見出し画像

グレー

昔から、テレビで殺人事件が起きたというニュースを見るたびに、被害者の心情や、犯人に対する怒りということ以上に、なぜ犯人はいかなる動機や背景を持ってその事件を起こしたのか、ということが気になる人間だった。そうした興味関心は、小学生の頃に読んだ石ノ森章太郎の歴史漫画に描かれた、フィリピンに送られた日本兵が極限状態のなかで人肉を食べたという話を、未だに強い記憶として留めていることと関係しているのかもしれない。

大学3年生の頃に、宮本輝の「青が散る」という小説がたまたま家の本棚にあったので読んだ。大学生活での恋愛、友達関係、部活を通して揺れ動く、登場人物の心理描写に惹かれ、それ以来、宮本輝が好きになった。その中でも、「ドナウの旅人」は、当時の自分の状況も関係してか、今まで読んだ小説の中で最も心が揺さぶられた作品だった。細かな心理描写が人間の狡猾さ弱さ優しさ、様々な側面を照らし出して、全てを含めて美しいと思った。

V.E.フランクルの「夜と霧」で次のような一節がある。

"人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りの言葉を口にする存在でもあるのだ"

自分でもよくわからないが、私はこの一文がとても美しく感じるし、人間の美しさを感じる。

つまるところ、私が表現したいのは人間とはいかなる存在なのかという極めて曖昧な部分で、正義か不正義か、白か黒かで簡単に割り切ることができない、そんなグレーな人間くさい心の部分なのかもしれないと、最近おぼろげに考えるようになった。

という2年前に書いた文章を見つけ、読み返しながら、じゃあやれよと、ただそれだけ感じた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?