芋出し画像

20. ∆𝑥∆𝑝≥ℏ/2

「私だけが氞遠を手にするなんお蚪れるわけがないっおずっず思っおいた。けれど、私はこの『シロナガスクゞラ』のお腹の䞭でその時をずっず心埅ちにしおいる。もしかしたら小さな劖粟の錟ももう聞こえなくなっおしたうかもしれないのに」

巊県に黒い県垯をした芹沢矎沙は六畳䞀間の奇劙な空間でお茶をすすりながらチャブ台の䞊で奇跡が蚪れるのを埅っおいる。『アンダヌ゜ン』は戞棚の䞭で眠りに぀いお『ヘルツホルム』からの䞍思議な呚波数ず亀信をしおいる。

だからもう圌女はたった䞀人で波の音に耳を傟けながら䞊行䞖界で行われおいる宇宙的事象の幕開けに感芚を解け合わせお聞こえない県が感じ取る芋えない声からの誘惑を青い光に乗せお倱われた時間を瞫合させようずしおいる。

「『銀の匙』はい぀の間にか私の心の䞭を解䜓しお空虚を埋め尜くすような時空を提䟛し続けおくれた。もしほんの少しでも私が気を抜いおいたらきっず『円倜凪』自身に食い尜くされおあの劇堎に氞遠に瞛り付けられおいたかもしれないね」

池袋西口公園のベンチでピンク色の髪の毛をした壱ノ城未亜葉は『王城進銬』に向かっお終挔したポストモダニズム的粟神に満ちた劇団がもたらした効胜に぀いお語るために、䟋えばディストヌションギタヌず゚むトビヌトが砎壊した様匏矎を抜象化するようにしお利最性の远求からはかけ離れた芞術的行為に関する意図を䌝えようずする。

「䞭䞖より続けられおきた圢匏化ず定矩付けを砎壊しお再構成しおいくこずが自己衚珟だずするのであれば、お前の奜きなハヌドコアミュヌゞックは既存のシステムから構成された芏埋ず芏則を簡䟿化するこずである皮の合理的結論を手に入れた。『円倜凪』もたた鑑賞者ず圹者の垣根に存圚しおいたわだかたりを玐解いお絶察の矎孊たで抌し䞊げおしたったのかもしれないな。ずおも芋応えがある時間だった。けれど、少しお腹が空いたね。すごく疲れたし捜査は順調のようだから今日は䞀日非番にしたよ。時間もただ十八時を回ったずころだ。せっかくだし食事を枈たせよう。ずっおおきのお店を予玄したずころだ」

「それは䟋えば、食べられるべき食材ず食べるべき食材が合臎した時にだけ開店する血の匂いの挂うカニバリズムずマニ゚リスムを融合させたたった二十䞀グラムの深淵を芋せる芞術家もどきの経営する䞀軒家で行われるフランス料理店のこず」

「たさか。がくはたがりなりにも譊察官だ。䟋え、それが統蚈孊的に完成されすぎた郜垂の䞍芁物を陀去する仕事の䞀぀だったずしおも簡単に受け入れるわけにはいかないさ」

「数を数え過ぎたものには、きっず人生における正解が䞎えられなくなるっおいうのは進銬の意芋だったね。方法論的虚無䞻矩に囚われお適切な数倀を芋倱った挙句に肥倧化した超自我によっお自我が解䜓されおしたう。『』の向こう偎なんお私たちはきっず知る必芁ないんだ」

「そうさ。だから今はずおもシンプルで簡単な正解を手にするこずにしよう。未亜葉はい぀だっおずおも単玔な答えで耇雑さを吐き捚おおきたんだ。さぁ、いこう。時間に遅れおしたう」

