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Fall 2023 授業振り返り⑤ - Secured Credit

今回は、Secured Creditの授業を振り返ろうと思います。今回で今学期の授業振り返りシリーズはラストです。米国法基礎の授業だけ特に記事を書かなかったですが、あまり聞いていなかったので、そんなに書くこともなかったということです。

Secured Creditの授業は、Secured Credit本体(3 credits)と、Secured Credit Workshop (1 credit)の2つのクラスから成り立ちます。

感覚的には、今学期の持ち時間の70-80%はこの授業の予復習に使っていたような気がします。ということで、ここまで来るのは中々大変だったのですが、その分得られたものも大きかったように思います。

受講の経緯

受講の経緯は、次のとおりです。今学期当初に書いた記事から抜粋します。

Secured Credit本体

Uniform Commercial Code (UCC)のArticle 9と、Bankruptcy Codeを中心に、担保取引について学ぶ科目です。

日本では、Financeの実務に関与していますので、面白そうと思いました。ちょうど日本国内でも、担保法改正が議論されており、その中でUCCが参照されることも多いと理解していますので、実務との関連性があるように思いました。

また、事前にProfessorに直接連絡して昨年のSyllabusをシェアしてもらったのですが、Syllabusの書き方がだいぶaggressiveであり、Professorのやる気を感じたので、その点も好印象でした。

Secured Credit Workshop

上述のSecured Creditと対になる科目です。Secured Creditで学んだ内容を実践する場という位置づけであり、具体的には、学期末までにペーパー(15 pages程度ですが)を書くことになります。

ペーパーを書くことが想定されていることから、上述のSecured Creditと組み合わせることでシナジーを得られるように思ったので、履修選択しました。

拙記事より

改めて当初の目論見を振り返ってみますと、授業を通じて何を学べるかというサブスタンスについては全くずれはなかったように思います。UCC Article 9には、だいぶ詳しくなりました。そもそも授業で多くのProblemを扱ったことと、試験勉強を通じて問題演習も結構したので、理論面のみならず、実際にこの法律を使えるようになったという感覚もあります。他方、Bankruptcy Codeについては、同じProfessorによる来学期のBankruptcyでメインに扱われるようです(受講予定です。)。したがって、今学期は、Bankruptcy Codeの触りの部分、すなわち、Secured Claims / Unsecured Claimsの区別や、Automatic Stayの概要、Trustee in Bankruptcyの否認権限(avoidance)のうち主要なもの、を学んだくらいです。

Professor Westbrookによる指導面について言うと、もう何年も同じ授業を持っているようであり、指導方法が確立しているという安定感がありました。他方で、常に新しいトピックを追っているようであり、その日の朝刊とかから関連トピックを紹介してくれることも多く、現実世界へのTransaction lawへの関心を惹起するのを心がけているようでした。Professorのやる気は、日々の大量のReading Assignment、問題演習に現れていました。

ということで、サブスタンス・指導面含め、期待どおりのものを得られたのですが、さらに付随的な効果としては、Texasは米国の倒産実務の一大センターであり、Professor Westbrookはその理論的支柱であり、当該セクターの中心人物であるということが分かりました。恥ずかしながらいずれの点も存じ上げなかったです…。ということで本授業から派生した課外活動を通じてネットワークも広げることもできました。例えば、以前書いたTrial Skills WorkshopもProfessor Westbrookから紹介してもらったものです。

授業の概要

上述のとおり、UCC Article 9 + Bankruptcy Codeを学ぶということ以上でも以下でもないのですが、Secured Credit本体の授業では、理論面よりも、実践面が重視されます。法制度の趣旨(Policy)について解説があることもありますが、むしろ問題演習、条文操作に力点が置かれます。他方で、Workshopの方では学術論文を輪読することで理論面を深める、という棲み分けでした。

教材としては、Professorが独自に作ったMaterialがあり、そこに主要なCaseや練習問題があるので、これをやっていくのがメインです。

それに加えて、市販の書籍としては以下の2つを使いました。後者は条文集ですが、Final Examの際は当該条文集だけを試験場に持ち込むことができます。なので、日頃からこれをいかに使えるようになっておくかが、鍵となります。

