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尾道

初めて来た場所なのにどこか安心感を覚える、尾道はそんな場所だった。瀬戸内海の穏やかな流れと情緒的な民家が並ぶ山に囲まれて、心はいつしか安寧に浸っていた。

山へと続く石畳の階段を登る。古めかしい家屋の合間を縫うように、階段の途中には、新たな場所へと誘う小道がいくつも伸びている。そこに惹きつけられるように、狭い小道へと足を踏み入れた。

それは、お寺の境内の裏手へとつながっていた。表に廻ると、荘厳な仏堂と三重塔が静かな威厳を放っていた。

尾道はお寺が多い。その多くは、かつて寄港地として栄えた尾道に、豪商が寧静を願い、街を見下ろすように山麓部に建立、寄進したものだという。

お寺から尾道を眺めてみる。

瀬戸内海が、はるか遠くからいくつもの島々を縫うようにして尾道市街まで流れ込んでいる。澄み渡るような青い空と、倦怠な春の陽気のなかで、とても穏やかな時間が流れていた。

確かにここには、寧静が存在していた。

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