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解説(第6~10章、裁判所、地方自治など)

第6章 裁判所


 
第109条(1)司法権は、憲法裁判所、最高裁判所及び下級裁判所に属する。
(2)下級裁判所として、道裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所、知的財産裁判所及び防衛裁判所を設置する。
(3)臨時の裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
(4)国民は、法律の定めるところにより、裁判員として裁判に参加することができる。
第110条(1)国政が憲法に従って公正に行われているかを審査するために、憲法裁判所を設置する。
(2)憲法裁判所は、一切の法律、条約、命令、条例、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを最終的に決定する権限を有する。
(3)憲法裁判所の判決は、国及び地方自治体の全ての機関を拘束する。
 
(解説)
 
 第6章のタイトルは「司法」ではなくて「裁判所」とした。第4章が国会、第5章が内閣なので、それに合わせたのである。今の日本の最高裁判所は、違憲審査権を持っていても、統治行為論などを使って憲法判断を回避してばかりである。下級裁判所が違憲判決をしても、最高裁判所はそれをひっくり返して、政府の言い分を認めてしまう。立法と行政が癒着しているのを、司法が追認しているだけだ。これでは三権分立の意味がない。司法府は、立法府と行政府の間違いを正すチェック機能を果たすべきだ。そこでこの試案では憲法裁判所を新設した。憲法裁判所は、国政全般が憲法に従って正しく行われているかを審査して、その判決に国の全ての機関を従わせる権限を持つ。具体的な訴訟事件がなくても、法律や政府の行動全てを審査できる、いわゆる抽象的違憲審査制である。このような憲法裁判所を持つ国は、ドイツ、イタリア、フランス、韓国など、数多く存在する。この強力な憲法裁判所が機能してこそ、政治は浄化されるのだ。
 下級裁判所の中に、現在東京高等裁判所の支部となっている知的財産裁判所を加え、また防衛裁判所(いわゆる軍法会議)を新設した。両方とも下級裁判所なので、当然最高裁判所に上訴できる。今の高等裁判所は、道裁判所となる。また、国民が裁判に参加する裁判員制度も規定した。現行憲法第76条にある「特別裁判所の禁止」とは、特定の事件を裁くための臨時の裁判所を設置してはならない、という意味なので、ここではわかりやすく「臨時の裁判所」と書いた。
 
 
第111条 憲法裁判所に提訴できるのは、次の場合である。
1,内閣が要求するとき。
2,国会の総議員の4分の1以上が要求するとき。
3,一つの地方自治体の議会が要求するとき。
4,国政監査院が要求するとき。
5,人権委員会が要求するとき。
6,選挙権を有する者の総数の1パーセント以上が、署名によって要求するとき。
7,最高裁判所又は下級裁判所が、その具体的訴訟事件において、憲法に適合するかどうか判断する必要があると認め、これを憲法裁判所に移送して裁判することを要求するとき。
第112条 憲法裁判所は、その権限を有する事項について、提訴された日から60日以内に判決を下さなければならない。
 
(解説)
 
 憲法裁判所は、誰かの提訴があってから、初めて審査ができる。この提訴を直接できるのは、第111条に書いた7つの場合である。この提訴によって、憲法審査だけでなく、後述する弾劾裁判や国民投票なども要求できる。一般国民が直接提訴するには、有権者の1%以上の署名が必要である。または、通常裁判所で具体的訴訟事件を係争中に、この件に関して憲法判断が必要だとその裁判所が認めたときは、それを憲法裁判所に移送して裁判できる。これは、いわゆる付随的違憲審査制と呼ばれているものである。その場合は、間接的にではあるが、国民が個人で提訴できる。憲法審査は国政に重大な結果をもたらすので、いたずらに裁判を遅らせることなく、迅速に審理する必要がある。それで、提訴から60日以内に判決を出すように規定した。
 
