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実写『リトル・マーメイド』フランダーはあれで良かったのか?

実写『リトル・マーメイド』観てきた。ディズニーが復活の狼煙を上げた90年代前半の『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』3連作は自分も大好きで、公開時に劇場で観たし、VTR、DVD、ブルーレイ、そして配信で数限りなく観ている。

他の2作はすでに実写化されているので、本作も心待ちにしていた一本だ。しかし、公開前から作品の内容ではないところで話題になってしまった。黒人であるハリー・ベイリーのアリエル役起用についてである。

先にその話をしておくと、自分は「アリエル役は白人であるべき」という意見には全く共感できない。

理由は単純で、劇団四季の『リトルマーメイド』で、さんざん黄色人種のアリエルを観ているからだ。

だいたい「黒人役は黒人が、白人役は白人が演じるべき」という理屈を通すとなると、黄色人種以外の俳優が極端に少ない日本では、海外を舞台にした作品はほとんど上演できなくなってしまうではないか。

映画と舞台とは違う、という人もいるだろう。そこは感じ方の違いだろうから別に反論はしないが、少なくとも自分にとっては同じカテゴリーの話だ。

アリエル論争は世界的に起きているようだが、日本では否定派の声が多いように感じる。なぜそうなのか。これもわりと単純な話で「人種の違い」に慣れてないからなんじゃないだろうか。

日本の映画やドラマに黄色人種以外が出てくることが少ないし、舞台も同様だ。エンターテイメントで黒人や白人に触れる機会がそもそも少ないのだ。

でもいまどき、職場や学校に海外にルーツを持つ人がいることなんで珍しくもなんともない。エンターテイメントのほうが現実世界よりも遅れているのである。

出羽守で恐縮だが、ブロードウェイの話をちょっとしたい。

ブロードウェイでは、黒人俳優自体はもちろん数多く活躍しているものの、「白人イメージの強い役」を黒人俳優が普通に演じるようになったのは、わりと最近の話だ。90年代に『レ・ミゼラブル』をブロードウェイで観たとき、プリンシパルはみな白人だった。しかしノーム・ルイスがジャベール役を演じて風穴を開け、その後ツアーやウエストエンドでもどんどんプリンシパルに黒人俳優が起用されるようになってきた。自分が観ただけでも、バルジャン、ジャベール、エポニーヌ、コゼット、アンジョルラスを黒人俳優が演じている。

脱線するけど、そのノーム・ルイスは『オペラ座の怪人』でファントムも演じた。彼のジャベールとファントム両方観たのは自慢。実はまさに『リトルマーメイド』のトリトン王も観られたはずなのだが、自分が観たときはアンダーの人だった。

他の作品でも、もう「白人しか演じられない」役なんてどんどん無くなりつつある。昨年は、特に白人イメージの強い『ウィキッド』のグリンダ役を、黒人のブリトニー・ジョンソンが演じたのも話題になった。

この数年間、ぶっちぎりでブロードウェイのトップを走る『ハミルトン』はアメリカ建国の物語だ。史実としては、その登場人物はほとんど白人である。しかしこの作品では意識的にヒスパニック、アフリカ系、アジア系の俳優を積極起用している。日本で言えば、徳川家康や織田信長を黒人、白人が演じているようなものだ。それを「滑稽」に感じる状況からは、もう世界のエンターテイメントは離脱しているのである。

そういえば、昨年11月にロンドンで『アナと雪の女王(Frozen)』を観たとき、幼少期のエルサを演じていたのは日系の名前を持つアジア系の女の子だった。日本人かもしれない。そして成人したエルサを演じていたのがサマンサ・バークスである。そこに異を唱える人も、もういない。『レ・ミゼラブル』で黒人俳優がコゼットを演じたときも、幼少期は白人の女の子だった。

年末にニューヨークに行ったとき、ダイバーシティに積極的に取り組むブロードウェイのミュージカルを数本観ただけで、たまたま白人以外の登場が少ない舞台を観ると「あれ?」と違和感を覚えたりした。人間の「感覚」は簡単に慣れる。慣れないのは思い込みだ。

ロンドンで観た、ロイヤル・シェイクスピアカンパニーの「となりのトトロ」や、2014年にオフ・ブロードウェイで観た「ヒア・ライズ・ラブ」(今年ブロードウェイに復活する!たのしみ)は、全員アジア系キャストで話題を呼んだ。それらはもちろん素晴らしいことだし、同じアジア人として誇らしい。でも、いつかはアジア系以外の俳優が日本人やアジア人を普通に演じられるようになってほしい、とも思う。そうなったら、キャスティングの幅もぐんと広がって、これまでにない演出の妙が味わえるんじゃないかとわくわくする。

と、ここまでがハリー・ベイリー起用とそれに対する日本人の反応に関する自分の感想である。

それで映画の出来はどうだったか。ディズニーアニメの実写化は失敗も多く、特に近年は失敗続きのような気がする。しかし、冒頭に挙げた『美女と野獣』『アラジン』はそれなりに気合の入ったいい出来だった。

今回の『リトル・マーメイド』も、全体の出来としてはその2作と同じぐらいだったと思う。

ただ『美女と野獣』『アラジン』は、ちょっとヒネリの効いたオリジナル要素があって、そこが自分としてはツボにはまっていた。本作もオリジナル要素は多かったが、あまり「おおっ」と膝を打つものがなかったかなあ、とは感じた。

あと、予告編を観て愕然としたセバスチャンのリアルバージョンだが、本編では目の動きがマンガチックで、さほど不気味に感じることはなかった。そのぶんフランダーがめっちゃ不気味だった。

個人的にはセバスチャンが「宮廷音楽家」で、周りを巻き込むコンダクター、という設定が好きだったので、そこがなかったのはやや残念だったし、「アンダー・ザ・シー」や「キス・ザ・ガールズ」はもっとニギヤカでもよかったかな、と思ったが、このへんは好みの問題だろう。

ハリー・ベイリーは期待どおりの歌声。撮影当時21歳だったそうだが、表情の印象がそうさせるのか、より若く、子供っぽく見えた。そのため観ながら、これ『結婚』に向かうのしっくり来ないなあ、と感じていた。なので、「結婚」よりも「旅立ち」を強調したあのラストは納得である。

まだ字幕でしか観ていないので、吹替版も観てみよう。

映画「リトル・マーメイド」のウェブサイト
https://www.disney.co.jp/movie/littlemermaid






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