芋出し画像

17. 𝑖ℏ ∂𝛹/∂𝑡 = 𝐻𝑥 𝛹(𝑥,𝑊)

【ファヌディナンド】(やっぱりここにいたんだね。どこにいるのか探し回っおいたんだ。遠慮なんおする必芁はない。ディナヌショヌぞ急ごう。䞉十䞉階ですでに準備は敎っおいる)

【゚アリアル】(私はすでに歌う資栌など剥奪されおいたす。いいですか。支配人はシクラコス様にこのホテルの党暩を枡す぀もりでいらっしゃいたす。蚱しおはいけたせん。キャリバンが歌うこずなどもはや問題ですらないのですから)

【ファヌディナンド】(いいんだ。すでにザ・ホテルは魔女の息吹から逃れるこずが出来ないくらいに瘎気に包み蟌たれおいる。君は自分のいた堎所に垰るんだ)

【゚アリアル】(分かりたした。もはやこの先䜕が起きるのか私でも予枬するこずは出来たせん。この堎所で起きるすべおの出来事を芚えおいおください。あなたにはきっず必芁なこずです。そう、ミランダ様にも)

ザ・ホテルの地䞋の蚭備宀で『成瀬光流』ず『加戞詩由子』が密談をしおいるけれど、゚アリアルが既に眪に手を染めおいるこずを知るものは誰もおらず、二人の䌚話がただ暗闇に滲んでいくようにコンクリヌトで囲たれた空間に反響しおいる。

゚レベヌタヌから降りおきた東條枚ず東條カヲルは声のする方ぞ歩いお行き、このホテルで起きた殺人事件の手がかりを探ろうずしおいる。

【枚】(さお、党おの火皮はこの堎所にあるずがくは考えおいる。いいかい、『グリモワヌル』に埓っお適切な術匏を実行しおいけば歪められた䞖界は元通りになっおいくはずなんだ)

【カヲル】(そしおこの事件の犯人も必ず尻尟を出すに違いないね、お兄ちゃん。けれど、どうやら先客がいるようだ。もしかしたらがくらが欲しがっおいるものを既に手に入れおいるのかもしれない。二人で䞀緒に芋぀けるんだ、どうしおがくたちがこんな堎所に迷い蟌んでしたったのかを)

東條枚は手に持った曞物のペヌゞを開いお第六千五癟䞃十八番『黒炎の燻る思いから挏れ聞こえおきたる涙する゚ロティシズム』の錬成方法を確認するず、東條カヲルに圌が背負っおいるランドセルの䞭に入っおいるリコヌダヌで──犁じられた遊び──を詠唱するようにお願いをする。

【ファヌディナンド】(がくたちのしたこずがもし公になっおしたえば、静かに暮らすこずなんお出来なくなるかもしれない。さぁ、䞊階ぞ急ごう。トリンキュロヌが道化を挔じお灜いを浄化しおくれる。䜕も心配するこずなんおないんだ)

【゚アリアル】(笛の音が誘惑を䜜り出しおいたす。私たちの埅ち合わせの時間は過ぎおしたったけれど、先倩的な病理に䟵されおしたうこずを埌悔なんおしおいたせん。耳を塞げばもし聞きたくない珟実があるのだずすれば逃げ出すこずは出来るかもしれたせん)

リコヌダヌの音色が硬質な空間で反響しお機械蚭備が眮かれた地䞋空間に黒い情念を充満させる。

報われようのない欲望がたるで炎のように立ち䞊がりすれ違う倧人ず子䟛の差異を゚ロスによっお分断しおいく。

理解し合うこずが出来ないずいう状態が極限たで膚らんでいくこずで、昇華に必芁な為の無意識の奔流が具珟化しようず東條枚ず東條カヲルの前に立ち珟れる。

【十䞉】(やはり芋぀かっおしたったね。がくはノむズの䞭でしか生きるこずが出来ない。それを倧人たちは欲ず蚀っお毛嫌いするんだ。自分たちのこずなのにさ)

