プロボノ (Driver License Recovery Project)
今回は、今学期参加したプロボノについて書きたいと思います。なお、「プロボノ」とは、一般的には、法律専門家が無償で行う公益活動を意味します。
今回のプロボノでは、貧困により罰金を支払えない等の事情により運転免許証を停止されている人のために、運転免許証を取り戻してあげるためのサポートをしました。詳細は、後述します。
本記事が、これからプロボノを行うことを検討している方の参考になりましたら幸いです。
なお、プロボノでは現実の事案を取り扱ったため、守秘義務の関係で個々の事案の詳細をここに書くことはできず、あくまでプロジェクト全体の一般的な流れにフォーカスしている点はご了承下さい。
プロボノ参加の経緯・動機
今回プロボノに参加することにしたのは、以下に述べる大学のプログラムでプロボノが推奨されていたことによります。すなわち、何か制度上の義務が存在したわけではありません。ただ、これも以下に述べるとおり、Bar受験を予定している州によっては、プロボノがAdmissionの要件になっている可能性もあります。
大学のプログラム
テキサス大学にはプロボノを奨励する仕組みがあります。Mithoff Pro Bono Programというプログラムです。学生は、プロボノに従事することを任意にPledgeをすることができ、Pledgeをした場合は、卒業までに一定時間プロボノに従事する義務が生じます。なお、ここで「一定時間」は、J.D.の場合50時間で、LL.M.の場合20時間です。
本プログラムにおいてプロボノにカウントできるプロジェクトは、別途大学が指定することになっており、毎週日曜にプロジェクト一覧が送られてきます。その中に興味のあるプロジェクトがあれば、随時参加申請することができます。
実際にプロジェクトに従事した後は、使用時間を大学に申告し、上記Pledgeの対象となる時間数にカウントされます。そして、無事にPledgeを果たした学生は、年度末にプログラム満了の認証を受けることができ、また、とりわけプロボノへの従事時間が多かった学生は表彰されるようです。
ということで、せっかくこういう仕組みがあるならやってみようと思い、私も入学直後にPledgeしました。
Bar Admission
他方で、BarのAdmissionのためにプロボノが必要になるという場合もあるように思います。人から聞いたところでは、New York Barはそうではないかと思います。
これに対し、Texas Barについては少なくともAdmissionの要件にはなっていない理解です(Supreme Court of Texas Rules Governing Admission to the Bar of Texas参照; https://ble.texas.gov/txrulebook)。なお、Texas Barにおいても、Admission後の資格維持要件になっている可能性はありますが、下記のFAQ #6を見る限りでは、年間50時間が「strongly encouraged」ではあるものの、義務というわけではないように読めます。
今回参加したプロジェクト
今回参加したプロジェクトの概要や、それを選んだ理由、パートナーワークについて書きます。。
プロジェクト概要
私が今回参加したのは、Court Debt Relief and Driver License Recovery Projectというプロジェクトです。どうやら毎年同じようなプロジェクトが開催されているようです。名前のとおり、裁判所から課された罰金等を支払えないことにより運転免許証を停止されている人のために、罰金等の免除を裁判所に申し立て(Court Debt Relief)、運転免許証を取り戻す(Driver License Recovery)ことが目的です。
詳細な説明は以下のとおりです。
後述のとおり、①免許停止事由の調査、②裁判所宛のレターのドラフト、③全体のプロセスについてのクライアント宛説明、あたりがメインの作業となります。また、プロボノ参加者(学生)のサポート役として、supervising attorney(日頃から公益活動に従事している弁護士)と、Pro Bono Scholar(本プロジェクトに過去関与したことがあり、一連のプロセスに精通している先輩学生)がいます。これらのサポート役へのレポーティングについては後述します。
本プロジェクトの背景として、テキサスには、貧困により運転免許証を維持できない人が相当数存在するようです。また、運転免許証を停止される結果、通勤手段を奪われ、仕事を見つけることもできず、更に困窮していくという負の連鎖がある、という話も聞きました。
本プロジェクトを選択した理由
なぜこのプロジェクトを選択したかと言うと、ちょうど自分もTexasの運転免許証を取得しようと考えており、運転免許というものに関心があったからです。実際、本プロジェクトを通じて、運転免許に関する手続的な理解(どういう組織が免許証の発行等を所管しているのかなど)が深まりました。また、プロジェクトを遂行する中で裁判所との折衝も生じるのですが、Texasの裁判所がどのような組織編成になっているか、管轄がどうなっているかなどの司法手続に関する知識も得ることができました。
チームアップ、レポーティングライン
プロジェクトの遂行に当たっては、別の学生とパートナーを組むことになり、学生2人でクライアント2人を担当することになります。具体的な作業の割り振りは、各ペアに委ねられているのですが、多くの場合、各クライアントについて主担当を決めて、主担当でない方の学生は適宜サポートするという態勢になると思います。
私がパートナーを組んだのは、JDの学生でした。彼女は、NY Barのプロボノ要件を満たすために本プロジェクトに参加しているとのことでした。なお、昨年も本プロジェクトに参加したらしく、全体のプロセスについても既に詳しかったです。