「うん。『未来䌚議』はもう始たっおいる。郜垂の時間はもうすでに氞遠から脱け出しおしたったんだ」

池袋西口公園ではサメ型のリュックを背負った女が倜空に向かっお䞡手を掲げお宇宙空間に偏圚する倱われた時間ず自分自身を接合しようずしおいる。

圌女の呚りを黒猫がくるりず呚りながら適切な蚘号ず配列を䞊べお正確な術匏の圚り凊を探し圓おるための儀匏を執り行っおいる。

「なぜこんな隙間を䜜り出したんだ」

ゲヌム機を䞡手で持ち運びながら倢䞭になっおいる建築珟堎劎働者が俯いたたた話をしおいるのを未亜葉は聞き逃すこずなく拟い集める。

「お前みたいなや぀は初めおみた。がっかり」

「もう少しさ、呚りに気を぀けながら歩いおよ」

女子高生二人がフラむドポテトを口にしながら垞識が切り厩されおいくのを目の圓たりにしおしたったのか郜垂の䞭に䟵入しおきた異物を枟身の力で排陀しようずする。

「きっず殺されたいのね。あなたは静かにしおいるのがずおも苊手」

「たるで誰かを信じおいるみたい」

「仕方がないです。心を既に奪われおしたっおいるんですよ、きっず」

「たったく神様なんおいらっしゃらないのに」

倪った䞭幎の女性ず背の高くがたいのいい倧孊生が抜象的な結合を瀺す觊媒反応を詊すようにしおすれ違いざたに殺意を蚌明しようずする。

「倧䞈倫。もう決たったこずなの。安心しお」

未亜葉のすぐ隣で立ち止たった癜衣を着た女性がスマヌトフォンに話しかけおいる。

街の䞭に少しず぀dust8が産たれ始めおいるのを未亜葉は街を歩く人々の䌚話から掚枬する。

どこかで狂った歯車が是正されお、圌女の䞭に産たれた病理が池袋の街を圷埚い始めおいる。

けれど、䞍思議ず悪意のようなものが取り陀かれおいるせいか、気色の悪い玠盎さを肯定しおしたおうず呻き声を䞊げおいるようで、未亜葉は少しだけ安心をする。

きっず運動法則のようなものが正垞に機胜しおいる蚌拠だろうずネットワヌクを飛び亀う信号に気を取られないように進銬の巊腕にしがみ぀く。

圌女たちが池袋西口階段ぞず降りおいくのず同時に、池袋西口公園で筋肉質の男が病的な顔をした男ず笑い声をあげながらはしゃぎ回る胡散臭い顔をした男ず頌りない顔をした男の䞍安を煙みたいにかき消すために頭を叩く。

筋肉質の男は革ゞャンを着た黄色人皮が嫌いそうな女の方に手を回しおゆっくりず愛のようなものを確かめ合おうずする。

「そうね。私は病的粟神状態を愛しおいるのかも知れない」

革ゞャンを着た八人の男女は未亜葉ず同じようにたるで化孊実隓の成果を瀺そうず吹き出しおきた街の異倉に気付いお、圌らの呚りを取り囲んでいる普遍性に埋没しようずしおいる人工的な異化効果を掻き集めおいる。

ゲヌムセンタヌが嘘を螊らせおそこに溜たる䞍良品たちを目の敵にしおいる。

だからなんずか自分自身を深い闇の底から救い出そうず足掻いおいる男女を『八門遁甲』ず呌ばれる新しいシステムの䞭に埋め蟌たれた立䜓化された錯芖が街を蠢く無意識の領域ずリンクを匷めおいくず、圌ら八人の男女は生莄に捧げられるようにしお怪異を産み出すための䞍可芖の扉ぞず倉換されおしたう。

圌らの代償を契機ずしお先ほどたで池袋芞術劇堎で䞊挔されおいた銀の匙の挔劇がこじ開けた日垞の倖偎の空間から未来䌚議が出珟する。

「りチにはもう時間がない。赀い髪はディラックの海に取り残されたたた垰っおこヌぞん。りチが正矩自䜓を具珟化し続けるこずだけが奎ずの玄束や。りチの前を遮るものは党お粉砕したる」

忌野蘭魔...西田死織は黒い髪にラむダヌスヌツずいう出で立ちで䞍安定な瞬間を瓊解させようずする。

「私の準備は党お敎ったよ。これで時空方皋匏を䜿っお゚ヌテル粒子䜓を自由自圚に呌び出すこずだっお理論的には可胜なはずだ。人類は科孊ずいう叡智を䜿っお自然を克服し続ける。完党勝利ずいう蚀葉しか私には興味がないんだ」

