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【取材報告】近大の世耕弘成理事長は「剣道部員死亡事件」をどう受け止めているのか?

割引あり

林真理子氏に厳しく、世耕弘成氏に寛大なメディア

 なぜ、世耕氏は、メディアから叩かれることなく、放置されているのか?

 10月に近畿大学剣道部の部員が別の部員に暴力を加えて死なせ、逮捕される事件があったが、この事件に関する報道にそんな違和感を覚えた。

 折しも、日本大学アメリカンフットボール部の大麻使用事件をめぐり、日大の理事長を務める作家の林真理子氏がメディアに叩かれまくっていた。それに比べ、近大の理事長を務める自民党参議院幹事長の世耕弘成氏に対するメディアの態度が寛容過ぎるように思えたのだ。

 ここで実際、林氏と世耕氏に対する報道を比べてみよう。

 まず、林氏に関する最近の報道は次のような感じだ。

アメフト部薬物事件、林真理子・理事長を「当事者意識を持たなかった」と批判…日大の第三者委員会の報告書を公表(読売新聞オンライン2023年10月31日

林理事長の対応「著しく不適切」 日大第三者委指摘、処分にも言及(朝日新聞デジタル2023年10月31日

日大第三者委「林理事長ら統治機能不全」 違法薬物事件(日本経済新聞2023年10月31日)

「危機管理体制まったく築かれず」林真理子理事長らを批判 日大薬物事件で第三者委(産経ニュース2023年10月31日

日大ガバナンス「機能不全」 林理事長らの規定違反も―第三者委が報告書公表(時事ドットコム2023年10月31日

 こうしてネット上の記事の見出しにざっと目を通しただけでも、林氏に対する報道はいかにも手厳しい。こうした報道に触れ、林氏について、いい加減な人物であるような印象を抱いた人も少なくなったろうと思われる。

 実際問題、日大のホームページで公表された第三者委員会の報告書(全文)(要約)を見ると、アメフト部の大麻使用事件をめぐり、林氏を含めて日大の関係者たちには様々な不手際があったようなので、理事長の林氏がメディアに叩かれるのは仕方ないかもしれない。とはいえ、報道を見る限り、林氏は大学のトップとして矢面に立ち、問題解決のために努力しているように見える。個人的には正直、林氏に対する報道の批判は厳し過ぎるように思う。

 一方、世耕氏はどうか。

 近大の発表や報道によって剣道部の部員の死亡事件が発覚したのは10月18日のことだが、世耕氏はそれ以来、公の場でこの事件に何一つ言及していない。そしてメディアはそんな世耕氏に対し、この事件に関する追及を一切行っていない状態だ。そもそも、この事件と関連づける形で近畿大学の理事長が世耕氏であることに言及した報道すら一切見当たらないので、世間一般的には、世耕氏が近畿大学の理事長であることすら知らない人がほとんどだと思われる。

 この間、世耕氏は参議院本会議の代表質問で岸田首相に苦言を呈するようなことを言い、けっこう注目を集めたが、報道上で世耕氏の言動が大きく取り上げられたのはそれだけだ。この間の世耕氏本人のX(旧ツイッター)での投稿を見ても、何事もなかったように政治家として平常通りの活動を続けている印象だ。理事長を務める近大の剣道部員の死亡事件のことで、心を痛めたり、悲しんいる様子は見受けられない。

世耕氏がXで10月24日に行った投稿
世耕氏がXで10月25日に行った投稿

 林氏と世耕氏、どちらが理事長として自分の大学の運動部の不祥事に真摯に対応しているかと言えば、少なくとも外形的には、林氏だ。しかし、メディアから叩かれているのは、林氏のほうなのだ。

近大広報室を通じ、世耕氏に取材を申し入れ

 ここで、誤解なきように断っておくが、近大剣道部の事件に関する世耕氏の言動について、私は現時点で批判的な思いは抱いていない。なぜなら、表面的には、この事件に「我関せず」の態度をとっているように見える世耕氏だが、実際には、私の知らないところでこの事件のことを嘆き悲しみ、ご遺族をはじめとする当事者に寄り添った何らかの誠意ある行動をしている可能性も否定できないからだ。

 今、ここで私が言いたいのは、日大アメフト部の事件のことで林氏のことを叩きまくっているメディアが、世耕に対しては近大剣道部の事件のことを何ら追及せずに放置しているのはバランス的におかしいのではないか、ということだ。

 日大については、2018年のアメフト部の悪質タックル事件や、前理事長の脱税事件など、今回の大麻使用事件以前にも色々不祥事があったので、「日大はそのぶん余計に批判されているのではないか」と思う人もいるかもしれない。しかし、近大も今回の剣道部員の死亡事件以前、2017年にテニスサークルの学生が一気飲みをして死亡した事件があり、「不祥事が続いている」という点も両大学は共通している。

 たとえば、仮にメディアが林氏と世耕氏の扱いに差をつけるにしても、本職は作家である林氏より、本職は国会議員であり、かつ政権与党の実力者である世耕氏に対して厳しい態度を示しているのであれば、「メディアは権力監視の観点からそのような報道をしているのだろう」などと考えてみることもできる。しかし、今回はそれがまったく逆になっているわけで、メディアが林氏だけを叩き、世耕氏のことを放置していることに、正当な理由があるようには思い難い。

 ありていに言えば、メディアは叩きやすい林氏は遠慮なく叩き、世耕氏のことは批判しづらいので、批判を控えているのではないか。私には、そう見える。

 ……とまあ、私自身もこんなことを社会の片隅でグチグチ言っているだけでは無益だ。そこで、近大を通じ、世耕氏に対し、今回の剣道部員の死亡事件及び2017年のテニスサークルの一気飲み事件について、どう受け止めているかを質してみたところ、近大から回答が届いた。

 私と近大のやりとりは以下にまとめ、最後に私の見解も短く添えた。300円という有料設定にしたが、ツイッターで拡散すれば無料で読めるようにした。関心のある方はぜひご一読頂きたい。

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