第9回 劇場版『閃光のハサウェイ』第一部の個人的注目シーン集 前半【考察】
始めに(注意書き)
はじめましての方ははじめまして。そうではない方はお世話になっております。吹井賢です。
コラム『吹井賢の斜に構えて』第9回は、ネット配信も開始されました、映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第一部の個人的な注目シーン集です。
ハロウィンも近いしね!
最初にお断りをば。
※今回のコラムには映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第一部のネタバレが含まれます。原作及び、他のガンダムシリーズのネタバレも含まれる可能性があります。
※なお、このコラムで記述する本編時間はバンダイチャンネルでの再生で確認したものです。Blu-ray等の映像媒体とは異なる場合があります。
※また、下記の内容は吹井賢の考察に過ぎません。ご了承ください。
それでは始めます。
劇場版『閃光のハサウェイ』がめっちゃ良かったって話
吹井賢は『閃光のハサウェイ』を劇場で視聴し、心底に感動し、仕事帰りに見に行ったのですが、劇場から出た後、スーツの上着を脱いで『閃光』を聞くという「お手軽なハサウェイごっこ」をしつつ帰りました。
(『ジョーカー』見た後に影響されて階段で踊る奴かよ)
Blu-rayも買いましたし、このコラムを書くにあたって、バンダイチャンネルで視聴したのですが、見るのは5回目です。
劇場で1回、Blu-rayの本編で1回、Blu-rayのオーディオコメンタリーで1回、友達と一緒に見て1回、これで5回目。
村瀬監督をはじめとするアニメ化スタッフは本当に素晴らしい仕事をされたと思います。
……が、とは言え、元が富野由悠季作品であって、それはニアリーイコールで「分かりやすいストーリーではない」「全部を説明しない」ということでもあって、一度見ただけでは真意が読み取れないシーンもあります。
スタッフのちょっとした拘りが見えるシーンも多く、配信も開始されたことから、「是非皆さんも見直して欲しい!」という気持ちで、このコラムをしたためる次第です。
では、そろそろ吹井賢の個人的注目シーンの紹介していきたいと思います。
~1:00頃 「ハウンゼンを護衛しているMS」
『閃光のハサウェイ』は、政府高官や特権階級が利用する高級便「ハウンゼン」がハイジャックされるシーンから始まるのですが、宇宙空間では、しっかりとMSの護衛が付いています。
パッと見た感じ、ゲタ(ベースジャバー)に乗ったジェガン。
「ずっと護衛してくれてたらハイジャックも起きなかったのに」という感想を抱きそうですが、ベースジャバ―&ジェガンで大気圏外から地球に突っ込んだら摩擦熱でオーバーヒートして死ぬだけ(宇宙世紀では「大気圏内に単独突入できる」がMSの長所となり得るくらいには難しい)なので、大気圏外と大気圏内で護衛が交代するシステムなのでしょう。
あ、ちなみに『逆シャア』のアムロの台詞を踏まえて「摩擦熱でオーバーヒートする」と言いましたが、どうも、大気圏突入する機体が高温になるのは摩擦熱じゃなく断熱圧縮熱らしいです。
2:40頃 「『そんなだから左手の指輪を外すことになったのかなあ?』という台詞」
ギギ・アンダルシア(以下「ギギ」)が、ケネス・スレッグ(以下「ケネス」「大佐」)の素性を言い当てるシーンですね。
凄く冨野節っぽい言い回しですが、原作にはない台詞です。
「左手の指輪を外すことになった」≒「ケネスは結婚していた時期がある(離婚している)」という意味ですね。
原作だと、ケネスはトイレでネクタイを締め直しながら、「なんでアイツ(≒元嫁)はこんないい男と別れたんだろ」と考えていたりします。
トイレの鏡で自画自賛できる程度には良い男ってわけですね。実際、CVである諏訪部順一氏の演技も相俟って、滅茶苦茶に色気のあるカッコいい大人です。
余談ですが、原作通りならば、ケネスがこのシャトルに搭乗している理由は「マフティーに対処する為に一刻も早く地球に下りたかったから」「地球に向かう一番早い便がこの高級便だったので軍の力で乗せてもらった」ということらしいです。
3:25頃 「『世間はみんな、マフティーが好きみたいですよ?』という評価と、後半の描写」
ギギは「世間はマフティーを支持している」と言いますが、物語後半では、モブの一般人が「クソテロリスト」と吐き捨てたり、タクシーの運ちゃんから辛辣な評価を下されたり(そしてハサウェイは凹む)と、「本当に世間はマフティーのこと、好きなのかなあ?」と思わせる場面が多く出てきます。