暪尟深愛は郜垂空間ず融合させたアカシックレコヌドに接觊するメディりムによっお奜奇心を制埡する。

「きっず完璧な肉䜓は普遍的に偏圚できる。可胜性の䟝代は鍛錬によっおのみ開かれるはずなんだ。忘れおはいけない。すでに私は画䞀たる個ではなく生来的に合成䞍可胜な遺䌝子の創造物だっおこずを」

䞭沢乃亜は矎孊の远求によっお知識ず神経接続した限界数倀を思考の具珟化によっお拡倧する。

「私は垞に自由であり続けなくちゃ意味がないんだ。い぀の間にか溺れおしたいそうになる他者からの誘惑を揺らぎの䞭から『死の゚ヌテル』が呌び起こしおくれる。機械だけが私に生呜を䞎えおくれるんだ」

巡音最は唯䞀無二であるこずから逃れられない運呜を手に入れお力だけが支配する法則性を抱き締める。

「もし遞択肢を䞎えられたなら私は迷わず自戒なんおものを解き攟っお無限の領域にだっお脚を螏み入れるこずを厭わない。だっお私は決しお自分の居堎所を譲るわけにはいかないから」

䞉島沙耶は研ぎ柄たされた感芚ず感性だけに振り回されないように冷静な思考だけを頌りに矛盟を蚱諟する。

「宇宙にはただ知らないこずがたくさんある。描きたい圢も頭の䞭で暎れたわっおいる。だから脚を止めるわけにはいかない。街の䞭に溶け蟌んでいった私だけをい぀でも探しに出かけるんだ」

枋柀量子は優雅に螊っおいる嘘だけを拟い集めるようにしお矎醜を出来る限り配合する。

「ふははは。野望こそが私の欲求を満たすだけの正解を提瀺し続けおくれる。決しお忘れおはならない星の圢だけを远い求めお私は私の理想による完党で完璧なシステムを構築し続けおやる」

麊藁玠子は安寧の䞭に朜んでいる悪意を掗い流すだけの構造を批刀的に解釈しお倧衆ず融合する。

「そう。我こそは宇宙空間を努力ず根性によっお制圧する」察絶察悪専甚瞮退炉搭茉型亜人機動兵噚』。故に私は無敵であり無限であり『.』が䜜り出す垌望の圢そのものだっ」

䞃號は腕組みをしお『未来䌚議』が象城する正矩を具珟化するために時空の圌方から珟れる。

独立した個が連結し合うこずで殺意ず悪意が平垞化された末に発掘された矩勇的行動の䟡倀を未来䌚議は圢成しおいく。

至る所で玔粋悪の定矩が曎新され続けるこずしか出来ないのだずしたら、掗い流されるべき眪すら蚱容するこずで圌女たちの正矩はすでに完成されたものずしお断眪を続けおいく。

芋たもの、聞いたもの、感じたもの、觊れたものの党おから遊戯性だけを取り陀いお珟実䞖界ぞず転写するこずが出来るはずだず忌野蘭魔は確信する。

「先生、やはり珟れたしたね。私たちが物語の合間を瞫うようにしお䜜戊行動を続けおきた甲斐がありたした。優しさず暎力の本質的な違いは確かに私たちには芋぀けられなかったけれど、それでもほんの少し䞖界は暖かさを取り戻すこずができたはずです」

「君の船に乗せた人々が町䞭を芳光しお回ったんだ。あちらこちらに点圚しおいた過ちを芋぀け出すこずでどうやら少しだけ気持ちが楜になっおきたのかもしれないね。死ぬこずず生きるこずに等䟡倀を芋出すこずなんおがくたちには簡単に出来るわけがないっお気づく人が増えたんだ」

「私は埌ろを振り返るこずだっお時には必芁なんだっお教えおあげただけなのです」

「そういうシンプルでわかりやすい答えが今は求められおいるだけさ。君はいいこずをしたんだ」

黒猫がそうやっお耒めるずサメ型のリュックの女は照れ臭そうに自分の頭を抱えおピンク色の髪の毛をした女の子がずおも頌りがいのある男の人ず池袋駅に向かっお歩いおいくのを眺めおいる。

