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『傲慢と善良』 読書記録

久しぶりに小説を読みました。『傲慢と善良』の感想を書いてみます。(ネタバレは無いように努めていますが、内容にふれている部分があります。ご了承ください)



心を見透かされ続ける

傲慢さと善良さが同居する結婚観について書かれた小説。心理描写に終始心が動かされました。辻村さんだからなのでしょうか。痛い程に響く描写の数々に、驚きと面白さを感じました。

そこまで書くのか…そこまで深読みするのか…と、人間の恐ろしさを感じながらも、一方でビジネス書同様に「気付き」を得ながら読み進めました。

架(かける)の感情。真実(まみ)の感情。深層的な心の動きを前編後編で読めるので、男性女性双方の視点が苦しくも明確に理解できます。


大切な人の知らない姿

真実が失踪したことで、彼女の「過去」を探索することになる架。実家・友人・関わりのあった人と会話を重ねていくごとに、今まで知らなかった彼女の姿を知っていきます。

大人になってから出会う人は過去が分かりません。しかし、その全てを知る必要があるのかどうか。本人が言いたくない事を、無理に聞き出せない。また、自分の親でさえ「知らない顔」を持っていることに気付く。

友人との会話は、友人との間でのみ成されたもの。その時の会話のニュアンスや文脈は、本人たちにしか分からない。ここに介入することは恐ろしいことなのだと思います。


心を想像する重要性と限界

言葉の真意についても考えさせられました。知らなくても良かった事。気付かず、鈍感なほうが幸せな場合もあるかもしれない。一方、自分の事は気付いてほしい、という傲慢な想い。

人の心を想像する事は大切です。それが本心なのか、無理をしてないか。小説は、登場人物各々の心の声を満遍なく読み取る事が可能です。しかし、実社会では相手の本心を知る事は不可能です。「大丈夫です」は、大丈夫ではない場合もあります。

ですが、言葉の裏を読み取ることは限界があります。裏を知ろうと思い悩めば、自分を苦しめる事になるでしょう。まずは、言葉通りに受け取ることが賢明です。


「好き」だけで満たす事を肯定する

あなたがそうしたい、と強く思わないのだったら、人生はあなたの好きなことだけでいいの。興味が持てないことは恥ではないから。

物語の核心部分とは逸れるのですが、私はこの言葉が印象に残りました。真実の職場の同僚であるジャネットの言葉です。ジャネットの語学力と行動力を羨む真実に対しての、優しい肯定。

何かに興味が持てないこと。それでも良い。何かに興味を持ち懸命に取り組むことが当たり前ではない。自分の心と向き合い、自分ができること、自分が好きなことのみで生きていく。

今のままで良いじゃないか、というメッセージに聞こえました。


まとめ

とても面白かったです。私がこの小説を読むきっかけとなった動画を貼って終わります。若い男性たちのリアルな気持ちだなと感じました。


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