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起業初期は「急いで勝ちに行く」よりも「負けない状況を作ること」を意識した方が、成功確率が高まる

私はクラウド型ソフトウェアの開発・運用と、それに伴うコンサルティング業務を担う会社を経営している。創業したのは2015年なので、この記事を書いている時点で丸6年が経過している。それ相応の野心は持っているが、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は行っていない。創業初期からVCからの資金調達を行い、短期間でスケールし、株式上場を狙う「スタートアップ」とは全然違うスタイルだろう。別に私はVCからの資金調達をするべきではない、と言っているわけではない。資金調達のスタイルは、自分に合ったものを選べばいい、と言っているに過ぎない。

資金調達の三つの手段

資金調達の方法(バランスシートの右側を大きくする方法)は、創業時の資本金を除くと基本的に三つの手段しかない。一つ目は、銀行(親族や知人でもいだろう)から借金する方法だ。これは単純に合意した利子を支払えばいい。二つ目は、VCなどの外部に株式を発行して資金を得る方法だ。当たり前だが、彼らはボランティアでお金を出すわけではない。彼らは最終的に株を売買する差益で収益を生んでいる。三つ目は、利益剰余金だ。これは、売上からコスト、金利、税金などを差し引いて最終的に残った利益である。これは利子も株式も第三者に渡す必要がなく、オーナー企業であれば自由に事業投資に使うことができる。

私は、創業して最初の三年は、初期の資本金(一部個人投資家の資金を含む)と、利益剰余金だけで会社(バランスシート)を大きくしてきた。三期分の決算が終わったタイミングで銀行からの借り入れを行った。3期目を終えた時点で、非常に業績が良かったため、最も良いレートで借り入れを行うことができた。7年目の現在も、利益剰余金と銀行からの借入でバランスシートを大きくしている。そして、現在の借入金の大部分は、無担保無保証ローンだ(しかも金利は極めて低い!)この状況を端的に説明すると、会社が破綻しても、私個人には返済義務がない、ということになる(実際のところ、私の経営する会社は、そもそも破綻しない仕組みになっている)。

起業家がVCから資金調達するまでの流れ

多くの起業家は創業後すぐに「オフェンス」から入る。自分のアイデアを信じて脱サラし、貯金をつぎ込むか、あるいは親族から借金をして創業する。大企業に勤めていた場合と比較すると、非常に給料も安く、安定もしていない。だからこそ、多くの起業家はこう考えてしまう。

「早く楽になりたい...」
「今回勝負をして、ダメだったらまたサラリーマンに戻ればいい」

仮に20~30代で起業したとして、サラリーマン時代に頑張って貯金したところで、創業時に出せる金額は500~1,000万円程度だろう。それまでの生活レベルをある程度維持しながら、創業に関わる費用、事業に関わる費用を捻出したとすると、長く持って1年程度だろう(半年かもしれない)。だからこそ「すぐに挑戦して、結果を出さなければならない」と思い込んでしまう。タイトルにある通り、「急いで勝ちにく」という意識がここで生まれてしまう。

ここで現実的な話をしたいと思う。会社を辞めて勝負したいと思えるほどのアイデアは、おそらく斬新なもの、新しい仮説だろう。しかし、そうした新しい仮説は、余程のビジネスセンスがない限り、半年から1年程度で黒字化までもっていくことは困難だ。思いついたアイデアを顧客に売れる形のプロダクトにして市場にローンチするまで、慣れていない人であれば3か月~半年くらいはかかるだろう。そして、市場に出した途端にバズる!なんていうことは殆どない。待っているのは、無風か微風である。そうこうしているうちに、資金が底をついてしまう。

ここで諦めてキッパリと「サラリーマンに戻る」という選択肢を選ばない場合、ベンチャーキャピタルなどの投資家からシードマネーと呼ばれる資金を集めることになる。だいたい、数千万円前半の金額を調達するのが一般的だろう(やはり自分の貯金で出せる金額とは規模が違う)。ここでVCに発行する株式は、全体の10~25%程度というところだろうか。こうして、「撤退(サラリーマンに逆戻り) or VC」という道に分かれるのだ。粘り強い人ほど、後者を選ぶことになる。

まずはディフェンスを固める

一発勝負でビジネスを成功させるのは非常に難しい。だから私は、まずは徹底的にディフェンスを固めることを推奨する。まずは「負けないこと」を最優先に考えて行動するのだ。稼ぐのはその後でいい。負けいない状態となり、その後に勝負し続ければ、いずれは勝つという算段だ。

