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電車で4時間と少し

東京でちょっとした用事ができた。ちょっとした用事のついでに、ちょっとした体験をしてみようか、と思って鈍行電車に乗り込んだ。

今滞在しているのは新潟県の越後湯沢。東京駅から新幹線で70分、ドアトゥドアのスキーリゾートだ。バブルの遺産である幽霊リゾートマンションが立ち並ぶ山間の村で、箱根や熱海に並ぶ、都心からアクセスの最も良い田舎のひとつ。私もよく東京での仕事があることと、素晴らしい四季に人懐っこい人間性が心地良くて、なんやかんや住み着いている。

いつもは高速バスや新幹線で移動をしているけれど、少しの雑音と乗り換えの気分転換が読書に丁度良い。カメラと幾許かの荷物だけを鞄に放り込んで写真屋を出た。

越後湯沢はもう里にも初雪が降っている。場所によっては20cmぐらい積もっていた。山はもう真っ白だし、夜には氷点下になることも少なく無い。あと数回も雪が降れば、川端康成が「雪国」らしくなってくるだろう。(小説「雪国」を書いたのは越後湯沢にある旅館、高半だそうです。とろっとろの温泉が最高で、ご飯も美味しい。)

トンネルを抜けるとそこは雪国だった、というのを逆走している。この先は群馬に入っているので、雪はほとんど無い。そして、だんだんと関東平野に入っていく。

判り易く景色が広い。地理を知っていても体感することってあまり無いと思うのだけれど、すぐ近くに山のある生活をしていると、山が遠いだけで違う場所に来たのだなと感じる。特に越後湯沢や魚沼、津南などは岩山が多く、平地からイキナリ崖の様に山が切り立つ。実際に崖もある。

初めて訪れた時は、山の迫力とはこういうものなのかと感じた。関東や関西、生まれ育った九州の土山との穏やかさとは、全く違う趣だ。

と、ここで人も多くなってきて、カメラを出すのも憚られる雰囲気となってしまった。写真を生業にしていても、たまにはそう感じてしまう。そうこう考えているうちに、夕日と車内の暖かさで眠りこけてしまった。気づけば新橋に居た。

夜でもホームはとびきり明るく、あんなに広かった関東平野の空も、ただの隙間ほどしかない。これ全部、ヒトが作ったと考えたらすごいことだ。蜘蛛の巣の様に張り巡らされた電線も、私には一本ですら架けられる気がしない。どうやって架けるのだろうね。改めて思うと不思議。

用事も済ませたので、1泊するのも面倒で帰りはそのまま新幹線で帰った。仕事もあるし。ただ、夜の新幹線は退屈だった。最高に便利なのだけれど、景色が変わらないと気が抜けない。

移動を移動として捉えるだけで無く、余暇として、アクティビティとして楽しめる人は、懐の贅沢な人だな、と、私は思う。スーパーカブや青春18きっぷ、フェリーなどを利用して散々と旅をしてきたけれど、旅ってのはほぼ移動なのだ。

移動が楽しめる大人になれて、良かったなと少しだけ思った。

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