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シナリオ獄中面会物語7 分冊版第15話:山田浩二死刑囚(寝屋川中1男女殺害事件)

 実在死刑囚たちに対する私の面会取材の記録について、漫画家の塚原洋一先生が漫画化してくださった電子書籍『マンガ「獄中面会物語」』(発行/笠倉出版社、企画・編集/伊勢出版)の分冊版9~15話のうち、今回は第15話の山田(現姓・溝上)浩二死刑囚(寝屋川中1男女殺害事件)との面会のシナリオを紹介します。

 この事件は、2015年8月の発生当初、中1の男女2人が顔などをガムテープでグルグル巻きにされた無残な他殺体で見つかり、社会を震撼させました。その犯人である山田浩二死刑囚は、未成年の少年たちに対する監禁・傷害など多数の前科があり、逮捕後も裁判中に自ら2回も控訴を取り下げて死刑を確定させるなど、特異な言動を繰り返しました。

 この山田死刑囚の思考や性格、人間性については、面会や文通をしてみても理解しがたいところがありましたが、漫画では、その理解しがたいキャラクターがかなり現実に近い感じで再現されているように思います。

 シナリオを読み、関心を持たれた方はぜひ漫画もご一読下さい。

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シーモア

〇 山田浩二の顔写真

片岡のN「本人と会って言葉を交わしても、理解するのが難しい殺人犯がたまにいる。寝屋川中1男女殺害事件の山田浩二はその最たる存在だった」

出典クレジット「山田浩二本人のFacebookより」


〇 大阪拘置所・外観

T「2019年2月8日 大阪拘置所」


〇 大阪拘置所・面会室

  山田、ニコニコしながら面会室に入ってくる。

  上はライトグレーのライトダウンジャケット、下はグレーのスウェットという服装。

  身長は160センチ台前半。頭は坊主で、頭髪は黒い。

  たくさんの書類を入れた手提げかばんを持っている。

片岡「はじめまして」

山田「どうも」

  と言って座ると、手提げかばんに入れていた書類の山(ヒモで編綴したA4の書類の束がいくつもある)を出し、アクリル板の向こう側で積み上げ始める。

片岡「……」

山田「…あれ…あれ…」

  と戸惑いながら、書類を積む順番をあれこれと入れ替える。

片岡「その書類は積み方に何か決まりがあるのですか」

山田「い、いや、そ、そうじゃなくて、メ、メモする紙、持ってきたはずなんですが……」

  ※山田はどもりがきつい。

山田「…ああ、あった」

  と、うれしそうに書類の中からメモ用の紙(A5くらい)を一枚、手に取る。

片岡のN「山田がメモ用の紙を見つけた時、20分程度しかない面会時間はすでに数分過ぎていた。やはり変わった人物だな――それが山田に対する第一印象だった」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版15話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 T「山田が社会を騒がせる事件を起こしたのはこれより3年半ほど前に遡る」


〇 物流センターの駐車場(夜)

T「2015年8月13日 大阪府高槻市」

片岡のN「事件は、物流センターの駐車場で若い女性の遺体が見つかり発覚した。遺体は、両腕を後ろ手に回されたうえで両手首を粘着テープで縛られ、顔面にも粘着テープが何重にも巻かれ、手足や胸腹部に多数の刺傷がある無残な状態だった」


〇 平田奈津美さんの顔写真

片岡のN「同18日になり、大阪府警は女性が寝屋川市の中学1年生、平田奈津美さん(当時13)と判明したと発表。平田さんは遺体で見つかる前日の夜、同級生の男子生徒と行動を共にしていたが、2人一緒に行方不明になっていた」


〇 星野遼斗くんの顔写真

片岡のN「府警は翌19日、広く情報を集めるため、公開捜査に切り替える。各マスコミはそれに伴い、その男子生徒・星野凌斗くん(同12)の実名や顔写真も一斉に報道した」


〇 防犯カメラの映像

  平田さんと星野くんが早朝、商店街を2人で歩いている様子をとらえている。

片岡のN「府警の調べでは、2人は13日の深夜1時過ぎから、京阪寝屋川市駅前の商店街に滞在し、友だちとLINEのやりとりをしていた。そして早朝5時過ぎ、商店街を歩く2人の姿を防犯カメラがとらえていたが、それが2人の生存を確認できる最後の映像だった」


〇 大阪府警察本部・外観(夜)