米国のロースクールではおなじみのCallについては、Cold Callも普通にありますが、クラスを3分割して週ごとにどのグループがCallされるかが決まっている、というアレンジでした。

もっとも、私がCallされたのは1回だけです。Voluntaryに発言したのは何回もありますが、Callされた回数は他の学生より少ないと思います。おそらく、学期の序盤でProfessorとはOffice Hour等を通じて話しており、私の英語能力も認識してもらっていたので、あまり差されなかったということだと思います。というのも、各授業50分と短い中で、大量のトピックを捌いていく必要があるので、私の拙い英語と付き合っている時間はあまりなかったのだと思います。

そもそもクラス全体の構成ですが、40人くらいで、ほとんどJDの最終学年(3L)です。LL.M.は私含め3人でしたが、私以外の2人はUKから来ているので、non-nativeは私だけだったのではないかと思います。もっとも、JDの中にも、Undergraduateまでは母国(中国とか)で履修して、ロースクールからアメリカに来ているというパターンもあるとは思いますが。

Final Exam

このクラスの評価は、基本的にはFinal Exam一本という中々のガチンコ勝負であり、それなりに戦略も立てて準備もしたので、Final Examについても書いておきます。

Final Examの準備としては、まずLibraryで公表されている過去問とSample Answerを数年分見ました。その結果、基本は事例問題であり、Policyを問う問題がたまに出る程度、ということが分かりました、また、Issue Spottingと、StatuteからのCitation(条文操作)が重視される一方、それぞれのIssueについて深く論述を展開することは求められていないことも分かりました。この辺は、日本の司法試験との違いだと思います。

以上の分析を踏まえ、①時間内で可能な限りIssueをSpotできるようになること、②Statuteのどこに何が書かれているかを瞬時に判別できるようになることを重視して、Final Examに向けた勉強をしました。なお、試験時間については、通常は2時間ですが、私は非英語圏出身ということで、Accomodationで3時間もらいました。

具体的に、上記①については、一日一回過去問を一問は解いて問題形式に慣れるようにしました。②については、自分のノートは必ずしもStatuteを復習するのに適しておらず(必ずしも条文をCiteする形になっていない)、また、かといって、自分のノートからStatute baseのOutlineを新しく作る時間もなかったので、結局、偉大な先人たちが残してくれたOutline(特にStatuteのCiteがあるもの)を駆使することにしました。このOutlineを読みながら、逐一Statuteを確認して、その内容を脳に刻み込んでいくというステップを踏みました。

なお、一般論としては、まずは頭の中に体系を作るという趣旨で、自分自身の言葉でOutlineを作ることが推奨されます。ただ、Secured Creditに関しては、既に日本での学習・実務経験がある以上、基本的な体系(attachment, perfection, priority, buyer's rightなど)は元々頭に入っているので、敢えてそのようなステップを踏む必要はないと思います。

先人たちのOutlineについても長いものから短いものまで何種類か見つかったので、その中から5点ほどピックアップして、それぞれ1回ずつ読みました。同じものを何回も読むより、色々な人が書いたものを読む方が多角的に検討できて、Statuteについての理解が深まりやすいです。結局、Final Examの現場において、もっというと実務の現場において、最後の拠り所になるのはStatuteであり、OutlineはせいぜいStatuteを読み込んでいくためのサポート程度に捉えていました。

ここまで「Statuteを読み込む」と書いていますが、そもそもの前提として、日本の実定法とは違い、UCCはとにかく条文が長くて、specificです(他の法律もそうかもしれませんが)。また、条文にOfficial Commentが付いていてこれも読み応えがあります。OCは、条文の趣旨について触れていることはあまりなく、その点は使い勝手が悪いのですが、他の条文との関連性が書いてあることが多く、ここまでちゃんと読むと、ルール間の関係が有機的・体系的に見えるようになってきます。