 
第113条(1)憲法裁判所は、総理又は国会議員が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、弾劾のために訴追することができる。その場合には、裁判官6名以上の賛成を必要とする。
(2)前項の訴追があったときには、総理については全国で、国会議員についてはその選出された選挙区において、弾劾のために国民投票が行われ、その過半数の賛成があったときには、罷免される。
(3)国民投票の結果、罷免された総理又は国会議員は、その罷免された日から10年間は、公務員となることができない。
第114条 閣僚、人事官、国政監査官、人権委員、検事総長、中央選挙管理委員会委員及び法律に定めるその他の公務員が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、国会の常設委員会で訴追の議決がなされた後、憲法裁判所の弾劾判決によって罷免される。その場合には、裁判官6名以上の賛成を必要とする。
第115条 裁判官が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、国会の常設委員会で訴追の議決がなされた後、国会の弾劾によって罷免される。その場合には、国会の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
 
(解説)
 
 これは弾劾裁判の規定である。ここでは以下の3種類に分けて規定している。
(1)総理と国会議員に対する弾劾
(2)閣僚などの公務員に対する弾劾
(3)裁判官に対する弾劾
 
(1)総理と国会議員は、国民が直接選挙した公務員なので、簡単に辞めさせるわけにはいかない。まず憲法裁判所で審査して、裁判官9名中6名、つまり3分の2以上が賛成するときには、訴追することを決定する。その次に、それを国民投票にかける。総理の場合は全国で過半数、国会議員の場合は選出された選挙区全体で過半数が、弾劾に賛成するときには、その人は罷免される。そして、国民投票で罷免された総理又は国会議員は、その後10年間は公務員となることができない。地方自治体には、首長や議会議員の解職を問う住民投票制度があるので、それを参考にした。
(2)閣僚、人事官、国政監査官、人権委員、検事総長、中央選挙管理委員会委員その他の公務員の場合は、まず国会の常設委員会が審査する。そこで訴追すると決定したときには、次に憲法裁判所でその人を裁判する。そこで裁判官6名以上が弾劾に賛成したときには、その人は罷免される。
(3)裁判官を弾劾するのは憲法裁判所ではなく、国会が弾劾する権限を持つ。まず常設委員会が審査して、そこで訴追すると決定したときには、次に国会の本会議で裁判する。そこで出席議員の3分の2以上が弾劾に賛成したときには、その裁判官は罷免される。
 
 
第116条(1)憲法裁判所は、国政上重要な政策について国会で審議がなされた後、国民の総意を問う必要があると判断するときには、その案件を国民投票に付することができる。但し、租税及び予算に関する案件を国民投票に付することはできない。
(2)国民投票で一度否決された案件は、国会議員の総選挙が新たに行われた後でなければ、これを再び国民投票に付することはできない。
(3)国民投票は、有効投票の過半数によって決し、その決定は、国及び地方自治体の全ての機関を拘束する。
第117条 憲法裁判所は、国の機関の相互間、国の機関と地方自治体、及び地方自治体の相互間の権限に関する争議について審判する。
 
(解説)
 
 重要政策について国民投票を行う権限を、もし内閣が持ったら、内閣が国会の立法権を飛び越えて強くなりすぎてしまう。もし国会が持ったら、国会が自分で議決すれば国民投票をする必要はないので意味がない。なので、ここでは憲法裁判所がその権限を持つことにした。重要政策が国会で審議されても、話し合いが不十分で国民的合意が得られていないのに、多数派によって強行採決などが行われるときがある。そのような場合、国会で審議した後に、その案件は改めて国民の総意を問う必要があると憲法裁判所が判断したときに限り、国民投票にかけることができる。ただし、税金や予算に関することは、「自分に損か得か」だけで投票することになりやすいので、その性質上、国民投票にかけることは禁止した。これはイタリアの憲法を参考にしている。また、国民投票で一度否決されたのに、同じ案件について何回も国民投票をするのは良くないので、国会議員の総選挙が行われた後でないと、同じことを国民投票にかけることができないことにした。それから、これはいわゆる諮問的国民投票ではなく、その投票結果が全ての機関を拘束する、強制力を伴う国民投票制度である。
 また憲法裁判所は、国の機関どうしの権限争議、国と地方自治体との権限争議、地方自治体どうしの権限争議も裁判する。この他にも、憲法裁判所は、ある政党や団体がその活動目的として、刑法に違反する活動や、憲法の基本原則を暴力によって破壊する活動を行ったときに、その団体の活動停止や解散を決定する権限を持っている(第41条)。これはドイツや韓国の憲法を参考にしている。
 