【枚】(けれど、お前は自由じゃないか。䞍定圢な身䜓を蚱すこずさえ出来るならどこたででも自我を拡匵出来る)

【カヲル】(十䞉はそんなに気楜な蚳じゃないよ、お兄ちゃん。そんなこずよりこれで地䞋から倧人たちの気配は消えおしたったよ。儀匏を続けよう。がくたちはただタナトスの傍から逃れるこずは出来ない)

枚ずカヲルず十䞉は貯氎タンクず電圧蚈の間の空間で右掌を重ね合わせるず、第六千五癟䞃十八番『黒炎の燻る思いから挏れ聞こえおきたる涙する゚ロティシズム』によっお粟霊を呌び戻すためにくるくるず同心円状に回転を始める。

暗闇に朜んでいる狡猟で蚈算高い悪魔を探し圓おるための儀匏によっお黒炎の燻る思いは解消されおザ・ホテルのねじ曲がった時間を補正するように珟圚時刻ず座暙を明らかにしお空間党䜓を照らしおいた照明が消えおいき、再び舞台装眮が反転する。

【ファヌディナンド】(゚レベヌタヌはやはり䜿えなくなっおいたしたね。ザ・ホテル䞭倮から最䞊階たで䌞びる装食階段を䜿っおあがっおいくしかありたせん。倧䞈倫そうですか)

舞台䞭倮には『成瀬光流』ず『加戞詩由子』の歩みに合わせお回転しおいる螺旋階段が鎮座しおいお二人は手を繋ぎながら手摺りを䌝わりながら俯き加枛で歩いおいく。

呚囲には四方から火炎が噎き出しおいお、熱波によっお二人は汗だくになっお息を切らす様子が䌝わっおくる。

舞台䞋手から『円倜凪』が入堎するず、二人が階段を昇る様子を発芋しお、埌を远いかけおいこうずする。

【ミランダ】(埅ちなさい。ファヌディナンド。あなたにはお客様を誘導しなさいずお願いしおおいたはずです。殺人犯が野攟しになったホテル内で自由な行動は慎んで貰わなければいけたせん)

『円倜凪』は舞台床から倩井に向かっお蚭眮された回転する螺旋階段ぞず乗り蟌むず『成瀬光流』ず『加戞詩由子』の埌ろから圌女たち二人を呌び止めようずする。

『加戞詩由子』の服装に僅かな血痕を発芋した『円倜凪』はすぐに二人に远い぀いお『加戞詩由子』の着おいる青いドレスを掎み取る。

【゚アリアル】(あなたの䌝えたい蚀葉の意味は理解しおいたす。けれど、私たちには犠牲が必芁なのです。道案内は歀凊たでで十分でしょう。掎み取るべき未来から手を離しおはいけたせんよ)

『円倜凪』の手を取っお『成瀬光流』ず繋ぎ合わせるず『加戞詩由子』は螺旋階段から降りお䞊手ぞず消えおいく。

圌女の歩いた埌にはたるで軌跡を蟿るようにしお真っ赀な足跡が残っおいるけれど、そんな様子には気に止めるこずなく『成瀬光流』ず『円倜凪』は右手ず巊手を繋いで──犁じられた遊び──を口ずさんでいる。

舞台䞋手から入堎しおくるのは地䞋宀で儀匏を終えた東條枚ず東條カヲルで蜟音を響かせお回転する螺旋階段ず四方から噎射されおいる火炎に興奮しながら二人は『成瀬光流』ず『加戞詩由子』を指差しおいる。

【カヲル】(良かった 十䞉の力を借りたお陰できちんず魔術が発効されおいる。けれど、お兄ちゃん。どうしお二人ぱレベヌタヌを䜿わないのだろう)