以上のプロセスを経て、Final Examに臨んできました。結果はまだ出ていないですが、まあ戦略どおりにクリアーできたのではないかと思います。

気づいたこと

このクラスは時間をかけて学んだだけあって、色々気づいたこともあります。今後さらに検討していく礎になるかもしれませんので、備忘的に気づきを書いておきます。

  • アメリカのロースクールの教材は、事例問題が豊富で素晴らしい。特に、Collateral Classificationに関する事例問題は白眉であった。定義(Account、General Intangible、Equipment、Inventory…など多数)だけ読んでいても、よくわからんのだが、これだけたくさん事例問題をやれば輪郭は掴める。

  • 英語面について、予習を頑張れば議論の流れについていくことができるが、3つくらいわからんことが出てくると、もうついていけない。ただ、もうちょい聞き取れれば分かりそう、っていう場面が多いので、リスニング力を鍛える素材として考えると、ちょうどいいレベルなのかもしれん。

  • 肝心のyes noの結論が聞き取れないことがある。この点、ロジックが複雑なやつは話が長いからヒントが多く散りばめられてるんだが、簡単なやつほどクイックにに済まされてしまうので聞き取れずに終わることが多い。

  • 特に、Choice of lawの議論を英語で聞いて理解するのはかなり難しかった。元々抽象的な話だし、唯一絶対の回答があるわけでもないので、結論を予測しながら聞き取るのも難しかった。

  • 当たり前ではあるが、Secured Creditについて理解を深めるには、Underlying assetであるPropertyとContractを学ぶ必要があるかもしれない。

  • Secured Creditは、(少なくとも初学者のレベルでは)結論が明確なので、面白い。実践的な知識を身に着けていくという感覚がある。米国で最初に学ぶような科目、典型的にはConstitutionなどは、議論のプロセスがむしろ重視されている気がして、学び方がちょっと違う。

  • UCCにおけるDebtor, Obligor, Secondary Obligorの区別はややこしいが(Official Comment 2.a. to UCC §9-102)、この辺を正確に書き分けられるとUS lawyerとのコミュニケーションは円滑になるのかもしれない。

  • UCCには、担保目的物ごとに適用条文がわかるようにした、Collateral Indexなるものがある。これは非常にいい仕事である。

  • また、UCCには、各条文の最後にDefinitional Cross Referencesがあり、どこを見れば定義があるかがわかる。これ自体は非常にreader friendlyなので望ましいことだが、そもそも、定義語は全部Capitalizeしてくれんか?(英文契約の実務に倣って)

  • GMのChapter 11の件は日本でも有名だが、その中のエピソードの一つとして、担保付レンダーが間違えて担保の対抗要件(UCC Filing)を消しちゃった(にも拘わらず、それを黙ってて、破産裁判所は担保があるものとしてDIP financeの代り金を当該レンダーに支払うことを認めてしまった)、という大事件がある。この件は、初めて知ったのだが、Transaction Lawyerのヒヤリハット・倫理面で学ぶものが多いと思う。にもかかわらず、日本では話題になっていない気がする。そもそも結構昔の件ということもあるが、データベースでその頃の文献を調べても特にヒットしなかった。

  • 上記GMの件の派生エピソードとして、一般債権者のうちの一社が、Borrower counselを訴えた。Oakland Police & Fire Retirement System v. Mayor Brown, LLP 861 F.3d 664 (7th Cir. 2017)。裁判所の判断は、①attorney to transactionである場合には、全パーティーに対して責任を負うのが判例だが、②本件のMBは、attorney to transactionではない(単にGMの代理人;他方でレンダーは自身の代理人としてSTBをリテインしていた)、というもの。Attorney to transactionについては、日本の取引実務でも、トランザクションカウンセルとかいったりすると思うが、確かに、execution logisticsを取り仕切る場面では、いずれかの当事者だけを代理しているわけではないと思う。ただ、だからといって、ミスったときに自分のクライアント以外に法的責任が生じるかというと、そういう議論は日本ではまだ詰まっていない印象。GMの例(とそこで引用されている不動産取引の例)を研究していくと、どこで線引するかが見えてきて面白いかもしれない。