 
第118条(1)憲法裁判所は、9名の裁判官で構成する。
(2)憲法裁判所の裁判官は、任期を12年とし、再任されることができない。
第119条(1)憲法裁判所の裁判官は、最高裁判所又は下級裁判所の裁判官として12年以上在職した有資格者の中から、これを互選する。
(2)前項の選出において、有資格者は、候補者1名に投票する。候補者は、その得票数が多い順に当選とし、最も得票が多かった者が、憲法裁判所の長官となる。
 
(解説)
 
 憲法裁判所の裁判官は9名で、任期は12年である。再任可能とすると、次も選ばれようとして偏った判断をするかもしれないので、再任禁止とした。憲法裁判所の裁判官は、不偏不党で政治的に中立でなければならないので、国会や内閣が任命するのではなく、裁判官として12年以上在職した者全員が、自分たちの中から選出するようにした。選出方法は、憲法裁判所の裁判官に立候補した者の中から、有資格者は、1名だけを選んで投票する。その得票数が多い者から順に9名を当選とし、その中の最多得票者を憲法裁判所の長官とする。裁判官を国民が直接選挙する方法も検討したが、公選となると、どうしても人気投票的になり、また政党の組織力を頼ることになるので、ここでは採用しなかった。
 
 
第120条(1)最高裁判所は、15名の裁判官で構成し、そのうちの1名を長官とする。最高裁判所の長官は、憲法裁判所の長官が兼任する。
(2)最高裁判所の裁判官は、任期を12年とし、再任されることができない。
(3)最高裁判所の裁判官は、憲法裁判所が指名した者の名簿に基づいて、国会が任命する。この任命には、国会の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
第121条 最高裁判所の裁判官は、裁判官、検察官、弁護士又は大学の法律学教授として12年以上在職した者の中から任命しなければならない。
 
(解説)
 
今の最高裁判所裁判官は内閣が任命するので、だいたいほとんど政府寄りの判決を下すようになっている。その上、最高裁判所裁判官の国民審査制は、それによって罷免させられたことは今まで一度もなく、全く機能していない。これでは三権分立のチェック機能が働かないのは当然である。この試案では、憲法裁判所が、最高裁判所の裁判官を指名して、それに基づいて国会が任命する、というシステムにした。その上で、国会が裁判官を任命するときには、出席議員の3分の2以上を要件とした。過半数ではなく3分の2以上なので、与野党が合意しないと任命できない。こうすれば、今の最高裁判所裁判官のように、政府寄りの人ばかり選出される、ということは起きにくいだろう。これは、ドイツやフランスのやり方を参考にしている。最高裁判所裁判官も、憲法裁判所裁判官と同じく、任期を12年とし、再任禁止とした。最高裁判所裁判官は15名で、そのうちの1名が長官となるが、それは憲法裁判所の長官が兼任する。最高裁判所の裁判官になる資格は、裁判官、検察官、弁護士又は大学の法律学教授として12年以上在職した者である。最高裁判所は、憲法裁判所が審査する分野以外の通常裁判における終審裁判所となる。
 
 
 
第122条(1)道裁判所の裁判官は、道議会が、出席議員の3分の2以上の多数による議決をもって任命する。
(2)道裁判所以外の下級裁判所の裁判官は、その管轄する道裁判所が指名した者の名簿に基づいて、道議会が任命する。但し、知的財産裁判所及び防衛裁判所の裁判官は、最高裁判所が任命する。
(3)東京都に所在する下級裁判所は、関東道裁判所が管轄する。
第123条 下級裁判所の裁判官は、任期を8年とし、再任されることができる。但し、満70歳に達した時には退官する。
 
(解説)
 
 道裁判所は、各道に設置されるので、全部で10か所になる(第132条参照)。今の高等裁判所の管轄とは少し違うので、関東道や北陸道、沖縄道には、道裁判所を新設することになる。東京都にある下級裁判所は、関東道裁判所の管轄に属するので、東京地方裁判所から上訴するのは、関東道裁判所となる。地方裁判所は、今の都道府県単位とほぼ同じである。北海道の中には4つの地方裁判所がある。沖縄道の中に、いくつか地方裁判所を新設しても良い。道裁判所の裁判官は、道議会が任命する。ここでも出席議員の3分の2以上を要件とする。地方裁判所や家庭裁判所、簡易裁判所の裁判官は、その管轄する道裁判所の指名に基づいて、道議会が任命する。これは、通常通りの過半数で良い。ただし、知的財産裁判所と防衛裁判所の裁判官は、最高裁判所が任命する。下級裁判所裁判官の任期は8年で、再任可能である。ただし満70歳に達したら退官する。
 
