・虐殺を行った」という事実は不協和(矛盾)が生じる。そこで、「日本は悪いことはしていない。それは外国の捏造だ」と歴史修正主義を信じることで、不協和を解消する。
●「国家に服従する」という行動と、「特攻は犬死だった。意味がなかった」では不協和(矛盾)が生じる。たから「特攻は敵に重大な損害を与えた。特攻のおかげで今の日本の平和・繁栄がある」と認知を書き換える。
●「国家に服従する」という行動と、「国旗国歌の強制は良くない。自由で良い」というのは不協和(矛盾)が生じる。だから、国旗国歌を強制するために認知を書き換える。
●「国家に服従する」という行動と、「体罰・管理・競争は体や脳に良くない。これが非行や自殺の温床になっている」という事実は不協和(矛盾)が生じる。だから体罰・管理・競争を否定する『ゆとり教育』や『個性・自主性の尊重』や「1番でなくてもいい」という主張に対して嫌悪し、批判・攻撃する。
●⋯⋯⋯(以下略)

そうして『認知的不協和状態』を解消し、「国家に服従する」という自分の行動を正当化しようとする。

それは「教祖に服従する(カルト宗教)」「親分に服従する(ヤクザ)」「経営者に服従する(ブラック企業)」も同じ。そこでは「教祖は正しい。自分は正しい」と思い込んでいる。


『個人差』が生まれる仕組み【脳の構造】

認知的不協和が拡大したとき、それを解消するためにどう行動するか?どういう選択をするのか?そこで、人それぞれに『個人差』が出てくる。

そして、その分かれる原因として、【脳の構造】が大いに関係している。

【認知的不協和】が拡大し、それを解消しようとするとき、その人の脳内では、行動(欲望・意欲)を司る本能=『線条体』と、思考(葛藤・選択・判断)を司る理性=『帯状回前部・前頭前野外背側部』が活発に働いていている。

そしてその〘本能=線条体(報酬系)〙〘理性=帯状回前部・前頭前野外背側部(前頭葉)〙の力関係が個性として表れてくる。

『前頭葉』と『報酬系』の力関係で「何を選択するか」が決まる。

例えば、まだ脳(前頭葉・理性)が十分に発達していない子供は、「親に甘えたい。構ってもらいたい。認められたい」という本能・欲望に対して、親の虐待・ネグレクトや過干渉によって、【認知的不協和】を引き起こし、それを解消するために様々な問題行動(非行・いじめ・反抗・癖・病気)となって表れる。

そして、それは大人でも同じようなことが起きている。

例えば、物事を進める上で、
・問題が起きたとき、
・自分の思い通りに行かないとき、
・他者と意見が衝突したとき、
・失敗してしまったとき、
など、【認知的不協和】が拡大したとき、どう行動するのか?

そのことが、『政治的スタンス』の違いとなって表れてくる。

①「自分は間違っていない。他者が悪い」と考える。【他責思考】
②「自分にも責任がある。行動を改めよう」と考える。【自責思考】

①自分の考えに固執し、他の意見を排除しようとする。
②自分の未熟さを自覚し、積極的に他の意見を取り入れる。

①規則ルール、校則など、厳密に取り決め、それを人に強制する。
②ある程度自由に任せる。個性・自主性を尊重する。

①国家権力側に立って批判者・少数者・弱者を叩く。差別する。【権力志向】
②少数者・弱者側に立って国家権力を追及する。反対する。【反権力志向】

①「経済成長第一主義」で自然開発・破壊を進める。
②「自然との共生」を掲げ、持続可能社会を目指す。

など

それらの違いはどうして生まれるのだろうか?



注:これは前回の旧①を改訂したものです。(2024/02/06)
改①< 改② 


以下、改訂前のもの(旧)

①< ②< ③< ④< ⑤< <⑥ <⑦

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