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IKEAと林業

※注意※
本記事は2012年8月に書いたものを再編集し、公開しています。
数値については、2011年度(もしくはその前後)のものです。現在とは状況がかなり異なっているはずですので、その点、十分注意してください。
私としても、いつか機会があれば、現状をヒアリングできれば良いなと思っています。
※※※※

IKEAはあのイケア。日本ではすっかり北欧ブランドの家具小売り大手として定着したようですが、そのイケアはEuroforesterプログラムの一大スポンサーでもあります。現在受講している森林科学の修士課程Euroforesterは原則奨学金付のプログラムなのですが、その中の4-5人分の奨学金はIKEAが出しているんだそうです。その関係もあって、先週、イケアのサプライチェーンの監査責任者の特別講義を聞く機会がありました。記憶に残った点を以下メモ書き。

◎イケアが年間に利用する木材総量 14.5mil/m3
24メータートラック換算で362,500台分。世界の木材消費(industrial wood consumption)の0.7%。

◎木材の調達先
ポーランド23%
ドイツ8%
ロシア7%
中国7%
スウェーデン7%

昨今は、責任ある木材調達が求められている。FSC、PEFCの認証(FMおよびCoC)が担保されているサプライチェーンは問題ないが、そうでないケースが多く、それらについては自社で監視を行わざるを得ない。フォレスターを16人雇用しており(講師本人もフォレスターとしてラップランド地域での勤務経験があり、さらに、ブリュッセルの国際機関でも働いていた経験があるとのこと)、中国・ベトナム・マレーシア等に常駐してサプライチェーンの監査業務にあたっている。

IKEA独自のIKEA wood tracing systemが稼動している。GISを利用したシステム。供給元の森林の位置からサプライチェーンをすべて追跡できる。

IKEAはいわゆるエコラベルを商品には添付しない。多くのエコラベルが乱立している現状では顧客を混乱させるだけであること、またIKEAブランドそのものが環境対応の証明となるべく活動をしているため。

◎フォレスターの役割(本特別講義の講師の意見)
伝統的な森林管理
持続可能性の確保
顧客を含めた関係者への説明責任
サプライチェーンへの関与

◎僕の感想
IKEAの現在(注:2012年)の売上高は2.5兆円ほど。スズキ、シャープ、富士フィルムと同じぐらいといったところだろう。これだけの規模になると世界の森林経営に与える影響は半端ではない。IKEAもそれをよく分かっていて、EuroforesterだけでなくFSCやWWFに対して多額の資金を提供している。これはマーケティング戦略であるともいえるけど、持続可能な森林経営に寄与したいという経営者の信念があるからこそ、本気さが顧客に伝わるのだと思う。監査目的だけでフォレスターを16人雇うというのは経営判断としてたやすくできることではないだろう。

反面、監査実務については、講義で聞いたように理想的にすべて動いているとは信じられない気もした。僕も大手企業で内部監査業務を経験したことがあるけれども、本気で証拠隠ぺいを図られた場合にはそれをあぶりだすのはなかなか大変。もっとも、それをするには結構な会計知識が必要なので、それだけの能力がある人なら、わざわざ隠ぺい工作などせずともきっちり仕事して昇進していく道を選ぶだろう。

IKEAの最大の強みはマーケティング力だ、ということを実感。商品にいろいろなメッセージを付加することが上手な会社だと思う。デザインは確かに北欧風だけど、当地ではIKEAはごく普通の大手家具流通業者。「センスある」とは思われていないだろう。IKEAで組み立て家具を買って組み立てたことのある人ならわかると思うけど、ピッチリ組みあがるということはまずない。こういう部分は日本のメーカー製品では考えられない。

日本の大手家具流通メーカーも、IKEAのマーケティング戦略は大いに見習うべきだ。ちょこっとどこかの国の植林活動に協力する、などといった形づくりではなく(だいたいこういうケースでは早く育つ樹種を植えたりしているけど、地味を過度に収奪したり、病虫害の影響を受けたりとマイナス面も多い。森林の再生というのは多面的な知識とノウハウと時間を必要とする事業で、ただ単に木を植えればいい、というものではない。)国際的なフォレスター養成プログラムに資金を提供するとか、コミュニティーフォレストの再生のための財団を設立するとか、そういったスケールの大きなプロジェクトをしていかないと、どんどんIKEAに顧客を持って行かれる気がする。今のままだと、国内のマス市場はIKEA、ニッチ市場は個人名で勝負できる工房製品、という市場構成になるんじゃないだろうか。


オリジナル記事公開日:2012年9月23日

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