 
第124条(1)最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。但し、憲法裁判所に関する規則は、憲法裁判所が定める。
(2)検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
(3)最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
第125条(1)検察官の行う事務を統括するため、最高裁判所の下に、最高検察院及びその他の下級検察院を設置する。
(2)最高検察院の長は検事総長とし、最高裁判所がこれを任命する。任期は4年とし、再任されることができない。
(3)検察官は、常に厳正公平及び不偏不党を旨として、事案の真相を明らかにし、事件の処理においては基本的人権を尊重しなければならない。
 
(解説)
 
 第124条は、現行憲法第77条とほぼ同じである。ただし、憲法裁判所に関する規則は、最高裁判所ではなくて憲法裁判所が自分で定める。今の検察庁は法務省の下にあるので、検察が汚職した政治家を捜査しようとしても、法務大臣が指揮権を発動してそれをやめさせる、ということがあった。こんなことにならないように、第125条で検察院は最高裁判所の下において、検事総長も最高裁判所が任命することにし、強い独立性を持たせた。
 
 
第126条(1)すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。
(2)すべて裁判官は、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。
(3)裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。
第127条 裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、最高裁判所の同意なしに減額することができない。
第128条(1)裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。
(2)裁判所が、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがあると決した場合には、対審は、公開しないで行うことができる。但し、この憲法第3章で保障する基本的人権が問題となっている事件の対審は、これを公開しなければならない。
 
(解説)
 
第126条第1項は、現行憲法第76条第3項とほぼ同じである。
第126条第2項に、裁判官の政党所属と政治活動の禁止を規定した。
第126条第3項は、現行憲法第78条とほぼ同じである。
第127条は、現行憲法第80条に対応しているが、最高裁判所の同意があれば、報酬を減額できるようにした。
第128条は、現行憲法第82条に対応しているが、現行では「裁判官の全員一致で」とあるのを削除して、裁判官の過半数が同意したら、対審は非公開にできることにした。
 
 
第129条(1)国政全般が憲法及び法律に従って公正に行われているか監査し、国の会計を検査するために、憲法裁判所の下に、国政監査院を設ける。
(2)国政監査院は、国の機関又は公務員の行為に不正、不当、不適切又は非能率があると思われるときには、自らの職権又は国民の直接の申立てにより、監査を行い、資料の提出又は業務の改善を命令し、憲法裁判所に報告する。
(3)国政監査院は、5名の国政監査官で構成し、憲法裁判所がこれを任命する。任期は8年とし、再任されることができる。但し、満70歳に達した時には退官する。
 
(解説)
 
 憲法裁判所の下に国政監査院を新設した。今の会計検査院の機能もここに含まれる。ここでは行政だけではなく、国政全般を監査・監視することができる。いわゆるオンブズマンと呼ばれ、スウェーデンなど多くの国で導入されている制度である。今の日本にも行政相談委員制度があるが、権限が非常に弱い。この試案では、国民が、国の機関や公務員の行為に不正、不当、不適切又は非能率があると思うときに、ここに直接苦情を申し立てることができる。国政監査官は、この申し立てがあったとき、又は自らの職権で、監査を行う。そして、その機関又は公務員に対して、資料の提出、業務の改善を命令する権限を持つ。その監査の結果を憲法裁判所に報告し、必要があれば憲法裁判所に提訴することができる(第111条)。この他にも国政監査院は、総理や閣僚、国会議員、裁判官、そして政党の収支資産報告を受け(第37条、第41条)、国の収支決算の均衡と健全性を監査して、内閣に改善を命令する権限(第148条)も持っている。このように、国政監査院が憲法裁判所の手足、実働部隊となって国の政治全体をしっかりとチェックするときに、この国の政治は正しい方向へと変えられていくのである。
 