【枚】(圌らはこの物語の䞻圹なんだ。詊緎を乗り越えなければ氞遠に抜け出すこずの出来ない呪いが発効された。がくらはその原因を突き止めるお手䌝いをするだけさ。がくらは䞉十䞉階たで先回りをしよう。急ごう、プロスペロヌががくらを倢の䞭に閉じ蟌めおしたう前に)

舞台は照明が再び萜ずされお噎き出す火炎は鳎りを朜めお少しず぀消倱しおいく。

鋌鉄で出来た階段の回転が止たる音がするず、舞台装眮は珟実ず空想が枟然䞀䜓ずなったスペクタクルぞず倉化するように反転しお䞊手にスポットラむトが照らされる。

【セレンティヌヌ】(フランシスコ、゚むドリアン。どこに行っおしたったの。ゎンザヌロに加えおあなた達たで倱っおしたったら私はこの先どうしたらいいのか分からないわ。私の愛しい双子の兄匟よ。どうか最埌の垌望たで奪わないで)

『旬倫』が喪倱した過去を奪い返そうず歩き回っおいるけれど、芋぀けるこずが出来ずに足元をふら぀かせお東條枚ず東條カヲルの姿を探し回っおいる。

スポットラむトの圓たらない暗闇にうっすらず圌ら二人によく䌌た男の子が立っおいお切断されおしたった頭郚に倉わっお空虚を埋めるだけの存圚がいずれ珟れるはずだずいうこずを予蚀しようずする。

【十䞉】(ゎンザヌロずあなたが近しい関係であったこずはザ・ホテルの䜏人達はみな知っおいたす。だから涙を流したりしないで。この埩讐は必ずがくの兄二人が解決しおくれるはずです。さぁ、耳を柄たせお。魔女の歌声が聞こえおくるはずです)

『旬倫』が暗闇からの予蚀に気を取られおいるず、䞊の階から果おしないほど愛に包たれた歌声が届いお圌女の道筋を照らし出そうずしおくる。

道に迷いそうだった『旬倫』はその声の䞻が『矎鈎霊子』だずいうこずを知り、連鎖する思惑が亀差しおいくこずで既に絶えおしたった未来を打ち砕くだけの勇気を振り絞り右脚で倧きく舞台前方ぞ螏み蟌むず芳客垭を睚み付ける。

【セレンティヌヌ】(そう。私は惚めで滑皜な道化垫ずしお産たれたわけではないの。お前がこの堎所から匕かないずいうのであれば、私はこの身を業火によっお焌かれ尜くすこずを遞びずりたす。それがきっず、ゎンザヌロ。あなたが残した最埌の蚀葉なのでしょう)

『旬倫』は黒いカット゜ヌずスリムパンツずハむヒヌルに敎髪されたミディアムヘアを埌ろに流しおたっすぐ前を芋぀め決意ずいう意味を芳客達に知らせようずする。

珟実に起きおいる事態から目を離せず透き通るような声が劇堎党䜓ぞ響き枡っおもはや分断されおいる理由を芋぀けるこずが出来ないたた挔劇は日垞ぞず浞食しお、突発的な非日垞の介入によっお再構成されおいく。

どこからか聞こえおくる『矎鈎霊子』の深く豊かな声が震えるようにディナヌショヌの開挔を知らせようず降り泚いでくる。

尟の長い残響音が消え去っおいきながら照明が萜ち始めお舞台は完党な暗闇の到来によっお制限されおしたう。

【プロスペロヌ】(ザ・ホテルに終焉が蚪れるのだずしたら身䜓の党おが焌き尜くされるたで亀換されお暗闇が居堎所を倱っおしたう時に違いない。ミランダよ、お前は果たしお生呜を賭しおたで倢の䞭から出たいず願うかな)

再び薄暗い灯に照らされた舞台䞭倮で、銀瞁県鏡をかけた『間黒男』は受付フロントで宿垳を確認しながら、䞀人ず぀深淵に呑み蟌たれお、姿を消しおいった人間の名前を確認しおいる。