恐らく、連邦の腐敗への反動としてマフティーを支持する層がいる、「シャア・アズナブルが生き返った」と思う人々≒地球サイドへの不満が蓄積しているコロニー側では支持されている、ということでしょう。
事実として、マフティーの軍隊を名乗る連中がオエンベリに集まってきたりしているわけで、皆が皆、支持しているわけではないが、かなりの影響力があると感じられます。
そして、ハサウェイ・ノア(以下「ハサウェイ」)にも、その影響を制御できていない状態なのでしょう。
4:25頃 「破壊された監視衛星」
さて、そろそろハイジャックシーンなのですが、その前にハウンゼンのパイロット達の会話が挟まれます。
「監視衛星のようだな」(本編4:25頃)
「マフティーの仕業でしょうね」(同上)
そうして、「オセアニア空域に穴が空いた」とも話しています。
何故、偽マフティーはハイジャックをできたのか、の説明です。
先に述べたように、大気圏外の護衛はシャトルの大気圏突入前に離脱しますが(作中でも離脱していくジェガンが描かれている)、通常の状態ならば、大気圏内のハイジャックは容易ではなかったでしょう。しかし、本物のマフティーが監視衛星をぶっ壊しているので、監視網に穴ができていた。
偽マフティーは、大気圏外・大気圏内で護衛が変わる合間、監視衛星の存在しないオセアニア空域、という、時間と場所の二つの空白を狙ってハイジャックを起こしたようです(あのかぼちゃマスク、存外に賢いな)。
当然のことながら、「そもそもマフティーは何故、監視衛星を壊したのか?」という疑問も出てきますが、「テロを行いやすくするため」「クシィーの受領を行う予定だったため」辺りでしょうね。
5:28頃 「ケネスが手を洗っている機械」
ケネスはあの後にトイレに行ったらしく、手を洗っていますが、なんか球状の謎の機械で洗浄しています。
多分、無重力状態でも使えるようにデザインされた洗面所なのでしょう。現実にもあるのかな?
……こういうSF的な小物、好きな人も多いのでは?
6:40~ 「ハイジャック犯、及び、ガードマンやケネスの使っている銃」
前にガンダム世界での銃器についてコラムを書きましたが、『閃光のハサウェイ』の場合も銃は現実に即したものです。
上述の手洗い器とは逆に、ハイジャックシーンでは、SF的な未来性よりも「観客が一目見て『銃』と理解できる分かりやすさ」を重視しているようですね。
8:25頃 「機内を歩く偽マフティー」
公式の冒頭公開で心を奪われたシーンですね。
ネットミームとして「カッコいい曲に合わせて謎のダンスを踊ってる奴」という認識が一般的なかぼちゃマスクですが、コイツが機内を歩く様を後方上空から描くカットが滅茶苦茶にカッコいい。
出番がここしかない、ただの偽物とは思えないカッコよさ。演出の妙でしょうか?
なんでしょうね、声質も演技も良いんですよね。
ザラついた感じの声での「なんだコイツ?」という台詞、凄くいいですよね。
10:30頃 「喋り過ぎた保健衛生大臣、死亡」
何故か全く分かりませんが、ふたばでは大人気な保健衛生大臣、ハイラム・メッシャー氏が射殺されます。
何が驚きって、この人にフルネームが設定されてること。
あと、奥さんの嘆きから察するに、少なくとも夫婦仲は良かったようです。
ネットで感想を漁っていると、「なんで保健衛生大臣はあんな余裕そうに喋ってたんだろ?」的意見が散見されます。
原作では「議会のような鷹揚な喋り方がハイジャッカーの神経を逆撫でした」という風に説明されていますが、吹井賢は保健衛生大臣の態度も分からなくもなく、というのも、かぼちゃマスクは身代金が目的≒自分達を殺してしまえば人質はいなくなり交渉ができなくなるので身の安全は保障されている、と考えたのではないでしょうか。
……問題は、人質は他にも沢山いることなんですけど(一人くらい死んでも交渉に支障はない)。
12:50頃 「ハサウェイの飛び腕十字固め」
序盤の見せ場ですね。
何を思ったかハサウェイ(※結論を言うと偽者の横暴にキレただけ)、ハイジャック犯へ反抗を開始し、見事なCQCを見せてくれます。
かぼちゃマスクがやられた、ホールドしてある敵の拳銃を掴んでそのまま発砲し相手の脚を打ち抜く、は明らかに軍用格闘術の技です。ないとは思いますが、拳銃を携帯する際はお気を付けください。
「飛び腕十字固め」と書きましたが、見返すと、飛び付いて奥襟周辺を掴んで投げ飛ばした後に腕十字に移行しているので、飛び腕十字じゃないですね、これ。
どういう名称の技か、ご存知の方はお教えいただけると幸いです。
14:20頃 「風に靡くギギの髪」
ケネスは「勝利の女神」と呼称していますが、『ファム・ファタール』と呼んだ方が近そうなギギ・アンダルシア。
彼女の見せ方は非常に難しく、うっかりすると「ただの感情を制御できない子ども」や「空気の読めないムカつく女」、「何言ってるか分からない奴」になりかねないキャラクター性だからです。