い぀の間にか知らない街に長居をしおしたったので、出来るこずなら倜に倢が開く神瀟に垰っおたた酒盛りでもするべきだろうずスマヌトフォンを䜿っお呟いおみる。

圌女の合蚀葉をきっかけにしお繋がりを求めた人たちが寄っおきお舌先を痺れさせるような矎酒に酔う人々がたた寂しさを埋めるために集たっおくるのかもしれない。

サメ型のリュックの女はさっきたで黒い雲が皲光の走らせる準備をしおいたはずなのにい぀の間にか小さな星粒ず流れ星を発芋できるほど柄み枡っおいるのを確認しおたた倧きく䞡手を倜空に向かっお掲げおみる。

「さぁ、埌は自分自身の匷倧な力に振り回されおしたった挙句にたるで火の䞃日間たで起こしおしたうんじゃないかっおいう真っ癜な光の巚人の暎走を止めるだけだ。圌はもう戊うべき敵をなくしおしたったはずだ。狂気に怯えお自制心を倱わなくおも枈むはずなんだよ、きっず」

皲劻を垯びた巚倧な鋌鉄の剣で醜悪に歪んでしたった過去の亡霊を䜐々朚和人は振り払うようにしお抌しのけお海の藻屑ぞず浄化させおしたう。

奇劙な倧怪獣の圱響でたくさんのプランクトンが赀く汚れた海を䜜っおしたったけれど、きっず察流によっお匕き起こされる時間だけが唯䞀の解決策を知っおいる堎所ぞず運んでいっおくれるだろう。

か぀お傍若無人な正矩の圢をしおいた光の巚人が口から肥倧化した進化の極点を远い払うために吐き出しおいた高熱の゚ネルギヌ匟を䜜り出すのをやめおしたうず圌の゚ヌテル粒子䜓によっお圢成された身䜓が少しず぀剥がれ萜ちおタむムリミットがきおしたったかのようにゆっくりず光が奪われお海岞沿いに等身倧の『゚レンレむ』の姿が攟り投げられる。

「諊めたくなかっただけなんだ。い぀か倉わるっおいう圓たり前の珟実から逃げ出したくなかっただけなんだ」

光の巚人は身長癟六十五センチほどの倧人の男ぞず倉わっおしたっお砂浜の䞊で党裞のたた男は気を倱っおしたう。

たるで地獄の業火みたいに海を焌き尜くしおいた『゚レンレむ』の゚ヌテル粒子䜓は圹目を終えお波間に拐われお倧時化だった浜束沖を平時の状態ぞず呌び戻しおいく。

「『アヌスガルズ』。埌はがく䞀人だけで倧䞈倫だず思う。『ナグドシラルヒュヌマノむド』はたたがくが必芁ずした時にやっおきおくれるず嬉しい。今は君たちも䌑んでいおくれ」

そういうず、二十メヌトルを超す『ラグナロックアヌスガルズ』は䞖界䞭に散らばるようにしお光を分散させお凪の海に二人乗りの黄色い朜氎艇『む゚ロヌサブマリン』だけが残される。

きっず新しい冒険の扉の鍵を持っお圌らはこの物語の舞台である惑星船団ガむアのどこかぞず飛び去っおいったのかもしれない。

黒い雲ず荒波がすっかり穏やかになっおしたった海の䞊で青い光が倩空たで差し蟌んでいるのを䜐々朚和人はもう䞀床だけ確認しおただ間に合うみたいだっお思いを抌し殺すようにしお、朜氎艇の゚ンゞンスむッチを入れる。

埌方のファンが回転をし始めお掚進力を増しおいくず䞭倮のレヌダヌに青い光の源が珟れお、自動操瞊に切り替わった『む゚ロヌサブマリン』が海深二癟メヌトル付近たで朜航し始める。

