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取締役の賠償責任を減免するための4つの方策と実務的留意点(2023年改訂版)

取締役の賠償責任を減免するための4つの方策と実務的留意点(2023年改訂版)

牛島総合法律事務所ニューズレター

 近時、社取締役の重要性がさらに高まっている。たとえば、2021年3月1日に施行された改正会社法に基づき、上場会社において社外取締役の選任が義務化された(会社法327条の2)。また、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場上場会社において独立社外取締役が少なくとも3分の1、その他の市場の上場会社においては2名以上選任されるべき旨が定められた(コーポレートガバナンス・コード原則4-8)。

 他方、近時、企業不祥事が相次ぐ中で、企業だけではなく、当該企業の取締役等の役員についても、刑事責任を問われるケースや、株主代表訴訟等によってきわめて多額の賠償責任を負うケースも見受けられる(※1)。たとえば、最近の事例としても、原子力発電所の事故をめぐる株主代表訴訟において、電力会社取締役に13兆3210億円もの損害賠償義務が認められた例(東京地判令和4年7月13日(なお、控訴がなされ現時点では未確定))や、電子機器メーカーの粉飾決算に関する株主代表訴訟において約594億円の賠償命令が認められた例(東京高判令和元年5月16日金融・商事判例1585号12頁)などがある。その他、事業会社役員の高額賠償が認められた株主代表訴訟の例としては、大阪高判平成18年6月9日判タ1214号115頁、東京地判平成16年12月16日判タ1174号150頁などがある。

 近時注目されている環境廃棄物規制との関係でも、廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)について成分を偽装して認定を受けたうえで販売・不法投棄したケースで、株主代表訴訟が提起され、約485億円もの損害賠償義務が認められた例がある(大阪地判平成24年6月29日裁判所ウェブサイト)(※2)。

 しかも、自ら積極的に関与していない場合であってもその責任が認められる場合もある。たとえば、①不正行為に関し、監視・監督を怠っていた場合(監視・監督義務違反)、②内部統制システムの構築を怠っていた場合(内部統制システム構築義務違反またはその監視義務違反)、③不正発覚後の損害拡大回避を怠った場合(損害拡大回避義務違反)などには、責任を問われうる(※3)。

 このように、多額の損害賠償を負担するリスクは社外取締役にとって大きな負担となりかねない。そのため、取締役が高額の賠償責任を負担することを恐れて経営判断が萎縮することがないようにするための制度が必要となる。

 本ニューズレターでは、以下、取締役の責任を免除・限定する方法について解説する。以下では監査役設置会社を対象として説明するが、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社においても基本的に手続は同様である。

<目次>
1. 役員責任についての賠償額の高額化傾向
2. 各制度の概要
3. 総株主の同意による責任の免除(会社法424条)
4. 株主総会の特別決議による責任の一部免除(会社法425条)
5. 定款の定めに基づく取締役・取締役会の決定による一部免除(会社法426条)
6. 定款の定めに基づく責任限定契約による一部免除(会社法427条)
7. 取締役の責任の免除についての監査役の同意の整理
8. D&O保険(会社役員賠償責任保険)


弁護士  猿倉 健司  Kenji Sarukura

牛島総合法律事務所  Ushijima & Partners
https://www.ushijima-law.gr.jp/attorneys/kenji-sarukura

E-mail: kenji.sarukura@ushijima-law.gr.jp
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