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『熟達論』と伴走する、デザイン熟達への道

為末大さんの『熟達論』を読みました。本書にある熟達までの5段階「遊・型・観・心・空」をデザイナーの熟達に当てはめてみました。

本書はとても素敵な言葉が多く、読み終わる頃には本が黄色のラインで埋め尽くされてしまう程でした。そのような内容であるため、多くの要点を割愛してこのnoteを書いておりますがご容赦ください。



1. 「遊」 不規則さを身につける

遊の定義:主体的であり、面白さを伴い、不規則なもの

以前の記事でも触れましたが「無駄なこと」が重要であると思います。しかし組織においては効率化・仕組み化を推奨し、属人化を回避することで誰もが同じように成果が出せる状態をつくろうと無駄を極力省いていきます。

そのような現状で最も大切なものは何でしょうか。それは「心」です。

心が動かなくなれば全ての目標も計画も意味をなさない。にも関わらず、本来最も貴重でそれがなくては何も成立しないはずの心は蔑ろにされがちだ。

『熟達論』より

デザイナーは幼少期に絵を描くことが好きだった方が多いでしょう。ですがよく思い返してみると、好きだから描いていたというよりは、気付いたらよく描いていたという表現のほうが正しい気がします。それは心が動いていた証拠であり、そこには好奇心が存在していました。


2. 「型」 無意識にできるようになる

型の定義:土台となる最も基本的なもの

しかし好奇心だけでは探求が止まってしまうとのこと。遊の次の段階は「型」です。デザインの道を歩み出した際まず始めに「スキル習得」の壁に必ず直面するのではないでしょうか。

重要なものだが、型さえ手に入ればすべてが解決するというものでもない。型はあくまで基本であり、その上で試行錯誤する必要がある。

『熟達論』より

デザイナーの型とは何を指すでしょう。おそらく、文字組み、レイアウト、フォント選択、配色における基礎等の習得にあたると思います。そしてそれに加え「デザインとは何か」もここで習得する型の一つでしょう。

デザインは付加するものではなく、その対象が既に持つ魅力や特徴から、強い優位性と差別化要素を見つけ出し表現に落とし込む行為です。それを肌感覚で体得することがデザイナーの型をつくります。


3. 「観」 部分、関係、構造がわかる

観の定義:部分同士の相関、内部の構造が分かる

構造がわかるようになると、立体的に物事を捉えられる。

『熟達論』より

日々の業務でも「構造化」は大切です。全体を観察し捉えます。

以前の記事で「プロジェクトリードスキル」がデザイナーに最も必要なスキルである、と定義しました。まさにここが「観」にあたります。プロジェクトリードも全体が見えていなければ遂行できません。

デザインプロセス、メンバーのリソース、スケジュール管理、予算、外部スタッフとのやりとり、コミュニケーション、優先順位決め、課題の把握、解決策の提示、マーケティングとブランディングの観点、タスクの分解… など。多くの不確実な変化を観察しリードします。


4. 「心」 中心をつかみ自在になる

心の定義:うまくいく点(核)を見つけられる

型を手に入れ構造が分かると「ここが重視するポイントだ」「ここは力を入れるべきところだ」という中心となる要素を見分け確度が上がるようになる、それが「心」の段階だと私は認識しました。

力まず、自然体で、自在に、無理せず、簡単そうに、それでいて高い質の結果が出せる状態。そしてそれは個性があるので、決まりきったものではないということだと思います。

それは、デザインする際「デザインしすぎないように」気を付けることでしょうか。力を入れず、対象が既に保有しているそのものの魅力を、全体感を掴みながら中心から周りから形にしていくこと。それが「心」の段階です。


5. 「空」 我を忘れる

空の定義:意識する自我からの解放

遊、型、観、心というプロセスで自分を扱う方法を学んだ後、扱う際に制御する意識を取り払い「無意識の状態」になることが必要です。

分かりやすくいうと「ゾーンに入った状態」「夢中の状態」です。この章は少し理解することが難しく、また、スポーツの世界における話が色濃いのかなという印象もありました。

しかしながらそれは私自身がデザインを熟達していく過程でこの段階に到達していないが故に内容を深く読み取れなかったのかもしれません。


まとめ

非常に面白い内容でした。目次を読んだだけで強く引き込まれる書籍は初めて出会いました。

今回『熟達論』をデザイナーに当てはめてみて、通ずる箇所が多くありましたし、私も熟達への道を進めている気持ちになりました。

しかし、本当に重要なことは「これらを体験していくこと」であり、そこから感じたもの、生まれた考えと行動こそが、熟達へと導くのでしょう。

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