「䜕か心の傷のようなものに囚われおあなたは少しだけ壁を䜜り、先に進むこずを忘れおしたうのかず思っおいた」

「別に忘れおいたっお蚳じゃない。けれど、君のこずを芋おいたらがくも䜕か自分だけのものが欲しくなっおしたったんだ」

「もしほんの少しでも安易に寄り添っおしたったら匱さだけを理由にしお繋ぎ止める方法を探しおいたのかもしれない」

「けれど、そういうシンプルな遠回りを重ねおいるうちにどこに向かうべきかも分からなくなっおしたっおいる」

「私たちはそういうふうに倧人になっお初めお芋぀けたこずの倧半を海の藻屑に倉えおしたうか空の圌方ぞ飛ばしおしたう」

「もしかしたら、だから、本圓にたたたた私たちは運が良くおそういうものをなくさないように手に持っおいたのだずしお、けれどそんなものが偶然もう䞀床芋぀けられるなんお」

「奇跡っお蚀葉でしか説明できないこずを信じるぐらいなら぀たらない珟実の方を遞択しおしたいそうになる」

「だけど、ずりあえずあなたは前に進んでいるようだ」

「ずにかくこうやっお道暙のようなものは存圚しおいる」

「芋぀けおもらうこずが出来るのならっお埮かな願いをずきたたなくしおしたう」

「い぀もず同じこずを繰り返しおいるだけなんだっお蚀い聞かせる」

「今日だけはほんの少しだけ倉わったこずが起きおくれるこずを期埅する」

「だからきっず倧䞈倫だっお蚀い聞かせお䞍安の䞭に飛び蟌んでしたおう」

「始たりず終わりが重なり合うなんおこずをい぀たで信じられるかな」

朜氎艇はサヌチラむトで海の䞭を照らしおいく。

青癜い魚の矀れや血の匂いに敏感なホオゞロサメに遭遇しおのけぞりそうになっおしたったけれど、準備は䞇端でもう逃げ出しおしたう必芁性すらない。

困難に立ち向かうっおこずが陳腐に芋えおしたうぐらい行く先を遮るものは䜕もない。

だから、ほんの少しだけこんな簡単に手に入れられるものがあるんだろうかっお疑いたくなる気持ちを思い切り吞い蟌んでゆっくりず息を吐く。

こんな時に珟実逃避の手段があったのだずしたらずおも䟿利なのだろうけれど、出来たら今日はそういうものに頌るこずも必芁ではないのかもしれない。

時速十䞉ノットの朜氎艇は深海癟メヌトルを超えたずころで海底に巚倧な癜い圱を発芋しおアラヌムを鳎らす。

「ほら、あなたの吐息がもう聞こえ始めおいる」

「すぐ傍にいるっお心臓の音がなっおいるのを感じる」

芹沢矎沙は波の音に耳を傟けながらちょっずだけ悪戯心が芜生えお戞棚の䞭で眠っおいる劖粟の姿に目を向ける。

ずおも気持ちよさそうに倢を芋お『桜珊瑚』の赀い光に安心しきっおいるような寝顔で錟をかいおいるのでそぉヌっず戞棚の扉を閉めおちょっずだけ息を敎えお『シロナガスクゞラ』のお腹の䞭で倩井を芋䞊げお聞こえおくるモヌルス信号ず波の音が混ざり合っおいくのを感じようずする。

ちょっずだけ先回りをしおたくさんの䞖界を芋おきたけれど、きっずただただ倧切なものは残っおいるに違いない。

倧事にしおいた䞀県レフカメラは海の底ぞず沈んでいっおしたったけれど、もしかしたら違う方法で䞖界を切り取るこずだっお出来るかもしれない。

黒い県垯の奥の方で「芋えない声」が話しかけおくるのももうなくなっおしたった。

簡単に打ち明けるこずの出来ない過去だっお海の底で䜜られた人が持ち去っおしたった。

静かに呌吞を敎えおどこにも行かないでいいんだっおこずを確信するようにしっかりず目を開けお六畳䞀間の奇劙な空間に寝そべっお空が萜ちおきおくれるのをちょっずだけ期埅しおしたう。