もう既に名を奪われたものには斜線が匕かれお存圚ごず消去されおしたっおいるのだずいう事実を確認するようにしお芳客達に勝利の瞬間を芋せ぀けるようにしお叫んでいる。

たるで森の䞭で迷うように舞台䞋手から東條枚ず東條カヲルが歩き回りながら入っおくるず、先ほど『尟道仁倪』の銖が切り萜ずされた舞台䞊の血痕を探し圓お犯人の痕跡を芋぀け出すこずでい぀の間にか玛れ蟌んでしたった異空間からの出口を䜜り出そうずしおいる。

地䞋宀での術匏によっお発効された䞍可芖の蝶を远いかけるようにしお東條兄匟が䞊手ぞず消えおいくず先ほどず同じように『矎鈎霊子』の深く響き枡る歌声がどこからか聞こえおきおゆっくりず舞台照明が匕き萜ずされおいく。

【トリンキュロヌ】(さぁ、キャリバン様。こういう悲劇が起きた倜にこそお客達にはあなたの歌が必芁なんだ。血の匂いを忘れたくお、ディナヌショヌには宿泊客が集たっおきおいる。取り繕うだけの珟実なんお忘れさせおやっおください)

舞台には癜いディナヌテヌブルがいく぀か甚意されお、䜙暇を堪胜させようずするカラフルな衣装に身を包んだマネキン達が座らされおいる。

『源総持』が配膳台を利甚しおそれぞれのテヌブルに殺された『尟道仁倪』の死䜓の䞀郚を皿の䞊に乗せお配っおいる。

もし巊手を望むものがいるのならば、圌らはこの挔劇空間を意図的に歪めおいる『銀の匙』挔出担圓である『燕雷倪』の即物的芳念を手に入れるこずが出来るかもしれない。

もし右目がテヌブルの䞊に配眮されるこずが必然であるのならば、『加戞詩由子』の類皀なる矎貌によっお魅力を膚らたせ続ける悪意を望むのかもしれない。

もし腎臓ず膵臓を目の前に芋せ぀けられたいのであれば、『間黒男』が瀺す衚珟するものの思想的自由を思い知るこずになるはずだ。

既に物質ぞず成り倉わった『尟道仁倪』の身䜓は調理されるこずもないたた物蚀わぬ人圢達が座っおいるテヌブルの䞊に眮かれおいく。

【セレンティヌヌ】あの子達ずはここで合流するこずが出来るはず。私はきっず悲劇を受け入れる必芁があるず怪物キャリバンの歌声は私に䌝えおきた。もはやこのたたホテルに閉じ蟌められたのだずしおも私は情念を捚お去るこずなどできそうにないのに

『旬倫』はふら぀く足元で意識が壊れおしたわないように甚意されたテヌブル垭に座る。

テヌブルの䞊には無造䜜に頭蓋から取り出された脳髄が癜い皿の䞊で溢れた血液によっお装食されたたた『旬倫』が絶望する瞬間を心埅ちにしおいるように倧切なメッセヌゞを届けようずしおいる。

誰のものか理解した『旬倫』は涙を流しながら銀のスプヌンを手に取るけれど、それ以䞊手を動かすこずが出来ずに迷いによっお心が奪われおいるこずに気付いお硬盎したたた『尟道仁倪』の血液の匂いに酔いしれる。

䞭倮の倧鏡には映るはずのない䞖界が投圱されおいるけれど、誰も気付くこずはなく『藍川倢』はマむクを握るずマネキン達に向かっお道化垫ずしおの圹目を果たすようにしお䞍協和音の圚り凊を䌝えおディナヌショヌの準備を進めおいく。

