第17回 『この空の上で、いつまでも君を待っている』感想【レビュー】
始めに(注意書き)
はじめましての方ははじめまして。そうではない方はいつもお世話になっております、吹井賢です。
コラム『吹井賢の斜に構えて』第17回は、僕こと吹井賢の敬愛すべき動物作家の先輩(なんだそれ?)、こがらし輪音先生のデビュー作、『この空の上で、いつまでも君を待っている』のレビューです。第24回電撃小説大賞において大賞に輝いた作品です。
最初にお断りをば。
※今回のコラムには『この空の上で、いつまでも君を待っている』のネタバレが含まれます。
※下記の内容は吹井賢の感想に過ぎません。
※なお、何故こがらし先生の作品をレビューすることにしたかと言えば、深い理由はありません。
(「次は先輩の作品をレビューしよう」と考え、こがらし先生との、まさにDEATH☆ゲーム[早い話が、遊戯王での勝負]に負けた結果、こちらの作品を読もうと決めました。)(あと、「普段読まないジャンルの作品のレビューをしたかった」)
それでは始めます。
『この空の上で、いつまでも君を待っている』あらすじ
公式のあらすじは以下の通りです。
時雨沢恵一氏のコメントはこんな感じです。
実のところ、「この作品をレビューしよう!」と決めた一番のポイントはここで、というのも、僕は小説で騙されることが好きなんですよね。
なので、かなり期待して読み始めましたし、その期待を下回ることはなかった、と断言しておきます。
そして、未読の方は絶対にこのレビューを読まないでください。
これは確信を持って言えますが、この作品はネタバレを踏まずに読んだ方が確実に面白いですし、吹井賢は時雨沢先生のコメントで「へー、なんか騙されるんだなー」くらいの知識で読み始めましたが、それぐらいに留めておいてください。
……いやまあ、前回(『鏡の向こうの最果て図書館』)に引き続き、あらすじでちょっとネタバレされてるんだけども。
ネタバレなしの魅力紹介
この作品はジャンルを述べることが既にネタバレになってしまいかねないので、ネタバレ抜きにオススメすることが物凄く難しいのですが、それでも一つ、魅力だと言えるのは、語り手である市塚美鈴の心境の変化でしょう。
物語冒頭、市塚(作中に倣って苗字呼び)は、このように独白しています。
言葉を選ばずに印象を述べるなら、「小賢しい高校生」だと思います。
もっとシンプルに、こんな風に述べている場面もあります。
僕は、「人生がつまらないと思うのは、自分がつまらない人間であるから」という哲学を持っているため、小賢しい奴だなあ、という印象を抱いたわけですが、市塚美鈴という「斜に構えた感じの高校生」の内面描写は非常に秀逸かつ丁寧で、共感できる人も多いのでは?とも思いました。
吹井賢も時折、こういうスレた感じの学生を書くのですが、ここまでリアリティーがある風には描けませんね……。作者の力量の差と言わざるを得ないでしょう。
そんな「自分以外が全員バカ」とまで言い切る市塚ですが、こんな風に言ってみたりもします。
続けて、「――私の好きなものって、何なんだろ。」と。
……こうやって悩まれると、好感を抱いちゃいますよね。
何処までも等身大な彼女の変化は、この作品の見どころの一つだと思います。
総合評価(※ネタバレあり)
オススメ度:☆☆☆☆☆
お気に入り度:☆☆
今回紹介する『この空の上で、いつまでも君を待っている』のオススメ度は満点、☆5です。
はっきり言いますが、面白いです。
「なるほど、これが《大賞》のクオリティーか……」と思い知らされました。
逆にお気に入り度は☆2です。
理由は単純で、吹井賢は泣ける全般が苦手だから。
(吹井賢、『グリーンマイル』を映画史に残る傑作だと思っているのに、「泣くのが嫌だから」という理由だけで二度と見ないと決めているくらいには泣ける話が苦手です)
これは吹井賢がミステリ好きだからそう思うのかもしれませんが、この『この空の上で、いつまでも君を待っている』という作品は、明らかに推理小説の構造で造られています。
恐らく、終盤の展開とキャラ設定を決め、そこから逆算する形で物語が紡がれているので、綺麗にピースが嵌まっていくし、良い意味でキャラが反転するし、時には台詞の意味が変わったりする。
時雨沢先生の言葉を借りれば、「騙される」。
この東屋の言葉を僕は気に入ったのですが(前向きや損得はともかく、『現実』という言葉を『悪い側面』という意味で使うのは誤りだと思います)、しかし、終盤まで読んだ後だと、彼の「いいもダメも全部ひっくるめて”現実”」という台詞の意味合いが違ってきます。
終盤、東屋はキャッチコピーでもある、「全部この一瞬のためにあったんじゃないかって、そんな気がするんだ」という言葉を市塚に対し告げますが、上述の台詞は、ここに繋がるロングパスになっていると感じます。
東屋智弘というキャラクターの心理と背景が明らかになり、それまでの何気ない一言や仕草が伏線だったと気付かされる瞬間、斜に構えていた市塚が一気に変わり始め、二人の関係性が縮まっていく道程。
しかし、残された時間は、あまりにも少ない。
……多分、普通は衝撃を受け、感動し、涙を流すところなのですが、吹井賢はただただ感心してしまっていました。
「そうくるか~~~ッ!!」という感じで。
(素直に感動しとけよ)
この作品、『この空の上で、いつまでも君を待っている』は、「『対比』と『成長』」がテーマになっていると思います。
『ガラクタの王様』である東屋智弘と、斜に構えた高校生である市塚美鈴との対比は見事です。
そして、市塚の成長で見過ごしがちなのですが、東屋も「今この瞬間も成長し続けている」。
悟ったキャラクターではないのが魅力の一つでしょう。
また、先述した「人生って、つまんない」についても、中盤では、
と、考えを改めています。
その上で、「いなくても困らない」と独白していた友達に協力を仰ぐ様は、彼女の確かな成長を伺わせます。
対比について、最も秀逸なのは、タイトルにもなっている「この空の上で、いつまでも君を待っている」でしょう。
当初は、宇宙人から東屋へのメッセージ。
それが終盤では、東屋から市塚への最後の言葉となる。
そして、エピローグでは、宇宙人となった市塚から東屋への約束になり、「いつまでも待っている」の答えとして、「ただいま」という再会を祝い合うものへと変わる。
このレビューを読んでくださった皆さんには、「死んででも見たい何か」はありますか?
どうしても伝えたい言葉がありますか?
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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最後に宣伝!
この本って、『夢』もテーマの一つだと思うのですが、吹井賢は夢について語ろうとすると、
「俺には夢はない。でも、誰かの夢を守ろうとすることはできる」
と、変身してしまう呪いに掛かっているため、あまり言及しないでおきました。
(小説家は夢ではなく、趣味の延長)
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