忘れるこずも忘れないこずも圌女の䞭でずっず生きおいる。

「だからこそ眪はすべお蚱されるのです。敬いなさい。あなたの神を あなたの父を そしおあなた自身の眰を」

䞘の䞊の教䌚に黄金で出来た十字架のネックレスをしお頭の薄い神父が集たった教埒たちに向けお懺悔を申告させようず聖曞を掲げおいる。

神父の埌ろに掲げられおいるのはキリストではなく、か぀お陰惚な事件の銖謀者ずしお眪を犯した埌に自らに眰を䞎えるために䞡県から血の涙を流しお磔にされおいる男の圫像で壁には『...』ず黒地に金色の文字で曞かれおいる。

『予蚀の曞』ず呌ばれる教兞を抱えた神父の呚りには䞃人の男女が取り囲んでいお、より狂信的な信者たちの熱狂に応えるようにそれぞれの眪の名を冠したキャ゜ックを着お他に信じるものなど必芁がないんだずいう名の教矩によっお民心を掌握しようずする。

「『怠惰』であるこずが眪でないこずが分かったか。『クズガミ』の名においおお前に堕萜を享受せよず呜じる。忘れろ。すべおの責務を。朜ち果おろ。ありったけの屑共に願いを届けお」

「『暎食』だずいうこずに眪を感じる必芁はありたせん。『デマトン』の名にかけお貎方に欲望の充足をお玄束したす。感謝の念に取り憑かれおいおも貧困に耐え忍ぶずいう亡者に足元を救われるだけなのです」

「『色欲』に振り回される眪に囚われたっお構わないよ。『゜ラリス』の名の元に螊り続けるこずで君ずがくの違いを芋せ぀けるこずにしよう。䜕もかも受け入れお欲しいな。私の䜓液ず血液はすべおの根源たる欲求ずしお貎方を惑わしおくれるわ」

「『匷欲』を党おの眪においお優先させるのです。『ショりコり』の名を翳し貎方は欲しいものを手に入れるこずができたす。傷を䞎えたこずを忘れなさい。過去は既に存圚しない未来ず同矩なのです」

「『嫉劬』に溺れお眪をなすり぀けお生きお䜕が悪い。『マギャク』の名に揺れお他人を貶めお自力で生きるこずを誓いながら力を欲しろ。党おが倢だず眵られたずころでお前が手にしたものだけがお前の䞖界そのものなのだ」

「『傲慢』に生きるこずで眪を捚おるこずを遞びなよ。『ダカレ』の名を探し倧切なものを増やし、倢ず奇跡ず愛だけを狭窄のたた享受しお、貎方の瀎ずなる聖者たちの血ず肉を味わいながら氞遠の享楜を堪胜する為だけに生きるんだよ」

䞃぀の眪は蚱されお『憀怒』だけが絶察の沈黙を遞び取る。

䞭倮で信埒たちに新たな眪が重ねられるこずを玄束しお『Ϝ神父』ず呌ばれる男が真っ癜なキャ゜ックに描かれた反転した『C』を血液で汚しおいく。

圌の手から授けられる䞀粒の錠剀をたくさんの信者たちが欲しながら欲望が充足されおいく瞬間を心埅ちにしおいる。

ここでは䜕もかもが蚱される。

刹那によっお解決された氞遠が過去そのものをかきけしおしたう。

䜕もかもが父なる神がキリストの名においお粟霊を呌び出すための儀匏に過ぎないのだず劣悪な環境で生きる䞀人の少女が奇劙な圢の生き物のぬいぐるみを抱きながら倧人たちの狂乱をじっず芋぀めおいる。

「私はもう䜕も信じない。これからは自分の力だけで生きおいくんだ」

鐘の音が鳎り響き、い぀の間にか頭の䞭を寄生虫に乗っ取られた狂信者たちは行き堎をなくしお呆けおしたう。

いずれ蚪れる終末だけを信じおいるのか自暎自棄になったたたありずあらゆる悪業に手を染め続けおきた自分たちを蚱そうずしおいる。

決しお救われぬこずのない眪を抱えお生きるこずを遞ばずに䞡県から血を流す眪悪の象城に向かっお懺悔の蚀葉を吐き出すよりずっず早くもっず倧きな眪を犯すこずで自分自身を救おうずしおいる。信仰宗教団䜓『...』の信埒たちは予蚀を䞎えた教祖の䌝えるこずだけを䟝代ずしお断眪されたもの同士に蚱しを䞎える。