世界的な投資家であるウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスも、「第一の原則は、絶対に損をしないこと。第二の原則は、第一の原則を絶対に忘れないこと(バフェット)」「まず生き残れ。儲けるのはそれからだ(ソロス)」と語っている。

それでは、会社経営において「負けない状態」とは、具体的にどのような状態を指すのだろうか。

ビジネスの仕組みをシンプルに捉えると、「売上」よりも「コスト」が小さければ利益が出る、ということになる(当たり前すぎる話だ)。ここで欲を言うならば、その「売上」は来年も、再来年も、その先もずっと確実に続くものであると最高だ。一方で「コスト」は、その気になればいつでも削減できるものであるのが望ましい(会計的に言うと「固定費」よりも「変動費」が良いということになる)。つまり、「ほぼ確実に得られる売上」から、「削減困難なコスト(固定費)」を差し引いた金額が、「自分が希望する報酬」よりも大きければ、起業家は一先ず金銭的なストレスから解放される。

当たり前の話だが、「自分が希望する報酬」は、低ければ低いほどディフェンスを固めるのが簡単になる。友人と遊んだり、いい家に住んだりする日常生活の消費活動から得られる効用と、好きなアイデアに没頭することができるという効用のバランスを考慮すると、あなたにとって本当に必要な報酬はいくらだろうか。もう一度言うが、これを低水準に抑えられる人は、起業家として非常に強い。

【ディフェンスの方程式】
ほぼ確実な売上 - 削減困難なコスト ≧ 自分が希望する報酬

ディフェンス固めについて、私のケースを話すと、今の会社を創業する前に一年弱の準備期間があった。その一年弱の準備期間のうちに、私はディフェンスの方程式を達成した。実際のところ、私がサラリーマン時代に稼いでいた月収とは、全く比較にならない程の売上を獲得することに成功した。その助走期間で獲得したビジネスの一部を引き継いだのが、今の会社である。準備期間と比較して固定費が増えたので、多少は苦労はしたものの、それでも創業時から殆ど「負けない状況」でスタートすることができた。

私はその後の約4年間、確実な売上を増やし、削減可能なコストの比率(変動費比率)を高めることにフォーカスしてきた。その間に将来的にスケールする可能性のある事業アイデアを集めて、創業5年目以降、段階的にそのアイデアで勝負(オフェンス)を仕掛けている。結果的に7年目の今、私が置かれている状況を整理すると、連帯保証がある借金は殆どなく、ディフェンスの方程式が成立している(しかも各変数は改善し続けている)ので、会社経営を続けていく上での大きなリスクは存在しない状況にある。そして、2年前に蒔いた種は順調に成長してきている状況にある。

もちろん、2年前に蒔いた種が今後は思ったよりもうまく育たないかもしれない。その場合どうするか。答えは非常にシンプルだ。その時は次の種を蒔けばいい。そのために、次に勝負したいアイデアの種は大量に温めてある。私の会社は、先駆的な海外ベンチャーの事業アイデアを紹介するサイト(説ログ https://setulog.com/)を運営している。このサービスを運営するうえで、私は毎月数百社のベンチャーをリサーチしている。まだ日本で展開されていないビジネスアイデアが大量に掲載されている。私が日本流にローカライズして展開してみたいアイデアも多数含まれているので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

まとめ

こうして振り返ってみると、私は助走期間を含めて約5年間をディフェンス構築に投じている。これを「ビビりすぎ」「時間かけすぎ」と批判する人もいるだろう。しかし、今の私はあくせく働かなくても、自分が希望する報酬を得られる状況にある。そして、何度でもオフェンス施策にトライすることができる。さらに、会社に残った資金は、経営陣の意思だけで即座に好きなだけオフェンス施策に投資することができる。

本稿ではサラッと書いてしまっているが、ディフェンス構築は決して簡単なものではない。相応のビジネススキルが求められる。実際にディフェンス構築によって、組織においても個人においても、オフェンス施策のための相当なスキルアップがあったのは実感値として間違いない。

これから起業する人には、自分が思いついた画期的なアイデアをいきなり試す前に、徹底的にディフェンスを固めることを推奨する。例えば、

自分が自由に使えるお金を、サラリーマン時代の2倍にする

というのはどうだろうか?稼いだ始めのうちは、自分が希望する報酬を見極めるために豪遊してもいいし、遊ぶのに飽きてきたら半分をアイデアに投資してもいいだろう。

負けない状況を作り、勝つまで勝負する!

というアプローチをぜひ実践してみてほしい。数年後には、驚くほど穏やかな心で、オフェンスにフォーカスできる。

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