見出し画像

ウェールズの防砂林

海岸から岬を眺める。岬には小さな教会があった。

ウェールズ北部、ニューボロー地区に住む農民たちは、長年にわたって風砂による被害をこうむってきた。

第一次世界大戦終了後、農村復興と木材の自給を目的にした植林活動が始まった。まずはじめに、海岸沿いに土盛りをして堤防をつくり、風よけとした後、コルシカマツを導入した。1970年代まで植林の努力は継続して行われ、結果、700ヘクタール弱の面積をもつ森林となっている。上記地図でGoogleEarthを見てもらうとよく分かるが、近隣にこれだけまとまった森林はない。そのせいもあり、最近ではレジャー目的で年間20万人が訪れる森林となった。

現在、この森林は、景観保全と森林保全の2つの異なった目的をどうやって満たしていくのか、という難しい問題に直面している。この2つがどうして異なるアプローチを必要とするのか、という点が、日本における景観保全の一般的な考え方との違いをよく示している。景観保全を主張しているのはCountryside Council for Wales(CCW)。彼らの主張する景観保全とは、本来その場所の元々の状態にできる限り復元すべきであるというもの。このケースでは、人工的に作られた土盛りの堤防や植林された森はそぐわない、という主張である。CCWというのは景観保全についてウェールズ国内では強い発言力を持つ団体であり、彼らの主張は直近の森林計画に盛り込まれている。現在では土盛りのメンテナンスは行われておらず、一部エリアではマツ林を伐採し、池や湿地に復元する工事も行われた。これに対して、地元住民たちの反発が大きく、落としどころは今も論争中なのだそう。


樹齢40年ほどのマツ林。育ちは悪いが、役割はしっかりと果たしている。

日本であれば、景観保全の観点から森は不要である、という議論にはまずならないと思う。植林された森であっても、その森自体は景観保全の対象としても保護されるべきである、という考え方が普通だろう。それがそうでないというのが、ところ変われば、というかなんというか。個人的には、防砂林の役割を過小評価するというのはやはりナンセンスだと思う。防砂林の重要性は、いまさらいうまでもない。

もう一点付け加えておくと、コルシカマツの単純林である現状は森林局として望ましくないと思われていて、複数の樹種の混交林に転換する取組がはじまっている。スプルースやダグラスファー、ビーチやシカモア(Sycamore)が考えられているそうだが、それらのうちどれが効果的かはしばらく様子を見ないとわからないそうだ。


オリジナル記事公開日:2012年7月22日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?