T「大阪府警察本部」

片岡のN「事態が急転したのは21日の夜だった」


〇 同・前

  報道陣が大勢、待ち構えているところに警察車両が入ってくる。

  警察車両の後部座席には、山田が刑事2人に両側から挟まれ、座っている。

片岡のN「大阪府警が山田をこの事件の容疑者と特定し、逮捕したのだ。山田は当時45歳、福島で除染作業員をしていたが、犯行時は実家のある寝屋川市に帰省中だった」


〇 竹林

片岡のN「府警によると、防犯カメラの映像から山田の車が捜査線上に浮上。尾行したところ、山田は車で柏原市の竹林に立ち寄った。その竹林から顔と左手付近に粘着テープを巻かれた星野君の遺体が見つかったという」


〇 山田のことを報道する週刊誌各誌

出典クレジット「週刊文春2015年9月3日号」「週刊新潮2015年9月3日号」

片岡のN「山田は当時、特異な経歴を次々に報じられた。中学時代に男子小学生に性的いたずらをして少年院に。成人後も男子中高生らに対する強制わいせつ事件を起こして服役。この間、女性受刑者と獄中結婚したり、他の男性受刑者と養子縁組して苗字が変わったりし、出所後も交際した女性を妊娠させたりした…という具合だ」


〇 大阪府警察本部・取調室

  山田、刑事と机をはさみ、対峙しているが、下を向いて、黙っている。

片岡のN「山田は取り調べで容疑を否認し、黙秘したが、殺人罪などで起訴された」


〇 大阪の裁判所・外観

T「2018年11月1日 大阪地裁」

片岡のN「そして事件から2年余りが過ぎ、大阪地裁で裁判員裁判が開かれると、山田は法廷での特異な言動で再び世間の注目を集めた」


〇 同・法廷

  山田、土下座し、付き添いの刑務官3人に取り囲まれている。

山田「経緯はどうあれ、死の結果を招いてしまい、申し訳ありませんでした」

片岡のN「山田はまず初公判で突如、土下座し、被害者遺族に謝罪した」

  × × ×

片岡のN「審理が始まると、事件当日の午前5時頃、被害者2人を京阪寝屋川市駅近くで車に乗せたことは認めたが、殺害の容疑は否認した」

  山田、証言台の前に座っている。

山田「ふ、2人を家まで送ってあげようと思ったんですが、ほ、星野くんは、あ、汗をがんがんかいて、震え出し、ぐったりしてしまって…」

  × × ×

山田「ひ、平田さんのほうは「帰りたくない。一緒にいて」とか言い、こ、声が大きくなって、く、口を手で押さえたら、手が首にずれ、動かなくなって…」

片岡のN「つまり山田は、星野くんは急病で亡くなり、平田さんは自分が死なせたが、殺すつもりはなかったと主張したわけだが…」

  × × ×

浅香竜太裁判長「主文。被告人を死刑に処する」

片岡のN「結果、山田は主張を全面的に退けられ、死刑を宣告された。私が面会に訪ねたのはその2カ月後で、山田は大阪高裁に控訴中だった」


〇 大阪拘置所・面会室

  片岡、山田と向かい合っている。

山田「け、検事の一方的なストーリー、ま、マスコミに、な、流されて。土下座したことも、パ、パフォーマンスと言われて」

片岡のN「山田は、話したいことを一方的に話すうえ、どもるので、話がわかりづらかった」

片岡「判決が死刑だったことはどう受け止めていますか」

山田「じ、自分はどんな判決でも、か、変わらないです。死刑になってどうしようとか、無期になってどうしようとか、考えてへんし」

片岡「判決に不服がないなら、なぜ控訴したのですか」

山田「じ、事実を明らかにしないままでは悔しいし…」

片岡のN「山田が否認したという事情はあるにせよ、たしかに犯行動機など事件の核心部分は裁判で明らかになっていなかった」

片岡「被害者の2人を車に乗せたのは、わいせつ目的だったのですか?」

山田「(にっこり笑い)全然ないです」

片岡のN「山田の話に信ぴょう性は感じられなかった。ただ、山田からやましそうな様子も感じ取れなかった」

刑務官「そろそろ時間です」

片岡のN「そして面会の終わり際、山田はまた独特の行動を見せた」

  以下、山田も片岡も立っている。

山田「あの、便せんとか、封筒とか、い、入れて欲しいんですが」

片岡「わかりました。差し入れておきます」

山田「それと…お金も…」

片岡「…わかりました。通信費として差し入れておきます」

片岡のN「殺人犯と面会し、金を求められるのはままあることだが…」

山田「こ、これからもよろしくお願いします…話もいっぱいあるんで…さ、寒い中、ありがとうございます…」

  と、笑顔でしゃべり続ける山田の後ろには、刑務官が立っている。

片岡のN「刑務官に面会の終了を告げられても、山田は延々としゃべり続けた。刑務官を待たせていることなど何ら気にしていないようだった」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版15話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 片岡の事務所