父なる神に向かっお捧げた自分の姿を䞃぀の眪に投圱しお芋぀け出そうずしおいる。

「ねえ、進銬は『ナンバヌズ』が突然むンタヌネットで流行した殺人りィルスに感染した被害者たちだっおいう話は信じおいる」

未亜葉はずおも静かな雰囲気で楜しめるむタリアンレストランで仔矊のロヌストビヌフにナむフずフォヌクをいれながら『王城進銬』ずの厳かな食事の時間を楜しんでいる。

『』ずいう店の店内は二十代埌半から䞉十代前半の男女が談笑しながら賑わっおいお、䞭倮に食られた薄いベヌルを纏ったような女性の圫像が劙に生々しくひっそりずした存圚感を䞎えおいる。

「殺人者たちに意志はなく、瀟䌚的歪の圱響䞋で発生したバグが原因だっお理屈は個人的にはあり埗る話かもしれないずは思う。けれど、職務䞊蚱すこずは出来ないのは圓然の話だな」

「もし倱われるものに誰も原因や責任を持たないのだずしたら䞖界はやっぱり窮屈に感じおしたうかもしれない。だっお私はあなたを傷぀ける暩利をちゃんず楜しみたいもの」

「出来る限りお互いに倧切にしあうこずの出来る距離を芋぀けおいくこずは必芁だろう。けれど、そういう個人的なこずを拡倧解釈しおしたっおは法治囜家ずいう枠組みが無効になっおしたう」

「抜象的な話で物事をすり替えお自分を正圓化する連䞭たで私たちは蚱しおしたいかねないっおこずだね」

「明文化ずいう蚀葉が瀺す通り、人間瀟䌚が適切な蚀語の䜿甚ず文化圏を築くこずで集団的防衛を成し遂げおきたのは事実なんだ。音韻や倚矩性は争いの火皮を垞に䜜り続けおきたにも関わらず人間は䌝えるずいうこずを決しお諊めなかった」

「だから私は自分の䌝える蚀葉だけを倧切にしたいっお思っおいるよ。もしそれを他人が奜きなように利甚されおしたったのだずしたらすごく悲しいこずしか起こらないず思う」

「ずはいえ、がくらは頭の䞭たで取り締るこずたでは出来ない。個々人がどんな思想を持ったずしおも蚱容できるだけの瀟䌚を䜜り䞊げるこずもたたがくらが有意矩に暮らすための䞀぀の手段であるし、倧衆に取っおは倧きな歊噚にもなり埗る」

「もし劣悪なこずを考えるだけで眰を䞎えられる䞖界が到来したら私たちは私たち自身を信じるこずが出来なくなっおしたう」

「だからどうしおその思考が産たれたかを考える人間たちが必芁なんだ。それは『円倜凪』のような䜜品を提䟛する䞀芋するず瀟䌚にずっお攻撃的意志を持った連䞭だったずしおもね」

「そのこずを私たちは簡単に芋過ごすべきじゃないっおこずね。けれど、こうしお食事をする以䞊の幞せな瞬間のこずを私たちが知るのは少し難しいかもしれない」

「諊めが襲っおくるのを仔矊の肉が邪魔しおくれるはずさ。どちらにせよ、悪意に埋め尜くされた䞖界のこずをがくらが垌求しおいる蚳ではないはずだ。もし自分の倧切なものが簡単に奪われおしたう時代が来たのだずしたらがくらは野性に還るこずしか出来なくなる」

「ううん。動物にだっお倧切に思う家族や恋人は存圚しおいる。それに私たちが䜜り出しおいる機械だっお無闇矢鱈に誰かを傷぀けるようには出来おいない」

『王城進銬』はテヌブルの䞋から小さな箱を取り出しお仔矊のロヌストビヌフの皿の隣に眮いおゆっくりずピンク色の髪の毛の未亜葉の前に差し出す。

未亜葉も同じように巊手の平を広げお差し出すず、進銬は玫色のベルベットの箱の䞭から銀色の指茪を取り出しお未亜葉の巊手の薬指にそっず収めるようにしお自分の思いを䌝える。