捉えどころのなさはありつつも、あくまでも視聴者に嫌われず、作中の人物に好かれて納得できるような、魅力的に描かれなければいけない。
その為なのか分かりませんが、ギギの長髪の描き方は病的なまでに綺麗です。
作画監督の人が髪フェチなんじゃないかと思ってしまうほど。
21:10頃 「言葉で人を殺せる」
「楽しい、か……。だけど、言葉で人を殺すことができるということは、覚えておいて欲しいな。これは比喩ではないよ」(22:00頃)
ハサウェイの台詞ですね。
自分がマフティーだと言い当てられる場面での言葉なのですが、演出の妙が光るのは、21:10頃。
画面の焦点が手前にいるハサウェイではなく、奥で立っている警備員らしき二人の黒いスーツの男に合わせられています。
つまり、警備(連邦サイド)の人間が傍にいる≒そんな場所で「あなたがマフティーの正体でしょ?」と言われると困る、ということであり、そういう意味での、「比喩ではなく言葉で人を殺せる」なのです。
これにギギは酷く狼狽し、「他人には言わない」と話し、実際に言わなかったわけですが……。
24:50頃 「タクシー内でのハサウェイとギギ」
自然に身を寄せてくるギギとスカートから見える脚のセクシーさに、思わず目を奪われてしまいますが、直後の、
「危険になるのはもっと嫌だから、喋らない」(24:55頃)
という、ギギの耳元で囁くハサウェイは更にセクシーですね。
ASMRかよ、とツッコみたくなります。
ちなみにハサウェイ役の小野氏、こういったセクシーな演技については、諏訪部氏に助言を頂いたとか、なんとか。
気になる方はBlu-rayを購入しオーディオコメンタリーをご確認ください。
27:00頃 「『マフティーのやり方、正しくないよ』」
予告でも使われた印象的な台詞ですね。
当のマフティーであるハサウェイは、「他のやり方があるならマフティーは教えてくれって訊くよ」と、自分の選択が必ずしも正しいわけではないこと、行動に葛藤があることを伺わせる返答を行います。
対し、ギギは「絶対に間違わない独裁政権の樹立」と応じ、ハサウェイは笑って、「それができる人間がいるとすれば神様だ」と返します。
「腐敗した民主主義と清廉な独裁制はどちらが良いか」という、SFの一つのテーゼに触れていますね。『銀河英雄伝説』などはまさにこれが主題と言えるでしょう。
ただし、ハサウェイはもう少し現実に即した考え方をしているようで、「そんな人間(≒神様のように間違わない存在)が出てくる頃には人類がみんな、神様になっている」(そんなことはありえないだろう?)と、遠回しに否定します。
しかし、これはガンダム。
ギギは「それがニュータイプってこと?」と言い、今度はガンダムにおける伝統的なテーマである「人は争いをやめることができるか」「人類の革新とは何か」に触れています。
ただ、ハサウェイは「そんなのはいないよ。学校で教わっただろう?」と、こちらも否定。
ファンネルミサイルを使えている以上、ハサウェイは紛れもなくニュータイプなのですが、「サイコミュ兵器を使えること」は本来的なNT論からはズレており、特に、ハサウェイは逆シャアにおいて人の分かりあえなさを目の当たりにしているため、否定的なのでしょう。
この辺り、『ベルトーチカ・チルドレン』版の描き方を見ると、印象が変わるんじゃないでしょうか。
また、「『ニュータイプなんて存在しない』と学校で教わる」という情報は、『ガンダムUC』やその補足作品である『獅子の帰還』とも矛盾なく成立します。
※ラプラス宣言について地球連邦政府は認めることはなかった。
またF91においては、「昔、ニュータイプって奴が…」と語られますが、その文脈におけるニュータイプは『撃墜王』と同義です。
ニュータイプの存在、また、人類の革新に関する思想は、意図的に抹消されていったということが推測されますね。
今日はここまで
本当は最後までやるつもりだったのですが、もう記事が5000文字を超えているため、残りは後日とします。
後半の戦闘シーンの見どころなんかは、解説されている方も多いので、僕が改めて触れる部分は少ないでしょう。
……多分。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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最後に宣伝!
しかしねぇ、私達作家としては、本を買ってもらわなければ生活が成り立たないのだから……。
よく喋る!
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