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企業戦略の中のSCMの位置づけ

サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、文字通りサプライチェーンという供給の連鎖を全体管理するという意味です。
サプライチェーンには、調達・製造・配送・販売などの一連の機能の管理と、サプライヤーや物流会社などの様々な企業との連携が必要になってきます。
そして、そんな複雑なサプライチェーンを管理するためには、情報システムの力が不可欠ですので、システム構築・管理のノウハウが必要になりますし、その導入のために経営陣の承認をもらったり予算との折り合いをつけたりする必要があります。
そういう諸々の業務を考えていくと、SCMは企業経営の中で、広い範囲を取り扱っていると言えます。

今回の記事では、その範囲について整理していきます。


企業の戦略体系について

まずは一般的に企業経営についての全体像を整理します。


会社の戦略概要

経営理念

経営理念とは、企業が目指すべき根本的な価値観や信念を指します。企業活動の基本的な指針であり、企業の存在意義や社会に対する貢献の方向性を示します。
経営理念は、企業文化の形成や従業員の行動基準にも影響を与え、企業の長期的な成長を支えます。

ビジョン

ビジョンとは、企業が将来実現したい姿や目指すべき方向性を示したものです。経営理念から派生し、より具体的な将来像を描きます。
ビジョンは、組織全体が一丸となって目指すべき目標を提供し、経営戦略や事業戦略の策定における基盤となります。

経営戦略

経営戦略は、企業が競争優位を獲得し、持続可能な成長を実現するための総合的な計画です。
市場の変化、競合他社の動向、自社の強みと弱みなどを分析し、資源の配分や事業ポートフォリオの最適化を行います。
経営戦略は、ビジョンを実現するための道筋を定める役割を持ちます。

事業戦略

事業戦略は、特定の事業領域や市場において、どのように競争優位を築き、成長を遂げるかに焦点を当てた戦略です。
ターゲット市場の選定、製品・サービスの差別化、価格戦略など、事業単位での戦略的な決定を行います。
経営戦略の下で複数の事業戦略が展開されることが一般的です。

機能別戦略

機能別戦略は、企業内の各機能(例:マーケティング、財務、人事、製造など)が、経営戦略や事業戦略の実現にどのように貢献するかを定めた戦略です。
各機能が効果的に連携し、特定の目標達成に向けて具体的な行動計画やリソース配分を決定します。
機能別戦略は、企業が持続的な成果を出すための重要な要素です。

これらはすべて、企業が長期的に成功を収めるために相互に関連し合っています。
経営理念が基盤となり、ビジョンが方向性を示し、経営戦略が全体的な計画を提供します。
事業戦略と機能別戦略は、その計画を実行するための具体的な方法論を提供します。


SCMが取り扱う範囲

それでは、ここからSCMがどの範囲を取り扱うのかをみていきましょう。
SCMが取り扱うのは下図の赤い三角形の部分です。

SCMが取り扱う範囲

機能別戦略の範囲

上図の下から見ていくと、機能別(部門別)で考えると、SCMは調達から販売までの供給に関連する範囲を取り扱っています。

事業戦略におけるSCMの位置づけ

事業戦略として、SCMの重要な課題としてデカップリング・ポイントの設定があります。
こちらの記事でとりあげていますが、どこに在庫を置くかの設定は、コストとリードタイムに大きく影響を及ぼし、差別化の源泉となる重要な決定事項です。

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経営戦略におけるSCMの位置づけ

経営戦略としては、どの事業に資源(ヒト・モノ・金・情報)を投入するかということとSCMが大きく関係してきます。
特に、今日ではIT投資の額が非常に大きくなってきており、部門・事業で個々のシステムを導入すると、全体としての連携がとりづらくなってしまいます。
こういった情報システムや情報インフラ構築は、経営戦略としてある程度整合性を保ちつつ進めていく必要があります。
そうしないと、システム投資額が膨らみ、優先順位が定まらず、マスタ管理・運用管理などで無駄が発生してしまいます。

SCMとしては、そういった経営の全体像を俯瞰しながら情報システムを構築・導入していく必要があります。
そのため、企業の経営戦略に深くかかわり、様々な部門と調整をしていく必要があります。

Amazonの戦略


ここからは、Amazonを例にとって、各戦略とSCMの関係を見ていきます。
アマゾンは、高度に最適化されたサプライチェーンマネジメントを用いて、eコマース業界で圧倒的な地位を築いています。
アマゾンは顧客からの注文をリアルタイムで処理し、独自の物流ネットワークを活用して迅速な配送を実現しています。
また、データ分析を駆使して在庫管理を最適化し、需要予測を行い供給チェーンを効率的に管理しています。
このようなSCM戦略により、アマゾンは顧客満足度の向上とコスト削減を実現し、業界のリーダーとしての地位を強固なものにしています。

Amazonの経営戦略

アマゾン(Amazon)は創業以来、下記の多岐にわたる事業カテゴリーで事業を展開していきました。

1. オンラインリテール 
eコマース(物理商品販売):
書籍、家電、衣類、食品など幅広い製品をオンラインで販売しています。
デジタル商品販売: Eブック、音楽、映画、テレビ番組などのデジタルコンテンツの販売も行っています。