 
第130条(1)人権侵害行為に対する調査、救済、予防、仲裁、勧告及び人権教育に関する事務を行うために、憲法裁判所の下に、人権委員会を設置する。
(2)人権委員会は、7名の委員で構成し、憲法裁判所がこれを任命する。任期は4年とし、再任されることができる。
 
(解説)
 
 今の日本の人権擁護委員はボランティアで権限が弱く、法務省の監督の下にいるので独立中立性が保たれない。国連からも国内人権機関を設けるように勧告されて、2012年に人権委員会設置法案が国会に提出されたが、廃案となった。そこでこの試案では、行政府から独立した人権委員会を、憲法裁判所の下に設置した。人権委員会は、国民からの申し立てを受けて、人権侵害行為を調査し、そこからの救済措置を取り、当事者の間に立って仲裁し、勧告する。勧告を受け入れないときは、憲法裁判所に提訴する権限も持っている(第111条)。また国民の間に広く人権教育をし、政策提言する。このような国内人権機関を設置している国は、オーストラリアやカナダ、フィリピンなど、数多く存在する。
 
 

第7章 地方自治


 
第131条(1)地方の政治は、その地域の住民が、地方自治体を通して自主的に行う。
(2)住民に身近な立法及び行政事項は、できる限りその地方自治体が担当する。国は外交、防衛、通貨その他の国全体に関わる事項を行い、それ以外の事項は基本的に地方自治体が行うものとする。
(3)国及び地方自治体は、その事務を行うときに、互いに連絡調整し、協力し合わなければならない。
 
(解説)
 
 現行憲法第92条には「地方自治の本旨に基づいて」とあるが、その本旨が何であるのか、全く書かれていない。この試案第131条では、地方自治の原則である住民自治と団体自治を明文化した。現行憲法では「地方公共団体」とあるが、一般的には「地方自治体」と呼ばれているので、その通りにした。今の日本は中央集権が強すぎて、地方自治体の力が弱い。ここでは、地方分権と補完性の原則によって、地方のことはその地方自治体がやり、地方自治体ではできないことだけを国がやるようにした。今の国の権限の大部分は地方自治体に移譲されて、国の仕事は外交や防衛、通貨など、国全体に関わることだけに限定される。国と地方自治体との具体的な役割分担リストは、あまりに詳細になるので憲法ではなく法律で規定することにしたが、それを国が上から一方的に決めたのでは意味がない。そこで、地方自治関連の法律を決めるには、全国知事会の同意を必要とした(第140条)。また、国と地方自治体は上下主従関係ではなく、互いに対等で協力し合うものとした。
 
 
第132条(1)広域自治体として道及び都を、基礎自治体として市区町村を設置する。
(2)道及び都は、次の通りとする。
1,      北海道
2,      東北道(青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島)
3,      関東道(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、旧東京都の23区以外の地域)
4,      北陸道(新潟、富山、石川、福井)
5,      東海道(長野、山梨、静岡、岐阜、愛知、三重)
6, 関西道(滋賀、京都、兵庫、大阪、奈良、和歌山)
7, 山陰陽道(鳥取、島根、岡山、広島、山口)
8, 四国道(香川、徳島、愛媛、高知)
9, 九州道(福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島)
10, 沖縄道
11, 東京都(23区のみ)
 
(解説)
 
 この試案では道州制を採用した。今の47都道府県では、国の権限を移譲するのには単位が小さすぎる。府県は廃止し、ブロックごとに統合する。これは連邦制ではないが、アメリカやドイツの州のように、各道が強い権限を持ち、独自性を発揮できるようにする。これによって、東京一極集中が是正され、地方が活性化し発展できるだろう。
各道及び都の区域を図にすると、以下のようになる。
 
 

各道及び都の区域

 
 
第133条(1)地方自治体には、その議事機関として議会を設置する。
(2)地方自治体の議会議員は、その住民が直接選挙し、任期は4年とする。
(3)地方自治体の議会議員の定数及び選挙方法については、各自治体の条例で定める。
第134条(1)地方自治体には、その執行機関の首長として、道及び都には知事を、市区町村には長を設置する。
(2)地方自治体の首長は、その住民が直接選挙し、有効投票の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。
(3)地方自治体の首長の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することができない。
(4)地方自治体の首長の選挙は、議会の選挙と同時に行う。議会議員の任期が満了又は終了したときには、首長の任期も同時に終了する。
第135条(1)地方自治体の議会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、首長の不信任決議案を可決したときは、首長は、任期途中であっても解任される。
(2)前項の場合に限り、首長は、不信任決議案の可決後10日以内に、議会を解散することができる。
 
