ほんのちょっと
少しだけ、雪が降った。
ほんの10分くらい、日付の変わる頃だった。その日は深夜残業終わりで、会社を出てすぐに降り始めた。
真っ黒な夜空を背景に、街灯が照らしたのは粉雪だった。地面に降りた一粒が、ころころと小さく動いて可愛らしい。
熱くなった目の奥が、極小の白い天使で冷やされる。鼻から大きく空気を吸い込んで吐き出す。それを何度か繰り返す。体の中の老廃した空気を新鮮な空気に入れ替えるこの作業が心地よい。
熱された頭が少しずつ冷えていく。近頃、頭痛がひどい。過労か、酒の飲み過ぎか、煙草の吸い過ぎか、よくわからないけど、とにかく頭痛が悩みの種だ。
馬車馬のように、なんて言うけれど、そういう働き方、僕は好きじゃない。
今はとにかく、くだらないことで笑ってみたい。酒に酔って全部忘れたい。
親孝行しないとなぁ。そういえば祖母がこないだ傘寿を迎えて、ほんとに、めでたいです。長生きしてくれて嬉しい。ばあちゃん孝行もしたいなぁ。
友達のあいつにもいつかの礼を言わなきゃ。あと、あいつには冗談かまして笑わせなきゃ。あ、あいつには手紙の返事書かなきゃ。
会社の先輩には下ネタで笑わせなきゃなぁ、飲み誘おう。あの先輩には誘われてたから返事しなきゃ、行きますっ!って。後輩も連れて行くか、最近断ってばっかだったなぁ。同期のこともう少し大切にしよ、あいつなんだかんだ優しいもんなぁ。
あと、上司を飲みに誘ってみよう。いつも頼ってばっかだし、お礼言いたい。
最近、周りの人たちがやさしくて、ついつい甘えてしまう。僕もやさしくなりたい。
気づけば雪は止んでいて、舗道に降った形跡はない。すぐに溶けたのだろう。あるいはほんの10分間の幻だったのかもしれない。僕だけが知る10分間…そしたら…どんなに素敵か……、
……………
カップラーメンが、伸びた。
ではまた。
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