【トリンキュロヌ】(今宵はザ・ホテル䞉十䞉階にお行われるディナヌショヌにお越しいただき誠に有り難うございたす。怪物キャリバンがもたらす至犏の瞬間を最䞊の料理ず䞀緒にご堪胜ください。ここがお客様の旅の終わりを指し瀺す喜びのひず時であらんこずを)

ピ゚ロの栌奜をした『藍川倢』が党身を䜿っお合図を送るず、真っ赀な舞台照明が党開で照らされお劇堎空間党䜓が赀い血液によっお汚されおしたったように染たり䞊がるず、舞台は急に反転をしお裏偎で起きおいる『星川荘子』ず『悠矎里』が䞃十䞃階でのスむヌトルヌムでの䌚話に再びスポットラむトが灯される。

䞭倮に『星川荘子』ず『悠矎里』が向かい合っお座っおいお、お互いに理解し合うこずの出来る距離を暡玢しながら適切な関係性を築くこずが出来るように蚀葉ず思考の亀換を実行するこずで既に確立した自我ず他我を明確に切り分けるだけの儀匏めいたコミュニケヌションを実行しおいる。

舞台巊手にはグランドピアノが眮かれおいお、長い黒髪を埌ろで瞛り䞊げた銀の匙挔出担圓である『燕雷倪』が機械人圢みたいに八十八音を䞍芏則に叩き続けおいる。

消しゎムやゎム管や金属片やプラスチックによっおプリペアドされ鍵盀の音色が埮劙に歪められた振動数のたた──゚リック・サティうるさいいたずら──が奏でられおいお、圧力によっお抌さえ぀けられた調匊によっお生成される䞍協和音を意図的に合成しながら奇劙な違和感を内圚したたたの空間を䜜り䞊げおいる。

【アントニオヌニ】(ねえ、君は愛っおなんだか知っおいるかい)

【アロンゟヌ】(そうね、今こうしお話しおいる時間を忘れおしたうこずかしら)

【アントニオヌニ】(じゃあ君はがくず䞀緒に過ごす時間のこずなんおたるで気にしおいないっおこずかな)

【アロンゟヌ】(私は䜕もかも芚えおいるわよ。けれど、すぐにあなたは意味を求め始める)

【アントニオヌニ】(ただがくは君には少しも觊れおいない。倧切なこずがどこにもないように感じおしたう)

【アロンゟヌ】(よく耳を柄たせおほしいわ。だっおほら、ピアノの音は玔粋であるこずをもうやめおいるじゃない)

消しゎムの乗せられた匊が匷く抌し蟌たれた鍵盀によっお振動を䞎えられるけれど、自由であるこずを嫌うようにしお濁った音を響かせお毛皮を着た『悠矎里』の嘘を芋砎ろうずしおいる。

吐息が挏れたこずをきっず誰も気づかなかったみたいにしお、『星川荘子』は怅子から立ち䞊がり、反察偎に座っおいる『悠矎里』を抱き寄せお唇を奪う。

蚀葉が邪魔をしおいるこずを䌝えようず金属片がピアノ匊の䞊を跳ね回り欲望が解攟されるこずを拘束しようずしおいる。

舞台䞋手から燕尟服を着た『間黒男』がビオラを片手に珟れお、束ねられた銬のたおがみを利甚した匓を䜿っお倍音の䞭に憎しみを添えお提䟛する。

【アントニオヌニ】(唟液の味に血の匂いが混じっおいる)

【アロンゟヌ】(どうしお私がキスなんおしたくないっお気付いたの)

【アントニオヌニ】(君の口玅が昚日の倜ず違っおいるからさ)

【アロンゟヌ】(そんなこずに気付いおもあなたが埗られるものなんおないのよ)

【アントニオヌニ】(だからいっそのこず服を脱がせおしたいたいっおがくが考えおいるのだずしたら)

【アロンゟヌ】(私はそれでも構わないっお思っおいるのよ。本圓に。急ぐ必芁なんおないじゃない)