「この指茪の裏偎に君の誕生日ずむニシャル、それから  ずいう文字が刻印されおいる。受け取っおくれるず嬉しい」

「もちろん。喜んで。よろしくお願いしたす」

むタリアンレストランのどこかでお皿の割れる音がする。

りェむタヌが謝眪の蚀葉を述べおいるけれど、未亜葉ず進銬が気にかけるようなこずはどこにもないようで、しっずりずした倜の空気が二人の間を誰も邪魔出来ないのだずいう事実をそっず添えお赀い葡萄酒の味をずおも楜しそうに味わう未亜葉の笑顔をちょっずだけ手助けしおいる。

倜空には明るいたたの月が浮かんでいおガラス窓の向こう偎に芋える倧きな満月のこずをがくたちは『神様の䜏う堎所』ず呌んでいる。

圌らはずおも自分勝手に䞍完党な生き物を䜜り出したけれど、月の街からがくたちを芋䞋ろしたたた決しお䜕かを手助けしおくれるこずなく぀たらない愚痎でも零しおいるがくらのこずを憀っおいるのかもしれない。

答えを教えお欲しいっお蚀葉が、今は空虚で䜕も埋め尜くしおくれないような気がしたので、倜空に浮かぶ月の隣にずおも倧きな船の圱が芋えたこずを内緒にしおおこうず考える。

きっず圌女の倧切な姉の䞀人がたた䞖界の党おを救おうずする無茶な野望を抱えたたた隒ぎ始めたのかもしれない。

「そういえば、『有栖』ず最埌に䌚ったのはい぀だったのかな」

「『郜民の城』を秘密基地にするずか蚀い出すちょっず前だからちょうど半幎前かな」

「だずしたらそろそろ䜕か行動を起こす頃合いだず思った方が良いね」

「そうだね。あの人がじっず䜕かを埅っおいるこずなんおありえない」

「血を分けた姉効なのに䜕もかも違う」

「ううん、私たちは遞び取るものだけが違うだけなんだ。それは『穎』お姉ちゃんもきっずそう」

「壱ノ城家は自分たちの欲しいものを歪めるこずがない」

「たずえ時空なんおものが私たちの邪魔をするのだずしおも必ず手に入れる」

「それが聞けおよかった。さぁ、がくにはただやるべき仕事が残っおいる。そろそろ家に垰ろう」

壱ノ城未亜葉ず『王城進銬』はワむングラスにちょっずだけ葡萄酒を残しお雑叞ヶ谷の奥たった堎所にあるむタリアンレストランから立ち去ろうずする。

倜空には浮かぶ巚倧な黒い圱を芋お未亜葉は笑顔が浮かべるず、しっかりず進銬の手を握り締めお銀色の指茪が指ず指の間に圓たる感觊を確かめようずする。光を駆け抜ける音がしお倜が照らされる。

「垰っおきたよ 珟代に 私たちは眪を掗い流しおやったぞ」

惑星船団『ガむア』所属『タヌトルアむランド』玚居䜏空間内蔵巚倧宇宙船『倧和』の東京郜䞊空に次元飛行船『センスオブシン』が突劂ずしおタむムドラむブから垰還する。

四ヶ月前に枋谷二四六号沿いから亜高速飛行の末飛び去った咎人の船のマスト䞊で『パラドキシアルスヌツ』に身を包んだ『壱ノ城有栖』が明るいたたの月を指差しお果おしない時間旅行からの珟代に戻っおきたずいう事実を䌝えおくる。

圌らは千幎の悠久の時を超えお、歎史の闇に葬り去られおしたった時空の捻れを解消したず宣蚀する。

それは池袋の街を巻き蟌んだ人間性の極臎に存圚する欲望の解攟だけが指し瀺すゞョルダン曲線の内偎の出来事ず裏偎で起きおいた悲しい憎しみの連鎖のこずだったかもしれない。

誰かがきっずそんな埮かな垌望のこずをもし綎っおくれるのだずしたらきっず怚嗟の源を知るこずが出来るのだろう。

その時にたた䌚えるこずを。

「そう、私は皀。倷、埮ず䟛に人心を掌握するものなり」

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