片岡、判決文(20枚程度のA4の紙)を読んでいる。

片岡のN「私はその後、山田に対する大阪地裁の死刑判決も入手し、目を通した。そして改めて山田の主張は無理があると思った」


〇 法廷で証言するスーツ姿の法医学者

片岡のN「たとえば、山田は星野くんが急病で亡くなったかのように主張していたが、法医学者は被害者2人の死因について、首を圧迫されたことによる窒息死だと判定していた。星野くんの母親も「息子の健康面に問題はなかった」と証言したという」


〇 使用済みのコンドーム

片岡のN「星野くんの衣服のポケットからは「山田以外の人物の精液入りコンドーム」が見つかっていたが、それも山田が入れたものだった」


〇 スマートホン(=アイフォン)

片岡のN「また、被害者2人の身体からはハルシオン(睡眠薬)の成分が検出されていたが、山田は事件当日、スマートホンで「ハルシオン」「効き目」「子供」などの言葉を検索していた」

 

〇 法廷で証言する山田

片岡のN「さらに平田さんの遺体の多数の刺傷について、山田はこんな無理のある説明をしていたという」

山田「ひ、平田さんが死んだと思い…顔面にテープをまいて…「よみがえれ」という思いで…か、カッターナイフで切りつけました」

 

〇 片岡、判決文を読んでいる。

片岡のN「山田は判決で、「主要な点で虚偽の供述をして、今なお犯した罪に向き合えないでいる」と批判されていた。それも仕方ないと思えた」

 

〇 大阪拘置所・外観

片岡のN「私は初めて山田と面会した約2週間後、再び面会に訪ねた」

 

〇 同・面会室

  片岡と山田、アクリル板越しに向かい合っている。

  山田、服装は前回と同じ。

片岡「今日は事件のこともお聞きしたいのですが」

山田「…あの、名刺、い、入れてもらえますか…あと…お金も…」

片岡「お金をまたですか?」

山田「…ないんです…日用品とか」

片岡のN「質問をはぐらかし、金を求める殺人犯は結局、実のあることを語らないことが多い。私は強引に事件のことを話題にした」

片岡「山田さんは、男の子に興味があるそうですね」

山田「いや、か、覚せい剤をしたら、そういうことになるんです」

片岡「普段は男の子に興味はないが、覚せい剤をやると興味がわくのですか」

山田「そ、そうです」

片岡「星野くんの衣服のポケットにコンドームを入れたのは、捜査をかく乱させるためですか」

山田「あれは…無意識ですよ」

片岡「どこからあんなものを?」

山田「サ、サウナみたいなところからとってきたんです」

片岡のN「単刀直入に質問すれば、山田は事件のこともある程度話した。元々は人を騙したり、嘘をついたりするのが苦手な人間なのかもしれない」

  × × ×

  面会時間が終わっているが、山田がまた刑務官を待たせ、ニコニコしながら、「きょ、今日はほんまにわざわざ」「来週、て、手紙書きます」「あと、び、便せんと食べ物も何か…」などとしゃべり続けている。

片岡のN「そしてこの日も面会終了後、山田は刑務官を待たせたまま、しゃべり続け、再び差し入れを頼んできた」


〇 差し入れ屋・外観

  大阪拘置所のすぐ近くにある店。

  片岡、出てくる。

  大阪拘置所のほうを振り向いたりする。

片岡のN「山田は裁判で反社会性パーソナリティ障害があると認定されていた。さらに判決では否定されたが、弁護側の精神鑑定では、自閉スペクトラム症だとも診断されていた。特異な言動は精神医学的な問題のせいかもしれない」


〇 片岡の事務所

  片岡、山田から届いた手紙を開封し、計7枚の便せんを取り出して目を通す。

片岡のN「だが一方で、山田は意外な能力の高さも見せた」

  計7枚の便せんはどれも隅々まで、小さい文字で埋め尽くされている。

片岡のN「山田から届いた手紙は、米粒のような小さい文字が隅々までびっちりと書き綴られていた。内容は、金品の差し入れを求めたことをどう思われたか不安だとか、自分に関するネット上の記事を差し入れて欲しいとか、他愛もないことばかりだったが…」