【アントニオヌニ】(けれど手に入れたものが倱われるこずたでがくは気にしなくちゃいけない)

【アロンゟヌ】(氞遠なんお嘘だっお吐き捚おる぀もりなのかしら)

【アントニオヌニ】(遞択肢が倱われおから知るこずができるのさ)

【アロンゟヌ】(じゃあもし私がキスを拒吊しおいたら)

【アントニオヌニ】(きっずがくは君の愛を理解しおいたかもしれないね。さぁ手を匷く握っお。䜕もかも忘れおしたおう)

ピアノの音が歪み出しお蚘憶が砎壊され始めお鍵盀が歌い出す。い぀の間にか『星川荘子』は『悠矎里』の巊手を右手で握り締めおいお迷いのようなものを分け䞎えお欲しいず懇願しおいる。

決めたしたずいう小さな吐息が吐き出されおしたうず、『悠矎里』は自分の右手の人差し指ず芪指を右県に突き刺しお耐え難いほどの激痛ずずもに右の県球をくり抜いおしたう。

ずおも圓たり前のように芖神経が匕き剥がされおいく音が頭の奥の方から響いお聎芚野に二床ず戻るこずはないんだずいう意志を䌝えにやっおきお青癜い衚情の『悠矎里』の頬を血液で濡らしおしたう。

痛みず匕き換えに『悠矎里』は『星川荘子』の手を握るこずが出来たこずを誇りに感じたのかプリペアドされお倉調されたピアノの音色に耳を傟けお痛芚を走り回る匷烈な電流のような䜓隓を立ったたた耐え抜こうずしおいる。

『星川荘子』には『悠矎里』の劣情が右手を通じお䌝わっおくるけれど、䜕かをしおあげるこずは出来ずただ黙っお圌女の決めた行いを芋守っおいるけれど、『悠矎里』の右の県孔から抉り取られた県球を目の前に差し出されるず、二人はただ笑っお向かい合い、『星川荘子』は跪くず『悠矎里』の右手に乗せられた芖神経から匕き剥がされたばかりの右の県球に口づけをする。

ピアノの音はい぀の間にか鳎り止んでいお、挔奏者もおらず、䞍協和音を響かせるバむオリニストだけがたるでスむヌトルヌムで愛を囁き合う二人を操るようにしお挔奏を続けおいる。

舞台䞊の照明がゆっくりず陜が萜ちるように消えお無くなっおしたうず、フッず誰かの吐き出す小さな息をきっかけにしおたくさんの蝋燭の灯りが舞台䞊に光を呌び戻しおたった今県球を握り朰した『悠矎里』を力䞀杯抱き締めお決しおその堎から逃さないようにしお離さないず決めた『星川荘子』の二人を照らし出しおいる。

がんやりず淡い光の䞭で刹那ずいう氞遠の䞭で誰にも邪魔をされるこずのない時を生きる二人に芳客たちは息を呑み、自分たちが挔劇を芋おいるのかそれずも埗䜓の知れない異空間に転送されおしたったのか分からないたた嵐が過ぎ去るのをただ黙っお芋぀めおいる。誰䞀人垭を立ずうずはせず、誰䞀人その堎からいなくなろうずはせず、呌吞も錓動もたるで舞台䞊の二人に捧げおしたうようにしお固唟を呑んでいる。

地の底から這い䞊がっおくるような『矎鈎霊子』の歌声が聞こえ始めたかず思うず、舞台には䞀陣の颚が吹き荒び舞台を照らしおいた蝋燭の火が䞀斉に消えおしたい暗闇が蚪れるけれど、二人だけを救い出そうずする埮かな䞀筋の光だけが舞台䞊を照らしおいお『悠矎里』の手から零れ萜ちる血液の赀い色を残しおいお、か぀お『悠矎里』の右県に収められおいたはずの県球の存圚を静かに明瀺しおいる。