(解説)
 
 地方自治体の議会議員の任期は4年とするが、その定数や選挙方法は、国の法律で定めるのではなく、各自治体の条例に委ねることにした。首長の任期も4年であるが、総理と同じで合計8年までとする。今の地方自治体の首長は多選傾向で、10選して40年間も市長をした人さえいる。人は一度権力を握ると、そこから離れようとしない。長期政権は腐敗するものだから、多選禁止を明記すべきだ。首長は公選で、やはり総理と同じように、過半数を得た者を当選とし、過半数を得た者がいないときには上位2名による決選投票を行う。議会の選挙と首長選挙は同時に行い、任期も同時に終了する。議会が首長の不信任を決議するには、出席議員の3分の2以上を必要とする。不信任案が可決された場合に限り、首長は議会を解散できる。これも国会と総理の関係と同じである。
 
 
第136条 地方自治体は、自主的に租税を課し、財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第137条 地方自治体が自立してその事務を行うため、十分必要な財政能力を持つことができるように、国は措置を講じなければならない。
 
(解説)
 
 地方自治体の課税自主権を明記した。地方分権を推進するには、地方自治体の財政能力を高めなければならない。国の地方交付税交付金や国庫支出金に依存することなく、自主財源を増やし、地方自治体間の財政格差も調整するシステムが必要である。その具体的方法は、ここには規定せず法律に委ねた。
 
 
第138条(1)地方自治体は、その住民で選挙権を有する者の総数の4分の1以上の署名による要求があるときには、その首長若しくは議員の解職、又は重要政策について、住民投票を行う。
(2)住民投票は、有効投票の過半数によって決し、その決定は、その地方自治体の全ての機関を拘束する。
第139条(1)地方自治体の住民で選挙権を有する者は、その総数の1パーセント以上の署名によって、条例案を議会に提出することができる。
 
(解説)
 
 住民の直接請求を明記した。有権者の4分の1以上の署名によって、首長や議員の解職を問う住民投票だけでなく、重要政策の住民投票も請求できる。この住民投票での決定は諮問的ではなく、拘束力を持つものである。また、有権者の1%以上の署名によって、条例案を議会に提出できる。
 
 
第140条(1)すべての道及び都の知事は、相互の連絡と財政調整を行い、地方自治に関する政策を協議し、国に提言するために、全国知事会を組織する。
(2)道及び都の知事は、全国知事会に自ら出席できないときは、その指名した者を代理として出席させることができる。
(3)国と地方自治体の役割分担、及び地方自治体の事務に関する法律を制定するには、国会で審議された後、全国知事会において過半数の同意を得ることを必要とする。
 
(解説)
 
 全国知事会を憲法上の機関とした。構成員は、1都10道の知事11人である。ここで、各道相互の連絡と財政調整を行い、地方自治に関する政策を協議し、国に提言する。知事が自ら出席できないときには、その代理者が出席する。この全国知事会は、地方自治関連法案に対する同意権を持つ。なので、国は地方自治に関する政策を上から決めるのではなく、事前に知事たちの意見を聞かなければならない。こうすることによって、地方の声が中央に反映され、地方分権、地域主権が推進されていくのである。
 
 

第8章 財政


 
第141条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。
第142条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
第143条(1)国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。
(2)国の歳出は、法律に定める特別な場合を除き、公債又は借入金以外の歳入をもって、その財源としなければならない。
 
(解説)
 
 第141条、142条、143条は、現行憲法の第83条、84条、85条とほぼ同じである。ただ第143条第2項として、財政法第4条の規定を加えた。今の日本では、赤字国債を発行するのが普通になってしまい、国の借金は増え続けるばかりである。財政再建と健全化のためには、憲法にこのように規定して、それを守らせる必要がある。
 