〇 大阪拘置所・山田の居室

  山田、便せんにボールペンで一心不乱に文字を書き綴っている。

片岡のN「これだけ小さい文字をこれだけ大量に書くには、相当な集中力が必要だ。精神医学的な問題のある人物が何らかの突出した能力を持つことはままあるが、山田もそうなのかもしれない」


〇 T「その数カ月後、山田は予期できない行動をとった」


〇 コーヒーショップでコーヒーを飲みながら、スマホをいじっている片岡

片岡のM「えっ…」

  スマホの画面には、「寝屋川中1男女殺害、死刑が確定 被告が控訴取り下げ」と報じる記事。

出典クレジット「朝日新聞デジタル2019年5月21日配信」

片岡のN「山田は自ら控訴を取り下げ、死刑を確定させたのだ」


〇 片岡、ポストに手紙を投函している

片岡のN「私は取り急ぎ、山田に手紙を出した。死刑が確定すれば、ほどなく弁護人や親族以外の者は面会や文通ができなくなる。そうなる前に、死刑を確定させた事情を聞きたいと思ったのだ」


〇 山田の手紙

片岡のN「しばらくして、弁護人を通じて山田から返事の手紙が届いた」


〇 手紙を読んでいる片岡

片岡のN「手紙には今回も小さい文字がびっちり綴られ、総文字数は1万2000字を超えていた。その中では、控訴取り下げに至った経緯も詳細に書かれていた。きっかけは、拘置所に借りたボールペンをめぐる刑務官とのトラブルだったという」


〇 大阪拘置所・山田の居室

  山田、ボールペンで便せんに文字を書いている。

山田のN「私は物事に夢中になると、周りが見えなくなることがあります。この日も手紙作成中にそうなり、気づけば、就寝時間の午後9時でした」 

 「お~い! 時間や! はよ出せ!」と怒鳴る声。

  巡回の刑務官がドア横の小窓から覗き、山田を見ている。

山田「ちょ、ちょっと待ってください。も、もう少しだけ」

刑務官「待たれへん。はよせい!コラッ!」

  山田、焦りながら手紙を書いている。

山田のN「私はボールペンを返す前に区切りのいいところまで手紙を書こうとしましたが、刑務官に急かされて文面に集中できず、なかなか区切りをつけられませんでした」

  × × ×

  山田、「すみませんでした」と詫び、刑務官に小窓からボールペンを返却している。

山田のN「それでもなんとか区切りをつけられたので、ボールペンを返却したのですが…」

刑務官「おい、『えらそうに言うな、あほ』って、誰に言うてんのや」

山田「え、そ、そんなこと言ってないです」

刑務官「嘘つくな! さっき言ったやろ!」

山田「い、言っていないです」

山田のN「こうして「言った言わない」のやり取りになりました。私は職員の言動から「懲罰」(※)は確実だと思い、心が折れてしまいました」

欄外注釈「※拘置所などで問題を起こした被収容者が独房に入れられ、面会や娯楽を禁じられるなどの罰を受けること」

  山田、かたわらのインターホン(報知器?)のボタンを押す。

山田「そして気がつくと、インターホンで職員を呼び、控訴取り下げを申し出ていたのです」


〇 片岡、山田の手紙を読んでいる

片岡のN「要するに、山田は刑務官とのトラブルで自暴自棄になり、衝動的に死刑を確定させたわけだ。山田はそのことへの後悔も率直に綴っていた」


〇 大阪拘置所・山田の居室

  山田、手紙を書いている

山田のN「死刑が確定してからは、食欲もなく、夜も眠れなくなり、刑執行の日が来るまで生かされるだけの命だというのを実感しています」

  × × ×

  山田、夜、布団の中で震えている。

  廊下から刑務官のコツ、コツという足音が聞こえてくる。

山田のN「今は恐怖の思いでいっぱいです。廊下から刑務官の足音が聞こえてくるたびにドキドキします」


〇 手紙を読んでいる片岡

  イメージ明け。

片岡のN「弁護人は大阪高裁に対し、山田の控訴取り下げを「無効」とするように申し入れていた。だが、そんな申し入れが認められる可能性は低く、このまま山田は死刑囚として生涯を終えるだろう。私はそう思ったが…」