  • 他の法分野でも共通しているが、アメリカは、とにかく類型化、specificなルール設定を志向する傾向がある。UCCで言うと、担保対象物の類型ごとに極めて詳細なルールを作っている。

  • 2nd Secured Creditorが、Purchaserの定義に含まれるというのは大変驚き(UCC§1-201(b)(29)(30))。Article 9-Part 3-Subpart 3には、1st SCと2nd SCの優劣に関する総則規定がある一方で(§9-322)、SC-Purchaser間の優劣を定めるルールも複数あり、これは特則という位置づけになる。この点は、UCCで最もつまずきやすい部分かもしれない。

  • True Leaseの議論(Security interestとの区別)が、アメリカでも一大論点であることはよくわかった。

  • 以下のような面白い判例がある。論点は、最低賃金違反で作った製品を州をまたぐ取引で売ってはならないという規制があるのが、当該規制が担保権者による担保実行にも適用されるか、というもの。結論は、適用される。そうすると、銀行としては、貸す前に労働規制の遵守もDDする必要があるのではないか?

  • UCCは、あくまでモデルルールであり、各州ごとに当該州のバージョンのUCCが存在する。この点、TexasのUCCには変な規定があって(9-109(e))、証券化取引におけるtrue sale確保や、不測のUsuary law適用回避のために、当事者がtrue saleだと明確に合意しているのであれば、裁判所はrecharacterizeしてはいけない、というもの。気持ちはわかるが、どこかに歪みが出ないだろうかという気もする。

  • 動産が不動産に付合しそうでしない(付加一体物?)場合に、動産担保権者が担保権実行として動産を引き揚げた際に、不動産に損傷を与えたとき、動産担保権者は、不動産の担保権者(所有者ではなく)に対しどのような責任を負うか、という極めて具体的な場面についても、UCCはルールを用意している。9-604(d)。この場面では確かに契約関係はないから物権法の世界でルールを作っておくのは合理的だとは思う。ただ、日本の民法の粒度だと、「一般原則に委ねる」で終わってしまいそうなところである。

  • UCC Article 9の中に抵触法的な規定がある(9-307(c))。そこでは、UCCと同じような仕組み(generally requires information concerning the existence of a nonpossessory security interest to be made generally available in a filing, recording, or registration system as a condition or result of the security interest’s obtaining priority over the rights of a lien creditor with respect to the collateral)を有している法域であれば、当該法域に所在する法人が設定する担保権のperfection等は、当該法域の法律に従って決するとされている。他方、もしそのような仕組みがなければ、District of Columbiaの法律に従うことになる。日本法は、動産債権譲渡登記制度を備えているものの、確定日付ある通知・承諾、占有改定による対抗要件具備制度を引き続き維持しているので、qualifyしないのか?ただ、よく考えると、UCCでさえも、登録以外の方法によるperfection(possession, 9-313; control, 9-314 )を認めているから、日本法も、”generally” requiresには当たるということで、qualifyするのかもしれない。

  • 日本法的には、契約の準拠法は当事者の選択に委ねられるのが原則だと思うが、米国の抵触法に関する議論では、当事者の合意に加えて、さらに当該法域について何か接点が必要という考え方もあるようだ。§ 187, Restatement (Second) of Conflict of Laws.

まとめ

そもそも日本の弁護士がアメリカに留学する理由の一つでもあるわけですが、歴史的には、アメリカの法制度(特にCommercial Law)は日本のそれより遥かに進んでいると考えられていて、アメリカから学んできたという経緯があります。

これに対し、最近は、日本国内でも先進的な取引が行われるようになる中で実務の蓄積が生じ、日米の差は縮まってきたとも言われるところです。

ただ、それでも依然としてアメリカが何歩も先を行っているように思われる法分野というものはあり、Secured Creditに関する法制度(UCC Article 9)は、その一つであるように思いました。

今学期を通じて素晴らしいProfessorの指導の下、この法律をインテンシブに学べたことはかけがえのない経験になったと思います。来学期のBankruptcyにも期待です。

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