見出し画像

二十一作目 お雛様は窓際に 親子百合SS

「なつかしいなぁって思うよ。毎年毎年」
「うん?」
「お雛様の歌。幼稚園で恥ずかしい思いしたんだからね」
「あ、あはは……お内裏様がいないやつね」
「『おひなさまぁあーとおひなさまー♪』今考えると語呂めちゃくちゃだし」
「う」
「しかも窓際で日に当たりすぎて薄くなってる」
「う」
「私、幼稚園で『おひな』って呼ばれてたんだから」
「知ってるわ。あなた自分のこと『おひな、おかわりした!』って言ってたもの」
「へー。そうなんだ」
「今ではあなたをおひなって呼ぶ子はいないでしょうね」
「なんか寂しくなってきた。呼んでよ。お母さん」
「えっ……と……」
「いつもの陽那。じゃなくてさ。おひなって呼んで。あの時みたいに」
「あ、あなた……覚えてたの……」
「ロリコン」
「ゔ」
「変態。えっち」
「待って……その……いや……なにも言えないんだけれど……」
「あはは。ほら、呼んでよ。おひなって」
「お……おひなぁ……」
「なぁに? まぁま?」
「ゔ!」
「うわぁ……キモい……」
「やめて……裏声にしないで……あのころとそっくりなのよ……」
「そっくりって、私だよ。そもそも。おもしろ。まぁま? あそぼ?」
「あああぁ!! ひな……ひなぁ……おひなは……いい子だわ……だから……おひなじゃないって言って……」
「ううん。おひなはおひなだよ?」
「もう無理、脱ぎなさい。今日は寝かさないわ」
「んふふー。今日、も。じゃん?」
「かわいい……陽那。おひなだった頃の陽那も好きだけれど、今の陽奈も大好きよ」
「は……え……」
「かわいい声を聞かせて? お母さん、あなたの鳴く時の声。好きなの」
「ん……へん……たい……」
「いまさらよ。ほら、力を抜いて。うん。そう、上手よ」
「ひぅ……ぁ、その声……だめ……こどもに……戻っちゃう……」
「いいの。戻っていいのよ。だから、ほら、私の指。気持ちいいでしょう?」
「ん……ぁ……」
「お雛様は今年もしまわなくて、いいわよね」
「うん……」

他二十作以上が収録された総集編はこちら
百合小説短編集加筆修正まとめ「百合を愛した日々でした」 (百合創作アンソロジー文庫) Kindle版
Lilium Anthems (著), まちろ (イラスト)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?