 
第144条(1)内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を得なければならない。
(2)継続支出の必要があるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を得なければならない。
第145条(1)予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
(2)すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承認を得なければならない。
第146条 内閣は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を作成し、これを国会に提出することができる。
第147条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して、国会の議決を得なければならない。
 
(解説)
 
 第144条第2項として、継続費の規定(現行では財政法第14条の2)を加えた。また第146条に、暫定予算の規定(現行では財政法第30条)を加えた。その他は、現行憲法の第86条、87条、88条とほぼ同じである。それから、現行憲法の第89条にある宗教団体への支出禁止規定は、表現をシンプルにした上で、第32条第5項に移した。そして「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業」への支出禁止規定は削除した。この規定をそのまま読むなら、今の私学助成も当然禁止となってしまう。なので、現状に憲法条文を合わせたのである。
 
 
第148条(1)国の収入支出の決算は、すべて毎年国政監査院がこれを検査し、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
(2)国政監査院は、国の収入支出の均衡及び健全性を監査し、内閣に対して改善を命令することができる。
第149条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年2回、国の財政状況について報告しなければならない。
 
(解説)
 
 これは、現行憲法の第90条と91条に対応している。今の会計検査院の役割は、国政監査院がするようになる。それだけでなく、国政監査院は、収入と支出がバランスを保っているか、予算の無駄遣いなどがないかをいつもチェックして、もし不健全に陥っていたら、政府に改善を命令する権限を持つ。また財政報告も、毎年1回ではなくて、年2回以上報告するものとする。こうすることによって、国のお金の使い方をしっかり監視して、それを正すことができるのである。
 
 

第9章 改正


 
第150条(1)憲法改正案の提出は、国会議員20名以上の賛成、又は内閣によって行われる。
(2)憲法の改正は、国会が、その出席議員の5分の3以上の賛成をもって議決した後、
30日以内に国民投票が行われ、その有効投票の過半数の賛成を得たときに成立する。
(3)憲法改正について前項の賛成を得たときは、内閣は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
 
(解説)
 
 現行憲法の改正手続きは、衆参両院で総議員の3分の2、つまり66.6%以上の賛成を得た後、国民投票で過半数の賛成を得なければならない。これは非常に高いハードルなので、今まで76年たっても一度も改正できなかった。この試案は、条文が具体的で細かく書いてあるので、現状のニーズに合わせて柔軟に対応できるようにする必要がある。それで、現行憲法よりも改正のハードルを少し低くしている。憲法は人間が作ったものだから、完璧ではなく、ましてや不磨の大典でもない。時代の変化に合わせてどんどんアップデートできるようにしておくべきだ。憲法が改悪されるのを恐れてそのまま手つかずにしておいたら、古くなった条文が政治を縛って硬直化させるだけだ。
憲法改正案は、国会議員20名以上の賛成によって提出するか、又は内閣が提出できる。まずは国会で出席議員の5分の3、つまり60%以上の賛成が必要である。その後30日以内に国民投票を行い、その過半数の賛成を得たときに成立する。
 
 
第151条(1)この憲法の基本原則を破壊することを目的とした憲法改正は、禁止される。
(2)総理の任期延長又は在任期間制限に関する憲法改正は、その提案当時の総理に対しては、効力を有しない。
(3)国の緊急事態宣言が発令されている期間は、憲法を改正することができない。
 
(解説)
 
 「柔軟に改正」と言っても、何でも変えて良いわけではない。本当に大切な「民主、人権、平和」という基本原則まで変えてはいけない。この原則を暴力的に破壊するような憲法改正は禁止される。また、時の総理が権力欲に取りつかれて、自分の任期延長のために憲法を改正しようとすることがありうるので、それを禁止した。これは大韓民国憲法第128条を参考にしている。それから、緊急事態やクーデターを利用して憲法停止することも禁止した。そのような反動的、復古的な動きに対して、国民は断固として対抗すべきだ。それこそが「戦う民主主義」である。国民みんなで作ったこの憲法秩序体制は、国民が自分自身の手で守り続けていかなければならないのである。
 
 

第10章 補則


 
第152条(1)この憲法は、公布の日から起算して6か月を経過した日から施行する。
(2)この憲法を施行するために必要な法律の制定及び準備手続は、前項の期日よりも前に行うことができる。

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