クライアントとのコレポンは、学生ボランティアが担当しますが、重要な局面では、supervising attorneyの決裁を経る必要があります。我々が直接レポートするのは、Pro Bono Scholar(L3の学生)です。Pro Bono Scholarは2人いて、メールで連絡すると、いずれかが応答する仕組みになっていました。Pro Bono Scholarは、学生ボランティアからは見えないところで、更にsupervising attorney (弁護士、1名)にレポートしていたようです。Pro Bono Scholarとsupervising attorneyの権限配分ですが、Pro Bono Scholarは本プロジェクトに精通しているため、簡単な事項であればインストラクトしてくれるものの、複雑な論点についてはあくまで有資格者であるsupervising attorneyに判断を委ねる必要があり、また、裁判所に提出するレターのドラフトなど、クライアントに提出するプロダクトについては、すべてsupervising attorneyが決裁することになっています。
プロジェクトの流れ
クライアントによる申込み
学生ボランティアが参加する前の話なので、詳細は不明ですが、おそらく大学が本プロジェクトを広く周知していて、それを見たクライアントが申し込んでくるというステップがまず存在するようです。その際に、大学側から、プロジェクトの目的や、学生ボランティアが弁護士の指導の下関与することなどが事前に説明されたものと窺われます。
Week 1 (基本知識に関する講習等)
まずは、本プロジェクトの背景説明や、基本的な流れに関する講習が行われました。毎年行われているプロジェクトのようなので、説明資料もだいぶ丁寧に作り込まれていて、それをしっかり読めば、以後のプロセスにおいて判断に迷うことはあまりなさそうでした。
講習が終わった後は、その流れのまま、クライアントにファーストコンタクトを入れてZoom面談の予定を押さえます。
また、クライアントとのコンタクトと並行して、オンラインのデータベースを使って、免許停止事由を調査します。
データベースは、オンラインで公開されていて、対象者の誕生日、SSN(社会保障番号)の下4桁、Driver License番号が分かれば、検索できるようになっています。
以下のデータベースを使いました。1つ目がそもそも免許停止されているかどうかだけを示す簡易なデータベースです。2つ目が、免許停止が具体的にどのような罰金(ticket)に紐づいているかを確認することができる包括的なデータベースです(OMNIと呼ばれています。)。
以上の各データベースでの調査により、何が免許停止事由になっているのかは分かり、かつ、その中で具体的な罰金に係る刑事事件が係属している裁判所も分かることになります。この裁判所をキーにして、当該裁判所のデータベースから、更に刑事事件の詳細(※)を把握していくことになります。例えば、Austin Municipal Courtに係属する事件の場合、以下のデータベースで検索できます。
(※)なお、調査の過程で興味深く感じたのは、Trafic-related violationによる罰金の不払いだけでなく、Non-trafic related violation(交通違反に関係しない通常の刑事事件)による罰金の不払いも、免許停止事由とされている点です。すなわち、免許停止処分は、過去に起こした事件の態様如何ではなく、単に罰金を支払っていないという専ら債務不履行的な観点だけから、課されているということになります。この点は、比例原則の点から疑問がありそうですが、法制上はそうなっているようです。
調査が終わった後は、調査結果に基づき、免許停止事由を解消するために必要なステップ(主に裁判所へのレター)をRecovery Planとしてまとめます。裁判所へのレターは、罰金等を支払えない経済的事情を疎明するという主旨なので、それに沿ったエビデンス(家計に関する諸々の書類)を添付することも検討する必要があります。
Week 2 (初回のクライアント面談等)
以上の作業が完了したところで、クライアントと一度ミーティングします。そこで追加的に取得した情報も踏まえて裁判所への提出書類のドラフトを完成させます。
提出書類は、主に2点で、①カバーレター、②Statement of Inability to Pay Court Costs (月々の支出額などについて定量的に書くもの)です。②を補強するためにエビデンス(utility billなど)を添付することもあります。
提出書類の書式ですが、①は、大学側が共通のテンプレートを用意しているので、これに沿って書くことになります。②は、裁判所によって書式が異なるようです。
Week 3 (2回目のクライアント面談等)
上記で作成した提出書類ドラフトについてsupervising attorneyの承認を得たら、次のクライアントミーティングを設定します。実際に書類を提出するのは、クライアント自身なので、ミーティングの中で、今後の手続きについて入念にクライアントに説明することになります。
Week 4以降
あとは、クライアントがその後ちゃんと裁判所とコミュニケーションできているかについてフォローアップです。
振り返り
プロジェクトの流れは以上のとおりです。なお、諸事情により、私は本プロジェクトを最後まで見届けることはできなかったのですが、クライアントとの初回ミーティングや、提出書類のドラフトなど、主要なステップはクリアーできました。
全体的な感想としては、やはり現実の事案を取り扱うのは、講義・ゼミとは全く違う面白さがありますし、やりがいがあるのは間違いありません。また、ペアワークで進行していくので、パートナーの仕事ぶりから色々学ぶことができたのもよかったです。加えて、運転免許・裁判所関係の手続について知識を得ることができましたし、裁判所宛レターに添付するエビデンスをクライアントから収集する過程で、アメリカの家庭が何から収入を得て何に支出しているのか、イメージを持つこともできました。
今回は途中で抜けてしまったこともあるので、今後機会があれば是非またやりたいと思います。ただ、現実の事案を相手にする以上、展開によってはそれなりに時間をとられ、かつインテンシブに動く必要性も感じました。なので、やるとしても来学期、余裕がありそうなときに1回だけやってみるという感じかと思います。
なお、本プロジェクトに関しては、元々10-15時間を要する見込みと聞いていましたが、実際には、25時間使用しました(申告する必要がある関係で、割と正確にトラックしています。)。
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