2. Amazon Prime
有料会員制サービスで、送料無料、プライムビデオ、プライムミュージック、プライムリーディングなどの特典を提供しています。

3. クラウドコンピューティング(Amazon Web Services: AWS)
Amazonは世界最大級のクラウドコンピューティングプラットフォームであるAWSを提供しています。
ストレージ、コンピューティングパワー、データベース、分析、人工知能(AI)など多様なサービスをビジネスに提供しています。

4. デジタルストリーミング
プライムビデオ:
映画やテレビ番組のストリーミングサービス。
Amazon Music: 音楽ストリーミングサービス。
Audible: オーディオブックの提供。

5. 電子機器
Kindle:
電子書籍リーダー。
Fireタブレット: タブレット端末。
Echo & Alexa: スマートスピーカーとAIアシスタント。

その他、Whole Foods Market、広告事業、物流・配送などの事業も行っています。
どれも日本でも知名度が高い事業ですが、これらの事業カテゴリーを通じて、アマゾンは消費者生活のあらゆる面に深く浸透し、世界中で影響力を拡大しています。
その事業の多様性は、アマゾンがただのオンライン小売業者でなく、テクノロジー、物流、エンターテイメントなど多方面にわたるイノベーションのリーダーであることを示しています。

重要なのは、デジタルへの積極投資を行い、サプライチェーン構築・管理を効率的・戦略的に行っているという点です。

Amazonの事業戦略

アマゾン(Amazon)は、そのeコマース事業において、非常に広範なターゲット市場を持ち、世界中の様々な地域にサービスを提供しています。以下では、アマゾンのeコマース事業におけるターゲット市場と地域的な焦点について解説します。

ターゲット市場:広範な顧客層
アマゾンは、特定のセグメントに限定せず、あらゆる年齢層、性別、職業、趣味嗜好を持つ個人からビジネス顧客(B2B)まで幅広い顧客層をターゲットにしています。
アマゾンは、特にAmazon Primeサービスの加入者を重要なターゲットとしています。
プライム会員は年会費を支払い、送料無料、ストリーミングサービス、特別割引などの恩恵を受けます。
この会員制度を通じて、顧客のロイヤルティを高め、継続的な購買行動を促しています。

ターゲット地域
北米、ヨーロッパ、日本やオーストラリア、インドへの積極展開を行い、強固な地位を確立しています。
また、インド市場にも積極的に投資を行い、急速に成長しているeコマース市場の獲得を目指しています。
ブラジルや中東地域など、新興市場にも注目しており、これらの地域におけるeコマースのポテンシャルを見据えています。

アマゾンは、地域によって異なる顧客ニーズに応えるために、地域ごとのウェブサイトと物流センターを設け、各地域の文化や言語、消費傾向に合わせたサービス提供を行っています。

Amazonのeコマースの機能別戦略

アマゾン(Amazon)はeコマース業界において革新的な機能別戦略を展開し、圧倒的な競争優位を確立しています。
以下にアマゾンのeコマースにおける主要な機能別戦略を紹介します。

・物流とフルフィルメント
アマゾンの物流ネットワークは、同社のeコマース戦略の核心です。
迅速な配送を実現するために、フルフィルメントセンターを全世界に展開し、最適な物流ルートの確保に努めています。

・マーケティングとカスタマーエンゲージメント
アマゾンは顧客との強いエンゲージメントを構築するために、効果的なマーケティング戦略を実施しています。
アマゾンのWEBサイト上のユーザーの評価コメント(口コミ情報)は、商品の購入決定にとても有益な情報源となっています。

・カスタマーサービス
顧客サポートもアマゾンの重要な機能別戦略の一つです。
24時間365日体制のカスタマーサポートにより、顧客からの問い合わせに迅速に対応しています。
返品が無料であることも、Amazonの大きな強みになっています。

これらの機能別戦略を通じて、アマゾンはeコマース市場でのリーダーとしての地位を不動のものにしています。
テクノロジーを駆使した革新的なサービス提供と顧客中心のビジネスモデルにより、世界中の顧客から高い支持を得ているのです。

まとめ

以上のように、SCMは調達から販売までのサプライチェーンの各機能を最適に管理することですが、それらは経営戦略・事業戦略としてSCMを重要と位置づけられているからこそ成立するものだと言えます。

Amazonは戦略的に、どういう事業を展開し、どういうシステム投資をするのかを見極めています。
また、事業を行う地域・事業カテゴリーを最適化してそのマーケットで売り上げ・利益を最大化できるように柔軟に事業を進めています。
そして、それを事業戦略を実行するため、具体的なサプライチェーンの構築を行い、WEB注文インターフェースや、フルフィルメントセンターの建設や、当日配送網の構築などを行っています。
戦略レベルでSCMを重視し、実際に高度なサプライチェーンの構築を実現した成果が、現在のAmazonの強さの要因だと言えます。

今回は、SCMが企業の各レベルの戦略でどういう範囲を取り扱うかについてみてきました。
またSCMに関連する記事を書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。



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