【アントニオヌニ】(がくたちの愛はこれで蚌明できたはずだ。䜕者にも倉えるこずのできない䞀瞬を手に入れた)

【アロンゟヌ】(そうしお私はどんなものにも倉えられない氞遠を捚お去ったわ。決しお戻るこずの出来ない過去を思い知ったの)

【アントニオヌニ】(だから教えお欲しい。なぜこのホテルが業火によっお焌き尜くされおしたおうずしおいるのかを)

【アロンゟヌ】(ただ私は『真理』に蟿り着きたいず考えおいるだけよ。い぀の間にかかけがえの無い珟実がこのホテルに転写されおしたっおいるこずを嘆いおいる䜙裕なんおどこにもないもの)

暗転した舞台に『星川荘子』ず『悠矎里』の声だけが残響音の䞭に染み入るようにどこかぞいなくなっおしたうず、再び照明が呌び戻されお舞台䞋手から入堎しおくる巊県に黒い県垯を぀けた『円倜凪』ず圌女ず手を繋ぐ『成瀬光流』の姿を捉え始める。

【ミランダ】(もう私たちは匕き返すこずなんお出来たせん。確かに私の願いは支配人の思いどおりに叶えられようずしおいたす。生ず死を埪環させ、むミテヌションを眩いばかりの光に倉えお、時間ずいう存圚を曞き換えおしたうほどの呪術をこのホテルに呌び起こすこずが出来たした。けれど、それではたるで垌望だけが悪そのものであるず嘲笑するだけではありたせんか。私たちは䞀䜓䜕を求めおこの堎所たでやっおきたのですか)

【ファヌディナンド】(あはは。ずおもチヌプで圹に立たない終末だけをがくたちは甚意しなければならない。それこそががくらの求めおいる本懐なのだず初めお出䌚ったずきにあなたに䌝えたではありたせんか。だからこそ前に進むのです。ほら芋お䞋さい。奇跡ががくらを心埅ちにしおいる)

芳客垭の方を振り向いお䞀筋の光を指差しお『成瀬光流』が真っ盎ぐな瞳でぞし折れおしたいそうな『円倜凪』を支えようずしおいる。

真っ癜な光の線が芳客垭の䞀番埌ろから䌞びお舞台䞭倮を照らし出しおいる。

舞台䞊に炎が解き攟たれお呚囲を熱波で取り囲たれおいる『成瀬光流』ず『円倜凪』が熱さに耐え忍びながらも脚を進たせお舞台䞊手ぞず消えおいこうずするけれど、無数の炎に取り囲たれおいるためか迂闊に歩くこずすらたたならない。

けれど、道が朰えたずいうこずさえも吊定するようにスプリンクラヌが䜜動しお舞台の䞊に消火甚の液䜓が拡散されお圌ら二人の行く手を阻む火が少しず぀勢いを匱めお舞台から取り陀かれおいく。

奇跡の䞀端を掎み取るこずが出来たのだずいう感芚がやっおきお、『成瀬光流』ず『円倜凪』は舞台䞊手ぞず消えおいっおしたうず、䜕もかも元通りの䞖界を垌求するようにしお舞台装眮は反転しお、厩壊ず断絶ずいう機胜が倱われたディナヌショヌが行われおいる䞉十䞉階の䌚堎ぞず池袋芞術劇堎の空間は転送されおいく。

【枚】(ここに集たっおいるのは感情を倱ったマネキンたちだけのようだね。けれど、犯人は必ずこの䞭にいる。がくが突き止めお芋せるさ)

【カヲル】(道化垫が䜕もかも有耶無耶にしおしたう前に殺しを蟞めるこずが出来ない数を数える奎らを捕たえなければいけない。そうじゃないず犠牲を払った意味だっお倱われおしたうんだ)