〇 T「数カ月後、予想外の司法判断が下された」


〇 デスクトップパソコンでネットのニュースを見ている片岡

片岡「えっ…」

  「寝屋川中1殺害 控訴取り下げ無効、控訴審再開へ 高裁」と報じる記事。

出典クレジット「朝日新聞デジタル2019年12月17日配信」

片岡のN「大阪高裁が弁護人の申し入れを認め、山田の裁判を再開する決定を出したのだ」


〇 村山裁判長の顔

片岡のN「この異例の決定を出したのは、村山浩昭裁判長。決定書では、裁判の再開を決めた理由をこう説明していた」

村山のN「判決に対する不服に耳を貸すことなく、直ちに確定させることは強い違和感と深いちゅうちょを覚える」

片岡のN「村山裁判長は、冤罪を疑う人が多い袴田巌死刑囚の再審を開始し、死刑と拘置の執行を停止する決定を出すなど、世間を驚かす司法判断を次々に下してきた。そういう裁判長ならではの判断かもしれない」


〇 都島駅

T「2019年2月27日」

  片岡、出てくる。

片岡のN「検察はこの決定を不服とし、大阪高裁への異議申し立てなどを行った。ただ、この決定により山田の立場は死刑囚から被告人に戻り、再び面会ができるようになった。そこで、私は山田の面会に訪ねた」


〇 大阪拘置所・面会室

  片岡が立って待っていると、山田が満面の笑顔で入ってくる。

山田「いやあ、ま、また生きて会えるとは思っていませんでしたよ」

片岡「私もです。死刑が確定していた間、どうでしたか」

山田「け、決して無駄じゃなかったです。な、7カ月でしたが、いい人生勉強というか。し、死刑と向き合い、色々考えましたし」

片岡のN「この日、山田はテンションが高かった。死刑の恐怖が一時的にでも回避され、躁状態になったのかもしれない」

片岡「やはり死刑執行は意識していましたか」

山田「よ、夜寝る前は「明日この時間生きてるかな」とか、か、考えましたね。それで、あのお…」

片岡「なんでしょうか」

山田「じ、自分のことを記事にする時、バイセクシャルのこととか書かないで欲しいんですけど」

片岡「それはすでに有名な話ですよね」

山田「いや、でも」

片岡「プライバシーは大事ですが、山田さんの事件は男の子と女の子が被害者です。事件のことを書くうえで山田さんがバイセクシャルだというのは不可欠な情報です」

山田「そ、そこだけクローズアップされたくないし」

片岡「わかったことを書くか書かないかは私が判断します」

山田「で、でも、さ、裁判に影響あるんですよ!」

片岡「私が判断します」

山田「……また差し入れ、お願いします」

片岡「わかりました」

  × × ×

  面会終了後、山田がまた刑務官を待たせ、明るい感じでしゃべり続けている。

片岡のN「山田はこの日も面会終了後、刑務官を待たせ、しゃべり続けた。悪気はなさそうだが、これではまた刑務官とトラブルになりそうに思えた」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版15話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 大阪拘置所から都島駅までの道

  片岡、歩いている。

片岡「裁判が再開されたら、山田は死刑を免れるため、また無理のある主張を重ねるのだろう。私は改めてそう思ったが…」


〇 T「数カ月後、また予期できない事態となった」

 

〇 片岡の事務所

片岡、デスクトップパソコンでネット上の報道を見ている

片岡「えっ…また…」

  「寝屋川中1殺害事件、死刑判決の被告が再び控訴取り下げ」と題する記事。

出典クレジット「朝日新聞デジタル2020年3月31日配信」

片岡のN「山田が大阪高裁に対し、再び控訴の取り下げを伝える書面を提出したのだ。大阪高裁は書面の扱いを協議しているそうだが…控訴を取り下げ、自ら死刑を確定させる殺人犯はたまにいるが、2度もそれをやる者は前代未聞だ」


〇 郵便ポストに手紙を投函する片岡

片岡のN「今度は一体、どんな理由で控訴を取り下げたのか…私は、山田に手紙を出したが、今度は返事がこなかった」


〇 大阪高裁・外観

片岡のN「山田はこのまま死刑が確定するのか、それとも裁判が再開するのか、現時点で答えは出ていない。先は読めないが、確信を持って言えることが1つがある」


〇 同・誰もいない法廷。

片岡のN「たとえ裁判が再開されても、事件の核心部分が法廷で明らかになることはないだろう」

欄外の注釈「山田浩二被告の手紙の文章は、構成上の事情から表現などを変えています」


(了)


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