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アンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』を読んでみた。

『人間の進化の結果と私たちを取り巻く環境が合っていない』
このミスマッチの隙間をついたのがSNSなどスマートフォン内のアプリなんだろう。そのアプリの共通点は『脳の報酬系をハッキングすること』この言葉がキーワードになってくる。

じゃあなぜミスマッチが起こってしまうのか。
それは生き延びるためのドーパミンの分泌が原因だ。食料が満足に手に入らない時代において目の前にある食料をひたすら食べ続け、いつ食料がなくなってもなるべく生き残れるだけのカロリーを接種する本能。
しかし今の日本において食料がなくなるという状況になること時代が珍しく、生存本能として遺伝子レベルで刻み込まれたモノは昨今の便利になりすぎたテクノロジーには対応しきれていない。

そして私たちが今とる行動についてだが、『すべては現在と未来のために、今置かれている状況の判断を記憶を活用して感情を元に生き延び、遺伝子を残す方向に選択する』

生き延び遺伝子の中で最優先とされるものがストレスらしい。このストレスには2種類の選択肢があり、『闘争か逃走か』このストレスは本来、恐怖の3分のことであり、3分後には自分か敵のどちらかが死んでいる。
そして逃げない人よりも逃げる人のほうが生き残る可能性は大いにある。それは決して悪いことは言えないのではないだろうか。

その時に感じるものが「不安」であり、不安は本能的に生き残るために必要なものであり、その不安によって身体に起こることがある。それは生き残るために身体が選択する内容なので簡単に共有するね。
①精神的に落ち着かない
②身体が落ち着かない
③疲労感
④お腹の不調
⑤吐き気
⑥口の乾き
⑦汗

この中でおもしろいと感じた3つを説明。
お腹の不調は「闘争か逃走か」を考えなければならない時に食べ物の消化吸収に気を配るのを止める。
吐き気は、全力で行動するときに胃の中に何か入っていたらBESTなパフォーマンスを出せないために胃を空にする為の行動。
口の乾きや汗も最高のパフォーマンスを出すために血液が筋肉に集中するためや熱くなる身体を冷却する為の働きらしい。

全ての症状が最高のパフォーマンスを本能が優先順位をつけて起こる現象である。
確かにとしか言いようがない!

そしてその延長線上なある現代の病が「鬱」だと思う。先程までお伝えさせていただいた内容は自分を生存させるための症状であり、鬱は全く逆の症状だと感じる方が多いかもしれないけど、逆ではない。
本書でも書かれているように『鬱になる人の脳や本当は世の中全てが危険だと判断している結果に過ぎない』と考えているが過去、鬱寸前までいつまた私には凄くわかる気がする。
(寸前というのは病院で診察を受けていないだけで当時の周りの人には鬱だと思われていたのでたぶん鬱だったんだと思う)

全ての欲求の中で最優先されることは当たり前で『闘争か逃走か』ということであり、その危機を回避できなければ、それ以上の欲求を満たすことはできないし、そもそも欲求が増えることもない。
ここを理解することこそがとても大切なこととなる。

しかしそんなことを度外視して人を熱中させるものがスマホである。本書ではスマホのことを『最新のドラッグ』だと紹介しており、その理由はドーパミンにある。ただドーパミンとは『「報酬物質」ではなく、何に集中させるかを選択させることで、つまり、人間の原動力とも言える』らしい。そして、それを満足させるものがエンドルフィンである。

なぜスマホが最新のドラッグなのか。
それはスマホもドーパミンを増やすことに適しているからである。
私たちの脳は新しいものを好む傾向がある。これは今まで生きるために培った生存本能によって発することだが、これによって『人間はもっと詳しく学びたいと思う』
そして『脳は新しい情報だけではなく、環境や出来事も欲する。』
とはいえ、全く知らない環境や状況は生存本能が勝ってしまい、ドーパミンは発生しないのだろう。
全く知らないものを新しく知りたいわけではなくて、少し知っているものに対して働くものなのかもしれない。

ここで大切なことが本書には書かれており、『「かもしれない」と思わせる期待』があることが重要である。要は『出るかもしれない』この割合が3〜7割のときが報酬中枢を駆り立てるという研究結果がある。
これが現代社会にあるスマホによって与えられている。しかも平均10分に一回というペースで!

有名な話としてスティーブ・ジョブズは子どもにスマホを渡さなかったらしい。
理由としては『あまりにも依存性が高すぎるがゆえに』ということらしい。
それだけ私たちはスマホの虜になっており、スマホ中心の世界に生きていると言えるのではないだろうか。さらにドーパミンを出し続けてくれるスマホを取り上げられただけで脳はストレスを感じさせるようになっている。

そしてスマホの普及がもう一つの勘違いを生んだ。
それはマルチタスク能力。現代社会においてマルチタスクが得意だと思っている人は思いの他、多いかもしれない。
しかしそれは錯覚だ。
脳は同時にいくつもの処理を行うことが可能なことに対して集中は複数同時に行うことはできない。集中に関しては一つずつしかできておらず、同時にいくつものことをこなすマルチタスクと思われている状況でもシングルタスクをひたすら繰り返しているに過ぎない。
そしてなぜこの状況が良くないかというと、集中はその瞬間瞬間で切り替えることができる反面、脳には切り替え時間が必要になる。
この差が100%の集中を妨げる原因となる。
しかし現実にも本当にマルチタスクが得意と呼ばれる人は人口の1〜2%しかいないそうだ。

効率でいえば間違いなく必要ないマルチタスクだが、これも昔の時代の生存本能的に必要なことであり、効率の悪いマルチタスクをやればやるほど、脳はドーパミンを出してくれる。

そのような環境によって『私たちはさらに気が散るように訓練を重ねている』昔のように集中して何かをすること時代が今生きている中で難しくなっていることに気がついているだろうか?

そしてPCでメモを取る人よりもノートにメモを取ったほうが内容をよく理解しているという研究結果にもある種、今の環境がどれだけ集中力を低下させているかが分かる。

その一つの理由としては『グーグル効果・デジタル性健忘』と呼ばれ、別の場所に保存されていると認識すると自分では覚えようとしない現象。
ということは現代人の暗記力がスマホやインターネットによって低下していることは明確でそれが集中力の低下にもつながってあるのかもしれない。

ただ、本書にも書かれているように集中力の低下は生存するために必要不可欠なことである。
そして私たちが生き延び続けるのを助けたこととして食べ物とゴシップだった。

食べ物はなんとなく理解できるが、なぜゴシップが必要なのだろうか。
それはゴシップによって誰を信用でき、誰と距離を取ったほうが良いのかを把握することができる。これはウソでも構わない。
死なないためのリスクを減らすことが目的なのだから。

その理由の一つとして人間はおよそ150人と関係を築けると考えられていて、その数をダンバー数と呼んでいるらしい。
自分の家族や交友関係の全てで150人と考えると、現在様々なコミュニティやSNSのつながりなども含めると、相手のことを興味がないというよりも相手のことを考えるキャパが足りないと考えるのが自然なのではないだろうか。

しかし現代社会は150人以上と繋がることが容易となった。SNSというツールのメリットでもありデメリットでもある。
そんな中ですごく面白いデータがあるので共有。

それはドーパミンのように私たちの気分に影響を及ぼすセロトニン。
ヒエラルキーの中でも上位に位置する存在やその地位を長く持っている人はセロトニンの量が多く、その量が多ければ多いほど、トップに近い立場を求めるらしい。
これはある種、フォロワー数なんかにも当てはめられるのかもしれない。

ここで改めて考えてほしいことが本書に書かれており、上の地位から降りることで精神的にやられるらしい。地位が下がると不安になり心の健康を損なう。

健康を損なうといえばもう一つ紹介されており、それはSNSを多用すると精神状態を悪化させるという実験結果が出ている。
私たちが嫉妬をするのは他人の経験らしい。
そしてフェイスブックの元副社長の言葉『短絡的なドーパミンを原動力とした、永遠に続くフィードバックのループだ』この言葉が今のSNSの殆どを語っていると感じるし、もしSNSをつくりたいのであればこの言葉を軸につくること5必要不可欠なことかもしれない。

原始時代のコミュニティの分類は2種類で「自分たち」と「あいつら」この2種類しかない。
当然のことながらあいつらに分類された人間は敵とみなされる可能性が高く、虐殺される可能性が高くなる。
じゃあどうすれば「自分たち」になるのだろうか。
ここに明確な答えはないので私たち自身が決めなければならないかもしれない。

話は変わるが、ドーパミンの話は本書と切っても切れないモノになり、そのドーパミンは10代で最も活発になる。
それによって衝動を制御することができづらくなり、危険を犯す可能性が増す。

要は依存しやすいものに関して私たちよりも高確率で依存症になるリスクが高い!
だからスティーブ・ジョブズは子どものデジタル機器を使う時間を制限している。

デジタル機器の利用時間が長いほど、気分が落ち込む傾向にあるという研究結果があるくらいだ。
具体的にお伝えすると『10h以上がもっとも「幸せではない」と感じ、4〜5h以下の若者よりも多くの時間をデジタル機器に費やす人は幸せではないと感じている。逆に一日2h以下の人、一定の時間内であれば健康に好影響を與えるという研究もある。』

人間には大きく分けて2つの衝動がある。
「報酬の探求」「情報の探求」この2つの衝動は非常に強く、この2つの探求をうまく使うことができれば、デジタル機器も警告を発さなくていいとされている。

そして上記2つのこととプラスで適度な運動が集中力を増すらしい。それは遺伝子レベルからくるものであり、これをうまく活用することで素晴らしい結果が出る可能性が大いにある。

運動には更にプラスとなる効果があり、運動している人のほうがストレスや不安を受けにくい。それは生物学的な理由がある。
細かい話は本書を確認していただきたいが、結論からお伝えすると週に2hの運動でいい。

ここまで本書を読みながら色々と要約や私の考えをまとめさせて頂いたが、当然だけど最後の章が特におもしろい。

IQはここ100年で30も上昇している。
えっ?頭良くなってるじゃんと思うかもしれないが、これは長期的に考えたときには頭良くなっていると考えられるし、慣れという一面もある。何をもって頭が良いと捉えるかによる。

もちろん、現代人は昔の人たちのように暗記力も低下していれば、柔軟な発想はないかもしれない。
しかしそれは今の時代において優先順位が下がった結果に過ぎないような気もする。
この考えにおいて良し悪しを問うつもりはなく、私たち人間はどんなに世の中になろうとも慣れることができる存在だということをお伝えしたい。

そして人間はいつまで経っても『幸せにはなれはい』
理由は本書を読んでいただくことが一番だが、私の要約でも汲み取ってもらえると思う。
人間の生存本能の中に深く刻まれている「不安」は生き残る上で必要であり、なくてはならないもの。この不安がある以上、幸せにはなれないし、幸せになる、不安を感じなくなればなるほど、生存する可能性を下げることになる。

もちろん、デジタル機器には良し悪しがあるが、これは使う私たちの行き過ぎないことと、偏った見たかをしないということが重要になると感じた。

本書はメチャクチャ考えさせられるし、ぜひ読んでほしい一冊だと思う。


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