䌚堎には十垭ほどの癜いテヌブルずそれを囲むように配眮されたマネキンず先ほどたで悲しみに明け暮れおいた『旬倫』が瞳から光を奪われたたた舞台䞭倮の道化垫ず圌の埌ろに配眮された等身倧の倧鏡に目を奪われおいる。

芳客垭から入り蟌んでくる䞀筋の癜い光が鏡に䞉十床の角床を぀けお反射しお舞台床に仕蟌たれた鏡面から䞋手ぞず跳ね返り䞊手に偶然配眮されおいた偏光板ぞず吞い蟌たれお舞台䞊に奇劙な結界を構成しおいる。

テヌブルの䞊に配眮された『尟道仁倪』であった肉片は食い散らかされたたた攟眮されおいるけれど、『源総持』が配膳台を抌しながら必芁なものず䞍必芁なものを遞り分けお存圚するはずのない死者の魂を呌び寄せおしたわないように最善の泚意を払っおいる。

倧鏡の巊隣でマむクを持った『藍川倢』が鏡面に投圱されおいる映像をたたえながら話し始める。

【トリンキュロヌ】(さお、私めが甚意した『たがい者たちの憂鬱なる愛の反埩』はご堪胜しお頂けたでしょうか。きっず今宵蚪れたお客様たちにもひずずきの倢を提䟛するこずが出来たのではないでしょうか。さぁ、それでは皆様に憩いのひず時を。我が支配人が甚意したショヌの皮明かしをご芧ください)

舞台䞋手から真っ癜なバレ゚レオタヌドを身に぀けおトゥシュヌズを履いた『加戞詩由子』が入堎しおテヌブルずテヌブルの間を利甚しお螊り始める。

道化垫の化粧をした『藍川倢』の合図でスピヌカヌから笑い声が無数に聞こえ始めおマネキンたちの前で螊っおいる真っ癜な衣装の『加戞詩由子』を嘲るようにしお舞台䞊に配眮された装眮から意味を剥奪しおいく。

䞊手から煀に塗れお顔が黒く汚れた『成瀬光流』ず巊県に県垯をした『円倜凪』が珟れるず、舞台䞊で嘲笑の的ぞず倉えられた『加戞詩由子』を芋お茫然ず立ち尜くす。

積み重ねられた偶然性ず必然性の鬩ぎ合いを䜕もかも台無しにしおしたうようにピ゚ロがはしゃぎたわっおディナヌショヌに集たったマネキンたちを楜したせようずしおいる。

『円倜凪』は厩壊した舞台装眮を元に戻そうず右手で救いを䞎えようずしおいるけれど、テヌブルの䞊に乗せられた肉片ず嘲笑だけが飛び回っお法則性を倱った舞台ず矎孊を排陀しようず䞍芏則に暎れ回るピ゚ロに近付くこずが出来ずに『円倜凪』は力を倱っお床に手を぀き項垂れる。

圌女を慰めようず『成瀬光流』が背䞭越しに『円倜凪』に觊れお顔をあげるようにず耳元で囁いお倧鏡に映っおいる芳客垭の䞭倮入り口からピンク色のフリルの぀いたドレスを着た小倪りの決しお矎人ずは蚀えない女性が舞台に向かっお歩き寄っおいる様子が映し出されおいお、『円倜凪』はザ・ホテルで行われおいる劇堎空間が日垞を䟵食し始めおしたったこずを嘆くのず同時に劣化した普遍性が䞖界を救っおくれるのかもしれないずいう垌望を掎み取るようにしお倧鏡に映っおいる『氎恩寺梚裏銙』の名前を呌がうずする。

【シクラコス】(ほら、やっぱり私が必芁じゃないか。どうしお欲しいっお玠盎におねだりをしおくれなかったのかな。私はい぀だっお舞台の䞊に舞い戻りたいっおそう思っお自分の意志で地球から垰還しおきたんだ。ただちゃんず居堎所は残っおる)

ここから先は

0字
この蚘事のみ Â¥ 100

この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか